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Cyan  作者: 莉央奈
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Gula

残酷な表現や百合ぽい展開は抑え気味にしていますが、

無いわけではないです。



 漆黒のドレスを纏った悪魔が黒い羽根を翻し、静かにテラスに舞い降りた。月明かりは寝屋を照らし、眠る主に光を落とす。悪魔は窓をそっと開き、女にそっと忍び寄る。

 悪魔は女の寝顔を見て微笑み、右手で優しく髪を撫でた。その手は髪を撫で下ろし、そして頬をなぞるように撫で上げた。


 悪魔は彼女の身体を跨ぐと彼女に覆いかぶさるようにして、そっと顔を近づけた。息がかかるほどに近く、そして目を閉じると唇を重ねた。


『優しい黒…』


 唇を離した時、主と目が合った。怯えるわけでもなく、逃げる事も無かった。その瞳はまだ夢の中を彷徨っているようで、目の前の悪魔を見ていた。


 紅い瞳が見えた…。

 悲しそうな瞳…

 唇に残る感触を確かめていた…。

 私の上にいる者、黒い羽根を広げ、その羽根は夜風に揺らめいていた。


「美しい…」


 やっとの思いで出た言葉はそれだった。どうしてそんな事を言ったのかは分からない、怖くて動けずにいる、手が震え、瞳が潤み、涙が零れそうになった…。


 悪魔はその涙を指で拭い、頬を優しく撫でた。


「私は敵を六人殺しました。罪滅ぼしにはなりませんが、六回だけ、私は貴女を助けましょう。」

「何を代価に…?」


悪魔が見返りもなく従う筈はない、何かあるのだろう、それは恐らく私の魂だ。

正直、このまま自由もなく束縛された現実ならば、それも良いのではないかと考えた。


「代価など要りません、ただ…」

「何でしょう」

「愛が何なのか知りたいのです…」


 悪魔の望みはそれだけだった。だがそれを説明したくても出来ない、する自信がなかった。


「愛など知っても虚しいだけです、つらく苦しむだけです…。」


 悪魔は笑っていた。どのような答えが返ってくるのか概ね分かっていたのだろう。


 そして、彼女は望みとして悪魔に命じた“親の決めた結婚相手を殺してほしい”と…。政略結婚だの何だの、それが嫌だった。叶うなら自分の選んだ相手と結婚したいと願った。悪魔はニヤリと笑っていた。



 朝食の終えたリシェが部屋に戻ると、メイド服に着替えたディルが出迎えた。


「本日のお召し物がご用意できました。」


彼女の手にしているのは黒いワンピースドレスだった。簡単に言ってしまえばゴスロリだ。


「私は貴女を疑うわ、何そのセンスは」


悪魔は微笑していた。


「その部屋着よりは、こちらの方がよく似合いますよ」


リシェは悪魔に背を向けて両手を広げた。“着替えさせろ”と云う事なのだろう、ディルはボタンを手際良く外していく、白い肌が露わになる、、


着替えが終わると、リシェは鏡の前に立つ、そこに映った自分の姿に見入ってしまう、、


「その美しいに肌に色彩を加え、貴女様はより美しく染まる、、」


ディルは彼女に化粧を施して見せた。


「どうですか、とても魅力的にございますよ」


まるで別人にでもなったような自分が映った。両親に見つかったら何と言われるか分からない、ドキドキしていたが、それがどこか心地よくもあった。


「本日は午後からアレウス様とお食事の予定になっております」

「あれ程断るように言ったのに、、」

「聞くところによれば彼は美食家、各地より食材を集め、最高の料理人に料理させているとか、興味はございませんか」

「そんな物より母様の作ったポトフの方が良いに決まってます」


悪魔は笑みを浮かべる。


「では、やめますか?」

「今更断れないでしょう」

「そうですね、最後の晩餐を楽しませていただきましょう」


悪魔は不敵な笑みを浮かべていた。



夕刻も過ぎた頃、屋敷に着いた二人は馬車を降り、出迎えた従者の案内で中へと通された。そして館の主の待つ広間へと通され、リシェの婚約者を初めて目にした。

挨拶を交わす二人を余所に、悪魔は館の主を見て呟くように“Schwein(シュヴァイン)”と言った。

内装は幕で覆われていて窓も見えない、そして中央から紐が垂れていた。察しの良いディルはそれが何なのか、紐を引けば幕が落ちる、そこには何かが隠されているのだろうと察しがつく、、

その幕の向こうには人の気配さえもしていた。


「子供だましですか・・・」


「今晩は我が妻となるリシェ・ルーンベルクを招き、盛大なる晩餐を…」


悪魔はだらだらと話す彼の話など聞かず、そのやかましい“豚”をどう料理するか考えていた。


そして、アレウスが天井からぶら下がった紐を引くと幕は花弁を開くように広がり、幕の裏に控えていたアレウスの身内の者達が各々にクラッカーを鳴らした。


「おお、写真で見るよりも遥かに美しい!」


アレウスはリシェを抱擁するが、悪魔はリシェが嫌がっているのを感じていた。


「美しくて当然です、私のご主人様ですから、、」


ディルは静かな口調で言うが、その瞳は冷たく、ただ紅かった。


「美味しい料理に音楽、楽しんで下さいませ、全て貴女の為に用意させました。」


アレウスはそう言って奥の垂れ幕を開けた。そこにはオーケストラが控えており、演奏が始まった。


「良い曲ではありませんか」

「私はしばし席を外します、この雑音は私の趣味ではありません」


オーケストラは確かに有名な楽団、国の中でも五本の指に入るだろう楽団、何が気に入らない事でもあったのだろうか、それを雑音と言って、ディルは静かに会場を抜けた。


「踊っていただけますか?」


アレウスはリシェの前に跪いて彼女の手をとった。仕方なしに踊るリシェは、ディルに嫌悪感を抱きつつも心細くなっていた。


ダンスも終わり、料理が次々に運び込まれる。


「アレウス様」


アレウスを呼んだのはディルだった。


「そなたはリシェのメイドであったな、何だね?」

「本日のメインディッシュですが、貴方好みの味付けにするよりも、我が主、リシェ様の好む味付けにされてはいかがかと、その方がリシェ様もお喜びになりますでしょう。」


その誘いにはアレウスも断る理由がなかった。


「リシェ様には内緒でご相談なのですが、厨房までいらしていただけませんか、とっておきのサプライズを、、」

「それは面白そうだ」


アレウスは乗り気でディルの後に従って会場を抜けた。一人残されたリシェは、アレウスの両親や親戚に色々と訊かれてそれどころではなかった。


メインディッシュが運ばれてくる、ディルが運んで来た。


「皆様、先ほど国より使者が参り、アレウス様は国に召還されました。何分にも火急の用事とか、、皆様と最後まで楽しめなかった事、我が主、リシェ様といられぬ事を悔やんでおられましたが、夜中には戻られるでしょう。後は二人水入らずで、ね」


ディルが微笑むとリシェ以外の全員が笑った。


「ですが、最後に相応しい最高の料理が出来ましたので、皆様とご賞味あれ」


そうは言うものの、リシェはその料理を口にする事はなかった。どれもこれもリシェが一番嫌いな料理だった。

この悪魔は何を考えているのだと、主の嫌がる顔を見て喜んでいるのではないかとさえ思った。


ディルはオーケストラの中に入り、楽団の一人からバイオリンを受け取るとゆっくりと弾き始める。

その曲は聴いた事もない清らかな曲、悪魔が弾いているとは思えなかった。


真夜中になり屋敷に帰ったリシェは、部屋に入るなりディルに縋るように抱きついた。


「結局、帰って来ませんでしたね、、」

「はい、もう二度と帰ってくる事はありません」

「どうして分かるの…」

「貴女の願いを叶えただけです」


その言葉でリシェは察しがついた。ディルはアレウスを殺したのだと、、

だが疑問が残った。死体はどうしたのか、見つかりはしないのか、考えると不安が残った。

この続きの少し残酷描写部分は別の機会に載せます。

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