いろはにほへとちりぬる
いい月だ。こんな夜は、つい外に出かけたくなる。そういえば、近くに紅葉が見られる公園があった。この月夜ならきっと暗がりの中でも綺麗に見えるだろう。俺はいそいそと、外へ出かける。
ろうそくのような真っ赤な葉が、暗がりの中でも確認できた。儚げな月の灯りの中、赤く染まった木の葉たちが目に沁みる。柄にもなく風流な気分に浸っていたら、つんと鼻に刺す臭いがあった。
はっと下を見れば、絨毯のように敷き詰められた落ち葉が見えた。しかし――その中に、誰かの指のようなものが見える。
にんげん……? 恐ろしい可能性に思い至り、足がすくむ。
ほのかに、嫌な予感がした。目を凝らせばその恐怖はより確実なものとなり、全身に鳥肌が立つ。
へっぴり腰になりながら、改めて足元を見直したら――そこにあったのはやはり、人の体だった。しかも紅葉に紛れて、流血もしているらしい。
とにかく警察だ、慌ててポケットのスマホを取り出そうとしたら何か水滴のようなものが腕を伝う感触があった。
ち、血? 気づけば痛みもないのに、俺の体から血が溢れ出ている。困惑し、取り乱している間にもどんどんと血は流れ出ていった。むしろ、焦れば焦るほど出血量が増えていくようだ。
りかいが追い付かない、何だこれは、どうすればいい? どうすれば……焦り、必死に巡らせた思考も空しく俺の意識が遠のく。
ぬるりとした感触が体全体に広がり、真っ赤に染まった地面の上へ俺は倒れこんだ。生暖かい血の海の中で、自身の命が散っていくのを感じる。
ルビーのように赤く、どろどろとした血だまりの上に俺の死体が加わった。
いろはにほへと ちりぬル