白百合くんの一握り
「神様…どうか、私を目立たせないでください……」
今日は体力測定、モブにとって嫌なイベントの一つだ。
モブがなぜモブなのか、その理由の一つが、
"運動音痴"だと私は思う。
私は体力測定の時、いつもろくなことが無い。
ある時はシャトルランであまりにも早く脱落して先生に怒られ、
ある時は反復横跳びで転び、全身打撲で悶絶し、
ある時はハンドボール投げで、投げたボールが自分の頭に落ちてきた。
その度にクラスの注目を浴び、嫌な思いをしてきた。
だが、高校に進学した今年は違う。
なぜなら同じクラスに、スポーツ万能で目立ちまくりな白百合の君がいるのだ。
どう考えても注目は彼に行くに違いない。
ーー数十分後、
私の予想通り、体力測定の最中、
皆の注目は白百合の君に一点集中であった。
涼しい顔で全てを完璧にこなす、白百合の君こと白百合くんは、それが特別なことだとは微塵も思っていないようで、自慢するような素振りは全く無い。
最後に握力測定の時間、
私の記録は右18、左17……
高くもなく、かといって低すぎもせず、モブとしては100点満点だ。
白百合の君はどうしているだろうと視線を向けると、人だかりができていた。
「う、嘘だろ…」
「こんな細身なのに…!?」
どういうことだろうと、私もみんなの後ろから覗き込むと、白百合くんが握力測定の器具を握りしめていた。
その数値、なんと"70"……
見間違いかと思うような数値である。
だが、周りの視線など気にもとめない様子で、優雅に器具を置いた白百合くんはため息を一つついた。
「力入れすぎて、腕がつった………ねぇ藤見さん、僕の握力いくつだった?」
なんともアンニュイな顔をした白百合くんがくるりとこちらを向き、話しかけてきた。
その表情すらビスクドールのように美しく、思わず圧倒されてしまった私を、周りのみんなも驚いて振り向いた。
「え…藤見さん……?」
「藤見さんって誰だっけ?」
まるで座敷わらしのような扱いだが、これが私のデフォルトである。
だから本来、クラスのスターである白百合の君になど話しかけられてはいけないのだ。
「え、えっと…な、70…でした……」
あの白百合くんが話しかけている、地味子と呼ばれている、この私に……
「藤見さんって…」
「もしかして地味子……?」
クラスのみんなの注目が集まっていることに耐えかねて、私は体育館から逃げ出した。




