茶番
その日の放課後、僕はマイクにダンの机の中に奇妙な数字が羅列された紙が入ってた事を話した。
「そういう事があったんだけど、何か心辺りとか無いか?」
「分からねえけど興味はあるな。 ちょっとダンの机を物色……」
「……何も見てない聞いてない」
「バル……」
既に教室の中はがらんとしていて、他の生徒達は足早に帰宅していたようであるが、たまたま僕達の事を遠くから、不審な目で見つめていたポニーとピノが駆け寄ってくる。
「あんた達はなに人の机の中を物色してるのよ」
「あったあった。 この紙だな……ってポニーとピノはいつの間に」
「いや……二人ともさっきから遠くで僕達を見張ってたんだけど」
「そりゃあ怪しい事してたからね」
「怪しいって言うか……否定出来ないな」
「で、その紙は何なの? ダンは今日学校に来てなかったけど、何かダンに借りた物でもあったの?」
「若し借りた物だったとしても、それを勝手に取ったら駄目だろ……」
「いや、バルが掃除中にダンの机の中から、奇妙な紙を見つけたからそれを見てるんだよ」
「そ、それもどうかと思いますが……」
「大丈夫大丈夫。 ダンならバレても許してくれるだろ」
「お、おう……」
マイクは見つけた紙をダンの机の上に乗っける。
「で、何? この訳の分からない紙」
「多分だけど、俺はこの紙がダンが今日学校に居ない理由だと思ってる」
「そ、それは分からないが、若しかするとそう……かもな」
「バルはなんでそんなに自信が無いんだよ。 普通こんな可笑しな紙が入ってたら、それが原因だと思うもんだろ?」
「そんなよく分からない紙で決め打っても、どうせ外れるわよ」
「いや、流石にその紙が直接関係してくるとは思えないんだけど……」
「まあ貰っとこうぜとりあえず」
「とりあえず貰うってどういう事だよ」
「偉い人は言いました。 バレなきゃ犯罪じゃ無いと」
「その偉い人って誰だよ! あとバレなくてもやってる事自体は犯罪だよ!」
「まあいいじゃんいいじゃん」
「……ダンに何言われても知らないからな……」
「あの……」
「ん? どうかしたか?」
「いえ、ダンさんの家に行ってみたらどうかな……って」
「ダンの家にか……バルは家知ってるか?」
「済まないが僕は知らないな……」
「あ、あたし知ってるわよ」
「……なんでポニーが知ってんだ?」
「なんで知ってんだって言われても、家が近くだからとしか言いようが無いわよ」
「ポニーの家の近くにダンの家も有るのか……なら案内してくれよ」
「別にいいけど……」
「いいけどどうしたんだ?」
「いえ……この時間帯ってダンの家には、ダン以外誰も居ないと思うのよ」
「つまり親が居ないって事か?」
「そういう事。 確かダンの家って共働きだった記憶があるの」
「うちと同じか」
「バルの家もそうだったな」
「だから若しかすると誰も出ないと思うのよね」
「まあダンが不在って事も有る……ならなんで学校を無断でサボってるんだ?」
「寧ろ居留守ってのも有るんじゃねえか?」
「居留守……確かにダンならやりかねないけど、僕達に対して居留守をした所でダンにとって意味有るのか?」
「……まあ無いな」
「まあとりあえず行ってみない? どうせこの学園からそこまで離れてない訳だし」
「それもそうだな。 四人で行くか!」
結局、奇妙な紙は僕が預かる事となり、教室を後にした。
学園の敷地から出て、目的地であるダンの家へ向かう。
その道中、何故かピンポン球のような物が何十個も転がっていた。
「……なんだ? このピンポン球」
「ピンポン球……だよな」
「なんでしょうかね……」
「そもそもなんでこんな道端に大量のピンポン球が転がってるのよ」
「道端に転がってる理由は理解出来るけど、誰がなんでこの場所にこんな量のピンポン球を用意したんだろう?」
「バルはなんで転がってるのか分かったのか?」
「多分道端に転がってるのは道が傾いてるからだとは思う」
「確かに傾いてれば低い方に丸い物は転がって行くわね」
「……と、とりあえず気味悪いから無視しようぜ?」
「……? なんで怖気づいてるんだ?」
と、マイクに対して言いながら、道端に落ちてるピンポン球を一つ、揺ら揺らと空中に漂わせる。
「……!」
その光景を見たピノは、声にならない声を上げる。
「ぴ、ピノちゃん、ど、どうした……って、え……」
ピノの異変を察知したポニーも、その光景を見て唖然とする。
しかし、当の本人であるバルも冷や汗が溢れ出している。
「お、おいおい、二人共どうし……え! え! ピンポン球が浮いてる! 浮いてるやべえ! マジすげえ! あはははは」
余りにも現実離れ? している光景を見て、マイクが壊れてしまったようだ。
「ぴ、ピンポン球が浮くなんて……本当だ……ってマイクしっかりしろよ!」
「え? ちょっと……マイク落ち着いて……な、何がどうなってるのよ……」
マイクの発狂を見てか、ポニーの顔が真っ青になり、震え始める。
「え、ええと……兎に角この場から離れよう!」
しかし、その言葉は二人に届かず……。
「え、あ、はい!」
「ちょっと待ってくれピノ。 マイクとポニーが――」
そう言った瞬間、チラッとピノが、僕の事を一瞬見た気がした。
「そ、そうですね……」
「ど、どうしよう」
「とりあえず、あ、あのピンポン球をどうにかすれば……」
「ピンポン球か……分かった!」
僕は、自分が操っていたピンポン球に対して、然も誰かが操っているピンポン球を吹っ飛ばすかのような感じで、漂わせたピンポン球を吹っ飛ばした。
「よ、よし、おい二人共、ピンポン球はどっか行ったから安心しろ!」
「ほ、本当だ……な、何だったのよ、さっきのピンポン球は……」
「あはははは、ピンポン球が、ははははは」
「このバカはどうしたらいい?」
「……殴ったら?」
「それもそうね。 えいっ」
可愛げな掛け声とは裏腹に、ポニーの拳はマイクの脳天を捕らえる。
ゴツン、と鈍い音が響き渡る。
「ははは……いたっ、な、何したんだ!」
「あ、やっとマイクが元に戻った」
「マイク……つ、次発狂したらどうなるか分かってる?」
「い、いや、発狂とか意識的にどうにか出来る物じゃないから止めてください」
「問答無用よ!」
「は、はい……」
「あ、あの、バルさん……」
「どうしたの?」
「え、えっと、さっきのピンポン球って、若しかしてバルさんがやったんですよね……?」
「……なんで気付いたの?」
「その、ですね……ピンポン球が浮いてる事に対して、余り驚いていないように見えたので……」
「……つまり棒読みだったって事?」
「は、迫真の演技だったと思います……」
「お、お世辞でも有難う……」
「二人共、話ししてないで、さっさとダンの家に向かうわよ!」
「あ、悪い。 ピノも行こう」
「はい!」
一連の出来事があったが、その後は何も大きな出来事は起きず、僕達はダンの家の前に着く事が出来た。。
「ダンの家は此処よ」
「凄い普通の一軒家だな」
「とりあえず、インターホンを誰か押さねえか?」
「なら僕が押してみる」
僕は、ダンの家のインターホンを触るようにして、一回押した。
ピンポーンとその音は鳴り響くが、中から誰かが出てくる様子は無い。
「本当に居留守してるんじゃねえか?」
「なら連打してみるか」
「何回も押せばきっと出てくるわよね。 中に居れば」
ピンポンピンポンピンポン……しかし、中から誰かが応答する訳でも、ドアを開けて出てくる訳でも無かった。
「……こりゃ駄目そうだ。 帰るか」
「帰って自宅待機してたほうがマシだな」
「……帰ろうか」
「そ、そうですね……」