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【短編】婚約を破棄した直後に獣人王子の番として捕まってしまった。

掲載日:2026/02/19



   パキンッ!


 手首のブレスレットの真珠が弾き飛び、壊れた。

 パーティー会場の中だから、周囲の一同が注目する。

 そんな中、私の婚約者に引っ付いたストロベリーブロンドの令嬢が、クスッと笑う。


「大富豪の公爵令嬢ともあろう方が、脆い壊れやすいアクセサリーを買わされてしまったのかしら!」


 私をおちょくる嘲笑。

 私はスッと目を細めて、一瞥。それから、自分の手首を見た。


「いいえ。これは婚約破棄がなされたという証です」

「えっ?」


 ご令嬢に引っ付かれたまま、私の婚約者は、いえ、元婚約者は素っ頓狂な声を上げる。


「何を驚いているのですか? あなたには、そちらのご令嬢と三回以上の肉体的接触があった場合、婚約契約書は破棄されるという誓約を交わしたはずです」


 指摘されて、やっとバッと身と引いて離れた元婚約者。


「ち、違うんだ! レイチェルとはただの幼馴染だって!」

「その言い訳は、散々聞き飽きましたわ。私が言っているのは、特にその“ただの幼馴染というご令嬢”と必要以上の接触が不快だからやめてくださいと言ってもやめないので、神殿で誓約書を作成したではないですか。このブレスレットは、あなたが誓約を破ったことを知らせるために神殿から買ったものです」


 神殿では神聖な誓いを管理してもらえる。婚約や婚姻、または事業の取引や重要な約束事を書面にして、神聖魔法により、効力を得るのだ。

 国一の大富豪の公爵家の令嬢である私、ユーリシア・ミュアゼと、ラルフ・ドーマー侯爵令息は、半年前に婚約をしたが、何かとラルフの“ただの幼馴染”であるレイチェル・サタデー伯爵令嬢とベタベタするので、堪忍袋の緒が切れそうな私は、つい先週に神殿で婚約契約とは別に新たな誓約書にサインしてもらったわけである。

 どうせ破られるとわかっていたから、すぐにわかるこのブレスレットも買っておいた。決して安くはないけれど、あちらが有責で婚約が消えてくれるなら、安いものだ。


「誓約を破った!? そ、そんなわけ」

「いいえ。神殿が間違えるわけがありません。このブレスレットの真珠が壊れたということは、あなたは神殿での誓ったことを破ったということです」


 ブレスレットまで買ったのは、すぐに契約違反を知るためだった。

 まぁ、パーティー中に割れて注目を浴びたのは、かえってよかった。

 神聖な誓いとみなされる神殿での誓約を破ったと、周囲に知らしめるのは、相手の非を目立たせることが出来る。現に、周囲の目は冷ややかに突き刺さっていた。


「誓約を破った時点で、私とラルフ・ドーマー侯爵令息との婚約も破棄されました。赤の他人となりましたので、どうぞ“ただの幼馴染”とじゃれ合ってくださいませ」

「ちょ、ま、待ってくれ!! だから、レイチェルとは“ただの幼馴染”だって!」

「そうですよぉ! “ただの幼馴染”に嫉妬して、心が狭いんじゃないですかぁ?」


 ラルフは聞き飽きた言い訳を喚き、レイチェルは挑発的にニヤリと笑った。

 パシンッと扇子を掌に叩きつけて、音を響かせて、空気を変える。

 戯れはおしまいだ。


「約束をした時点で、守るべきものです。節度を守らない不誠実な方が、フラれて当然じゃないですか。心がとても歪んていらっしゃるサタデー伯爵令嬢には、理解出来ないのかもしれませんね。神殿での約束事は神聖なもの。あなたの幼馴染は、それをあなたのせいで破ったのですよ」

「っ……!」


 冷たく言い放てば、たじろいだ。

 レイチェルはオロオロしだしたが、ラルフの方はもう周囲の冷たい眼差しに真っ青な顔で俯いていた。


「ちなみに、サタデー伯爵令嬢には婚約を台無しにした責任を支払っていただきます。慰謝料ですわ。婚約破棄の有責でドーマー侯爵令息も契約通りの慰謝料を請求いたします」

「なっ……!」

「ちょ! なんで!? ただの幼馴染だって言ってるでしょ!! なんでもないのに!!」


 はぁ、と大きなため息をつく。話すのも面倒だから、そのまま去ってやろうとしたが。


「大富豪のくせに! 慰謝料請求するほどがめついの!?」


 なんて馬鹿な令嬢なんだろう。


「私が大富豪の令嬢であろうとなかろうと、そちらが約束を破らなければ発生しなかった慰謝料です。私はサタデー伯爵令嬢にも契約内容を話したはずですわ。わざわざ誓っておいて、破ったのに払わないとは、神殿での約束事を愚弄としているということ。あなた方はたった今、この場にいる方々から信用をなくしましたよ」


 周囲の冷たい眼差し。その意味を、正しく理解すべきだ。

 貴族の方々には、“コイツは何一つ約束を守らない信用ならない奴”と烙印を押されたのだ。

 神殿の約束事を守らない、破る、とは、そういうことなのである。

 王家のパーティーだが、王太子は従兄だ。私にも甘いし、この程度の騒ぎ、許してくれるだろう。


 ツンと顎を上げて、歩き去った。

 ミルキーブラウンの髪を靡かせて、鮮やかなブルーのドレスを翻して、廊下を進む。


 父は国一番の財力を持つ公爵であり、母は王妃の妹で、甘やかしてくれる従兄は王太子殿下。


 正直、国内で欲するような結婚相手がいない。

 かと言って、他国に嫁ぐのだけはやめてくれと父に泣かれるし、私も故郷にはいたいので、婿養子を探した。


 吟味した末に、18歳になった歳に、それなりの利益を得る政略結婚として、婚約成立したのである。


 ラルクは潔白であれど、レイチェルと馴れ馴れしい。幼馴染という気安い間柄だが、限度がある。二人が婚約しないのは、ひとえにレイチェルの家から旨みがないからで、レイチェルとしては不満らしい。ペタペタしては、私に挑発的な笑みを見せてきた。

 ただの幼馴染と言い張り、二人の令嬢に取り争われる現状に悦を感じている様子だったので、どうせ破ると思った誓約をさせて、破棄したわけだ。


 もう一回は婚約をしたんだし、結婚は諦めていいかな。

 独り身を貫くと言えば、父が泣いて喜びそうだもの。



「……」


 パーティー会場を抜けて、休憩室よりも、客室でゆっくり休もうと廊下を進んでいたのに、後ろをついてくる気配に違和感を持つ。

 この区間は、相当な身分がないと入れないはずだから、不審者なわけがないだろう。

 それに、こんな王城で、何かをやらかすわけがない。



 と。完全に油断した。



 ガッと掴まれたあとは、担がれていたものだから、驚愕。

 視線が高い。私を担いでも、歩みが不安定じゃない。男性、それに長身で鍛えている人物。

 白銀色の尻尾が、ふさふさと揺れている。

 なんとか振り返れば、白銀髪の頭の上に三角形の獣耳が見えた。


 尻尾に獣耳! 獣人……!?


 ならば、加減はいらない!


 獣人は人間より丈夫だから、いざという時は骨を砕くつもりでやってしまえ。そう父に教わった。

 大富豪の令嬢だ。傷物にされてからでは遅いと護身術は叩き込まれてきた。誘拐から既成事実まで、それらから身を守るために。

 膝を振り上げて、後頭部を砕くつもりで叩き落としたのだが、その前に私を担いだ獣人は気付いたようで身を離した。

 私も、落とされる。


 廊下に受け身を取るつもりだったが、身を離した獣人は、隣の壁を蹴るとこちらに飛び込む勢いで、私の身体を受け止めた。


 ライトブルーの瞳とかち合う。


 どれくらい見つめ合ったか。一瞬だったか、それとも数秒か、数分だったかもしれない。

 時間がわからないくらい見つめ合うことに集中してしまった。


 彼から動いて、私の頭を引き寄せたかと思えば、唇を重ねる。


 あまりにも無礼な行動に、普段なら平手打ちをしていただろう。

 けれども、私はそれを受け入れてしまった。

 何故か、嫌ではなかったのだ。


 噛み付くような深い口付けが、気持ちいい。熱くて、溶けそう。

 互いに堪能するように、口付けを交わした。


 彼にはかき抱くように、抱き締められているし、私も首に腕を回している。

 きついぐらいに抱き締め合って、激しく密着。


 またどれくらいの間、口付けをしていたかわからない。

 やっと唇を離した時には、二人して熱っぽい息を溢す。


「……君の名は?」

「……ユーリシア・ミュアゼ。ミュアゼ公爵家の長女です」

「ユーリシア」


 ライトブルーの瞳を細め、彼は口の中で転がすように、私の名前を呟く。

 そっと立ち上がらせてくれたけれど、肩に手を置いたまま、見つめ返す。


「オレはベルヴァーン。ベルヴァーン・ディ・エルダーンだ。エルダーン王国の第三王子」


 獣人の王国、エルダーン王国の第三王子ベルヴァーン・ディ・エルダーン殿下。


「先程の騒動で目にした瞬間、君に惹かれた。目を合わせて確信した。ユーリシア、君はオレの番だ」


 番。獣人は、本能的に恋愛をする。その相手は、番と呼ぶ。


 特に王族などの高貴な血族は、その本能的な恋愛は『運命の愛』と呼ぶに相応しいほどに引き裂けない強固な繋がりだという。


 だから、獣人の番を見つけると、ちょっとした騒ぎにもなる。

 大半は獣人同士だが、稀に他種族の相手が番だと見つけるのだ。本能だからか、獣人は強引な求愛をするのも多々あると聞き及んでいる。


 私を担ぎ上げたのも、きっと強引な求愛をしようとした結果だろう。どこかにつれていって話すために。

 私は、じっと見つめた。白銀の狼耳を立たせたライトブルーの瞳のベルヴァーン殿下。気高く美しい白銀の狼だ。


「堂々とした強気な振る舞いの婚約破棄、素敵だった。もう君に婚約者はいない。だからオレと結婚してくれ」

「……婚約を飛ばして、結婚ですか」

「だめなのか? すぐに婚姻を結びたい。オレの番」


 求婚をされたが、少し考えてしまう。

 相手は隣国の王子。この場で、軽々しく返事が出来ない。


「……婿入りしてくれますか?」

「する」


 ぴくんと耳を立たせて、食らいつくように返事をしたベルヴァーン殿下。

 彼も彼で、軽々しく返事をしてはいけないと思うのだけれど。

 私のその心の声が聞こえたみたいに、ベルヴァーン殿下は笑った。屈託ない笑顔だ。


「神殿で誓おうか?」

「ふふ」


 笑わせてくれたから、口元に手を当てて小さく笑ってしまう。

 破るはずない。神殿で何を誓っても、きっと。


「先ずは、お互いを知り合いましょう。エスコートをしていただけますか? ベルヴァーン殿下」

「エスコートさせてもらおう。ユーリシア」


 パーティー会場に戻るつもりはない。ただ静かな場所で、お話をするだけだ。


 バルコニーは私達で独占。夜風を気にして、ベルヴァーン殿下は上着を肩にかけてくれた。


 ベルヴァーン殿下は今回、初めてこの王国に来たという。両親や兄達に急かされて、番を探しに。期待はしていなかったというが、こうして私を見つけられて、満足だと顔を綻ばせた。

 私も婿入りを希望している事情を語る。溺愛してくれる父が獣人の番だと知ったら、どういう反応をするのか、予想がつかないこと。それでも諦めないと答えてくれるベルヴァーン殿下。

 獣人の本能で番宣言されたけれど、話してみれば相性も悪くないようだ。


 結構話し込んだところで、夜も遅いからと、馬車まで送ってくれることになった。

 その途中で、呼び止められる。


「浮気か!? ユーリシア!!」


 振り返ってみれば、元婚約者ラルフだ。

 げんなりしてしまう。エスコートしてくれるベルヴァーン殿下に寄り添っていたけれど、ラルフもまだレイチェルを引っ付かせていた。あんな騒ぎで注目を浴びたと言うのに、まだいたのか。よく周囲の目に耐えたものだ。呆れてしまう。


「名前で呼ばないでください、ドーマー侯爵令息。婚約はすでに破棄されています」

「だ、だからって、もう他の男に寄り添って!!」

「あなたは相変わらず、婚約破棄の元凶と寄り添うのですね。よっぽど特別な”ただの幼馴染”なのですね」


 私が嘲笑ってやれば、ラルフは顔を真っ赤にした。

 レイチェルはキッと私を睨みつけて、何かを言おうとしたが、それを遮っておく。無駄口を聞くつもりはない。


「おかげさまで、ベルヴァーン殿下が私を番だと仰ってくれましてね。今夜、この夜会に来たのも無駄ではありませんでした」

「つ、番!? 獣人の番、だと!?」


 私がにこりと語ると、ショックを受けたように口をあんぐりと開くラルフ。

 しなだれるようにベルヴァーン殿下の腕を引き寄せると、ちゅっとこめかみにキスをされた。


「バカが婚約破棄してくれたおかげで、見つけられた。そこだけは感謝する」

「っ……!!」


 ベルヴァーン殿下は、ギロリと冷たくラルフを一瞥する。その迫力に、ラルフだけではなく、レイチェルもびくりと身体を震わせた。


「な、なら、慰謝料はなしにして!!」

「――――は? バカなんですか?」


 レイチェルが青ざめながら声を上げてきたから、絶対零度な冷たい目で見やる。


「”おかげ”と言うのは、皮肉ですよ。頭お花畑ですか? 慰謝料請求は撤回しません。払ってもらいます」

「……は、払えない……」

「誓いを破らなければよかったのにね」


 カタカタ震えるレイチェルに、私はにこやかに笑顔で言ってやった。

 勝ち誇った顔で幼馴染にベタベタしていたのだ。自業自得である。


「ユーリシア。家まで送る」

「ベルヴァーン殿下は王城で宿泊しているのでは?」

「ああでも、ちゃんと家に帰るまで見届けたい。君が大事だからな」


 目を細めて甘く見つめてくるベルヴァーン殿下に折れて、結局一緒に馬車に揺られて、家まで送ってもらった。


 もう夜だから親に挨拶するのは日を改めようとしたけれど、父が顔を出したので、ラルフとの婚約破棄からベルヴァーン殿下の番宣言を話すことになった。


 隣国の第三王子が来て怪訝な顔をしていた父は、ラルフと婚約破棄したことにほっこり顔になったが、ベルヴァーン殿下の番宣言に顔面蒼白になって、表情がコロコロ変わって忙しない。


「娘を……隣国に連れて行くつもりですか?」

「いえ、婿入りします」

「ほっ」


 ベルヴァーン殿下が婿入りすると言えば、安堵した表情になった父。

 ベルヴァーン殿下は王子だ。婚約するためには、ちゃんと話をしないといけないだろう。即決で婿入りをすると約束してはいけないと思うのだけれど、もう決意は固いみたい。


 ここずっとストレスだった婚約が破棄されてスッキリした上に、運命的な出逢いを果たした。

 獣人が本能的に番認識するけれど、他種族でも案外番だと理解出来るのかもしれない。


 ファーストキスは、溶けるくらい気持ちよかった。


 王城に戻ると言うベルヴァーン殿下も離れがたいと思ってしまい、馬車に乗り込むまで手を握ってしまう。

 ベルヴァーン殿下も寂しそうな眼差しで見つめてきて、ちゅっと額にキスをしてくれた。


「おやすみ、ユーリシア。明日、また会いに来る」

「おやすみなさい、ベルヴァーン殿下」


 馬車に乗ったベルヴァーン殿下は、なんだか捨てられた犬みたいに悲し気に見えたのは、ご愛嬌だろうか。

 父は嬉々として、ドーマー侯爵家ともどもから慰謝料を回収。レイチェルの家は、借金もしたとか。



 そして私とベルヴァーン殿下は無事、婚約が結ばれた。


 けれども、ベルヴァーン殿下の強い希望により、婚約期間は王族相手にしては短く、式を挙げて婿入り。

 本能的に求愛する獣人らしいと、周囲は微笑ましそうに見ていた。


 私は獣人王子の番として、捕まってしまった。

 一途に見つめてくるライトブルーの瞳に、囚われてしまったけれど、幸せだ。



 


昨日に引き続き、新作短編投稿!

とはいえ、こちらのネタ、思いついたのが3年前。3,000文字くらい2年前に書いたっきりだった短編を、仕事の片手間に書き上げました。

3年前は豊作でしたね……。


約束が破られたとわかる便利な道具があれば、いいなぁ。ついでに断罪も自動的にされればなおよしですよね。


本能的に求愛する獣人さんの言動は、微笑ましいレベルの世界観。ハッピーエンド。


面白かったら、リアクションとポイントで評価をお願いいたします!

ブクマもぜひぜひ!


ここまで読んでくださり、ありがとうございました!

2026/02/19

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