メモリー6:だから私は溶けてしまう(2)
「じゃあ行ってくるね、留守番お願い♪」
「はい。気をつけて行ってきてくださいね」
学校には来週から通う(さすがに週の途中からいきなり、は無理だった)ことになっている美鈴に見送られて出かける俺と清華。
なんか、不思議だ。
「どうしたの、柊也?」
「あ、いや・・・なんでもない」
「?」
まだまだこの二人との同居生活は始まったばかりだというのに、何故かずっと一緒だった家族のように思えて―――どうしてか、足が軽かった。
「・・・ひょっとして、柊也ってロリコン?」
「あのな・・・」
家族にたとえるなら美鈴はもちろん妹だが、こいつはどうなるのだろう?
「柊也はロリコン~♪」
「なんてことを大声で言うんだおまえは!?」
この放っておけなさ加減・・・こいつもやっぱり妹だ。
ああ、よくあるパターンだな、これ。
手のかかる天然の妹と少し歳が離れているしっかりものの妹。そんでもって、どっちも美少女。
「・・・・・・俺も、何を考えているんだか」
「おっはよ~♪」
昨日はあんなにビクビクしていたというのに、今日は打って変わってこれだ。単純というかなんというか・・・まあ、いいことではある。
「おはよー、清華ちゃん。朝からテンション高いねー、なんかいい事でもあった?」
「うん!うふふ、実はね・・・」
「おい清華、世界史の予習するぞ!」
「えぇぇ・・・・・・」
しぶしぶ俺の言うとおりに教科書を開く。
危ない、危ない・・・もう少しで美鈴のことを話すトコだったな、あれは。とりあえず来週までは黙っておかないと、また大騒ぎだ。高校生の身分で美少女二人と同棲しているなんて知られたら、俺の立場ってものが危うくなる。
「怪しいわ・・・」
そう呟いて俺をじろりとみるクラスメイト。だけど、俺たちはもう勉強を始めていたわけで。
「なんで記憶が無くて頭は空っぽなのに入らないんだろう?」
「私が聞きたいよ!」
ほとんど半泣きの清華だった。
するとその時。
「あらあら、朝から頑張るわねぇ、あんたたち」
「あまり無茶をなさらないで下さいね?」
「あ、おはよー」
声を掛けてきたのは友香と桐生さん。
「おはよう、二人共。俺もホントは朝から勉強なんてしたくないけど、昨日は結局出来なかったからね。今日辺りコイツ当てられそうだし」
「あ・・・ご、ごめんなさい・・・・・・」
そう謝罪するは桐生さん。きっと昨日の騒ぎのせいだと思っているのだろうけど、そうではない。
「いや、桐生さんのせいじゃないよ・・・清華の自業自得」
「あぅ・・・・・・」
横目でじろりと見ながらそう言ってやると、目を伏せて更に縮こまる清華。
「家でなんかあったの?」
「ああ、風呂から上がるや否や、美鈴と遊び始めてな」
「ゲームがあんなに面白いとは思わなかったもの・・・」
そう、平日だというのに偶然目に入ったゲーム機に興味を持ち、そのまま俺がやめろと言うのも聞かずにやり続けていたのだ。もちろん、美鈴を巻き込んで。
「ゲーム?なんか意外ねー。どんなの?」
「格ゲーだ。派手な技ばっかり出して喜んでた。まったく、どうせやるならもっとコンボとかを駆使してだな・・・」
「だってカッコいいんだもーん」
ブー垂れる清華。
初心者根性丸出しだな、ちなみに俺は瑠流以外には負けたことは無い。
「それで、夜更かしを?」
「そういうこと。いくら止めても聞きやしない・・・美鈴はずっと苦笑いしてたけどな、どっちが年上だか」
「だってー・・・」
ふてくされた。やっぱり年齢設定を間違えた気がする。
すると、桐生さんはクスクス笑って・・・その微笑みはやはり大和撫子だ。
「ふふ・・・よろしいじゃありませんか。こうして今頑張っているのですから」
「それに柊ちゃんも巻き込まれているけどね」
「もう諦めてるんだよ。コイツといると、必ず何か起きるんだ」
「でも、楽しそうに見えますよ?」
「・・・・・・まあ、退屈はしないな、確かに」
というか退屈している暇が無いんだけどな。
「・・・少し、悔しいですね」
「同感」
友香と桐生さんが何か呟いたようだったが、それは俺には聞こえなくて。
「あーん、覚えられないーーーっっ!」
その清華の叫び声だけが耳をつんざいた。