狂始
ある日突然この世界に魔物が来た
どこから現れたのかもわからない
なにが目的なのかもわからない
ただ、残虐に人間を襲い、喰らう
人間もやられっぱなしではなかった
同時期にとある場所で発見された、魔術と才能で対抗したが、焼け石に水のようなものだった
まだ、9歳くらいのガキだった俺の目の前で母親は魔物に殺された
そして、そこを助けられた騎士団の奴らに父の戦死を知らされた
何もかもなくなった
それでも、涙と魔物への憎しみは無くならなかった
それからは今思いだしても狂ってる少年生活だった
朝から晩まで誰の手も借りずに走り続けた
金はなかったしもったいなかったから裸足で
何度も倒れた、何度も血を吐いた
でもその度に目の前で亡くなった母親の顔を思い出した
その時に嬉しそうにしていた魔物の顔も
そうすると、不思議と力が出た
周りの大人達は自分達のことで精一杯で、俺みたいな狂人に構ってる暇は無かった
それが俺には心地よかった
飯だってそこら辺の草や虫を食べた
食事に時間を取られたくなかったから
今思えば俺は、自己陶酔と承認欲求の狭間で死にたかったんだと思う
そうして狂った日々を続けて1年が経った
不思議とこの頃から倒れる回数が減ってきた
血反吐を吐く量もなぜか減った
ぶっ倒れ続ける日々の中で俺の身体は必死に生きることを選んだ
その事実に気づいた時、何故か無性に腹が立った
そりゃそうさ、俺はあの時確実に死にたかったんだから
悔しくて悔しくて俺は横にあった木を思いっきり殴りつけた
枯れ木が乾いた音がした
見ると木には全く傷はなくて、俺の拳は血まみれになっていた
その事実に不思議と笑みが溢れた
まだ俺は死ねると
今となっては死ぬことが義務になっていた気がする
死ねるならなんでも出来る気がした
木屑と血に塗れた拳を見て、まだまだ死ねるって確信した
そして、そこからもっと狂っていった
血反吐に塗れた青春時代の幕開けであった