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いまだ遠く

昔、ぼんやりと頭の中で思い描いていたことを形にしてみました。

小説を書くのはこれが初めてで、至らない点も多いかと思いますが、温かく見守っていただけたら嬉しいです。

 春って、なんとなく眠い。

ぼんやり目をこすりながら教室に入ると、そこは今日も相変わらずだった。 20人くらいのクラスメイトたちが、思い思いの場所で、思い思いの空気をまとっている。

火も、水も、草も。 それぞれの属性がふわりと混ざって、ちょっと重たくて、それが心地いい。

入学式や入学前の事前説明が終わり、新しい生活が始まった。

まだぎこちなく、でも少しずつ馴染んできた教室の空気。

誰もがどこかよそよそしいのに、教室全体は妙に明るく、期待めいたざわめきが満ちている。


「ねぇねぇ、ここの自販機、草属性でも熱いの出るんだって」

「え、ほんと? やだ〜それ聞いたら買えないんだけど」

教室の後ろで、女子が並んで話している。名前は、えぇと......なんだっけ。

片方の穏やかな口調と、もう片方の楽しげな相槌がぽんぽんと弾んでいる。

そうだ、思い出した。話しているのはボワソン・アンジェリカ。日本の学校ってのもあって、珍しい名前だなと思ってたんだった。そしてそれを聞いているのが牧野樹里(まきのじゅり)。ボワソンとよく一緒にいるから気づいたら覚えていた。

「火属性のやつが連打してたんだろ、多分」

「うわサイテー ぜってー須磨(すま)あたりだな」

その女子二人の会話から聞こえてきたのは、男子たちの声。いつからいたんだろう。ふとそっちを見ると、例の須磨尖(すまとがり)が片手でピースサインを作って茶化していた。

こうして、クラス内では早くもそれぞれ小さなグループがいくつかできはじめている。僕はまだ、そのどこにも完全には属していない。まぁ、急ぐ必要もないし、これもこれで悪くない。


 そう思いながら教室の自分の席でぼんやりしていると、少し前の席の男子が読んでいた本をぱたんと閉じた。

井上陸いのうえりく。たぶんこの教室で唯一の知り合い。中学時代から仲が良く、常宮高を目指すと知ったときは驚いた。それを追っかけるようにして僕もここに来たんだけど、クラスまで同じとは運が良い。

「……お前、またボーっとしてんのか」

「いやー。観察観察」

「はぁ。もうすぐ先生来るってのに……」


「おーい、席つけー」

そんな声が、廊下から聞こえてくると同時に、スライド式の扉がガラリと開く。

入ってきたのは、担任の鮫島和希(さめじまかずき)先生。

年相応の落ち着いた雰囲気が漂っていて、青髭がちょっと目立つ。右目が見えにくい前髪は昔からのクセなんだとか。


 ホームルームが始まり、ワイワイと立ち話していた生徒たちも、みんな席に戻る。

「おはよう、みんな。……ん、もうちょっと元気に挨拶できるだろ?」

柔らかいけどしっかりと通る声に、クラスのざわめきが整っていく。

「さて、とりあえずホームルーム始めるぞ。今日から色々本格的になるからなー、覚悟しとけよ」

先生は黒板にチョークを走らせながら、ちょっと嬉しそうな顔をしている。

その横顔を見て、教室の空気が少し引き締まった気がした。


「──以上だ。追加の連絡事項は特になし。あとは初日に説明した通りだ。」

ホームルームはいたって普通に進み、少し気の抜けたような空気が教室に漂っていく。

入学式と説明会が終わり、今日がいわば“初日”ともいえる日だ。

授業はまだ始まっていないけれど、教室の空気はどこかそわそわしている。

「んじゃ、最後にひとつだけ」

チョークを置いた鮫島先生が、教室をぐるりと見渡す。

「早速だが、今日の1限から《属性演習》が始まる。といっても最初は基礎だがな。グラウンドと実技棟はもう使えるからな、動ける準備くらいはしとけよ」


 その言葉に、教室内の空気が一瞬ピンと張る。

「え、もう?」

「マジで……?」

「ほんとにやるんだ……」

あちこちからそんな声が聞こえてくる。


《属性演習》──この学校の特色ともいえる“実技科目”。

自分の属性を活かしたスキルや戦闘の練習、そしてなにより“力を扱う心得”を身につける時間だ。

僕は、というと……正直、ちょっと楽しみだった。

このクラスには、どんなやつがいて、どんな力を持っているのか。

入学試験ではあんまり見れなかったそれが、今日は少し見えてくるかもしれない。


「色々思うところはあると思うが、これがこの学校のやり方だ。ま、ケガだけはすんなよー。……つっても、回復の練習になるからそれはそれでか。とりあえず、そんな感じだ、頑張れよ」

先生が軽く手をひらひらさせながら、ホームルームは終わった。

更新は不定期です

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