第一話 将来フリーランスになるかもしれない人にこの話をしたい最大の理由
私が専業作家というかフリーランス、つまりどこにも属さない個人事業主の立場になったのは2003年でした。あのデビュー直後の数年の無知を思うと本当に呪いたくなります。もっとしっかり税務処理をしておけば、間違いなく200万円ぐらい資産は増えてました。
もちろんその方法がすべての個人事業主の方に適用されるとは限りません。ですが、適切な税務処理に大きな効果があることだけは間違いありません。
一方で適切な税務処理なんてものは、自分で知ろうとしない限り誰も教えてくれません。なにかの拍子で話題になることはありますが、「自分には関係ないだろう」「ややこしそう」「本当に困ったらでいいや」などと考え、大体実行に移すこともありません。その結果、私のように大損するわけです。
別に本エッセイでは脱税とかそういうことを指南するつもりはまったくありません。ただ日本という国は、
『帳簿をしっかりつけて、収入と支出を正しく申告して、将来に備えての積立とかをしてるなら、税金とか色々安くしてあげるよ』
というシステムになっているのでそれを解説していくだけです。天からお金を降らせるわけでもありません、寝ててお金が増えるわけでもありません。ただ仕事をしている上で、毎年引かれていく税金を直接的に安く、あるいは退職金など別の形にすることで安くしようというだけです。
(注:この関係上、お金に繋がる仕事をしてない場合、つまり納める税金そのものがない場合、効果が大きく薄れる場合もあります。赤字までいくと逆に使える制度もあったりしますが)
なぜそんな節税が可能かというと、その方が国にとってもプラスだからです。収入と支出をハッキリさせることで税金の徴収もしっかりできますし、一個人が将来に備えて積立等を行い、継続的な経済活動を続けられれば減税分を補って余りある利益が出るからです。
一方で、税金の話は大変複雑です。もちろん、本やウェブサイトなどでいくらでも解説しているところはあります。ですが一からすべて勉強しようとすると、途端に嫌になると思います。(個人的経験)
ただ専業小説家のような、収入のほとんどを印税や原稿料に頼っている個人事業主に限って言えば、必要な最低限の制度というのは、そんなに多くありません。つまりこれは個人的経験に基づく、またどの税理士さんに聞いても口を揃えて教えてくれるような、「作家業とかフリーランスになったとき、最低限この制度・仕組みは知っておくとオススメ」とかそういう話です。
たとえば、我々小説家でも退職金制度があります。
そのことを知ってる方は少なくないと思います。ただ、「退職金を積み立てることで、将来への備えという以外にどう利益に繋がるのか?」とか、「毎月千円でもいいから積み立てておくと後々大きな利益に繋がることがある」という話になると意外と知られてません。
同様に、一万円分の領収書や、確定申告における青色申告特別控除にどれだけの節税効果があるのかという話になると、やっぱり意外と知られていません。
だだ、税金の話に関心が持てない理由は分からないでもありません。
たとえば作家に限らずデビューしてしまうと、大体の場合、税金の勉強どころではなくなります。なによりも仕事優先、勉強優先。お金を稼ぐなら節税とかじゃなくて仕事で稼ぎたい。税金なんて言われた通り払うから、今は仕事の方を優先させて欲しい。今はとにかくがむしゃらに仕事したい、生き残りたい――。
振り返れば私もそうでした。
……いやすいませんウソです。私の場合は「面倒臭そう」というだけでした。
(注:でも大体の手続きは、最初の一回目さえ乗り越えれば意外と簡単です)
ですが私も専業物書きを続け、もう他の職業への転職も難しくなり、結婚したり出版不況とか災害とかの話をしたり聞いたりする度、お金のありがたみを実感するようになりまして。
それもただのお金じゃありません。通常の仕事とは別に得られるお金です(ここ重要)。大事なことなのでもう一度言います、通常の仕事とは別に得られるお金です!
実際、専業小説家を10年以上やってる方に退職金制度の話とかすると、ものすごい興味を持たれることがあります。
ただでさえ小説家・個人事業主は自分が倒れたらそこで終わりです。会社員なら付いてくる失業保険もありません。「あのとき適切に税務処理をしていれば」と思う時が来ないとも限りません。たとえば10万円の貯金があれば、一か月生活できます。一か月あれば本が一冊書けるかもしれませんし、次の仕事まで繋げるかもしれません。
なので、ここまで読んだら是非もう少し先まで読んでみてください。え、まだ学生? まだフリーランスになっていない? だったら尚更今読むべきです。フリーランスは職業を問わず、業界の荒波に放り込まれた直後は、多分税金のことなんて考える余裕はなくなります。今だからこそ是非知っておいてください。とりあえず制度の概要だけでも知っておいて、将来必要になったらあらためてまた調べるというだけでも充分意味はあります。
なお、この『第一部 お金編』は、本エッセイは、私がお世話になっている税理士さんに監修してもらい、小規模企業共済の相談窓口などにも確認した話がほとんどです。
だからといって、取材した私がなにか聞き間違えをしたとか解釈を間違えてるという可能性は否定できません。もし間違いとかもっといい他のやり方とかありましたら、ご指摘いただければ幸いです。