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地導の使者 覚醒編  作者: 空を飛ぶジンベエザメ
第二章 地導への覚醒
12/21

5, 覚醒

へぇ、中々上手じゃない。ソラも気持ちよさそう」


「ありがとうございます。小さい頃からよく行商の家畜を世話していたのでこういうことには慣れているんです」


初めてチェナに褒められて、シャルは思わずはにかんだ。既に日は落ち、二人と二頭を照らすものは彼らが囲む小さな焚火のみだ。彼らがいる地点は東ノ国の都まで馬を使ってもまだ二日程かかる距離にあった。加えてまだ疲れが取り切れていないソラとスイ、そして馬での長距離移動に不慣れなシャルのことも考慮しチェナはこのオアシスで一夜を過ごすことを決めた。


幸いこの草原は都に近いこともあり東ノ国の騎馬兵が夜間でも頻繁に警備巡回を行うため野盗や盗賊の数も少なく、飢えた狼にさえ気を付ければ比較的安全に野宿をすることも可能である。更に春先に極寒となる草ノ大陸と違い、沿岸から温かい風が吹き込んでくる海ノ大陸は年中温暖で、西ノ国の遊牧民が用いる天幕無しでも外で過ごすことが出来ることも大きかった。


そういうわけで二人はオアシスの近くで火を焚き、今はシャルが背に乗せてくれた礼にとソラに刷毛がけをしてあげている最中だった。艶やかなソラの栗毛を撫でるシャルの刷毛がけは非常に手慣れた様子で、ソラも満足げにぶるるっと鼻を鳴らしている。


ソラの世話をしながら、シャルはチェナの、本当の出自を知った。彼女は草ノ大陸、「ハイラの両腕」の山腹に存在する「地導の里」という集落で生まれ育ったというのだ。用心棒をしているというのは嘘ではなかったが、それも家族を支えるための出稼ぎではなく、ただ単に馬達と旅をしたいというためにやっているだけであるという。そして焚火を前にして語られる彼女の話は、シャルが最も気になっている「地導」と呼ばれる力についての話題に差し掛かっていた。


「『地導の里』に生まれた子供はね、皆十二歳になると毎年一度だけ山のどこかに現れる『試しの泉』で『試しの儀』っていう儀式を受けるの」


「その試しの泉っていうのはもしかして…」


「そう、あんたも見た七色の泉よ。普段はただの熱水泉だったり、窪地だったりするところが急に極彩色の泉に変わるの。儀式の内容は単純明快。泉に集まった子供達は煮えたぎる七色の熱水に一人ずつ手を差し入れるの。泉はハイラ女神様の住む神様の世界と私達人間の住む世界を結ぶ扉であるとされていてね、力を授けるに値する子供が手を入れれば女神様はその勇気と才覚を認め、その子供に神の力の一部である『地導』の能力を授けるの。そういった子供は泉に手を入れても決して火傷することはない。そして…」


そこでチェナは話を一旦止め、自分の右腕をすっと自分の顔の前に差し出してぐっと拳を握った。その動作に伴って腕全体にあのゆらぎが現れる。


「そして女神様に選ばれた子供は『地導使い』として、この陽炎のようなゆらぎを身体から自在に出すことが出来るようになるの。このゆらぎこそ私達が『地導』と呼ぶ力の正体よ。これを纏っている間、地導使いの体は岩石のように硬くなり、礫は勿論、刀剣や矢尻でさえ通さなくなる。加えて硬質化した状態で放たれる打撃や格闘は強い衝撃を持ち、鍛え上げた肉体と組み合わせることで人の骨どころか岩石でさえ打ち砕き、鉄の盾ですら容易く歪められるようになるの」


地導と呼ばれる、体を硬質化する力。その正体を知ったシャルは頭の中でこれまでに起きた異常な出来事同士が組み合わさったことで全身に鳥肌が立つのを感じた。自分が見た巨大な七色の泉、その熱水に落とされても無事であったのは自分がチェナの言う「地導を授けるに値する人間」であったのだ。村から逃げる際にけつまずいて鋭い岩に額をぶつけても、先程チェナに刀を突き立てられて無傷だったのも無意識に地導の力が彼を守っていたのだ。


「…でももし選ばれなかった子供はどうなるんですか?チェナさんの言い方だと選ばれる子供とそうでない子供がいるみたいですけど」


チェナはこの質問にすぐには答えず、少し視線を落とし掲げていた右手を降ろした。その瞬間腕に纏っていたゆらぎも消える。


「地導の力に値しない子供に対して女神様はとても厳しいわ。才能の無い子が手を入れると女神様は自分の世界を汚されたと怒り、力を与えるどころかそのまま泉の熱でその子の手を焼け爛れさせるの」


「えぇ!?そんな…」


「もし選ばれなかったとしても里ではその勇気を讃えられて選ばれた子と変わらない生活を送ることは出来る。でも熱水によって出来た火傷はどんなに軽傷でもくっきりとした跡が残るし、ひどい場合は手を使えなくなる子もいるの。最近はあまりに惨い行いだって、望む者だけにこの儀式を受けさせるようになっているのよ」


「でも、それでもチェナさんは儀式に望んだんですね」


「まぁ…ね。でももし選ばれなかったらこうして馬達と一緒に旅することも出来なかったかもしれない」


チェナは愛おしそうにソラとスイを見つめる。


「ソラも眠そうだしもういいわ」


そう言われシャルは動かしていた手を止める。ソラも満足したのか彼が手を止めるとチェナの傍で寝息を立てているスイにトコトコと近づき一緒に横になった。


「地導の才能があるかどうかって分からないんですか?ほら、さっきチェナさんがこう、指で三角を作って胸に当てたら地導のゆらぎが出てきたじゃないですか。これを使えばその人の資格を見分けたりとか出来ないんですか?」


シャルはチェナと同じようにその場であぐらをかいて座り、日中に彼女がしたように両手の人差し指と親指を合わせて三角形を作り、今度はそれを彼女に向けた。と、その瞬間チェナの全身からだけでなくシャルからも火照りと共に全身にゆらぎが吹き出してきた。その様子を見たチャナが目を丸くする。


「驚いたわ。あんた、もう『共鳴』が出来るの?」


「え、えぇ。そう…みたいです…?」


思わぬチェナの反応に、シャルも目をぱちくりさせる。


「その指の形はね、『共に響き合う徴』と言って地導使い同士がお互いを確認するために使うものなの。指を向けた相手が地導使いなら相手の地導を無理やり引き出すことが出来て、これを『共鳴』って呼ぶんだけど、初めて地導を身に着けた者が出来るようなことじゃないわ…そういえば聞いていなかったけど、あんた泉に触れてからどれくらいの日数が経っているの?」


「えぇと、実は泉に触れたのは昨日の夕方なんです」


「何ですって!?じゃあまだ一日しか経ってないって言うの!?」


チェナは驚愕し、羽織っていた羊毛の外套をがばっと脱ぎ捨てて立ち上がった。その剣幕に驚いたのか彼女のすぐ横ですやすや寝ていた二頭がびくっと起き上がる。


「あんた、また私に嘘吐いているんじゃないでしょうね!?」


「だから嘘なんて吐いてないって言っているじゃないですか!それに俺が泉に触れた成り行きを話してもきっと信じてもらえませんよ!」


「いいからその成り行きをさっさと話しなさい!!信じるかどうかは私次第よ!」


「そんな…」


チェナの態度に辟易しつつも、シャルは仕方なく自分が泉に触れるまでの過程を話した。自分のいとこであるショウが泉を見つけたこと。泉は隠されたように存在する火口に存在していたこと。そして自分達はそこから群青の軽業師と思われる人間に落とされたことを話した。


チェナはそれをしかめ面をしつつも水を差したりせず腕組をしながら黙って聞いていた。そしてシャルが全てを話し終えると彼女は何を言うでもなく、ため息を一つつくとそのまま尻もちをつくように足元の外套に座り込んだ。


「…どうですか。ほら、信じるかどうかはチェナさん次第ですよ!」


星空を仰ぎながら呆けた顔をしているチェナに対してシャルは言い放つ。


「…確かに信じられないわね。でも、そうか。『泉に落ちた』か…」


チェナはしばらくそんなことを呟いていたが、やがて何か決心したかのようにシャルのほうに向きなおった。


「とりあえず今の話、信じるわ。話してくれてありがと。お返しに一つ、面白い話をしてあげる。さっき地導の才能を持っている人間を見分けることは出来ないのかって言っていたわよね?」


「…はい」


少し不満げにシャルは答える。


「残念ながら『共に響き合う徴』では才能を持つ人間までを見分けることは出来ないの。それが出来れば皆もうとっくにやっているわ」


「確かに…それは、そうですね」


「ただね、今から七十年位前、丁度東ノ国と西ノ国の間に交易路が完成した位の時にたった一人だけ、才能があるかどうか見分けられる地導使いがいたらしいの。その人も勿論泉に触れて力を授かったのだけど、その人はあんたと同じように泉に落ちて地導の力に目覚めたのよ。その年同じように選ばれた子供はいたけど、選ばれた中で見分ける力を手に入れたのはその泉に落ちた人だけだったらしいの」



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