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Strange彼女  作者: るびん
Part1:彼等の序章
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メモリー7:だから私は溶けてしまう(3)

「先ぱーーーいっっ!」


 昼休みになると、瑠流が大きな声と共に教室に駆け込んできた。

 ・・・嫌な予感がするな。


「ど、どうした瑠流。珍しいな、教室まで来るなんて」


 そうなのだ、瑠流は意外なことに特別な用も無く教室に来ることはあまり無かったのだ。前に来たとき、それはもうエライことに・・・まあそれは置いといて。


「お昼御飯、ご一緒させてくださいなのです!」

「・・・・・・は?」

「あら・・・でしたら私も一緒によろしいですか?」

「じゃ、私も」


 桐生さんと友香がガタガタと机を動かして場所を作る。

 あ、あれ?


「そこの人、机を借りますなのです」


 瑠流はクラスの男子を足蹴にして机を奪い取る。こら、一応相手は先輩だろうが。


「お、おい・・・」

「いいじゃない、柊也。みんなで食べたほうが美味しいよ♪」


 いや、それは構わないのだが、何せ美少女揃いだ。周りのヤロウどもの視線が痛い。


「おーい柊也。俺も参加していいか?」

「駄目なのです」

「はうっ!?」


 瑠流によってあっさり撃沈された我が親友、拓海。少し不憫だ。

 そして机が五個繋げられて、準備万端になると清華が目を輝かせて言う。


「ねぇねぇ、みんなのお弁当どんなの?」


 ああもう、コイツは食い意地がはってるなぁ。

 設定上は血縁関係にある俺まで同じ目で見られたらどうしてくれる。


「私のお弁当はこれですよ」


 そう言って桐生さんが出したのは重箱。それもさすがに高そうだ。

 普通、こんなものを高校生が弁当箱にしていたら不釣合いもいいところだろうが、そこはさすが桐生さん。ナデシコのあだ名は伊達じゃない、ぴったり似合っている。


「そうだ、西崎君。ちょっと食べてみてくれませんか?」

「え?」


 思いついたように両手をぽん、と打って言った桐生さん。

 どうしてかその頬が赤らんでいた。


「西崎君は料理が得意だと伺いました。これ、家のシェフが作ったのですけれど、どうでしょうか?」

「シェフって・・・まあせっかくだし、もらうよ」


 そうして少しつまむ。

 何故か桐生さんはその様子をじっと、少々心配そうに見守っていた。


「・・・?」

「ど、どうですか?」


 神妙な面持ちで尋ねてくる。

 しかし、俺は若干返答に迷った・・・それは、想像していたものと違ったからだ。


「・・・ホントにシェフ?」

「えっ!?お、お口に合いませんでしたか!?」

「いや・・・美味しいよ。なんか家庭的な味がしてさ、すごく落ち着く」


 まるで、母親の料理のような。とてもそれはシェフなどが出せるものではない・・・だから俺は返答に迷ったのだ。

 ちなみに俺の母さんは生きている、それはもうピンピンして親父と一緒に世界中を飛び回っている。


「・・・よかった」


 俺の言葉に桐生さんはすごくホッとしたように胸を撫で下ろした。

 そしてとても嬉しそうに呟いた。どうしてそこまで嬉しそうなのだろう?


「・・・あんたさ、鈍いにも程があるわよ」


 そう呆れたように友香。


「何が?」

「雪乃の手を見てみなさいよね」


 そう言われて彼女の手を見てみる。何故か、綺麗な指はそのほとんどに包帯が巻かれていた。


「怪我でもしたのかな?」

「・・・・・・もうええわ」


 心底呆れた様な溜め息の友香。そう言われても、なあ?

 そして何やら真剣な眼差しで桐生さんが俺に向かって。


「あの、西崎君?」

「ん?」

「よ、よろしければ全て差し上げます」

「え、でも・・・」

「い・・・いいのです、そのために作ったのですから!」

「は?そのため?」


 言った後にハッとして顔を赤く染める桐生さん。

 でも、やっぱりその理由は俺には分からん。

 だが、その時。


「待ってくださいなのです!瑠流のも食べてみてください!」

「ぐ・・・」


 これは少々、いやすごく怖い。

 何せ、瑠流の弁当だ・・・普通であるはずが無い。


「大丈夫です、死ぬことはありません・・・多分」


 おいおい、多分かよ。


「とにかく、どうぞなのです!」


 そう言って差し出したのは意外にも普通の弁当箱。蓋を開けてみると、中も普通だ。


「・・・・・・ありえない」

「先輩、それはさすがに失礼なのです」


 頬を膨らませる瑠流。

 まあ作ったのは母親・・・もしくは桐生さん同様シェフだろうな、コイツの家も金持ちだし。

 それで、無難に卵焼きを口に運んでみる。


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・?」


 何かが、おかしい。味が卵焼きではない・・・なんか妙に鶏肉のような?

 それはまるで、昔ヨーロッパのどこかの地下組織の元で宿を取った時に食べたもののような・・・確かあれはイモリだったか。


「おまえ、何入れた?」

「大丈夫です、障害が残ったりはしません・・・多分」


 ぼそっと怖いことを言った・・・障害?

 しかも、また多分だと?


「ぐっ!?」


 すると急に体中が熱くなり、頭がぐるぐる回りだす。


「な、なんだ!?」


 動悸が荒くなり、汗が吹き出てくる。

 その俺の様子が明らかに普通ではなかったので、清華が慌てて声を掛けてきた。


「しゅ、柊也!?」


 心配そうに俺を覗き込む彼女は、この世の者とは思えないほど可愛かった。

 どうして俺、こんな可愛い子と同棲していて今まで何もしていなかったのだろう?

 まともに考えたらその方が異常ではないのか?

 それどころか、こんなに可愛い彼女を放っておくことの方が失礼なような気がしてきて。


「ああ、清華・・・・・・おまえ、可愛いなあ・・・・・・」


 ・・・って、何だって?

 何を口走ってるんだ、俺?


「え・・・い、いきなりどうしたの!?」


 とろんとした目をして清華に迫る。

 ここが学校だろうがなんだろうが俺の彼女への愛の前では関係ない。

 顔を近づけ、耳に甘く囁いた。


「悪いな・・・・・・俺、もう我慢できないよ。おまえが欲しい―――」

「ちょ・・・柊也!?」


 俺が突然のことにパニックになって抵抗できない清華を抱きしめようとした、その刹那。


 バッシャーンッ!


「ぶわっ!?」


 頭から水を掛けられた。

 しかも氷入り・・・何気に痛いかもしれないし、冷たすぎる。

 いきなりこんなことをされては、さすがの俺もその相手を睨むくらいはしてやろう・・・と、振り返ったのだが。


「なな・・・だ、誰だっ!?」

「・・・正気に戻られまして、西崎君?」

「う・・・し、島崎さん・・・・・・」


 そこにいたのはクラスメイトで生徒会副会長である、島崎 蓮理さん。

 頭脳明晰にスポーツ万能、容姿端麗で生徒会(というか学校)の影の支配者と言われている。

 もちろん絶大な人気があるのだが、まるでお嬢様のような丁寧でありながら高圧的な物腰から怖れられてもいる・・・ホントは、すごくいい人なんだけど、それは一部の人しか知らない。

 そして何気に“敵に回したくない人”のぶっちぎりNo.1でもある。

 ちなみにNo.2は俺ね。


「い、一体何が・・・?」


 さすがの俺も彼女を睨み付けるなどという、それはもう神様に逆らった熾天使ルシフェルの気分を味わえちゃうような危険は冒したくない。

 だからとにかく、出来るだけ平静を繕って尋ねた。

 すると島崎さんは瑠流の方を向いて。


「瑠流さん、配合を間違えましたわね?」

「あはは・・・そうみたいなのです。ご迷惑をお掛けしました」


 島崎さんにそう指摘されて、ペコリと頭を下げる瑠流。

 っていうか・・・配合?

 俺のきょとんとした表情を見て、島崎さんは溜め息をついて言った。


「惚れ薬の一種ですわ。突然教えてくれと頼まれまして、何に使うのかと思いましたら・・・」

「・・・瑠流?」


 全てを理解した俺は、若干怒りを込めた声で呼ぶ。


「あはは・・・先輩、怒っちゃいやん。なのです♪」


 そんな可愛らしくポーズ付きで言われても・・・・・・


「・・・怒るわーーーっっ!」

「きゃーーーっっ!」


 教室の中を、みんながまだ昼食中だというのに駈けずり合う俺と瑠流。

 島崎さんはふわふわした長い髪を手で軽く掻き揚げた後、腕を組んで、笑いながら席に着いているみんなに言う。


「まったく・・・私としたことが、うっかりしていましたわ。まさかこんなに早く実行するとは夢にも思いませんでした」

「すごいね蓮理ちゃん、惚れ薬なんて作れるんだ!」


 島崎さんに対してさえも、ちゃん付けで呼ぶ清華。

 ちょっとこれは意外だ。何故なら、清華にとって島崎さんは一番近寄りがたいタイプに見えるからだ。


「ええ。昔、お兄様に『自白剤があれば楽なのに』と泣きつかれまして。その時に試しで作ってみたら出来てしまいましたの。それで一時期、そういった薬作りに没頭したことがあったのですわ」


 島崎さんのお兄さんは一課の刑事さんだ。若くして警部の地位になったという、超がつく程優秀な人。


「それで出来てしまうところがすごいですね、島崎さんは」

「・・・普段なら、弱音を吐かないで下さいと一蹴するところなのですけれど、その時のお兄様は酷く疲弊なさっていらしたので、つい。私も、甘いですわね」

「優しいって言うんですよ、それは」

「うん♪」


 そうか、だから清華も懐いているのか。


「・・・で、お昼どうするの?」


 友香が言う。

 一人、我関せずで黙々と食べていたんだ。


「もうあんまり時間無いわよ?」


 ひたすら騒いでいたからか、結構時間は過ぎていた。


「柳沢さんはお弁当を西崎君に食べてもらわなくていいのですか?」

「え?ああ、私は料理できないから。これもお母さんが作ったんだし」


 そう友香が言うと、クスッと微笑んで言う島崎さん。

 ・・・・・・やっぱり彼女も相当可愛いな。


「大丈夫ですわ。料理は上手下手より、最高のスパイスがあればそれだけで美味しくなりますわよ」

「・・・最高のスパイス?」


 やけに笑顔でそう言った島崎さんの言葉の意味が分からず、首をかしげた友香。

 しかし、島崎さんと席が隣で仲も良い桐生さんにはすぐに分かったのだろう、微笑んで答えた。


「それはきっと・・・愛ですよね、島崎さん?」

「ふふ・・・それは、お答えできませんわ♪」


 そしてウインクと共に自分の席に戻っていった島崎さん。

 うーん、その一つ一つの行動が一々様になるな、彼女は。


「愛・・・ね。それはなかなか難しいわ・・・・・・」

「ねえ、今度みんなでお料理の練習しよう!」


 突然そんな空気を読んでいるのかいないのかよく分からない提案をしたのは無論、清華。


「・・・そうですね。それがいいかもしれません」

「じゃあ、三人でやろっか」

「瑠流ちゃんは?」

「・・・・・・今の見て、あの子がマトモなもの作ると思う?」

「あは、は・・・・・・でも一応ライバルですし、対等にしませんと」

 「ライバル・・・って?」

「あ・・・・・・」

「なんでもないわ。まあ、仕方ないわね」

「そういえば、神代さんはどうします?」

「美鈴ちゃんは、味見係~」

「あんたの方が味見ばかりしそうだけどね」

「あぅ」


 そんな清華、友香、桐生さんが約束をしていた中、教室に響く声。


「・・・はあはあ、もう走れませーーんっ!」


 ・・・・・・まだ駆けずり回っていた俺たちだった。




「やっぱり嫌な予感が的中したか・・・」


 騒ぎも収まり、乱れた息も落ち着いた頃、俺はそう溜め息交じりに言った。


「あはは、面白かったね」

「・・・・・・・」


 ぐりぐりぐりぐり。


 必殺、コメカミぐりぐり・・・通称、梅干だ。


「痛い痛い痛い・・・っ!」


 まったく清華め、人事だと思って。

 しかし、何がどうなってるんだろう。今まで、いくら瑠流でもこんな滅茶苦茶なことはやらなかったし、桐生さんだって今までと何かが違う。

 それを言うなら、友香さえも、だ。

 うーーーん・・・・・・?


「ん、どうかした?」

「いや・・・」


 この清華が現れたから?まさか、な・・・偶然だろう。

 俺は自分にそう言い聞かせるようにして、授業に集中することにした。

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