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地導の使者 覚醒編  作者: 空を飛ぶジンベエザメ
第二章 地導への覚醒
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4, シャルに宿りし力

「シャル、今から私がする質問に誠心誠意に答えなさい。黙秘することは許さないし、もし真実と違うことを答えたら生まれてきたことを後悔させてあげる」


依然シャルに馬乗りになり、今度は氷柱のように冷たく、鋭い声でチェナは話しかける。その様が余りにも恐ろしいため、シャルはチェナが昨夜の襲撃者ではないかという疑念がより一層強くなった。しかしこんな状態では抵抗の一つも出来ず、彼女の言う事に大人しく従う他無かった。


「はい…分かりました…」


「そう、それでいいわ。間違っても逃げようなんてこと、今度は考えないことね。それじゃあ、まず一つ目の質問。あんたは本当にケハノの人間なの?」


「はい、そうです…」


返答に対しチェナは表情一つ変えず、次の問いに移る。


「じゃ、次の質問。あんたはハイラの山の中で七色に染まった泉を見たことがあるわね?」


「え…?」


思いがけない質問にシャルはつい、驚きの声を漏らした。あの泉のことは自分の他、ショウしか知らないはずだ。しかし言葉に詰まったその瞬間、チェナは両手をシャルの胸元から離すと腰から刀を目にも止まらぬ速さで引き抜き、彼の顔のすぐ横に勢いよく突き立てた。


「ひっ…!」


「質問に答えろって、言っているでしょ…?」


「はい、はい…!見ました…!本当です、嘘じゃありません!」


殺気すら帯びたチェナの言動に、シャルは半分べそをかきながら質問に答える。


「それじゃ次の質問。あなたはその泉に触れて、だけど火傷の一つも負わなかった。泉は灼熱の熱水で満たされていたにもかかわらず。この事実に間違いは無いわね?」


「はい、間違いありません。でも何でそんなことまで…」


「聞かれたことにだけ答えなさい」


「ひぃ…!ごめんなさい!」


「じゃあ最後の質問。あなたが今感じている、全身が火照るようなその感覚はその泉に触れてから起きるようになった。間違いないかしら?」


「はい、ただ…」


「ただ…何かしら…?」


シャルを咎めるようにチェナは突き立てた刀の柄を握る手に力を込める。


「い、いや、なんでもないです…!」


シャルは自分達が軽業師によって泉に落とされたことを伝えようとしたが、チェナに脅され口をつぐんでしまった。


「ふぅん。ま、いいわ。これで質問は終わり。だけどその前に…」


しかし最後の問いが終わってもチェナはシャルを解放してくれなかった。チェナは刺さった刀を抜くとそれをそのまま鞘に収めるのではなく、今度はその切っ先を何とシャルの喉元に向けた。


「へ…?」


日光に照らされた、ぎらりと光る刀を向けられシャルは間の抜けた声を出す。

「あんたの言ったことが本当かどうか、確かめさせてもらうわ。言ったでしょ?噓をつけば生まれてきたことを後悔させるって」


「ちょ、ちょっと何やっているんですか!?嘘なんて吐いてませんってば!!」


「心配しないで。すぐに分かるから…」


チェナはシャルの問いには答えず、あろうことか喉元に向けた刀を高く掲げ、そのまま勢いよく突き立てた。


(殺されるっ…!!)


キー――ンッ!!


死を悟りぎゅっと目を瞑ったその瞬間、甲高い金属音が響いた。しばらくして恐る恐る目を開けるとそこは雲の上の死後の世界…ではなく自分の喉元に刀を突き付き立てるチェナの姿があった。しかし驚くべきことにシャルの喉はその凶刃に貫かれるどころか、出血すらしていなかった。柄を握るチェナの肩と腕はぷるぷると細かく震えており、刀身を押し込もうとかなりの力が加えられているようだが、刀はシャルの喉の上でそれに合わせてカタカタと音を立てて小刻みに震えるばかりで、その切っ先が突き刺さることは一向に無かった。先程の金属音といい、まるで喉だけが岩のように硬くなり、刀を弾いているようだった。


しばらく刀を突き立てていたチェナだったが、やがて諦めた様子で肩を落とすと刀を鞘に収めた。刃が離れたことでシャルは慌てて自分の首を触るが、やはり裂傷の一つもついていない。


「嘘だろ…あんなに勢いよく刺されたのに…?」


チェナはそんな困惑するシャルを尻目にやれやれと言った感じでゆっくりと立ち上がる。


「はぁ、あたしがおかしくなったのと、あんたが嘘吐きの石頭であることを最後まで信じたかったんだけど。ここまでして死なないんだから、本当に選ばれたみたいね。これで転んで岩に頭をぶつけてもけろっとしていることに納得がいくわ」


頭に大量のはてなが浮かんでいるシャルに向かってチェナは仕方なさそうに話しかける。


「手荒なまねして悪かったわね。お詫びにあんたの身に起きていること、教えてあげる。さ、立ちなさい」


時刻は既に昼を過ぎていた。シャルはチェナの連れていた馬に乗せてもらい、草原に真っすぐ続く、東ノ国の都に至る交易路を歩いていた。海に面する東ノ国とその西側にそびえるハイラ山脈の間には「海原へ至る草原」が広がっており、交易協定が誕生して以降、西ノ国から技術の提供を受ける形でこの草原でも放牧が始まったが、草ノ大陸とは比べ物にならない程小規模な草原である為、そこで生産される肉類や乾酪の総量は西ノ国産のものと比較して一割にも満たない。


ただ、晴れた日には風に揺られながら一杯に広がる草原、そしてその向こうにそびえる荘厳なハイラ山脈を望めるこの地は旅人や行商にとっては山に入るまで、つかの間の憩いの時を与えてくれる。今まで数える程しか山を降りたことしかないシャルにとってもその光景はとても新鮮に映ったが、自分の身体に起きた異変への関心と、未だに分からない村人達の安否が心を支配しており、景色を楽しむ余裕なんて無かった。

「あの、チェナさん。今からでも山に戻れないですか…」


「しつこいわね。村のことが心配なのは分かるけど今は無理。私は山越えしてきたばっかりで食糧も少ないし、それに夜通し走らせたせいで馬達もかなり疲れている。まずはこの子達を休ませないと」


「じゃあせめて俺の身体に起きたことを話して下さいよ!かれこれ六時間は馬に揺られているだけじゃないですか!」


「それも馬達を休ませてからよ!大体ね、あんたが今生きているのもこの子達のおかげだってこと忘れんじゃないわよ!この子達が大人しく交易路の近くで待ってくれていたお陰ですぐに山を下りられたんだから!」


山でシャルを拾った時、チェナは彼を寝かせられる場所を見つけることを優先し必要最低限のものだけを持って交易路を離れたらしい。シャルが初めて彼女に会った時、近くに馬がいなかったのも道の傍に馬達を待機させていたからだ。どれだけ反抗的な態度を取っても、チェナには力では敵わない。何より自分の命の恩人である以上、シャルは彼女に対して下手に出るしかなかった。


やがて二人は交易路から少し離れた場所にある一つのオアシスにたどり着いた。東ノ国の沿岸部の土地は塩分が多く含まれているため、井戸を掘っても地下水に塩が混じっており真水を得ることはまず出来ない。反面「海原へ至る草原」の土は内陸であるため塩分が殆ど無く、更にハイラ山脈から大量の雪解け水が流れてくるため、地下水やオアシスが豊富に存在しており、東ノ国の貴重な水源となっている。


オアシスに着いたチェナはシャルに馬から降りるよう促した。二人を下した途端、二匹の馬は勢いよくオアシスに駆け出しすぐさまがぶがぶと水を飲みだした。相当喉が渇いていたようだ。夢中で水面に口を突っ込む二匹にチェナはゆっくりと近づくと


「ソラ、スイ。随分と無茶をさせちゃったね。夜通しで走らせてごめん。今はゆっくり休んで」


と優しく話しかけた。遊牧民族の娘らしく、ソラとスイと名付けられた二匹の馬を見る彼女の瞳にはこれまでみせたことの無い、慈愛に満ちたものだった。


そうしてしばらく二匹の様子をチェナは見ていたが、やがて背後でぼんやりと突っ立っているシャルに近づいてきた。


「ほら、あの子達の様子を見れば分かるでしょ?とっても喉が渇いてた。こんな状態で山に登ればケハノ村にたどり着く前に倒れていたわ」


「そう…ですね。俺も村で馬の世話をしたことあるけど、全然気づかなかった」


「…まぁいいわ。それより、お待たせ。あんたを刀から守った力の正体、話してあげる」


チェナと共にシャルはオアシスの淵に静かに佇んでいた。彼らのすぐ横では水と草をたらふく胃袋に流し込んだソラとスイが時より満足げに鼻息を漏らしながら気持ちよさそうに寝ている。チェナはそんな二匹の様子を確認するとシャルの方を向き、静かに語り始めた。時刻は既に夕暮れで沈みゆく橙色の夕日をオアシスが美しく映し出している。


「とりあえず、私の本当の身分を明かそうかしら…。と、いってもこれも話すより見てもらったほうが早いかな」


そう言うとチェナは腰の帯革からおもむろに短刀を一本取り出した。これも遊牧民族が携帯するもので、主に焼いた肉を刺して食べるための食器として扱われている。チェナはその短刀の切っ先をさっと素早く自分の胸元に向ける。


「目、反らしたりするんじゃないわよ」


チェナは短刀をグッと両手で強く握り、ゆっくりと目を閉じた。と、次の瞬間、チェナの身体からぼんやりとしたゆらぎが湯気のように湧き出てくるのを確かめた。それはあの女を見た時や、チェナに馬乗りにされた時にシャルの身体から湧き出たものと全く一緒だった。そしてチェナは、自分の鳩尾目掛け、力強く短刀を突き刺した。


カキ――ンッ!!


その短い刀身がチェナの身体に触れた時、シャルが見た光景はほとばしる鮮血などではなく、先程のシャルが刺された際にも響いた甲高い音と共に根本からばらばらに砕け散る短刀であった。シャルがそうしたように、チェナもまた、その身一つで刃を受け止めたのだ。


あっけにとられるシャルに対しチェナは何てことない顔で、あ~あ、新しいやつ調達しなきゃなと、シャルではなく自分で砕いた短刀の心配をしていた。


粉々になった刀身を拾い集めると、チェナはシャルのほうを向き直す。


「実は私は遊牧民の娘なんかじゃないの。私の故郷はハイラ山脈にある『地導の里』、そして私は女神様の祝福を受けたあんたと同じ『地導使い』よ」


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