3話 半年+1か月 アラスカ ①
***
ナツメです。
今日から通信塔の修理にまわされました。
きっかけは、この前ハロルドと掘り当てた地下倉庫。
手すきの皆で出てきたものを整理してたんだけど……
なおハロルドは力仕事はパスって作業から逃げた。
絶対今度一品没収する。
この間のと合わせて――主食だけの夕飯になるがいい。
昨日になって消耗品が詰まってたコンテナの中から、緩衝材で包まれた真空管の箱がでてきたんだ。
「こんなの残ってたんだな」
「グエン爺さんのところ行きかな?」
「あそこじゃこんな上等なもの使う機械は動いてねえよ。ユイ、真空管5ダース追加」
皆が口々に珍しい出物の感想を言っていると、
中身のリストを作ってたユイが反応した。
「真……空……管……?」
ピタっとリストを書く手が止まったかと思うと、
ぐりん!と首だけがコンテナを運んでた私の方を向いた。
「ナツメ!」
「え、ひゃい!?」
その目が、いつものニヤニヤじゃなかった。
完全に座った眼だった。
『ヤツラ』と相対したときよりヤバイ。
何か答えを間違えたらやられる。
生存本能がそう叫んでた。
「明日のスケジュールは?」
「つ、通常業務のみであります!!」
「よし。ハロルドとセルゲイ達は?」
「み、未確認であります、まむ!」
「即確認!」
「い、いえすまむっ!」
そのままダッシュで確認に向かったけど、
あの時の目は怖かった。思わず軍の頃に戻っちゃったもん。
その日のうちに確認が回って、
運がいいのか悪いのか、翌朝はみんな日常業務しかなかった。
恐る恐るユイに報告したら、
メガネがキラッと光った気がしたけど、「ご苦労様」で終わっちゃった。
どゆこと?
何がどうなってるのか説明を!
説明をお願い!!
***
そして翌日、つまり今日。
いつもの日課は中止。
夕べ遅くに、「0800集合」と集合場所だけ書かれた簡素な見取図が回ってきたので、ご飯食べたら現地集合だ。
この辺は生活に必要なかったから、今までほったらかしになってた場所だ。
私もこの基地へはたどり着いた組だから元何があったかとか知らないんだよね。
ハロルドと掘ったところもそうだけど、元々何千人も働く規模の基地だったから、この人数で半年では全く全体に手が回ってない。
どこなんだろ。
まだ行ったことないな、ここ。
現地に行くと、
私の他にセルゲイさんたち歩兵隊、
あと「なんで俺が……」って顔のハロルドが整列させられていた。
嫌な予感しかしない。
「おいミーシャ、どういうことだこれ?」
「私に聞かないでほしい」
「はいそこしゃっとあっぷ!」
「「いえすまむ!!」」
反射的に直立敬礼する私たちの前で、
仁王立ちになったユイが宣言した。
「これより――通信設備の復旧作業を開始します!」
ざわ、と小さなどよめきが起きた。
「詳細は後。時間がもったいないので端的に説明します」
ユイは指を一本立てた。
「真空管が発掘されました。
最後に確認したとき電波塔は倒れてたけど、通信施設自体は残ってました。
現状次第ですが、通信が復旧できるかもしれません。
よって復旧作業を行います。
冬の間放置されてたから、まずは現状確認。
可能なら修復までやりましょう」
セルゲイさんが低く息を吐いた。
「外と……繋がるかもしれない、ということか」
「でも、外が生きてるとは限らないだろ?」
ハロルドがぼそりと言う。
周りの皆も顔を見合わせてる。
この半年間、みんな生きることだけで必死だった。
グエンおじいちゃんが居なかったら。
ハロルドが助けられなかったら。
セルゲイさんに何かあったら。
クローディアさんが来てくれなかったら。
余裕があるように見えてもちょっとの不運でみんながアウト。
そんな中だから、残ってるのかもわからない本隊のことなんて誰も口に出さなかったんだ。
でも無線が直ったらはっきりしちゃう。
もし、残ってなかったら。
「そうなったらもうしょうがないよね?
ここで生き延びるのか。
あきらめるのか。
踏ん切りも付くでしょ」
そこでユイは、にこっと笑った。
――いつもの、あの笑顔だ。
「だから皆さん、今日からしばらく通常業務は後回し。
最優先でこの作業をやります」
特にきつい言葉でもないのに、
反論できない空気がすごい。
「異論は?」
誰も声を上げない。
通信の復旧。それがどれだけ大事かは皆知ってる。
「よし。じゃあ編成ね」
ユイは手元の紙をぱらりとめくった。
「ナツメ」
「は、はいっ!」
「私の補佐」
へ?
「セルゲイ隊は掘削と建屋の確保。セルゲイ、指揮お願い」
「了解」
「ハロルド」
「……ういす」
「アンテナと配線。確認と修復。何ができないのかもチェックして」
「なんか俺だけ多くね?!」
「しゃっとあっぷ」
「……いえすまむ」
即座に黙った。
ユイは満足そうに頷くと、最後に一歩前に出た。
「これはね、成功しても何も変わらないかもしれません」
一瞬、表情が引き締まる。
「でも、できることをしないのは嫌です」
だから、とユイは言った。
「やれるだけやります。全力で」
……ああもう。
そんなこと言われたら、逃げられないじゃない。
「質問ある人?」
誰も手を挙げない。
「よし。じゃあ――」
ユイが手を振り下ろした。
「作業開始!」
***
復旧作業で最初の問題は、
通信設備が壊されて以降、半年近く建物ごと放置されていたことだった。
入口は吹き付けた雪が凍ってガッチガチ。
簡単に入れるわけが……はい、掘ります。
その間にハロルドは外で倒れた通信アンテナと電線のチェック。
残った基礎の前で『俺一人でやるの?』って顔してたから、
代わりに掘る?ってツルハシ見せたら、泣きそうな顔でとぼとぼと塔の残骸へ向かった。
というわけで、
セルゲイさんたち歩兵隊と一緒に氷を割り、
扉をこじ開け、
半日かけて、ようやく中で作業できるようになった。
「まむ!入って大丈夫であります!」
「ありがとーってどうしたのナツメ、軍人みたいだよ?」
ええと一応、現職軍人のはずであります……
あれ、スイッチ切れてる?
不思議そうな顔で、室内でいろいろチェックを始めるユイ。
あんなに速く動いてるの、初めて見た。
「ユイってあんなキャラだったんだな」
「いつもニコニコしてるやつが、別人みたいだったぞ」
セルゲイさんといつの間にか戻ってきたハロルドが顔を見合わせた。
うん、私も全く同意。まるで漫画描いてるときのユイみたいだった。
皆でひそひそしてたら、室内のユイに呼ばれた。
「ナツメ―、ちょっときてー」
「はーい」
何だろと思って入ると、ユイはでっかい机を指さした。
「それ持ち上げて」
「はーい」
「これ引っ張ってみて」
「はーい」
なんかすごく便利に使われてる気がするんですがユイさん?
「その蓋、開く?」
「凍ってるけど……よいしょおっ!」
「ナツメナツメナツメッ!!」
急に切羽詰まったような声でピョンピョン跳ねながら呼ぶユイ
「何々!?緊急事態?!」
「背中掻いて!!」
「は……それくらいは自分でやろうよぉ」
「届かないのよぉ!お願いぃ!!」
……はいはい。
***
チェックの結果、
無線機本体は修理できそうだという結論になった。
一冬放置されていたけど、
乾かして真空管を交換すれば動く見込み。
問題は、アンテナと電力だった。
ハロルドのチェックによるとアンテナは完全に倒壊してて、線も当然すっぱりと切れちゃってた。
無線専用のディーゼル式発電機も、半年以上補給が来ない今では燃料切れでただの箱だ。
「アンテナ、断線くらいならハロルドが直せるんじゃない?」
「断線だけならな。長距離通信アンテナなんて一人でどうにかできるもんじゃないだろ」
「アッハイ」
力仕事はそうだよ、私の仕事だよ。
こういう時強化兵って便利だよねこんちくしょい!
今直しても、使うときにまた倒れてたら無駄になるからアンテナの修理は最後に回されることになったけどね。
アンテナの打ち合わせが済んだら今度は発電機だ。
「この発電機ってディーゼル式だよな。もう軽油なんか残ってないだろ」
「グエンなら何とか出来るんじゃないか?」
「アルコール燃料でこれをか? まあ専門家だし相談してみるか」
「ミーシャ、グエンに聞きに行くからそれ持ってきてくれ」
「はーぃい?」
なんか便利に使われすぎな気がしてきたんだけど……これならセルゲイさんたちでも何とか運べるんじゃないかな?
あ、今夜のご飯2人前食べていい?
献立はクマタローが持ってきたカリブーのステーキ!?
何でもお任せください!
安いヤツと呼べば呼べ。
ご飯無くして何のための人生か! さー運ぶぞー!!
***
「こいつをアルコールで? 無茶言うもんじゃないぞ」
発電機を一回り確認して、グエンのおじいちゃんが口を開いた。
「んで、これを動かしたいのか、発電したいのかどっちだ?」
皆で顔を見合わせる。何が違うんだろ?
でもどっちかって言われたら発電だよねえ?
「無線機に使うから、発電だよね?」
「そうだな」
セルゲイさんが相槌を打つ。
「それならやり方はあるな。ハロルド、手伝え」
「え゛、俺?! ナツメじゃなくて!?」
なんで私に振ろうとするかな。
「Gấu conじゃ技術がないからな」
否定はしないけど、もうちょっと言い方ってものがあると思う。
「Oh,my……」
嫌そうな顔をしたハロルドが、『俺ここもやらなきゃいけないの?』って顔でこっちを見てきたけど……優秀な人は使いまわされるんだよ、頑張れ!
***




