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絶滅戦争のそのあとで  作者: とおエイ


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1/5

プロローグ

前に書いてた作品にあまりに粗が多かったのでリライトしました。

衝撃で顔面から泥に叩きつけられた。

耳鳴りの奥で、それでも銃声と砲声だけははっきり聞こえていた。


くそったれ!(shit…!)


悪態を垂れる間も、12.7mm重機関銃の断続的な咆哮と、遠くで炸裂する榴弾砲の唸りが、途切れることなく続いていた。

空気は、焼けた金属、腐った土、そして何より、甘ったるい生肉が焦げる匂いで満ちていた。


空には円盤が飛び交っていた。銀色の、直径およそ15メートルの無骨な円盤。

それと、電子機器を真空管に改修された第3世代ジェット戦闘機、F-86Dセイバー改が、死のダンスを繰り広げる。

撃ちっぱなしのロケット弾と機関砲が一機の円盤を叩き落とす。

だが次の瞬間、円盤の縁から放たれた青白い熱線が、セイバーの右翼を、まるでバターのように切り裂いた。

パラシュートで脱出したパイロットの白い花が開く。

それを見届けるかのように、もう一本の熱線が追い、空中で一瞬のオレンジの閃光を起こした。

灰だけが、ゆっくりと舞い降りてくる。


塹壕の向こうから、ジャリジャリ、ギシギシという、金属が無理矢理こすれ合う耳障りな音が近づいてくる。

全高3メートルほどの、不定形なスクラップの塊が這いよってくる。

ねじれたIビーム、錆びた装甲板、剥き出しの銅線や光ファイバーが絡み合い、絶えず形を変える。

その表面を、昆虫の複眼めいた無数の赤い光点を並べた、ラグビーボールほどの大きさの『コア』が、滑るように動き回っていた。

まるでスクラップでできたアメーバ――『ヤツラ』だ。


その体表に不規則に並ぶ、緑色に光る砲口。コアからの細い赤いガイドレーザーが、ゆらゆらと照準を探る。

砲口から発射される熱線は、人類が創ったどんな装甲板も紙のように貫通した。

戦車のような装甲板で耐える兵器は、使い物にならなかった。

——だから、もう前線にはいない。


その光が捕まえたぞと言いたげに止まった。

数秒。

反射的に体を投げ出すその上を、熱線が通過していく。


『ヤツラ』の攻撃パターンは、最初から変わらない。ガイドレーザーの照射から発射まで、正確に3秒。だから、戦場を生き延びた者には、避けられる。


「遅ぇんだよ、ウスノロ!」


転がりながら構え、息を止める。泥がライフルの照準器に付着している。

視界の半分は濁っている。それでも、動き回るコアの中心を、無意識に追う。

指が引金にかかる。7.62mmの一発が、乾いた音を立てて飛び出す。


轟音の切れ目に、鈍い「パキン」という音が確かに聞こえた。コアの中央部が砕け、赤い光点が一斉に消える。動き回っていたスクラップの塊は、その瞬間、ただの金属の山と化し、崩れ落ちた。


各自が、自分の最善と考える攻撃をするだけだった。

——それが正しいかどうかは、もう誰にもわからない。


強化兵たちが、軽トラックほどの大きさのコンクリート塊を軽々と掴み上げ、30メートル先の『ヤツラ』の群れに投げつけた。

密集していた『ヤツラ』がまとめて吹き飛ぶ。


開けた地帯では、アルコールエンジンの唸りを轟かせたバイク部隊が突撃する。

制御もクソもない、スロットル全開の暴走だ。

彼らは『ヤツラ』の間を縫い、至近距離からショットガンやライフルでコアを破壊していく。

しかし、不規則に動く金属の触手に対応しきれなかった一台が、前輪を取られて転倒。

次の瞬間、スクラップの塊がその上に雪崩れ込み、金属の軋む音と短い悲鳴が混ざり合った。

バイクもライダーも、2秒とかからずに原型を留めないミンチと化した。


遠くで重機関砲の斉射が響き、一団の『ヤツラ』が一時的にバラバラにされる。

しかし、無傷だった一つのコアが微かに輝くと、ばらけた金属片が磁石に吸い寄せられるように集まり始めた。

再び形を成そうとしている。


学習期間も終わっていないクローン兵部隊が、

命令通りに突撃を繰り返し――

ごくわずかな戦果と共に、そのまま、次々に飲み込まれていった。


どれだけ倒しても消耗を気にせずに残骸を踏み越えてくる『ヤツラ』。


倒された『ヤツラ』の残骸は別の個体に取り込まれ、

ある程度のサイズになると、『コア』ごと分裂してまた動き出した。


誰もが頭を下げ、撃ち、叫び、

次の瞬間を生き延びることだけを考えていた。



「兵長、もう無理です! 退却しましょう!」


「馬鹿野郎、ここが抜かれたらもう後がないんだよ!」


言い合う二人の後ろから、慌てた声が響いた。


「重砲来ます!」


「バッ、総員対砲撃姿勢! 伏せろー!!」


世界が白く塗りつぶされた。


轟音。鼓膜を突き破るような衝撃波が、塹壕の土壁を粉砕する。味方の重砲支援が、敵味方の区別なく着弾したのだ。

『ヤツラ』と、退避の間に合わなかった誰かが、一緒に吹き飛んでいった。


 

衝撃波が収まり、耳鳴りがキーンと鳴り響く中、兵長は半分埋まった下半身を土砂から引き抜いた。

ぺっと口に入った泥を吐きながら、塹壕から這い出す。


「クソヤロー! 撃つならせめて連絡位よこしやがれ!!」

 


重砲の着弾地点は、クレーターと化していた。

そこにいた『ヤツラ』は確かに薙ぎ払われた。

だが、散らばった肉塊と金属の残骸の中で、あの忌々しい赤い光は消えていなかった。

まるで生き物のように、破片が磁石に吸い寄せられるように再結合を始めている。


「おい、見ろよ。今日はバーゲン会場か何かか?」


兵長は震える手でタバコを探ったが、うまく掴めない。舌打ちして、代わりに弾倉を叩き込んだ。

後方からは、さらに新しい『ヤツラ』が、まるで黒い津波のように押し寄せてきている。

今までの侵攻とは明らかに規模が違う。


もはや支えきれないのは明白だった。


重機関砲の砲身が焼き付き、真っ赤に発光して機能を停止する。

バレルを交換するわずか4秒の隙。

その一瞬を『ヤツラ』は見逃さなかった。

砲座ごと、彼らは蹂躙された。


誰もが生をあきらめかけた瞬間、


世界から音が消えた。


『ヤツラ』の複眼が一斉に暗転する。

あれほど執拗に脈動していた『コア』の赤い光が、まるで電源を落とされたかのように沈黙した。

3メートルあまりの巨体は、ただの無機質な鉄の塊へと変わり、自重で崩れ落ちていく。


空を飛び回っていた円盤も、糸が切れたみたいにバラバラと墜ちた。


よけきれず接触して脱出したパイロットも、

撃たれずにそのまま降下していった。


誰もが何が起きたのか理解できず、

いつの間にか戦闘の音が消えていた。

誰も、動かなかった。



――その異変に、最初に気が付いたのが、

対空警戒をしていたウェインだった。


空が、まるで古びたキャンバスをナイフで切り裂いたかのように、不自然に割れた。


「……おい」


ウェインの喉から漏れたのは、掠れた音だった。雲の裂け目から溢れ出したのは、太陽の光ではない。それは、この15年間、人類を焼き尽くし、都市を灰に変えてきた『ヤツラ』の母艦――Iron Bitch(アイアン・ビッチ)が断末魔に放つ、毒々しい紫色の閃光だった。


全長数キロメートルに及ぶ鋼鉄の要塞が、大気圏との摩擦で火花を散らし、ゆっくりと、しかし確実に、煙を引きながら地面へと引きずり下ろされていく。


「……あれ、空飛ぶクソ(アイアン・ビッチ)か?」


塹壕の向こう側、泥と凍った血にまみれた兵士が呟いた。その声には、勝利の確信よりも先に、現実を拒絶するような震えがあった。


沈黙が、戦場を支配した。


遠くで、母艦が山脈に激突する轟音が響く。それは、地球の地殻が悲鳴を上げるような、地響きに近い衝撃だった。次の瞬間、爆発のような歓声が、凍てついた空気を突き破った。


「止まった! 止まってるぞ!!」


「やったんだ! どこかの部隊が……俺たち、助かったんだよ!!」


周囲を見渡せば、すすだらけの顔をした男たちが、涙と雪をぐちゃぐちゃに混ぜながら抱き合っていた。

誰が誰だか分からない。

ただ、全員が「生き延びた人間」の顔をしていた。



その日――戦争は終わった。


そのあとのことを、はっきり覚えている者はいない。


落ちていく中規模円盤を見た部隊もあれば、

投げかけのピンを抜いた手りゅう弾を、

慌てて始末する奴もいた。


パラシュートで降下している最中のパイロットは、

撃たれるはずの時間が過ぎていくのを、

ただ不思議に思っていた。


せっかく生き延びたのに、

運悪く敵の円盤の墜落に巻き込まれた部隊もあった。


けれど、ひとつだけ確かなのは。


――世界中の戦場で、同じ光景が起きていたということだ。


誰もが武器を放り出し、泣いて、笑って、抱き合った。

十五年続いた戦争は、その日、突然に終わった。


……しかし、それは生存者が救われたという意味ではなかった。


生存圏の防衛隊はまだよかった。

戻れば皆がいるのだから。


敵母艦の墜落に合わせるかのように、

すべての長・中距離無線が途絶した。

ざあああああ……と、耳の奥をかき回すような雑音。

無線機を叩いても、返ってくるのはノイズだけ。

周波数を回しても、叫んでも、

どのチャンネルも同じだ。


「……おい、本部、応答しろ。本部!」


誰かが怒鳴る。

だが返事はない。


メーターの針が、壊れたみたいに振り切れて、

一定の位置に止まらない。


「なんだこれ……」


電波は出てる。

それなら電離層が壊れたのか。

それとも――自分たち以外残ってないのか。


誰にもわからなかった。


ただひとつ確かなのは――

もう、よそには頼れない、ということだった。


拡大しきった戦線は分断され、

各戦域は完全に孤立した。


通信不能となった各戦線への補給隊は、

補給先の全滅と判断し、引き返すことを選んだ。


南半球の部隊は、これから夏に入る。

まだ動けた。


だが北半球は違う。


冬が来る。


撤収していいのか。

まだ作戦中なのか。

本部からの指示はない。


自力で撤収を試みる部隊。


その場での越冬を覚悟する部隊。


その時点での残兵数と物資量を基準に、

各大隊・中隊、

連絡の取れる最小の生存単位ごとに判断が下された。


連中の侵略拠点だった北極海に最も近い、

人類反攻戦争の最前線──アラスカも例外ではない。


凍土と吹雪に閉ざされたその地は、

そのまま世界から切り離された。


そして――

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