第3話 いい感じの角
結界の果てへ辿り着いた。透明なでかい膜みたいなものが、けっこう空の方まで続いている。これが結界なのだろう。
結界の外は荒れ果てた街並みが続いている。何かあるといけないので、結界の近くには人が住んだり、近づいたりしてはいけないことになっているらしい。
「へー、こんなふうになってるのか」
『あっ、触らないほうがいいぞ。触ったらすぐに警備の人間が飛んでくるようになっているからな』
「あっ、そうなのか。・・・・・・でも、あえて触ることで人を呼ぶという方法もあるか?」
『あまりおすすめしないな・・・・・・それをしたら結界を壊そうとする意思ありと見做されて、敵性存在と認識されてしまうかもしれない。問答無用で攻撃されることもありえなくないな』
「確かに、そうかもしれないな・・・・・・ならやめておくか」
『とりあえず、どこかに結界の綻びがないか探そう』
「うん・・・・・・」
と、言われた通り結界の綻びを探そうとした俺は、ふとあることに気づいて足を止めた。
「待てよ」
『どうした?』
「もし結界の綻びがあって、そこから外に出るとして、結界はどうなるんだ?」
『まあ壊れることになるだろうな。十中八九』
「じゃあダメじゃん。俺やイっちゃんはともかく、人間を食う他の悪性の魔物が外に出ちゃうかもしれないってことじゃんか」
『・・・・・・あ、そういやそうだな。気づかなかったわ』
そしたら他の人たちに迷惑をかけちゃうことになるからね。
「やっぱダメだ。結界の綻びから外に出るのはやめとこう」
『そうだな』
「といって、外に出る手段が他に思いつくわけじゃないんだけど・・・・・・」
『んー・・・・・・あ、それならこういうのはどうだ? この魔物区にはさ、時々人間たちが来て様子を見にくるんだよ。そいつらを待つっていうのは? そいつらに直接交渉すれば外に出してくれるかもしれないぞ?』
「そうか。まあ、それしかないか・・・・・・」
まあ、ほんとは今すぐにでも外に出たいところなんだけど、こればっかりは仕方がない。他に良さそうな方法がない以上、それで行くしかないだろう。
と、いうことで、俺はしばらくこの魔物区で暮らすことになった。
「そういえば、お前ら魔物がこの世界に来てからどれくらい経ったんだ?」
『うーん・・・・・・一年半くらいかな』
「あれ? そんなもんなのか? こんなに植物が生えてるから、てっきりもっと長い時間が経ったものかと・・・・・・」
『ああ、これは俺たち魔物が魔法によって生み出したものなんだ。自然に生えたものじゃないんだよ。木や草むらを住みかにする魔物もいるし、食糧にもなるからな。特に俺みたいな菜食主義者には助かる』
「なるほどな・・・・・・」
さて、とりあえず俺は元いた場所──俺が最初に寝ていたところに来た。しばらくはここを生活拠点にしよう。
『この辺のやつが食べられる草なんだよ』
「へーそうなのか・・・・・・ドレッシングとかない?」
しばらくは食べられる草を食って飢えを凌ぐ。どっかの青髪ベーシストみたいなことをする。
で、しばらくは寝て、草を食べて、寝て・・・・・・というけっこう怠惰な生活を送って、人が来るのを待っていたわけなんだが・・・・・・。
四日後。
ついに限界が来た。
「あああああああー!!!」
俺は叫びながら草で作った簡易ベッドの上をゴロゴロ転がっていた。
会社に行かなくていいのはいいが、流石にこの生活をずっと続けるのはキツい。何がキツいって、スマホがないのが何よりもキツい。
スマホがないと娯楽がない! そして、日課の夜のおかず探しも出来ない! というか一日一回の夜の自分磨きが俺の日課だったのに、それもここ四日間一回も出来てない!
溜まってきた! もう金玉が爆発する・・・・・・ああそっか俺今金玉ないんだった。まあ、何かしらが爆発しそうなんだよ。
俺は太ももが好きだ。だからいつもムラムラした時には、俺は太ももが欲しくなる。
しかし、今の俺は女子になっている。だから、なんだか知らないけど黒光りする長いものが欲しくなってきた。
『だ、大丈夫か? 急に大声出して・・・・・・調子でも悪いのか?』
急に叫んだ俺を心配してイっちゃんが声をかけてきてくれた。俺はそのイっちゃんをじっと見つめる。
そういえば、こいつの性別って・・・・・・男、なのか?
声の感じとか喋り方からして男っぽい雰囲気はあるんだけど・・・・・・
「なあお前さ、その・・・・・・ついてるのか?」
『ついてるって、何が?』
「いや、その、なんというか、黒い長やかなるものというか・・・・・・」
『なんだ? 目黒のさんまか?』
「いや、違くてえ・・・・・・その・・・・・・やっぱなんでもない」
・・・・・・詳しく説明するのがなんか恥ずかしい。というか、今の俺は女子になったとはいえ、心はまだ男子のまま。流石に一線を越えるのはちょっと・・・・・・。
しかし、もう一刻の猶予もない。早くしないと心の金玉が爆発する。
俺は、そういうマンガで見た女子のセンシティブな自分磨きのことを必死に思い返した。
そして、思いついた。
「角だ! いい感じの角を探そう!」
『は? いい感じの角?』
「そう! いい感じの角だ!」
『なんだそれ?』
放課後女子高生の危ない自分磨きの代表格! ちょうどいい角! それを探す!
「俺ちょっと角探してくるわ!」
『お、おう。なんだか知らんが頑張れよー・・・・・・』
走り去る俺の耳に、イっちゃんのドン引きした声が響いた。
『人間には変な風習があるんだな・・・・・・』
すまない人類。俺のせいでなんか変な誤解をさせてしまった。
◇
俺は探し求めた。君のことを。
荒廃した街の中を、君のことを求めて走り回った。ああ君。君を欲す。君のために走る時、疲れなどあろうはずもない。俺はいつまでも走り続けた。君を求めて、転んでも転んでも立ち上がり、泣きながら走ったのだ。
そして──
「ついに、見つけた・・・・・・!」
君を──いい感じの角を。
なんかよくわかんないけど、俺とイっちゃんの居住スペースからそこそこ離れたところに、なんか四角い箱があったのだ。ちょうど、教室の机くらいの大きさだ。いい感じ。角オ・・・・・・角を使ってする自分磨きも捗るってもんだ。
と、いうことで早速やってみる。
「んっ・・・・・・あっ」
で、まあスッキリしたんで俺は居住スペースに帰り、草を食べてから眠りについたのだが・・・・・・。
翌朝。
『お前か? 私の宝箱に無礼な真似をしたのは・・・・・・』
俺たちのところにドラゴンがやってきた。見覚えのある箱を持って。
どうやら俺は、けっこうやばいことをしてしまったみたいだ・・・・・・。




