夜想曲第6番
思い出の中から。
フォーレはラヴェルの師匠のひとりです。
「エトセトラ」が作曲家の名前に見えそうで不思議です。
多忙なボクにバイトが一人つくことになった。
新入りのキミはパソコンを使えたが、ボクが仕事で使っていたソフトには難儀していた。
キミは8歳年下で、おとなしい人だった。
ボクが徹夜明けの朝、キミは早めに出てきてくれた。
ボクはCDをたくさん持ち込んで、ひとりなのをいいことに好き勝手に流していた。
その時はジャン=フィリップ・コラールのピアノで、フォーレの夜想曲が流れていた。
確か第6番だったと思う。
キミは、心底驚いたようだった。その様子にボクの方がびっくりした。
「まさかここでフォーレを聴くことになるなんて」
ボクの外見からは想像もつかなかったらしい。
キミはフォーレを「大好きな作曲家」だと言った。
やがてキミはバイトを辞めたが、キミとボクが会う日は増えた。
キミの部屋は、終電がなくなってもボクの部屋から歩いて行ける場所にあった。
キミとボクの話題は、やはり音楽が多かった。
お気に入りの曲として、キミはバーバーの「ヴァイオリン協奏曲」を、ボクはデュリュフレの「レクイエム」を、紹介しあった。
キミの部屋にはピアノがあって、いろいろな曲を弾いてもらった。
バッハ、モーツァルト、メンデルスゾーン、ドビュッシー、そしてフォーレ、エトセトラ。
ボクはクラシック中心だったキミに、ジャズとブラジル音楽を聴かせた。
キミはビル・エヴァンズのピアノと、アントニオ・カルロス・ジョビンの曲を好きになった。ときどき自分で弾いていた。
キミが結婚した頃、ボクは地元に戻って働いていた。
数年後、キミから「女の子の母親になった」とメールが届いた。
今でもたまにメールが届く。
16/9/24 Sat. ~ 16/10/29 Sat.