白百合くんvsキリセン
キーンコーンカーンコーン…
チャイムの音を聞いて、教室に散らばっていた学生たちが席に着く。
次は世界史の時間だ。
私は元々世界史は特別得意な科目でもないが、担当の桐谷先生、通称"キリセン"が厄介なのである。
50代の女性で小柄、眼鏡をかけた、一見物腰柔らかそうな先生なのだが、とてつもなく字が汚い。
その上"私の字が読めないなら私の授業を取るな"と主張しており、性格にも難ありの人物だ。
そもそも1年ではこの授業は必須科目で、世界史を受けるか受けないか決められるのは2年からだというのに…
そして今日も力任せにチョークを走らせる彼女だったが、板書はまさにミミズがのたくったような字で、お世辞にも読めたものではない。
かろうじて口頭で示された内容で教科書の何ページか分かるという始末だ。
「じゃあ藤見さん!ここに当てはまる単語、分かりますか!?」
「は、ハイッ!?」
声を張り上げるキリセンに、思わず身体がビクッとしてしまった。そして案の定、板書が読めず答えが分からない。
言葉に詰まっていると、キリセンがまた声を張り上げる。
「藤見さん!?先週もここやったでしょ!?もしかして寝てた!?」
キリセンの金切り声を聞きながらうつむくだけの私であったが、なぜか横の白百合くんがスッと手を挙げた。
「白百合さん!?今先生は藤見さんと喋っているのだけど、どうしたの!?何か文句があるの!?」
更にヒートアップしていくキリセンであったが、そこへ白百合くんの透き通った声が優しく響いた。
「藤見さん、授業で寝たことないですよ。あと先生の字が読めないので、僕も答え分からないです」
おまりにも冷静に的確な駄目出しに、それまで騒いでいたのが嘘のように、キリセンはあんぐり口を開けて立ちつくしていた。
案外キツい喋り方をする人ほど、欠点を指摘されると弱いのかもなぁなどとぼんやり考えていたが、
キリセンのダメージは思っていたより強かったようで、そこからは覇気を失った様子で続きを喋り始めた。
私はこっそり白百合くんに話しかけた。
「ありがとう…!助けてくれて」
すると白百合くんは申し訳なさそうに、私のノートを指さした。
「実は、藤見さんの字も読めないんだけどね」
それを聞いて、がっくりと肩を落とした私なのであった。




