第五話 16万も得する青色申告特別控除。その効果と税理士さんの話
『帳簿とかしっかりつけて、収入と支出を正しく申告して、将来に備えての積立をしっかりしてるなら、税金安くしてあげるよ』
本エッセイの冒頭で、日本の税制度についてそんな話を書きました。
この「帳簿とかしっかりつけて、収入と支出を正しく申告して」という部分が、青色申告特別控除の話になります。
例によってまとめます。
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・確定申告を『青色申告複式簿記』という形式で、かつ3月15日までの期限内に行うと、65万の特別控除枠がもらえます。
・その節税効果は最低でも65万×25%=16万円に。
数ある節税手段の中でも、これだけ直接的に利益に繋がる方法はまずありません。
・ただし面倒。なので、税理士さんに全部依頼するのも手。なお、確定申告の処理をすべてお願いしても、16万円あればかなりのお釣りがでます。
(年収が多い場合はこの限りではありませんが)
・また、年収そのものが65万を下回るような状況ですと、節税効果が薄れます。
(もう少し正確に言うと年収から経費・控除を引いた額が65万以下の場合)
注:なお、65万という控除額は、平成30年度より55万に減額される法案が提出されています。
ただし「e-Tax」という国税電子申告・納税システムを使用すると65万のままです。
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お疲れ様でした。以下、興味がありましたらお読みください。
以前解説した確定申告には、実は大きく分けて三つの提出形式があります。
・白色申告(控除なし)
・青色申告(控除10万円)
・青色申告複式簿記(控除65万円)
ようするに、白色が一番簡単で、下へ行くほど処理が面倒になっていく代わりに国がごぼうびのごとく設定してくれる控除額が増えていくわけです。
そして一番下の青色申告複式簿記という形式で期限内に申告すると、65万もの特別控除枠をくれるわけです。
この65万の特別控除は所得税・住民税・国保、いずれにも適用され、その効果は絶大です。。
具体的に計算してみましょう。
前回解説した『所得税・住民税・国保を合わせると最低25%』という数値を持ち出すと、65万×25%=16.25万も税金を安くすることができます。
(例によって所得が多かった年はこの25%が30%にも40%にもなります)
つまり青色申告複式簿記にすることによって、年に使えるお金が16万も増えるわけです。小遣いが16万増えると言っても過言ではありません。
とはいえ、そのためには複式簿記の帳簿を作りつつ、賃借対照表やら損益計算書やらクソめんどくさい書類を一緒に提出して、収入と経費なんかを詳細に、かつ「期限内に」正しく申告する必要があります。
複式簿記? 書類の書き方? すいません、よく知らないんです。私は税理士さんに全部お任せする形で逃げました。
いやその、税理士さんに領収書の束と支払い調書を全部渡してすべての処理をお願いしても、10万円お支払いすれば大体収まります。
(注:収入が多かったとか消費税が発生した場合とか、10万以上かかるケースもそれなりにあります)
つまり、税理士さんに確定申告の面倒な作業を全部投げたとしても、青色申告の特別控除で増えた利益で費用を支払ってなおPSVRが買えるぐらいのお釣りが出るわけです。(注:個人差はあります。赤字の年とか年収が極端に少ない場合は除きます)
ただ問題があるとすれば、『頼れる税理士さんの探し方』です。
「税務署もかかわるし、お金を預けるわけじゃないし、全部書類に残る仕事だろ? ならどんな税理士に頼んでも一緒じゃね?」
そう思う方もおられるかもしれません。
ところがです。色々同業者さんの話を聞くと、やっぱり税理士さんには差があることは間違いありません。
たとえば税理士にかかわらずよくある話ですが、田舎で地元に税理士さんが一人しかいないような場合。やはり割高になることがあるようです。(顧客が少ない地域での料金が上がるのは自然ですけど)
また、専門分野というのもあるようです。企業の相談役ばかりされてるような税理士さんに、作家のような個人事業主が相談したところ、企業の相談料と同じような金額を取られてしまったという話も聞きました。
あと、適用すべき制度を適用してくれない税理士さん。悪意はなくともご経験が不足してるのか、下手すると数十万も納税額に差が出ることもあります。しかもこっちも素人なので、どういう処理してくれてるかとか全然分からないんですよね……。
(税理士さん変えたら100万円取り返してくれたという話も聞きました)
そんな税理士さん、じゃあどう捜せばいいのか?
一番いいのは作家に限らず、所属している業界の先輩に紹介してもらうことでしょうか。
先輩にそんなこと聞けない、という方もいらっしゃるかもしれません。ただ税理士さんに新規のお客さんを紹介すると、紹介した側も費用安くしてもらえたりと特典付くことが多いので、わりと誰でも喜んで紹介してくれるとは思います。私だって都内でよければ喜んで紹介します。
あとは、面倒ですが一番単純な方法として、青色申告を自力でやるというのがあります。
面倒ではありますが、自分から積極的に調べれば、やり方を教えてくれるところはたくさんありますし、自力でやれば確定申告の度に16万の報酬(というか節税効果)が出るわけですから、それはそれでアリです。
(特にフリーランスの場合、職業によっては収入・支出のパターンが限られているので結構楽とも言われてます)
あるいは、税理士さんにお願いするとき費用が高くなりがちなのは帳簿を作ってもらう作業です(注:個人個人の環境によって当然差が生じると思いますが、専業小説家の場合は恐らく)。なので、帳簿だけやり方聞いて自分で作って、あとの処理を税理士さんにお願いするとかでもかなり安くすることができます。
ーーーーケースバイケースなので読み飛ばしてもいい余談ーーーーーー
ちなみに、青色申告にすることにはまだメリットがあります。
たとえばその年の収支が赤字だった場合、赤字分を翌年に繰り越せる制度があります。
ただし! 青色申告特別控除に限らず、控除分は赤字にすることができません。
(つまり、年収50万で65万円分の青色申告特別控除があったとしても、相殺できるのは50万円分まで。-15万の赤字にするということはできません)
また、『青色事業専従者給与』といって、青色申告者と生計が同じ配偶者や親族に給与を払うことで経費にするということもできたりします。独身の方とか、両親がまだ現役だったりで当てはまらない人もいると思いますが、知識として知っておくと将来的に役に立つときもあると思います。
ーーーーーーーーーーーーここまでーーーーーーーーーーーーーー
ただ一つだけ覚えておきましょう。
『白色申告』から『青色申告』に切り替えるには、税務署に届け出をしなければなりません。
問題は『青色申告の申し込みの締め切り』は、確定申告と同じ3月15日までということです。いや、期限を越えても申し込みはできるんですが、2年後の確定申告から青色になります。
つまり2016年3月15日までに青色申告の申し込みをしなかった人は、翌年、つまり2017年3月の確定申告は青色申告できず、2018年3月の確定申告から青色申告ができます。つまり、今年収入が多かったからって慌てて青色にしようとしても残念ながら間に合わないということです。
でもそうやってズルズル行くと、間違いなくずっと白色申告になって毎年16万損することになります。諦めて今すぐ青色申告の申し込みをしましょう。そうすれば二年後からはできるようになりますし。
ただし一点だけ例外があり、作家としてデビュー(ようするに起業)した最初の年に限っては、税務署に届け出ることでいきなり青色にできるそうです。
(また、私はずっと青色なので詳しく知らないんですが、今だったら白色でも記帳の帳簿書類の保存が義務化されてる関係で、白色にするメリットはほとんどなくなったらしいです)
(もう一つ余談ながら、一応『青色申告の申し込み』をした後であっても、白色で確定申告することは一応可能だそうです。厳密には『白色で申告しても罰則もなにもない』と言うべきなんですが。ようするに青色申告すべきところを白色で申告すると、当然余計に税金を納めることになるので、国もあまりとやかく言わないわけですね)
ちなみに青色申告の申し込み方法ですが、税務署行けば教えてくれると思います。(大変恐縮ながら税理士法の関係で書類の作成方法などには触れられません……)
実際、私も税務署で申し込んだ記憶がありますし、結局税務署には行かないとダメじゃないですかね?
いやでも面倒臭かったらホントに税理士さんを雇いましょう。
特にチラッと前述しておりますが、青色申告特別控除の65万は平成30年度より55万に減額される公算が大きくなってきました。しかし「e-Tax」という国税電子申告・納税システムを使用すると65万のままです。この機会に税理士さんに依頼して「e-Tax」で確定申告してもらうことを考慮する価値は充分にあると思います。
また特に小説家の場合、多くの場合で後ほど解説する「平均課税」を適用してもらった方がオトクになります。
・平均課税
・青色申告特別控除
・確定申告による日常業務の遅れ
・e-Tax
この辺を考えれば考えるほど、税理士さんを雇うのをオススメします。