白百合くんの特技1
放課後、ようやく授業が終わり清掃の時間となる。
掃除のグループは席順で分けられており、
必然的に隣同士の白百合くんと私は同じグループとなる。
「藤見さん、掃き掃除手伝ってもらってもいい?」
「あ、はい!」
白百合くんと隣の席になってからよく話すようになったものの、時々まだ緊張して敬語になってしまう。
ロッカーに箒木を取りに行き、ふと白百合くんを見ると、とてつもなく機敏かつ正確な動きで隅々の埃を教室の中央に集めていた。
さすがだなぁ…と感心していると、
なにやら「ブーーン…」と聞こえてきた。
なんの音だろうと思い周りを見渡すと、教室の中に大きなガガンボがいた。
私は自分が虫けらのような存在である自覚はあるが、虫は大の苦手である。
「ぎ、ぎゃーーーーーー!!!!!!!」
思わずモブに似つかわしい大きな声が出てしまったが、白百合くんは涼しい顔をしてこちらを見ていた。
「白百合くん…っ!!た、助けてーーー!!!」
いつも白百合くんには遠慮がちな態度をとってきたが、今この時ばかりはそうもいかない。
なぜならガガンボはこちらに向かって飛んできているからだ。
「いやーーーー!!!」
私はなりふり構っていられず、教室内を逃げ回っていた。
その様子を、観察するようにじっと見つめる白百合くんを見て「なんて薄情な人なんだ」と思ったが、それどころではない。
もう逃げ場はなく、白百合くんの元へ駆け寄り助けを求めようとすると、
白百合くんがスッ…と手を伸ばし、次の瞬間には優しくガガンボの羽根を掴んでいた。
一見、虫嫌いからするとゾッとするような光景だが、白百合くんが持ったガガンボは、もはや繊細なガラス工芸のごとき美しさを帯びていた。
「し、白百合くん…?」
「あ、僕虫捕まえるの得意なんだ。家に結構出るからさ」
そう言うと白百合くんはしなやかな手つきで窓を開け、ガガンボを外に逃がしていた。
外に逃げていくガガンボであったが、フラフラと力なく飛び去っていく姿に、
なんだか白百合くんにときめいているように感じたのは私だけだろうか…
「さ、掃き掃除終わったしもう行くね」
白百合くんはそう言うと、箒木を片付け、部活へ向かっていくのであった。
ガガンボの心までも掴む白百合くん…末恐ろしい存在である。




