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個性

作者: 天内優

 ある港町、自分の性格に悩んでいる青年がいた。

 青年は年が十八、だが精神年齢はそれより幼いと思われる。

 幼いと思ってるのは家族や友人、又は赤の他人などではなく青年自身が思っている事である。

 青年は今日も悩みに悩んでいた。

 ──自分の幼いと思う所をを少し出すとしたら、まず他の人にあって自分にはない物を欲しがる所がある。──無い物ねだりと言うやつだ。

 それに酷く悩まされている。

 友人がテストで満点を取ってご褒美をとしてスマートフォンを買ってもらった。と言う話を聞きさっそく次のテストでそれを試した。

 テストの結果は満点、だが本一冊すら買ってもらえなかった。

 家は金持ちでも貧乏でも無いごく普通の家庭、だからこそ買ってもらえなかった悲しみが強かった。

 その事を引きずりテスト日の夜は毎回のように思い出して泣いてる。

 他に上げるとすると、空気を読めない所。

 ──空気を読む、とは時と場合によってどんな事をすべきか、又は何もすべきでは無いか、などを一瞬で理解し場を和ませる、謂わゆる暗黙の了解的な物だ。

 それが全くわからない

 まだ幼い頃、父方の祖父が亡くなり葬儀に行った時にそれに気づいた。

 みんなして泣いていたが僕一人だけ泣いていなかった。泣くのを我慢した、などではなく単に泣けなかった。

 すると父と母から「お爺ちゃんに最後のお別れを済ましない」と言われ渋々線香をあげに行った。

 さっき言われた言葉の意味は遠回しに「嘘でも泣け」

と言われてるようで、当時吐き気がしたのを覚えてる。

 当時僕が泣けなかったの無理はない、なんせ祖父はこだわりが強く父や母に迷惑をかけていた。それを子供が見れば印象なんてものはすぐに変わる。

 週三で祖父の元に手伝いに行く父と母は僕を構ってくれなかった、妹すら少ししか構ってもらえてなかった。

 挙げ句の果てに祖父は父と母に文句を言う。

 健康の為に作った料理にはすぐに文句をつける。

「味が薄い、こんなもの食えん」

 祖母がその発言に対して注意をすると

「お前は黙っとれ」と怒り出し、父と母に作り直しを命令していた。

 そんな祖父が亡くなった。きっと誰からも好かれていなかった、寧ろ嫌われていた。

 なのにみんな泣いていた。

 心の底では喜んでいるに違いない、何故嘘でも泣く必要があるのかわからなかった。

 みんなして仮面を被って人の機嫌を伺いながら、つまらない人生を送ってきたに違いない。

 ──まぁこのように上げ始めるとキリがないくらい色々ある。

 

          二


今日もいつものように妹にちょっかいをかけ怒られていた。

 普通なら謝りに行くがこの青年は行かない。どちらかといえば行けない。の方があってる。

 これも青年が自分でわかってるが直せない悪い所らしい。

 ──ものすごい音を出しながら階段を上がって僕の部屋を開ける人がいた。そこにいたのは妹だった。

 基本的に僕も妹も性格が似てる。喧嘩をしても次の日にはけろっと忘れてる所が似ている、だからか何日も続く喧嘩なんて一度もした事がなかった。

「お兄ちゃん私のゲームのセーブデータ消したでしょ」

「消したけど?ダメだった?」

「ダメに決まってるじゃん」

「だってもう一年前のデータだぞ」

「ほんと無神経、お兄ちゃんの馬鹿。もう話聞かない」

「死ねばいいのに」

 そう言い妹は部屋を出た。

 『死ねばいいのに』の一言が凄く心に残った。

 その日はもう寝た。

 『無神経』『馬鹿』『死ねばいいのに』そんな事言われたのは初めてだ。

 目から涙が溢れて睡眠すらできない。

 ──青年はこの日を境に本当の自分を隠す事にした。

「昨日はごめんなセーブデータ消しちゃって」

「え、あ、もういいよ」

「今度から自分勝手な事はやめるよ」

「あ、うん」

 青年は素直に謝った、前の自分を隠しながら。

 その日の夜、下から声が聞こえた。

「お兄ちゃんおかしいよ。なんかいつもと違う感じがする」

「あの子も成長したのよ」

 父と母と妹が青年に対して話していたようだ。

 妹は違和感があるらしい。

 今日も青年は昨日言われた事を思い出し涙を堪えながら眠りについた。

──いつも通り学校へ行った。

 学校に着くと友人──佳奈が近づいてきて

「おはよう、この前のテスト難しかったよね。その出来れば教えて欲しいなぁー」

「おはよう、教えるぐらいなら別にそんな畏まらなくても」

「え、ありがとう」

「じゃあクラス行くね、またね」

「あ、うん、またね」

 佳奈からも違和感を感じられてた。

 一時間目の授業が終わり明らかに周りがソワソワしてるのに気づき、僕はそれが気になり友人に相談しに行った。

「なんかみんなソワソワしてるけどなんかあった?」

「なんかあった?ってお前が急に変わったからだろ」

「変わった?僕が?」

「そうだよ、なんかいつものお前じゃないっていうか」

「そうかぁ、思ってたより仮面を被って生きるのは難しいな」

「仮面?何それ」

 友人にこの前の件と仮面の事を相談した。

「なるほど、自分を変えようとしてる、か」

 しばらく沈黙の時間が流れた。

「まぁ応援してるぞ。だけど俺は前のお前も好きだからな」

 妹からは嫌われて友人からは好かれてる、何がなんだか分からなくなった。

 家に帰り今日の事を考えながらボーっとしてた。

 すると、父が部屋に入って来た。

「釣り、行くか?」

 考える事が多すぎて行く気になれかった、から、首を横に振った。

 すると父が問いかける、というか独り言のように呟いた。

「海を眺めてると、難しく考えてた事が簡単になったように解決していくんだ」

 簡単になる。その言葉に少し体が動いた。父は続けて聞いてきた。

「釣り行くか?」

「行く……」

「じゃあ準備しろ、下で待ってる」

 準備し、下で待ってた車に乗った。

 移動中、一切会話しなかった。父が嫌いだからではなく、まだ考えてた。

 やがて、気づかないうちに、海に着いていた。

 海を見た感じ穏やかで釣り人が一人もいない、今日は釣れないだろう。

 それなのに父は何故釣りに誘ったのか、また考える事が増え、かえって頭が忙しくなった。

 そんな事を考え、困り顔になってる事も気にせず、父が

「行くぞ」

 と言い船を出発させた。

 少しして釣りポイントにつき船を止めた。

 それから二時間くらい経ったが、一向に釣れる気配がない。

 海に出てから一言も喋ってない。何を考えてるのか全く分からない。すっからかんのクーラーボックスをただただ見つめていた。

 数十分後、やっぱりまだ一匹も釣れない。次第に

『なんで釣れない事が分かってたのに連れてきたんだよ』と怒りが込み上がってきた。

 俺は何も言わず父の隣を離れて後ろに行った。

 後ろに行って一時間経過した時、父の方を見ると、未だすっからかんのクーラーボックスが置いてある。

 父の背中が小さく、そして情けなく見えた。

 釣りをしに来て約四時間経った時、さっきまでどうにかして止めていた怒りが溢れ出してきた。文句を言おうとした、すると

「お前、最近悩んでるだろ」

 と言ってきた。怒りに身を任せて言いたい事を言った。

「父さんに関係あるのかよ」

 父は返答をしないで独り言のように話し続ける。

「あんまり無理すんなよ。お前はお前だ」

 この言葉の意味がすぐには理解できなかった。だが父が言いたいのはなんとなく分かった気がする。

 お前はお前、それは俺がどんな性格でどんな職業でどんな事をしても、俺は俺のままで、父の母の子供。

 慰めに聞こえもするが、この時は素直に受け止め泣いた。

 続けて父は

「性格も一つの個性、無理して変える物じゃない」

 と言い魚を釣り上げた。

 さっきまで釣れる気配が無かった魚が今釣れた。人生これから何が起こるか分からない。この性格が良い方に傾く可能性も悪い方に傾く可能性もある。そう言われたように感じた。

 悩みが消え去り、また父の隣に行こうとして後ろを向いた。するとさっきまで小さく見えた父の背中が物凄く大きく見えた。

 富士山のような背中、いつかこの背中を登れる日が来るのだろうか。


            三


 釣りを終え、家に帰宅する。大量の魚を妹に見せびらかすように部屋へ行った。

「あ、おかえり」

「おかえり。この魚すごいだろ、お前の分はないからな、欲しけりゃお兄様と言え」

「はぁ、要らないし」

「嘘嘘、今日の夜は魚だぞ」

 二人で笑いそして妹がぼそっと

「やっぱりお兄ちゃんはこの感じじゃないと」

 と言い、部屋を追い出された。

 この日から全てをポジティブに考えられるようになった。

 

 

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