第四話:検査2
俺は近くにいたクラスメイトたちの会話にそっと耳を傾けた。さっきアルカナとヴァルカンの話をしていた三人組だ。ここで情報を得られれば大きい。俺は思い切って声をかけてみることにした。
「なあ、さっき言ってたアルカナとヴァルカンについて、何か知ってることがあれば教えてくれないか? 魔法とか、見た目の特徴とか」
三人のうちの一人が、突然話しかけられたことに驚きながらも、親切に教えてくれた。
「二人の固有魔法はわからないけど、アルカナは白髪で赤目をしていて、身長は君より少し高いくらいかな。ヴァルカンは紺色の髪に橙色の目をしていて、首に立派な宝石をかけている筋肉質の男だ。あいつ、身長は君より少し低いくらいだけど、検査が終わって出てきたときは血だらけだったよ。それでも本人はまだ戦いたそうだったから、たぶん先生に止められたんだと思う。逆に、アルカナの方はそこまで傷はついてなかったよ」
「そうなんだ、ありがとう」
俺は礼を言ってその場を後にし、魔法検査の会場へと向かった。
歩きながら、さっきの情報を頭の中で整理する。白髪に赤目ということは、アルカナは稀に見るランド人とクロバキア人の混血だろうか。ヴァルカンが宝石をつけて自分を強く見せようとしているあたりは、クロバキア大国の上流階級――貴族のような気品とプライドを感じさせる。一体どれほど強いのだろうか。
◇
魔法検査の会場に入ると、担任の先生が腕を組んで待っていた。どうやらクラスの一人一人から直接聞き取りを行っているらしい。
「魔法の使い過ぎで倒れたやつがいると聞いたが、お前だったか。もうお前が最後だ、さっさとするぞ」
「すみません。よろしくお願いします」
「じゃあ、まず魔法回路数は?」
俺は右手に意識を集中し、皮膚の裏側から魔力の回路を浮かび上がらせた。青白い光の線が、幾重にも重なって腕を走る。
「……50本か」
先生は驚きもせず、淡々と手元の書類に記録していく。そのあまりに素っ気ない反応が意外で、俺は思わず尋ねてしまった。
「先生、50本って神話級の魔法が使えるレベルの本数ですよね? 驚かないんですか」
先生はペンを止め、鋭い目をこちらに向けた。
「ああ。確かに50本あれば神話級を扱える資格はある。だがな、私はこれまでに50本を超えている人間を50人余り見てきたが、誰一人として神話級の魔法は使えなかった」
「え……? どうしてですか」
想像もしなかった言葉に、俺は息を呑む。先生は静かに言葉を続けた。
「中級や上級、特級にも言えることだが、回路数が足りているからといってその級の魔法が使えるわけじゃない。そこから先は、才能と限りのない努力が必要になるんだ。……いいか、上位の魔法というのは、複数の魔法を同時に展開し、それらがお互いを打ち消し合わないように完璧に掛け合わせることで初めて発動する。この緻密な魔力調整と、魔法そのものへの深い理解が問われるんだ。上級なら10個、特級なら30個、神話級なら実に50個の魔法を同時に制御し、ようやく一つの魔法として完成する」
先生の言葉が、すとんと胸に落ちていく。自分の未熟さがはっきりと見えた気がした。
「完成した上位魔法は、単に初級魔法をいっぱい並べるよりも魔力消費量が少なく、威力も跳ね上がる。試験官の先生からお前の戦闘報告を聞いたが、『初級魔法をたくさん使っているだけで、魔法自体は掛け合っていなかった』そうだ。……まあ、それでも1年生にしてC+をとるとは上出来だ。お前には神話級を扱えるだけの『器』がある。努力を続ければ、いつかその領域に到達できると私は信じているぞ」
「――はい!」
厳しくも温かい励ましに、胸が熱くなる。
「それじゃ次、お前の固有魔法を教えてくれるか」
「はい!『水素変幻』です。水素を水や氷に変えたり、逆に水を氷や水素に変えたり、氷を水や水素に相互変換できます」
「単純な魔法で助かった。複雑な固有魔法だと、説明だけで書類の書く欄を超えるからな。よし、これで魔法検査を終える。教室に戻って学科試験の準備をしておけ」
「ありがとうございました!」
◇
その後、教室で行われた学科試験も無事に終わった。
テストはすぐに採点に入り、解答用紙が返ってくる。ちょくちょく分からない問題はあったものの、8割は解けた手応えがあった。
手元に返ってきた点数は「84点」。順位はクラス内なら4位、全体でも14位という、かなりの好成績だった。
中央街に来た時に図書館で予習していたのもあるが、一番は村にいた頃、たまにやってくる商人たちにお願いして、親に本を買ってもらっていたのが大きかった。本には魔法の基礎や発動の仕方が載っていて、初級魔法ばかりだったけれど、読むのが凄く楽しかった。「使える魔法が増える」ということが、当時の俺にはたまらなく嬉しかったんだ。
そんな昔の思い出に浸っていると、いよいよ帰りのホームルームが始まった。先生の連絡が終わり、放課になる。
俺は教室を飛び出し、廊下の壁に張り出された総合順位の表へと急いだ。今回の順位は、身体検査が3割、魔法検査が4割、学科試験が3割の配分で総合的に決まるらしい。アルカナとヴァルカンの順位が気になるところだ。
一番上から名前を確認していく。
1位――ヴァルカン。
そして、4位――アルカナ。
俺の名前は「8位」のところにあった。
一瞬の悔しさと、それ以上の高揚感が胸の奥から湧き上がる。届かない壁じゃない。結果を真っ直ぐに受け止め、俺は心の中で強く決心した。絶対に努力を重ねて、自分より上の奴らを超えてみせる、と。
一度寮に戻り、食堂で昼ご飯を済ませた後、俺は午前中に見つけて気になっていた「魔法創作部」の部室へと向かった。
人気の全くない不気味な通路の奥。恐る恐るドアノブに手をかけると、鍵は開いていた。
ゆっくりと、軋む扉を開ける。
薄暗い部室の奥、古びた椅子にポツンと座っていたのは――白髪に赤目をした。
「アル、カ、ナ……?」




