第九話 『フリーランス三種の神器』まとめ ケースバイケースの節税対策
◆ 『フリーランス三種の神器』まとめ ケースバイケースの節税対策
ここまでで自営業・フリーランスの三種の神器とも言える三つの制度の解説が終わりました。
すなわち、
・青色申告複式簿記
・小規模企業共済
・文芸美術健康保険組合
この三つです。
区切りがいいので、順に振り返ってみましょう。
● その1 青色申告特別控除について
確定申告を『青色申告複式簿記』という書式にして、かつ3月15日までに正しく申告すると、65万もの控除枠をもらえます。これがいわゆる青色申告特別控除です。
その節税効果は、
・所得税(5%~40%)
・住民税(10%)
・国保(8%)
このすべてに及ぶため、合計25%ぐらいで計算したとして、節税効果は16万円にもなります。
(注1:年間所得が65万を下回るという状況では節税効果は薄まります。詳しくは後述)
(注2:平成30年度より青色申告特別控除65万は55万に減額される法案が提出されています。ただし、e-Taxを利用した場合など、65万が維持される条件も併記されています)
書類仕事を増やすだけで毎年16万のお小遣いがもらえるというのは破格です
これは『面倒臭い確定申告を正しくやってる子への国からのご褒美』みたいなもんで、間違いなく一番ノーリスクで行える節税手段です。これだけは大体のケースにおいてやらないと損です。
しかも、16万というのは所得税を5%で計算したときの最低の数値です。
まとめということでこちらの表を再掲しましょう。
平成29年度の所得税率一覧
課税される所得金額 税率 控除額
195万円以下 5% 0
195万円を超え 330万円以下 10% 97,500
330万円を超え 695万円以下 20% 427,500
695万円を超え 900万円以下 23% 636,000
900万円を超え 1,800万円以下 33% 1,536,000
1,800万円を超え4.000万円以下 40% 2,796,000
4,000万円超 45% 4,796,000
年収から経費・控除分を引いた額が『課税される所得金額』です。
たとえば『課税される所得金額』が500万あった場合、所得税率は20%となります。
その場合、税率は20%(所得税)+10%(住民税)+8%(国保)=38%。
つまり青色申告特別控除65万の節税効果は、65万×38%=24万7000円にもなります!
税理士さんを雇って確定申告の作業の面倒な作業をすべてお願いしたとしても、相当なお小遣いが余るでしょう。
では本当に青色申告複式簿記はどんな人にもオススメなのでしょうか?
前述したように、青色申告特別控除の効果が薄まる場合はあります。たとえば、『年収から経費・青色申告特別控除以外の控除』を引いた額が65万以下の場合。
極端な話ですが、年収100万、経費30万だったとしましょう。すると基礎控除が38万ですから、課税される所得金額は32万になります。
すると青色申告特別控除は65万分あるはずが32万分しか効果が出ません。控除によって収入を赤字にすることはできないんです。(控除ではなく経費でなら赤字申告が可能ですが)
ただし、この場合でも32万円分の控除にはなるわけですから、別に損をすることはまったくありません。青色申告特別控除で安くなった税金を使って税理士さんを雇おうとしている場合に限っては収支がマイナスになることはありますが、自分で青色申告をしている場合、年収に限らず青色申告複式簿記にする価値は充分あります。
特に今は白色申告も結構複雑になってきているので、白色にしておく意味も薄れてきていると言われています。
● その2 小規模企業共済について
次に退職金、つまり小規模企業共済。
詳しくは第6話・7話に書きましたが、まとめなので復習の意味で重点だけ再掲しましょう。
フリーランスでも任意で入れる退職金制度があります。
その代表的なものが『小規模企業共済』。毎月自分で決めた金額を積み立て、後で退職金として受け取ることができます。
(同じく退職金として有名なのは『個人型確定拠出年金』ですが、『小規模企業共済』に比べると解約が難しいなどの理由でオススメはし辛いです)
また、積み立てた退職金は所得税・住民税の控除にできます。(国保の控除には適用できません)
つまり最低で15%の節税効果です。例によって、所得が増えればこの15%は20%にも25%にもなります。
退職金は受け取るときに普通に税金がかかるものの、『退職金を積み立てた年数』×40万の『退職金控除』を受け取ることができます。
(注:積み立てた年数が20年を超えると「800万+(勤続年数-20)×70万」という計算式になります)
退職金を受け取る際に、この退職金控除額内であれば、税金を0円にすることもできます。また、たとえ退職金控除額を越えたとしても、退職金にかかる税金は、通常の半分。節税効果は充分に出ます。
仮に退職金控除枠を越えないよう、年間40万積み立てたとしましょう。
節税効果は40万×15%で6万~です。
年間6万というとインパクトは薄れるかもしれませんが、毎年PSVRが一台買える利益が出る考えれば決して小さい額でもありません。それにほぼ元本保証の上に、年利にすると15%を越えるというのは超優良投資と言えなくもありません。(当然、複利式ではありませんが)
しかも小規模企業共済の手続きは、登録の手間こそありますが、自動で積立金を振り込むようにしておけば、その後は非常に簡単です。
もちろん退職金を積み立てるということは、その年に使えるお金が少なくなるということでもあります。あくまで生活に支障のない範囲で積み立てるべきでしょう。いずれにせよ積み立てた額が年1万であろうと、「退職金控除」は毎年40万ずつ増えていきます。
以上の話を総合しますと、次のようなパターンが考えられます。
もし年収に余裕があるならば、毎年最大額の84万を積み立てます。
もちろんこの場合、退職金控除額(年40万)を越えてしまい、退職金を受け取るときに税金がかかることにはなります。ですが退職金にかかる税金は、通常の半分ですので節税になることには間違いありません。
しかし、フリーランスなんて何年やっていられるか分かりませんし、いつ収入が絶たれるかも分かりません。
しかも小規模企業共済は、65歳以上での受け取り・引退・死亡といった状況でない限り、退職金として受け取れません。たとえば40歳辺りで任意解約し、それまでに積み立てた分をもらおうとすると、退職金ではなく『一時所得』となってしまい節税効果が大きく薄れます。
それに、ただでさえフリーランスの年収は不安定です。年40万とか80万も積み立てるのは、かなり抵抗があるでしょう。
そういうときは小規模企業共済にとりあえず月1000円で加入することが非常にオススメです。
その後、フリーランスとしてやっていけなさそうであれば、引退してしまえば積立金は全額戻ります。たとえ任意解約だったとしても、月1000円であればそれほど損は出ません。
なんとか食って行けそうであれば、月1000円であっても退職金控除額だけは毎年40万ずつ増えていきます。そしていつか年収が多い年がやって来れば、小規模企業共済の最大掛け金となる月7万、年間84万を積み立てましょう。節税効果は一気に高まります。
●その3 文芸美術健康保険組合について
国民健康保険の場合、所得額が多いと年に50万とか80万をポンと持って行かれる可能性があるわけですが、文芸美術健康保険組合こと『文美』に切り替えれば20万+会費2万ぐらいに抑えられます。
ただしまさにケースバイケース。年収300万ぐらいの場合、国保と文美、どちらが安いかはまったく分かりません。お住まいの地域・年収・年齢・家族構成などによって大きく変わるからです。年収が400万とか500万以上が数年続くのであれば、大体の場合文美に切り替えた方が安いとは思いますが、それも経費の額によってまた左右されます。
ただ一点だけ、前項で『25歳独身、年収300万、経費控除100万、固定資産なし』というサンプル計算を挙げましたが、
・新宿区の国保 22万3800円
・神戸市の国保 36万2100円
こちらを見て分かる通り、お住まいの地域が神戸市というだけで、実に14万もの差が出ます。
もしあなたが神戸市・広島市・函館市など、国保が高いことで有名な地域にお住まいでしたら、そのときは大体の場合、即座に文美に切り替えた方がオトクでしょう。
以上、フリーランス三種の神器のまとめでした。
・青色申告特別控除
・小規模企業共済
・国民健康保険組合から文芸美術健康保険組合への切り替え
この三つで、16万+6万+28万=50万近く節税できる可能性が充分あるわけです。いずれも詐欺とかやりようがない制度ですし。
しかもこの計算、青色申告特別控と小規模企業共済による節税効果は、最低基準で計算しています。もし年収が増えて所得税が上がれば、この二つの控除による節税効果はさらに上がっていきます。
もちろん、これは年収がそれなりにある場合の話です。節税効果というのは、文字通り払う税金そのものがなければ節税のしようがありません。
とはいえ、知識として知っていると知らないとでは大きな差があることだけは間違いありません。なにもしなければあなたの年収からは本当に25%以上の税金が様々な形で持って行かれてしまうわけですし。
また、フリーランスの特徴は、年収がまったく安定しないことです。つまり年収が低くなることはもちろんとして、高くもなること珍しくないんです。
個人的にも経験した話ですし、他の作家さんからも聞く話ですが、たとえば作家の場合、シリーズが売れると、年収が去年の二倍三倍になることが平気であります。ただその一方で、一年に出す冊数が極端に減るといった状況にならない限り、翌年の年収が急に半分以下になるということもなかなかありません。本が売れたりすると、どういうわけか勢い的なものがついて、収入も減りづらくなるんですね。
つまり収入が増える兆しが見えたら、すぐにでもこれまでに紹介したような節税対策を行うことは充分価値があると言えると思います。面倒なら税理士さんに相談&丸投げでも構いません。それだけで本当に50万とか楽に節税できますので。
そして浮いたお金で、ぱっと遊ぶのもいいですが、多少は将来にも備えましょう。それが結局国のためにもなります。
また、仮に年収が低かった場合でも、青色申告特別控除による節税効果は効果はほぼ変わりません。小規模企業共済も、月々1000円積み立てるだけで大きな効果があります。
つまり、まとめるとこういうことになります。
・青色申告特別控除は、ほとんどの場合で有効。
・小規模企業共済は、負担にならない額で早い内からやっておいた方がいい。
(年40万積み立てるのが効果的。ただ節税効果は充分あるので40万以上積み立てても問題ありませんし、逆に月1000円でも充分効果があります)
・国民健康保険からの文芸美術健康保険組合への切り替えは、国保が22万以上になる年が続きそうであれば、やっておいた方が得になる可能性が高い。
(これだけは家族の有無・住んでる地域・年齢などで大きく変動するので、一概に「年収いくら以上なら」とも言えません……。地元自治体のHPなどで計算してみましょう)




