白百合くんの優しさ
モブにとっての日々の悩み、それは昼食だ。
特別仲の良い友だちもいない地味子こと、
私、藤見小春は今日も悩んでいた。
誰もいないだろうと屋上に行けば、
同級生の告白の現場に鉢合わせてしまい、
学食に行けば、
気配がなさすぎたせいか、いつのまにかギャルグループに囲まれていたり…
ましてや仲良しグループひしめく、教室でなど食べられるわけがない。
今日も今日とて、私はお弁当を抱えて校内を迷い歩いていた。
屋上でもなく…学食でもなく…教室でもない…
そんなことを考えながら校内をウロウロしていると、あることに気がついた。
全部の場所に、白百合くんがいたのだ。
そして記憶を辿ると、場所により全て違うものを食べていた。
屋上ではコンビニのパン、学食では定食、教室ではお弁当…
だが白百合くんは細身体型で、とてもそんなに食べるようには思えない。
見間違いか確かめるために教室へ戻ると、
白百合くんが、なんとも上品にからあげ棒を食べていた。
からあげを一つずつ丁寧に口に運ぶ様はまるで、横笛を吹く平安貴族のごとき美しさである。
一瞬思わず見惚れてしまったが、ハッとして先ほどまでの疑問を思い出した。
「し、白百合くん…さっきまで学食とか、他の場所にいなかった…?」
私は白百合くんの席へ行き、恐る恐る聞いてみた。
「え?あぁ、僕すぐお腹減っちゃうから沢山食べたいんだけど、同じ場所で食べるより、違う場所で食べた方が楽しいからそうしてる」
「違う場所で食べた方が…楽しい…?」
私には理解できない感覚だったので、思わず疑問形になってしまった。
「藤見さん、お弁当まだなの?よかったら一緒に食べる?」
白百合くんがそう言いながら、優しく微笑んだ。
白百合の君と呼ばれる白百合くんとお昼を共にするなど、周りの視線が怖かったが、
モブの私に手を差し伸べてくれた白百合くんの厚意を無碍にするのも心苦しく、
私は白百合くんの隣の自分の席に座り、お弁当を開こうとしたその時、思い出してしまった。
「今日、時間なくてごめーん!!お弁当手抜きになっちゃった!!」
と、今朝母が言っていたことを。
おそるおそる弁当箱を開くと、ふりかけがかかっただけの米がそこにあった。
(お母さーーーん!!いくらなんでも手抜きってレベルじゃないでしょーー!!)
思わず声に出そうだったが、すんでのところで飲み込んだ。
「え?お弁当、それだけ?」
私が呆然としているのに気づき、白百合くんが話しかけてきた。
「うん…お母さん忙しくて……」
「そうなんだ、よかったらこれ要る?」
白百合くんは鞄の中からスッと何かを取り出した。
それは、よくカレーと一緒に出てくる、
福神漬けであった。
「え…?福神漬け…?」
「ん?、福神漬けが一番ごはんに合わない?」
私は白百合くんのことがどんどん分からなくなっていくのであった。




