メモリー5:だから私は溶けてしまう(1)
「どうする?」
「どうするも何も・・・目を覚ましてもらうしかないさ」
「・・・してもらうって、どうやって?」
「無論、こうだ!」
グイッ!
客間に俺たちだけになったのを見計らうと、気絶している少女のとがった耳をおもいっきりひっぱる俺。もし彼女のこの耳が清華のもの同様に痛覚があるのならば、これで目が覚めるだろう。
「ひ、ひどい柊也!」
清華はそんな俺の行動を止めようとするが、彼女の力で俺を止めることなど出来るはずもなく。
「いにゃにゃにゃにゃにゃっ!?」
そんな叫びとも取れる声と共に目を覚ました少女。それで俺がすぐ手を離すと、涙目になって自分の耳をさする。
・・・ちょっと強く引っ張りすぎたかな?
「ほらみろ、目を覚ました」
「あうぅ・・・乱暴だよう、柊也・・・」
そうたしなめるように言う清華。
そのまましゃがみ込む。
「ね、大丈夫?」
そうやって少しお姉さんぶった声で少女に話しかけた。
おまえ、さっきまで子供みたいにはしゃいでいたくせに、よくもまあ。
「・・・・・・?」
それでその場にいるのが自分だけではないことに気付いたのか、きょろきょろと辺りを見回す少女。だけどやっぱりまだ耳をさすっている・・・・・・後で謝っておこう。
「あの、ここは・・・・・・」
見慣れない場所だったからか、少々警戒しているかのような声。
それを清華も感じ取ったのだろう、優しく微笑んで言った。
「ここはね、私たちのお友達の家だよ。ほら、だからそんなに警戒しなくても大丈夫」
「はあ・・・・・・」
清華の笑顔で安心出来たのか、警戒を解いた少女。まぁ、清華の屈託の無い笑顔に敵意を持つ奴はおらんわな。
・・・なんでもいいが、この女の子の雰囲気に何かデジャヴのようなものを感じるのは気のせいか?
「それで、あなたの名前は?」
「私の、ですか?」
名前を言おうとして、何か考え込むかのような表情になる。
そのまま首をかしげてしばし黙り込む。
そして徐々に冷や汗を掻き始め・・・・・・おい、まさか。
「・・・ごめんなさい、分かりません」
お、おいおい。
「私、誰なのでしょう?」
すると、びっくりしたように俺を振り向く清華。
「柊也、これって・・・・・・」
「・・・勘弁してくれよ」
「はあ、水月さんのあちらでのお友達ですか・・・」
「はは、そうなんだ。なんか姉のように慕っていた清華と離れるのがどうしても嫌で、こうやって追いかけてきちゃったみたいなんだ」
うん、そういう設定にしたんだ。
ということで同居人追加―ー。
「瑠流よりも年下ですか?」
身長などはほとんど瑠流と同じくらい、しかし瑠流は自分が小柄な方であることを分かっているからこう尋ねたのだろう。
だけど、面倒見るなら学校も同じにしなきゃ色々大変だからな。
「瑠流と同じ、一年だ。来週くらいから通わせるつもりだから、よろしく頼むな」
「はい!先輩の頼みとあらば、それはもう全身全霊を持って!」
「そ、そこまで張り切らなくてもいいから・・・」
おまえにあんまり張り切られると、かえって不安だ。
「それで、名前は?」
おそらくこういった際の司会進行になんとも適しているだろう(?)友香が尋ねる。
ふふ、ちゃんと考えたさ。
「ああ。ほら、自己紹介」
すると、一歩前に出て、お辞儀をして答えた。
「神代 美鈴です。よろしくお願いします」
「・・・変わった名前ね」
友香うるさい、しょうがないだろ偽名なんだから。
それにしても、この子も妙に礼儀正しいどころか、見た目に反して落ち着いていて大人っぽくもさえ感じる。
清華と同様に少し青み掛かった銀髪を片側でまとめており、白い肌に瞳はやはり青。かと言って姉妹ではないだろう、同じ人種といったところか。
「神代さん、ごめんなさい。私たちの騒動に巻き込んでしまって」
さっきのドンパチに巻き込まれたことは容易に予想できたから、桐生さんが謝罪した。
しかしすぐに美鈴は首を振って。
「あ、いえ・・・私自身もよく覚えていないので・・・」
「覚えてない?」
やばいな、この子は素直すぎる。すぐにボロが出そうだ。
で、フォローはやっぱり俺の役目なわけで。
「ああ、気絶してたものだから少し混乱してるんだ。だから悪いけど、俺たちはこれで失礼させてもらうよ」
「あ、はい。今日は本当に失礼しました」
本当に申し訳無さそうな桐生さん。
どうやら彼女もまた自分を責めすぎる傾向にあるのかもしれない。
「いいって。それより、また今度招待してね。今度は喜んで行くから」
俺が笑いながらそう言うと、途端にぱあっと嬉しそうな表情になって。
「はい!もちろん!」
「・・・西崎先輩はなかなか女殺しなのです」
むすっとした表情でそう言うは瑠流。
その横には苦笑いの友香。
「そういう瑠流ちゃんも柊ちゃんに夢中じゃない」
「そうなのですけど・・・なかなか先輩はそれを本気だと認識してくれないのです」
「まあ鈍いからね、アイツ」
そんな会話が交わされているリムジン。
二人を送るように桐生さんが命じ・・・いや、彼女の性格からしてお願いしたんだろう、使用人に。
「友香先輩はどうなのですか?」
「は?」
「西崎先輩のことをどう思っているのですか?ただの幼馴染っていう答えは無しですよ!」
俺と清華に美鈴は一足先に帰ったからリムジンの中は運転手とこの二人だけだ。とはいえ、それほど大きな声で話しているわけではないので運転手にこの会話は聞こえていないだろう。
友香はいつもより自然と声の調子を低くして答える。それに自分で気付いているのかどうかは分からないが。
「・・・別に、普通よ」
「嘘なのです。そんな目ではないのです」
「・・・・・・」
少しだけ流れる沈黙。
「さあ、答えてください」
「どうして?」
「返答次第では、ライバルになるかもしれないからなのです」
「素直な子ね」
「違います。瑠流は素直ではありません」
その言葉は意外だったのだろう、友香は驚いたようだった。
何故なら普段の瑠流は、思ったことをすぐ口に出す素直な子にしか見えない。そしてどんなに無茶苦茶でもすぐに行動に移す、ストレートな女の子だったからだ。
「ただ、瑠流は不利だから・・・」
「不利?」
「はい。水月先輩は一緒に暮らしているし、桐生先輩は同じクラスになったことが何度もあるらしいのです。そして、友香先輩は幼馴染です。なのに瑠流は・・・ただ一度先輩に助けてもらったことがあるだけで、ほかに接点は何もありません。先輩の事を何も知りません。皆さんとは、違うのです」
「瑠流ちゃん・・・・・・」
「だから、押して押して押しまくるしかないのです!こうやって想いを包み隠さず言葉にする以外に勝てる方法が無いのですよ!」
珍しくうつむいてものを言った瑠流。かすかに震えているようにも見えた。どうして彼女がそんな風にしていたのか。まるでそれは、どうしたらいいのか分からないと喚いている子供のように。
友香は、そんな瑠流を見たからなのか、包み隠さずに言った。
「私はね、正直分からないわ」
「分からない、ですか?」
「うん。あまりに長いこと幼馴染って関係だったからね。もうほとんど家族みたいなものなのよ。だから・・・よく分からない」
「・・・・・・」
確かに、ほとんど物心ついた頃からの関係だ。友達でもなく、今更好き嫌いがどうのこうのというものでもない。そこから何がどうなるか、なんて想像も出来ないのが本音だろう。
しかし友香は、ニッと笑って。
「でも、柊ちゃんがほかの女の子といちゃついているのは、なんか許せないわね」
その言葉を瑠流はどう捉えたのだろう?彼女の表情は変わらない、ひょっとすると答えを予想していたのかもしれない。
「では、瑠流たちはライバルですね?」
「うーん・・・そうかしら?」
「そうですよ。嫉妬するってことはそういうことなのです!」
その言葉に、クスクス笑う友香。
「じゃあ、ライバルね」
「はい!正々堂々勝負なのです!」
何故かそこで握手をした二人。なんか友情でも芽生えたか?
「しかし、柊ちゃんめ・・・美少女4人を骨抜きにするとは・・・・・・」
「だから女殺しなのですよ」
「あはは、なるほどね」
なんか妙に仲が良くなったこの二人。組ませたらこれほど怖い・・・というか、危険なタッグは無いだろう。
それからしばらくは仲良く話をしていた。
「あ、瑠流の家はそこを右なのです、運転手さん!」
「・・・あなたの家も十分大きいわ」
そのド派手というか巨大な家を見て、お金持ちの子は桐生さんにしろ、瑠流にしろ、やはり普通じゃない・・・そう思った友香だった。
「♪、♪」
耳をパタパタさせながら美味しそうに料理を食べる美鈴。すでに御飯大盛三杯目・・・この種族は大食いなのか?それにしても、なんとも美味しそうに食べる。清華も美味しそうではあったのだが、美鈴はもっとだ。まるで、食べられることそのものが彼女にとって至高の幸せであるかのように。
「柊也~、おかわりー」
「はいよ」
そして同じように耳をパタパタとさせておかわりを要求する清華。
はて、いつから俺の家はファンタジーの世界になったのだろう。まあどっちも可愛いからこの際オッケーとして。
「なあ美鈴。おまえも耳を擬態できるよな?」
「あ、はい。長時間は疲れてしまいますが、時々帽子の中に隠して休むなどすれば大丈夫です」
口元に御飯粒をつけて答える。大人っぽい雰囲気を持つ割には、その姿はまるで小さな子供のようだ。
「でもさ、美鈴ちゃんまで記憶喪失なんて・・・私たちの種族、単純だよね~♪」
確かに、そんな簡単に記憶喪失になる種族なんてたまったものではない。っていうかそんなに嬉しそうに言うなって・・・おまえも御飯粒ついてるし。
それにしても、清華はやたら美鈴が気に入ったようだ。自分と同じ境遇だからなのか、それともほかになにかあるのか。
美鈴も清華に懐くというか・・・なんだろう、何か不思議な関係に見えるが。
「うふふ、今日は一緒に寝ようね♪」
「はい♪」
まあいいか、どっちも楽しそうだし。
と、こんな感じでさらに賑やかになった我が家。
まだまだ何かが起こる気がするのはもう受け入れた・・・というか諦めた。
もうなるようになれ、だ。