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第一話 人形に呪われた男

ある休日の朝・・・。

カタカタカタカタカタカタカタ・・・

何やら固いものが当たる音が聞こえる。

その音の元に、床に敷かれた布団で寝ている男が拳を落とす。

ゴッ!

『いた!』

頭に拳骨を食らった女性が頭を抑える。

「もっとまともな起こし方できんのかお前は!?」

そう言って、出した手をまた布団に入れた。

『だって、普通に起こしても全然起きないじゃない』

「平日はともかく、今日は休みだし、時計はまだ6時だぞ」

『だって、退屈なんだもん』

「だったらお前も寝ればいだろ。ふわぁ~」

男は背を向けて目を閉じた。

『だって眠れないんだもん』

そう言ってまたカタカタと音を立てる。

さっきの反撃のつもりだったのかもしれないが、今度は頭を手でつかんだ。

がし!

『う…』

男はつかんだ手に力を入れる。

『いたたたたたた!』

「人形が痛いわけないだろ」

『人形じゃなくてあやのだって言ってるでしょ!?』

そう。あやのと名乗った相手は人間ではなく和風の人形なのだ。

さっきのカタカタという音はからくり人形のように口を動かした音である。


大学生になって今住んでる部屋に引っ越してくる少し前、親からこの地域に呪いの人形の話が出てることを聞いた。

引っ越してきたとき、部屋の隅に置いてある小さな台に和風の人形が目を閉じた状態で座るように置いてあり、なんだろうと思って近づくと、人形は目を開けて浮かび上がったのだ。

それから、あやのと名乗った人形は、この部屋にいるときだけ俺に付きまとうようになって今に至る。


こうして、俺は人形に呪われたのだった。


ぽか!

「いて!」

『今、私に呪われたって思ったでしょ!?』

勘の鋭いことで・・・。

だからって、木でできたへらでチョップをするか!?

近辺に娯楽があまりないこともあって退屈な日々を送ることになるかと思ったが、この「呪いの人形」のおかげで退屈にならずに済んでいるのも事実である。


ある休日。

朝からバイトに行き、夕方になって帰ってくると・・・。

「うぅわぁああああ!!!」

住んでいるアパートのほうから男の悲鳴が聞こえた。

何事かと思って走ってアパートに行くと、俺の部屋の出入り口で怪しい格好をした男が腰を抜かしていた。

「あれはまさか・・・」

物陰から様子を見ていると、俺の部屋から例の人形が左右の手に3本づつ、合計6本の出刃包丁を持って浮いていた。

しかも口をからくり人形のように動かしてカタカタという音を立てている。

その一部始終を見て、「あれが呪いの人形じゃなかったら何なんだ」と呆れてしまった。

おそらく、俺の部屋に泥棒をしようとしたのだろうが、手に持ってる開錠ツールで鍵を開けて入ろうとしたら、今のような状況になったのだろうと察しがつく。

「泥棒除けにはいいかもしれないが、お化け屋敷には使えないな…」と思ってしまう自分がいるのも事実だった。

こんなことを考えているうちに、泥棒をしようとした男は泡を吹いて気絶。その間に誰かが呼んだ警察に運ばれた。


隣の隣に一人住んでいるが、外出してて部屋にいなかったことで見られずに済んだのは余談だろうか?


少しして俺は部屋に戻ったが、扉を開けたときに人形が『また来たのか!?』と6本の出刃包丁を持って怖い顔で飛んできたが、

「俺だ」と言って頭をがし!とつかむように抑えて動きを止めた。

『いたたたたたた!!』

「さすがにあれは脅かしすぎだ!」

そう言いながら中に入って扉を閉めた。

『そもそも、どうしてこんな私を見ても全く怖がらないのよ!?』

「実はホラーマニアでな」

怖いもの知らずではないはずだが、ホラーマニアなこともあって、呪いの人形が怖くない。


ふと、この人形に見覚えがある上に、あやのという名前に聞き覚えがある気がしてきた。

『まぁとりあえず、夕飯にしましょ。冷めないうちに』

部屋の真ん中にあるちゃぶ台には、俺の分だけっぽい飯が用意してあった。

なぜ人形が料理を・・・? 見た目は普通(?)だが・・・

「…これ、食えるのか?」

ぽか!

「いて!」

木のへらでチョップを食らわしてきた。

『料理の文句は、食べてからにして!』

言いながら頬を膨らます。


俺は軽く震える手で恐る恐る料理に手を伸ばし、最悪の状況を想像しながら一口食べた。

しかし・・・。

「ん?」

気絶しそうなほど不味くはい。それどころか、記憶にある味だった。

なぜ・・・?

どこかで見た気がする人形…あやのという聞き覚えがある名前…そしてこの味…。

もう一口食べてみたけど、これ以上は何も出てこなかった。


気が付いたら食べ終わり、しばらくして風呂に入ったのだが・・・。


「なぜこうなる・・・」

『私の憧れだったから♪』

この返事を聞いて呆れてしまう。

『別にいいでしょ? 女性に背中を流してもらうのは男のロマンだって聞いたし』

どこ情報だ!?

人形は浮いた状態のまま、俺の背中をタオルで洗っている。

『呆れてないで喜んだらどうなの?』

「人間の女だったら喜んでたな」

ざばーん!!

愚痴を漏らすと、頭の上から滝を思わせる量の湯をかけてきた。

『贅沢言わないの! 彼女いないんだから、私で満足しなさい!』

「呪いの人形に背中流されて満足できるか!」

本音を言うと、

ぼこ!

「いて!」

『誰が呪いの人形よ!?』

怒りながら、プラスチックの洗面器で頭を叩いてきた。

浮かんで喋る上に、夕方の泥棒の件で、十分呪いの人形だと思うぞ。



風呂から上がり、寝間着を着て布団に入って寝たが、その翌朝・・・


カタカタカタカタカタ・・・

この音で目を覚まして時計を見ると7時で、平日にいつも起きる時間である。

音を止めるために、布団から腕だけを出して振り下ろした。

ゴッ!

『いた!』

やめろと言ってるのに・・・。


布団から起きて、着替えて顔を洗うと、朝飯が用意されていた。

人形は自分の体のサイズに合わせた割烹着を着て浮いている。


昨日の晩飯の時と同じ、記憶にある味だった。

一体どういうことだ?


答えが出ない疑問を抱えながら、俺は大学に行くために家を出た。

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