風葬
「やあ、毎日毎日葬儀ばかりで本当に骨が折れるね」
ケタケタと笑いを浮かべながら、“葬儀屋”は私に言った。
「今日はどうなさるんですか。」
「ああ、『風葬』だよ。インドネシアまで飛ぶよ。」
「はい。」
「『風葬』は、遺体を風にさらし風化を待つ葬儀の方法だ。崖や洞窟、樹上で行われることもあるよ。」
今度は、自信がなかったのか“葬儀屋”は真っ黒な1冊のノートを開いた。
「今から話すのは、インドネシアのことだよ。」
「スラウェシ島高地部に住むトラジャ族の葬送は大規模かつ派手な葬祭で世界的にも知られているね。
インドネシアの伝統的な葬送では、岩壁に横穴を穿ったliangと呼ばれる墓に葬られるよ。」
「ただし。現代では、キリスト教化が急速に進んでいてね。
アルック・ド・トロ《aluk to dolo》と言われる伝統の信仰をそのまま伝える信者が少なくなるにつれ、風葬は廃れていくんじゃないかって心配されているみたいだよ。
葬祭そのものは、インドネシア政府による後押しであって、観光化もあり現在でも盛んであるよ。」
「自信、なかったんですか?」
「『風葬』なんてあんまり頼まれないからね。
まぁ、昔はほら、前行った日本の端っこの島…。琉球とか沖縄って呼ばれているところでも、やってたらしいけども。」
「さ、ついたよ。」
「葬儀を始めようか。」