メモリー8:だから私は溶けてしまう(4)
「ねー、今日こそどこか寄っていこうよ!」
終鈴が鳴るや否やそう言う清華。
確かに、なんとか今日の世界史は乗り切ったし、ご褒美でもあげておいた方がいいかもしれない。
「そうだな。じゃ、なんか軽く食べにでも行くか」
「わーい、やったぁ♪」
・・・なんか、小動物に餌付けしている気分だ。
と、その時。
「二人っきりでは、行かせませんなのですっ!」
どこかから聞こえたこの声は・・・・・・
「・・・って、どこだ?」
声はするものの、どこにも瑠流の姿は見えない。
「廊下にもいないよ?」
廊下を覗き込んだ清華が言う。
「あの・・・声はそちらからしませんでしたか?」
桐生さんが指差したのは窓の外。
いや、いくらなんでもなあ?
「・・・期待にこたえて、登場なのでーすっ!」
「なにぃっ!?」
バッ!
突然、開けられていた窓から飛び込んできた瑠流。
「わわ、勢いが余ってしまったのですーーーっっ!?」
どがしゃーんっ!
飛び込んできた勢いそのままに、机やら何やらを巻き込んで転がっていく。
もう教室中大騒ぎだ。
「お、おまえ・・・何を?」
「いたた・・・あはははは、私もご一緒させてもらいますなのです、先輩♪」
よく見ると、瑠流にはロープが巻きつけてある。そしてそれは窓の外を上へと繋がっていて。
まさか・・・?
「瑠流ちゃん、かっこいいねー。どうやったの?」
興味津々の清華。
すると瑠流は自慢げに答えた。
「はい!こうやって腰にロープを巻きつけて、もう一方を上の階の柱に縛り付けたのです」
「おま・・・ここ、3階だぞ!落ちたらどうするんだ!」
「平気なのです、その辺り瑠流にぬかりはありません」
そう自慢げに胸を張った。
――しかし。
パチン。
「!?」
俺は瑠流の頬を叩いた・・・もちろん、それほど痛くないよう軽くではあるが。
「せ、先輩・・・?」
「馬鹿!そんなことを偉そうに言うなっ!」
瑠流は信じられない、といった風に目を見開いて反論する。
俺の普段とは異なった声に静まり返った教室に、それは響き渡った。
「る・・・瑠流は大丈夫なのです、ちゃんと計算した上で安全だと判断したからやったのです!」
「そんなことは知ってる。おまえは頭がいいヤツで、大体のことは考えた上だってことくらいな」
「じゃ、じゃあどうしてなのですか・・・?」
当の瑠流だけでなく、周りの連中も驚いた顔だ。それは幼馴染である友香でさえも。それもそうだろう、俺が女の子に手をあげたことなんて誰も聞いたことが無いだろうから。
だが、そんなことはどうでもいい・・・それだけ、俺は怒っているのだから。
「あのな、俺に無茶苦茶なことをするのは構わない、周りに迷惑を掛けなければ・・・けどな、自分が怪我するかもしれないことだけはするな。どんなに計算したことだって“もしも”ってことがあるだろ?それでおまえが大怪我したらどうするんだ」
「先輩・・・」
まだ叩かれた頬を押さえたまま呆然と目を見開いている瑠流。でもそれは先ほどのものとは多少違ったから、きっと俺の言いたいことを分かってくれたのだろう。
だから俺も表情を緩めて言った。
「もっと自分を大切にしろ。女の子だろ?」
「・・・・・・はい、なのです」
妙に素直に、こくん・・・と頷いた瑠流。こうしてればコイツも普通の女の子なのだが。
「さて、話も終わったし・・・どこ食べに行こうか?あ、もちろん柊ちゃんの奢りでね♪」
いきなり沈黙を破るように切り出したのは友香。ちゃっかりコイツも行く気だな・・・っていうか。
「いやいやいや、何故に俺の奢りとなる?」
清華とは財布は共用だから仕方無いとはいえ。
その言葉にさらりと人差し指を立てながら答える友香。
「賠償金よ」
「はあ?」
すると彼女は、にやっと笑って瑠流に。
「ねえ瑠流ちゃん?さっき叩かれたの、痛かったわよねえ?」
・・・嫌な予感が。
「いえ、別に大して痛くなかったですけれど・・・」
そう瑠流が答えると今度は桐生さんの番だ。こんな時、女性陣の連係プレーには目を見張るものがあることは男性諸君は痛いほどお分かりだろう。
「そんなことは無いですよね?だって、西崎君は男の子で、瑠流さんは女の子です。西崎君は軽くしたつもりでも、瑠流さんには痛かったってことはありえますよ」
そして今度はそれに便乗するかのように清華が。
「そっかー!柊也は瑠流ちゃんを傷モノにしちゃったんだね!じゃあ、その責任はとらないと♪」
それは言い過ぎ。というか使い方間違ってるぞ・・・誰がこんな言葉教えたんだ?
だが当の瑠流は口を開かずに上目遣いで俺を見ている。
はあ、これは逃げられないな。
「仕方ないな・・・分かったよ。叩いて悪かったな、瑠流。なんか奢ってやるから、許してくれ」
「・・・なるほど、こういう責め方も有効なのですか」
何か聞こえたぞ、おい。
「やったー♪柊也の奢りだー!」
そう喜んだのは清華。
まあ確かにおまえには俺の奢りということになるのだが、友香とかは違うぞ?
「ちょっと待て。おまえらにまで奢るなんて言ってないぞ」
「あら・・・そうしないと許さないわよね、瑠流ちゃん?」
「はいなのです♪」
「・・・はいはい」
――いくらあったっけな、財布の中。
「ご、ごめんなさい西崎君・・・」
「いいよいいよ、気にしないで」
唯一申し訳無さそうな桐生さんだが、彼女だけ奢らないというのもなんだ。もう皆まとめて面倒見てやる。
・・・というわけで、五人で喫茶店へと向かった。拓海も行きたがったが、無論一蹴される。
こうして美少女に囲まれて喫茶店に向かうなんて、はたから見たら俺って“たらし”に見えるんだろうなと、一人ため息をついた。