メモリー9:壊れない想い(1)
入った店の場所はこの間清華を連れて行ったモールの一角にある喫茶店。
中はなかなか華やかで明らかに女性向けの飾りつけだ。
そしていつの間に呼んだのか、美鈴もしっかり同席していた、計6人。
「・・・・・・あんまり高いもの頼まんでくれ、金下ろしてない・・・」
「甲斐性無しねー」
「ま、まあ柳沢さん。結構な人数ですし、奢っていただくのですから」
俺の味方は桐生さんだけじゃないかって本気で思う。
それにしても目立つ一行だ。
清華と美鈴はどう見ても日本人じゃないし、全員が全員可愛い。
ここまで来る間、視線が痛いったらしょうがなかった。
いや、今でもかなり、だが。
「瑠流ちゃん、何にする?」
そう清華が瑠流に尋ねると、彼女はなんとも真剣な表情でメニューを指差す。
「えっと・・・じゃあ瑠流はこの『イカ墨カレーパフェDX』をお願いしますなのです」
「・・・は?」
「何か変でしたか?」
「いや、おまえがそれでいいならいいが・・・」
さすがは瑠流、普通の感性ではない。
というかよくそんなメニューがあるな、この店。
「わったっしっはっ、『ホンジャマカサンデー』っ♪」
「・・・この店、大丈夫か?」
そんなものをノリノリで頼む清華の将来も心配だ。
「桐生さんは?」
「はい、この『和風ティラミス中華味』を」
「・・・ティラミスに和風?なのに中華味?」
「どんな味なのか楽しみです♪」
桐生さんもやっぱりどこか普通ではなかった。
楽しみというか明らかに変な味だと思うよ、それ。
「・・・私は紅茶だけでいいわ」
「なんだよ友香、珍しいな」
「最近、体重が・・・」
意外にも一番まともに女の子らしいことを言った友香。
だったら奢れとか言うなよ。
しかしせっかくの控えめな台詞なのに、味方だと思っていた桐生さんが無情にも裏切ってくださいましたとさ。
「あら、柳沢さんは太ってなどいませんよ。運動をやっているだけあって、引き締まっていて素敵です」
「そ、そう?じゃあ私も何か頼んじゃお♪」
「何?」
桐生さんは素直で嘘なんてつかない人だから、その言葉を聞いた友香も嬉しそうにメニューを開き注文を考える。
「そうねぇ・・・『メロンアンズ大福』三つで」
「・・・聞いただけで気持ち悪いぞ」
誰か一人でいいからまともなものを注文して欲しい、ちゃんと普通のメニューはあるんだから。女の子はゲテモノ好きが多いと聞くが、ものには限度ってものがあるよな?
「俺はコーヒーでいいや。美鈴は?」
「あ、あの・・・私も奢っていただいていいんですか?」
「もちろん。好きなもの頼みな」
なんかホッとした。
美鈴はいきなり呼び出されたとはいえ、とても謙虚な姿勢を見せてくれている。
きっと注文も普通なんだろう・・・・・・と思っていたのだが、そうは問屋がおろさない。
「・・・・・・メニューにあるものしかいけませんか?」
「は?」
「えっと・・・」
なるほど、そうきたか。
「・・・何が食べたいんだ?」
「そ、その・・・」
なにやらとても恥ずかしそうにうつむいてしまった美鈴。
大体のもの・・・普通の喫茶店にあるものからほかの子たちが注文したように意味不明なものまで相当な種類があるこの店のメニュー。これ以外のものってなんだろう?
「まあ一応聞いてみて、頼めそうだったら頼んでみるが?」
「あ・・・じゃ、じゃあ・・・御飯、を・・・」
「・・・は?」
今、なんて言った?
俺の聞き間違いでなければ、あまりにも場違いなものだった気がするのだが。
すると、美鈴は上目遣いでものすごく恥ずかしそうに。
「えと・・・白い御飯が食べたいのですが・・・駄目でしょうか・・・?」
「いや、駄目って事は無いと思うが・・・好きなのか?」
「は、はい・・・ごめんなさい、留守番中もお昼は好きにしていいと言われたので、御飯を3合いただいてしまいました」
「さ、3合・・・すごいな」
「・・・」
それってかなりの量だ。彼女の小さな体のどこに入るのか想像出来ない。
しかし、ちょっと困った。
「うーん、それは分かったけど、喫茶店で御飯だけを頼むってのもなあ・・・」
「あぅ・・・」
「夕飯前だし・・・そうだ、カレーは好きか?」
「はい、それはもう」
まあ御飯が好きなら当然そうだろう、目を輝かせて答えた。
「じゃあ夕飯はカレーにするか。だからここではみんなみたいにメニューにあるものを適当に選んでくれ」
「あ・・・はい!」
やっぱり美鈴も普通じゃなかったようだ。
それで、美鈴が周りのアドバイス(この面子のは当てにならんと思うけど)を受けながらメニューを選んでいたとき、不意に隣に座っていた清華が肘でつついてきた。
「ん、なんだ?」
「んふふ、優しいねえ柊也♪」
「はあ?」
「んっふふ~♪」
なんなんだ一体?
清華の意味不明な言動はともかく、この面子に囲まれながらもまともなものを選んでくれた美鈴。いい子だ、うん。
「ちぇー、美鈴ちゃんは普通にチーズケーキかー」
「い、いけなかったでしょうか?」
「そんなことないけどね、せっかくだからもうちょっと、こうパンチの効いたものでも面白かったなあって」
せっかくちゃんとしたものを選んでくれた美鈴に、ちょっと残念そうに言った清華。
そこで美鈴も申し訳無さそうにするなって、おまえが正しい。
「人の金だと思って無茶苦茶なことを・・・」
「・・・瑠流は真面目に選んだのです」
「マジかよっ!?」
まあ瑠流が普通じゃないことは今に始まった事ではない。
注文してしばらくは雑談タイム。
人数が人数だし、この面子なものだから盛り上がる盛り上がる。
・・・というか、俺がいじられる?
やはり昨今、女性の方が強いのは間違いないと再確認した俺だった。
「・・・なんちゅう色合いだ」
テーブルに並べられたものたちは、異様な色を放っていた。
まともなものはコーヒーとチーズケーキだけ。
後はちょっと言葉にするのははばかられる。
「うわぁ、美味しそうだね~♪」
「どうやら本物のイカ墨を使用しているみたいなのです」
「なるほど、抹茶ティラミスに中華ソースを掛けているのですね」
「うーん、食べてみないと色だけじゃ味は分からないわね・・・」
まともに感想を述べている一同。
口にするのが怖くは無いのだろうか。
「ま、とにかくいただきましょ」
「うん。いっただきま~す♪」
こうして夕飯前のおやつタイムだ。
きっとまたありえない言葉がこいつ等の口から発せられるんだろうなあ。
ちょっと怖い。まずは真っ先に口を開いたのは清華。
「おぉ、なんかホンジャマカって味!」
「どんな味だよ」
そもそもそんな言葉をなんで知っている、おまえ。
次に、一応はお嬢様の瑠流。食べ方は上品だ。
「イカ墨カレーがパフェととても上手くマッチしているのです」
「んな馬鹿な・・・」
その意味不明なコメントはこちらも何も言いようが無かったが。
「和と中華と西洋のコラボレーション・・・こんな形で実現されているとは、感動です」
「桐生さん、そんなキャラだったっけ?」
大人しく控えめで大和撫子、それが彼女の初期のキャラ設定だったはずだ。
しかしやたら凛々しい一面があったり、熱かったり、こう変なところで感激したり・・・クラスのほかの男子が知ったら思わず泣いてしまいそうだ。
「アンタ、なかなか律儀に突っ込むわね?」
「そういうおまえのはどうなんだ?」
友香は大福を口でもごもごさせながら・・・こら、おまえだって一応女だろうが。
「うん、一口で三つの味が楽しめるわ」
「それって間違ってないか?」
平気で・・・それどころかとても美味しそうに食べる面々。
ありえない。俺は現実逃避したくなって、まともなものを食べているはずの美鈴に尋ねる。
「で、おまえはどうだ美鈴・・・って、全然進んでないがな」
「あぅ・・・もったいなくて・・・」
一応手は付けているのだが、一口一口が非常に小さい。
あれだ、高級料理を庶民が初めて食べるときみたいな。
普段デカ口で食べるような奴がちまちまと食べることをもったいなさそうにするそのままだ。
「・・・おまえ、今まで一体どんな暮らしだったんだ?」
「さ、さあ・・・」
記憶を失っている美鈴に聞いても分かるはずは無いのだが、思わず尋ねてしまう。
これが戦後直後とかならともかく、現代でたかが喫茶店のチーズケーキをこんな風に食べる奴なんて聞いたことが無い。
「で、でもすごく美味しいです。なんかこう、口の中がぱあっと光るような・・・」
「そ、そうか。満足ならそれでいいよ」
ほ、本当にどんな暮らしだったんだろう。
「ねえねえ美鈴ちゃん、こっちも食べてみて♪」
「よろしいんですか?」
「うんっ!ほらほら」
あ、止める暇も無く清華が美鈴に自分のを食べさせてしまった。
あーあ、あんなもん食わされたら美鈴が可哀相だ。
「・・・不思議な味ですね、でも美味しいです」
「でしょ~♪」
ホントかよ。
「瑠流のも美味しいのです、一口どうぞなのです」
「あら、これも美味しいですよ。ぜひどうぞ」
「私のはあげにくいけど・・・でも美鈴ちゃんには特別に半分あげるわね」
「あ、あぅあぅ・・・」
一斉に言われて少し困っている美鈴だが、律儀にもその一つ一つを口にし、感想を述べている・・・舌がおかしくならないのだろうか。
それにしても、みんなあっという間に美鈴と打ち解けた、というか妹みたいに感じているみたいだな、瑠流でさえも。
確かに美鈴は素直でとてもいい子だから気持ちは分かる。しかし、どこか違和感があるのも確か。全体の雰囲気というか、全てを見透かしているような瞳の色というか・・・。
「どうしたの柊也、コーヒーってやつ不味かったの?」
考えている俺をよそに、勝手にコーヒーを一口飲む清華。
当然、彼女はコーヒーがどういうものか知らない・・・しかも俺はブラック派。
というわけでこの結末はお約束だ。
「うっ!?げほっ、ごほっ!?」
「わっ、こら清華、何してるっ!?」
「に、苦っ!にがニガ苦にがニガ苦にがニガ苦いぃーーーーっっ!」
「ああ、もう・・・コーヒーなんだから苦いの当たり前だろ?」
「んにゅぅ・・・」
すると、清華がこぼしたコーヒーを一番最初に拭きだしたのは美鈴。
その行動は手早い。ポケットからハンカチを取り出し、清華の制服についたコーヒーを軽く叩くようにして拭き取る。
その行動の、なんと手馴れたことか。
「・・・どっちが年下なんだ?」
「そう言われても・・・」
「あ、すみません。体が勝手に・・・」
「ううん、ありがとう美鈴ちゃん」
お礼を言われて照れたように頬を掻く美鈴。やっぱりこの子も不思議な子だ。
これは記憶が無いからなのか?それとも、もともとこういう子なのか?
清華と美鈴・・・・・・記憶を失っている二人の少女。
―――本当の彼女たちは、何者なのだろう?