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Strange彼女  作者: るびん
Part1:彼等の序章
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メモリー2:どこかで見上げた空

「ふぅ~・・・んっ・・・・・・」


 爽やかな鳥たちの歌声に目を覚ました清華は、大きく伸びをした。

 ちょうどその時、扉をノックする音が彼女の耳に届く。


「起きたか?朝飯出来てるぞ、着替えたら降りて来い」

「うん!」


 朝御飯、という言葉にそのとがった耳をピクピクさせる。

 別段食いしん坊というわけでは無いが、それでも俺と同じくらいの年だろうから育ち盛りだ、朝はお腹が空いているのも頷けるだろう。

 記憶は無いものの、それでも体が覚えているとでも言うべきか着替えは滞りなく進む。

 ただし、俺が女物の服など持っているはずも無く、母さんの服を勝手に借りて彼女に渡したのだが。


 トントントン・・・


 弾むように階段を降りてゆく清華。

 しかし、そこはお約束。


「ふにゃっ!?」


 どんがらがっしゃん!


「な、なんだなんだ!?」


 静かな朝を根底から覆すかのようなものすごい音に、慌てて俺は飛んでいった。


「あ、あいたたた・・・」


 階段の下で座り込んだ清華がお尻をさすっていた。

 ここから予想される先ほどの轟音の元を探るのは非常に簡単だ。


「・・・落ちたのか?」

「あ、あぅぅ・・・」


 恥ずかしそうに涙でにじんだ瞳で上目遣いの清華。

 俺は少しため息をついて手を差し出す。


「ほら、立てるか?」

「うん・・・ありがとう」


 手を掴むと、簡単に起き上がらせられた。

 やっぱり女の子、軽い。

 いや、今はそれより確認することがある。


「怪我してないか?」


 俺がそう言うと、清華は足首を回すなどして自分の体を確認した。

 しかしその間に痛みに顔を歪めるといった事は無い。


「大丈夫みたい。お尻はヒリヒリするけど、特に怪我は無いかな」

「そうか、良かった。じゃあホッとしたところで飯にするぞ」

「いぇーい!」


 しかしまあ、朝から驚かせてくれることで。

 椅子に座ると、さっそくテーブルに並べられた朝食に箸を延ばしては物珍しそうに、けれど昨日の警戒は何処へやら、次から次へ自分の口に運ぶ。

 彼女の嫌いなものが分からなかったから、そう滅多に嫌いだという人のいないメニューにしたつもりだ。

 幸い、やはり嫌いなものは無かったようで、なんとも嬉しそうにニコニコして食べている。


「♪~、♪」


 こうやって美味しそうにご飯を食べている様子は、普通の女の子なんだけど。


「ん、何?」


 俺の視線に気付いたのか、食べる手を止める。


「いや、いつまでも母さんの服じゃまずいよなあ・・・」

「そうなの?」


 母さんは着やすく、かつ、若々しい服を好むものだから清華が着ていてもそれほど違和感は無い。

 とはいえ、若干サイズが合わないのか、時折袖を料理に引っ掛けそうになっている。


「まあ・・・一応、無断で借りているわけだから。そうだな、制服を買わなくちゃいけないわけでもあるし、ついでに普段着も買いに行くか」

「ホント!?あ、でも・・・私、お金持ってないよ?」

「それくらい買ってやるよ」

「でも・・・」


 遠慮する清華。

 借り物よりも自分の服が欲しいのは表情からも明らかなのだが、それでも今現在完全に居候という立場になっている以上、これ以上迷惑を掛けるわけにはいかないと思っているのだろう。

 何故かそういう姿勢を見せた彼女に、俺は不思議と気分が良くなった。


「気にするな。一応、うちはそれほどではないとは言え、多少は金持ちの部類に入る。両親がやたらめったら稼いでくるからな・・・普段お気楽な夫婦のくせに、実はすごいんだぜ、うちの親は」

「そうなんだ。だけど、やっぱり買ってもらうのは気が引けるな・・・ただでさえ居候させてもらってるのに・・・」


 やはりそう思っていた清華。

 最初に飯に毒が入ってるのかなんて尋ねられた時は、なんて無茶苦茶な子なのだろうと思ったものだが、実際はとてもいい子なんじゃなかろうか。


「そこまで言うなら、後でバイトでもして返してくれればいいさ。期限は無し。返せるときに返してくれればいい・・・これでどうだ?」

「・・・・・・ありがとう。私、頑張るからね!」


 なんか妙に張り切っているし、妙にしっかりしている。

 つくづく、変な子だ。


「ところで『ばいと』って何?」


 ―――ホントに、変な子だ。




「わ、わ。人がたくさんいる!」

「あたりまえだろ、ショッピングモールなんだから」

「『しょっぴんぐもーる』?」


 そこからか。

 でも、記憶が無いから仕方ないのだろうか?


 駅近くのショッピングモールへやってきた俺と清華。

 彼女ははしゃぎながら、そうやって次から次へと質問を投げかけてくるので俺はそれに一つ一つ答える。

 それはちょっと大変だったが、俺が教えてやると清華はいちいち嬉しそうな表情を浮かべる。だから、不思議と俺もそれが嫌ではなかったんだ。


 まず最優先である制服を買いに行った。

 当然、清華は自分の体のサイズなど覚えていないので、店員(もちろん女性)に測ってもらう。

 その間に俺はコーヒーでも飲もう。


「ねーねー、バスト85ってどのくらいなの?」


 ぶはっ!


 測定を終えて服を着た清華は、いきなりとんでもないことを大声で聞いてきやがる。

 思わず俺は飲んでいた缶コーヒーを噴き出してしまった。


「げほ、ごほっ!お、おまっ、なんてコトを大声で・・・」

「ん?私、何かいけないこと言った?」


 おかしいな、ある程度の常識は記憶が無いと言えども、なんとなく分かっていると思っていたのだけど。ひょっとして、もともとこいつはこういうことに疎い奴なのかもしれない。

 しかし、それにしても・・・・・・85か。

 背はちょっと平均より低めで、体も軽くてかなり細いように見えていたけど・・・着痩せってやつかな。

 まあそれはさておき、清華にちゃんと注意をしてから制服を注文し、店を出た。

 時間はもう昼だ、ちょうどこの辺りは食堂も多く、そこかしこから様々な匂いが届いてくる。


「そろそろ飯にするか。何が食べたい?」

「私に聞かれても、分からないよ・・・」


 そういえばそうだ。

 清華にとって、知っている食べ物は昨日の晩と今朝の俺の手料理だけなのだから。


「そうすると、難しいな。何が好きで何が嫌いか分からないんだもんな」


 俺は嫌いなものは無いから何でも良いのだが、適当に入った店のものが清華の嫌いなものだったら困る。

 まさか記憶喪失にこんな盲点があったとは。

 じゃあどうしようか、そう考えていると。


「・・・!」


 突然、清華がとある店に視線を向け、俺の服の袖を引っ張る。


「どうした?」

「あのお店から、すごくいい匂いがする」


 清華はとても真剣な表情である店を指差す。

 って、なんでそんな表情?


「あそこは・・・ラーメン屋か。そういえば雑誌に載ったこともある有名な店だったはずだ」

「へえ、じゃあ美味しいのかな?」


 普通に言ったら雑誌に載るくらいなら美味しいのだろうけれど。


「どうだろうな?最近は金を積んで本に掲載してもらう店もあるからな。それがバレてつぶれたケーキ屋なんかもあった(事実)」

「ふ~ん・・・でも、食べてみないと分からないよね?」

「そりゃもちろん」

「じゃあ、あそこがいい!」

「OK」


 というわけで、やけにあっさり決まったラーメン屋に入る俺たち。


「いらっしゃい!」


 ラーメンの匂いが満たしている店内はさすがに混んでいたが、二人だったのでそう待つ事無く席に着くことが出来た。

 賑わっているものの、向き合うテーブル席のため会話は普通に出来る。

 メニューを開いて、一通り眺める。


「さて、何にするかな・・・」

「ねえねえ、『らぁめん』ってこんなに種類があるの?」


 ああ、そうでした。

 清華にはそれぞれのラーメンの説明をしてやらないと。

 そもそも彼女は醤油というものさえも知らない(俺の料理は後から掛ける必要など無い)だろうし、豚骨だとかはもっと知るはずも無いだろう。

 仕方無しに、店員に少し待っててくれと言って説明を始めた。

 その様子を店員は不審げにしていたが。


「それじゃあ、おまえはスタンダードに醤油ラーメンでいいな?」

「うん」

「それなら俺は豚骨にするかな」

「味見していい?」

「ああ、構わないぞ」

「やった♪」


 そう言うだろうと思って、俺はあえて清華とは違うラーメンにしたのだ。

 どうやら彼女は好奇心旺盛らしいから、いろんな種類のラーメンを食べてみたいのだろう。

 ラーメンが出来るのを待つ間、俺たちは他愛の無い会話をしていた。


 ・・・ん?


 こんな風に女の子と向き合って笑いながら会話をしているって、はたから見たらデートに見えるのか?

 いやいや、デートでラーメン屋は無いだろう。作者は経験論的に否定出来ないらしいが(作者:うるさい、よく行ったわ。彼女がホントにラーメン好きだったんだよ)


「どうしたの?」

「いや、なんでもない。変な声が聞こえた気がしただけ」


 ショッピングモールではかなりの視線を感じた。

 当然といえば当然かもしれない、清華は日本人じゃないし、それを抜きにしても相当に可愛いんだから。

 そんな子と同棲してるって・・・かなり羨ましがられる状況なんじゃなかろうか?


「柊也ー?ラーメン来たよー?」

「あ、いつの間に・・・」


 いかんいかん、これじゃただの変な人だ。頭を振って冷静さを取り戻す。

 そんな俺の考えなど露知らず、清華はさっそくラーメンを口に運ぶ。


「はふ、はふっ。あっつっ!?」


 猫舌なのか、食べづらそうだ。

 それでもやっとラーメンを口に含むと、ぱあっと明るい表情になった。


「美味しいーー!!」


 とても喜んでいた。

 うーん、彼女ほどラーメンを食べているのが似合わない子もそうはいないと思える容姿なのだけど。

 そして俺もやっとラーメンを一口。


「んー、中の上」

「?」

「確かにそれなりに美味しいが、評判ほどじゃないな。俺の方が上手く作れる」

「ホント!?こんなに美味しいのに!?」


 本当に美味しかったのだろう、俺がそう言うと信じられないといった表情を浮かべる清華。

 だけど真実だ、この程度のレベルに負けるはずは無い。


「ああ。なんなら、今度作ってやろうか?」

「うん!」


 自信満々に言ったからだろう、彼女も俺のことを信じたみたいで目をキラキラさせて頷いた。

 なんか動物に餌付けしているような気分だ。

 ま、何はともあれ。


「・・・それにしても、清華はラーメンが好物みたいだな」

「そうなのかな?」

「たぶんな。俺の料理を食べたときはここまで美味しいなんて言わなかったろ?」

「え・・・それは、他の人のを食べた記憶が無かったから、あれくらいが普通なのかなって・・・もちろん美味しいとは思ったけど」

「俺はな、結構料理には自信があるんだ。そんじょそこらの店には負けない」

「へえ・・・!!」


 瞳をキラキラと輝かせる清華。

 これは、これからの食事を期待している目だな。


「ともかく、ラーメンはこれくらいで美味しいって感激したろ?他のを食べた記憶が無いのに」

「そういえば・・・」

「つまりだ。ラーメンがおまえの好物、もしくは記憶を失う前にも食べたことが無い本当に初体験の味だったか、だな」

「ふむん、なるほどなるほど」


 しかし、なんでこいつはこう他人事の様なのだろう。

 うんうん頷く様には、とても記憶喪失などという悲劇のヒロインっぷりは欠片ほどにも見られない。大物なのかも。


「ま、ここもそれなりに美味しいから、全部食べるけどな」

「あははっ♪」


 会話が聞こえていたのか、少しだけ店員に睨まれたがこっちは客だ、文句は言えまい。

 悔しかったら俺を唸らせるものを作ってみろってものだ。




「ふやぁ、お腹いっぱい」

「おまえ、よく俺でも腹いっぱいになるほどの量を完食出来たな?」


 そう、18の男といえば馬鹿みたいにたくさん食べる時期だ。実際、作者と友人たちも異常としか言えなかった覚えがあるらしい。


 二時間目の授業を終えた休み時間にはお腹空いて我慢できずお弁当を食べてしまい、お昼には購買で注文しておいたパンを3、4個食べて(学食は無かった)。帰りにはラーメン三杯(月に一度、一杯100円の日があり、友人はスープまで飲み切っていた)の次に牛丼の特盛がっついて、コンビニで特大パスタ買って食べて、それから家に帰ってから夕飯山盛り・・・それが高校生。それでも足りないくらいだったし小柄だった(身長体重にスタイル、全部女の子くらい)から怖い。そして食費が酷かったと思う・・・お父さんお母さんごめんなさい。朝からご飯大盛三杯とスパゲッティとかまで、ホントすんません。

 以上、作者の懺悔でしたww


 いや作者の土下座はどうでもいいわ!

 だが、そんな無茶苦茶に食べるのが当たり前の高校男子の俺でも食べきるのがやっとであるほどの最近流行りのすさまじく量のあったラーメン。

 にもかかわらず、それを清華は見事に食べきってしまったのだ。


「・・・やっぱりおまえ、大食いなのか?」

「ち、違うよ!やっぱりラーメンが好物なんだよ!だから・・・っ」


 一応は顔を赤くして否定する清華。

 女の子に対して『大食い』というのが誉め言葉ではないことは、なんとなく理解しているようだ。

 うむ、何か彼女をからかいたい気分になった。


「あ」

「どうしたの?」


 突然何かに気付いたようなそぶりを見せた俺に問いかける清華。


「重大なことが」

「えっ、何!?」


 彼女からしたら保護者のように信用している俺が神妙な面持ちで重大なんて言葉を口にしたものだから、慌てふためくというほどに驚いた。

 俺は、じっと彼女を見つめて。


「これから普段着を買いに行くことは、分かるよな?」

「う、うん。それくらいは」


 真顔で言う。


「―――ウエスト、大丈夫か?」


 さすがに殴られた。なかなかいい右ストレート、痛かった。




「うわ~・・・こんなにいっぱいあるんだ・・・」


 店に入るや否や、きょろきょろと店内を見渡す清華。まるで上京したばかりの田舎者みたいだ。

 とはいえ、色とりどりの服が並んでいることに清華は目をキラキラ輝かせている、この辺りはやっぱり女の子だな。

 まあ、こいつからしたら何もかもが初めてな訳だから、はしゃぐのも仕方ない。


「・・・って、どこ行った?」


 少し目を放した隙に、清華の姿が消えていた。

 いくら広いとはいえ完全に見失うなどありえない。


「おい、マジか?」


 だが、どこを見ても彼女の姿が無い。

 世間知らずの上をゆく記憶喪失の清華だ。はぐれてしまったら、どうなることか・・・


 トントン。


 そう心配しながらきょろきょろと彼女の姿を探していると、不意に背後から肩を叩かれた。

 ・・・あれ、俺が背後を取られた?


「ねえねえ、どうかな?」


 驚いて振り返ると、そこにいたのは紛れもなく清華だった。

 しかし、その身に纏う服は先ほどまでとは異なっている。


「えへへ、試着してみちゃった♪」


 なんで試着なんて言葉を知っているのだろう・・・いや、それはいいのだが。

 クルリ、と回ってみせる清華。

 その仕草が妙に似合っていて、不覚にも目を奪われてしまった。

 俺だけではない、その場にいた誰もがまるでお姫様を目にしているかのように。


「あ、今度はあれ着てみたい!」


 そうやって次から次へとはしゃぎながら、とっかえひっかえ着替える様は普通の女の子となんら変わりないのに。

 その全てが似合っているものだから、いちいち他の客の目を引くばかりでなく、店員までもがまるで着せ替え人形のように色々な服を試着させてしまっていた。

 なのだが、清華は他の人の意見など全く気にしない・・・唯一、俺だけに感想を求めてくるのだ。

 なんで彼女が俺にここまで心を開いているのかは分からない。

 それでもまあ乗りかかった船だし、とことん付き合ってやるけれど。


「うーん、これくらいあればいいの?」


 しばらくして(実はもう夕方)、やっと切り上げるそぶりを見せる。


「そうだな、それだけあれば不自由はしないだろう」

「そっか・・・でも、これだけ買うとお金が結構掛かると思うけど、大丈夫?」

「金のことは心配するなって。それに、そう言うほどの値段じゃないさ」


 そうなのだ。

 清華はまだ遠慮しているのか、高い服は避けていた。

 けれど、どんな育ちなのか不思議に思えてしまうほどセンスがよく、彼女が着るとそのままファッション雑誌の表紙を飾ってしまいそうなほどだった。


 ・・・ホントに、何者なのだろう?


「あう」

「どうした?」

「重い・・・・・・」


 確かに、それなりの重さではあるだろう。

 しかし、そんなにたいしたことは無いと思うのだが。やはり女の子というものは非力なものなのだろうか?


「俺が持つよ」

「うう・・・ありがとう」


 そりゃ、荷物は男が持つものだろうが、そんなに重いと思ってなかったからな。

 実際、それほど重くなく、片手で事足りる。


「うわ・・・力持ちだね~」

「そうか?男ならこのくらい重いなんて思わないのが普通だぞ?」

「そっか・・・」


 何故かうつむいた清華。


「どうした?」

「うん・・・なんかさ、何から何までお世話になっちゃって悪いな、って・・・」

「変なこと気にするんだな」

「そうかな?」

「ああ。記憶が戻るか戻らないかの心配より、俺に悪いなんて考えてるなんて、ちょっと普通じゃないな」

「あぅ・・・そ、そうなのかな・・・」


 ちょっとだけ凹んだ清華は、まだ気にしているのか申し訳無さそうな表情だった。

 仕方の無い奴だ。


「ま、気にすること無いさ。生活に慣れてきたらその分いろいろと頑張ってもらうからさ」

「いろいろって?」

「・・・そこ、慰めるために言ったセリフに突っ込まない」

「あはは、ごめーん」


 俺自身、不思議だった。

 出会ってまだほとんど経っていないにもかかわらず、驚くほどに自然な会話が出来ている。

 確かに、親しい女の子は幼馴染をはじめ何人かいるものの、それでも会ったばかりの女の子とすぐに気安く話せるほどではない。


 ―――けれど、清華とは何故かずっと前から『一緒にいる』かのように。


「ねぇねぇ、もうこんな時間だけどどうするの?」


 そんな中、俺の考えなどまるでお構いなしに話しかけてくる。

 記憶喪失云々は関係なく、こいつはこういう奴なのだろう。


「そうだな。帰ってもいいけど、微妙な時間だな。夕飯にはまだ早いし・・・」

「でも、少しお腹空いちゃった」


 確かに、俺の腹も訴えかけていた。

 それほど動いていない俺がそうなのだ、服を見ているときに何着も着替えをしたりなどして、とにかく動き回っていた彼女は尚更だろう。


「うーん、じゃあ夕飯を少し遅くすることにして、何か軽いものでも食べてから帰るか?」

「軽いもの・・・?どんなのがあるの?」


 清華は興味津々といった様子だ。

 単に好奇心旺盛なのか、食いしん坊なのか正直判断に迷う。

 さて、軽食といえば定番だ。


「ハンバーガーとか、どうだ?」

「どうだ、って・・・分からないってば」


 そりゃそうか、ラーメンすら知らないんだ。

 ん?でも国によってはハンバーガーの方が有名か?


「早く行こ!」

「あ、ああ」


 清華に急かされてすぐ近くになんとも都合よくあった店に入る。


「へえ・・・ラーメン屋とはまた感じが違うね」

「そりゃそうだ、ファーストフードだからな」

「『ふぁあすとふうど』?」


 ああ、そうだよ、そこからだよな。もう俺も慣れてきた。

 ファーストフードがどういったものなのか、説明をする。


「ふーん・・・便利なのね・・・」


 便利?

 そうか、急いでいる人にとってはそうなのかもしれないな。

 でも考えたことも無いことだけに、どこか新鮮な感じがした。


「で、何食べる?」

「う~~~ん・・・・・・」


 種類だけなら昼のラーメン屋よりも遥かに多い。

 しかし今度は写真付きだから、説明せずともある程度は分かるだろう。


「・・・どれが一番美味しいの?」


 うん、そう来たか。

 そんなこと言われても、人によってそれは異なるわけで。

 結局、店員さんお勧めの新登場のセットに落ち着いた。


「おーいしー❤」


 どうやら、相当お気に召したようだった。

 よかったよかった。


「意外におまえって、お姫様みたいな見た目と違ってジャンクフードとかが好きなのかな?」

「『じゃんくふうど』?」

「こういう食べ物のこと。確かに美味しく感じるかもしれないけど、食べすぎは駄目だぞ?塩分濃いし、栄養バランスも悪いからな」

「うん、おっかさん♪」

「誰がおっかさんだ」


 こんな軽口も出る。っていうか、なんでこんな言葉を知ってるんだか。

 ともかく、これで清華の好きなものがいくつか分かったわけだ。

 ラーメンにハンバーガー。

 見た目にそぐわず妙に庶民的だが、これなら気軽に連れて行ってやれるし、俺が作ることも出来る。

 そうだな、たまには食べさせてやろうか。




「もう真っ暗だね~」


 店を出て、ライトアップされた並木を目にした清華が言った。

 それでもそれは眩しいほどではなく、夜空に瞬く星だって見えるくらいで。

 どうしてか、季節の変わり目独特の切なさを映し出しているような気がした。


「そうだな・・・もう夏も終わるし、暗くなるのが早くなったな」

「なんか、少し寒いかも・・・」


 確かに、まだ息が白いとまではいかないけれど、それでもこの季節にしては冷え込みすぎているかもしれない。

 かすかに身を震わせた清華。


「・・・ほら」


 ふぁさ・・・。


 俺は自分の上着を清華に掛けた。

 もちろん上着と言っても、まだ夏も終わりきっていないのでそれほど厚手のものではないが、これくらいがちょうどいいだろう。

 すると、清華は少し驚いたような表情を見せる。


「え・・・?」

「これで寒くないだろ?」

「でも、これじゃ柊也が・・・」

「俺なら大丈夫、むしろこれでちょうどいいくらいだ。だから気にするな」

「だけど・・・」


 どこまでも申し訳無さそうにする清華に、ため息をついて言う。


「あのな、人の好意は素直に受けるのが礼儀ってものだぞ?」


 ポン、と軽く頭に手をやった。


 ・・・はっ。


 大して年の差が無い(一応は同い年と決めてある)に対してこんな行為は怒らせるだけかもしれない・・・・・・と思ったのだが、清華はそんな俺の予想とは裏腹に少しだけ嬉しそうに目を細めて言った。


「うん・・・ありがと」


 何故か、俺はその笑顔を見ただけで体の芯から暖かくなってしまったのだった。




「たっだいま~♪」


 家に着くや否や、元気よく先に入っていく清華。

 そしてすぐに俺の方を振り返って言う。


「お帰り、柊也」

「ああ、ただいま」


 そのよく分からない行動に、何故か乗せられてしまった。けれどそれが嫌ではない。

 むしろ自分を迎えてくれる人がいる(一緒に帰ってきたのだけれど)、それがむず痒くて。


 ――どこか、心地良かった。


「んしょ、んしょ」


 一方の清華はというと、俺のそんな感情など当然知る由も無く、荷物の整理をしていた。

 さすがにこれを俺が手伝うのはまずいだろうと思い、居間でボーっとテレビを見る。

 ちょうど『ナゾの失踪!消えた少女』などという番組をやっていたが、これはいわゆるトンデモものだ。

 内容は単純かつ馬鹿げたもの。突然消えた女の子の消息を自称超能力者が捜す、といった風。


「感じます・・・彼女は異界にて恐怖に打ち震えています!」


 ・・・アホか。

 そんなものが本当にあるのなら、俺は逆立ちしながら鼻でうどんをすすってやるっての。

 こんなので金がもらえるとは、なんてふざけた社会なのだろう?


 ――けれど、こんな番組の中でたった一つだけ真実がある。


 それは、その女の子の両親は必死で彼女を探している、ということ。

 痩せこけた頬からは、食事をロクにとることもせずに、夜も眠ることが出来ていないだろうことは容易に推測できる。

 警察に頼んでも見つからず、四方八方手を尽くしてもその手がかりすら得られずに、こんな番組に頼るしかなかったのだろう。


 ・・・そうなのだ。


 清華の両親も、こうやって彼女の安否を心の底から心配しているのだろう。

 何も手につかず、ただ愛する娘のことだけを考えて。


 なんとかしてやりたい。


 けれど彼女自身が記憶喪失では、その手がかりすら無いわけで。

 結局今の俺に出来ることは、彼女を保護して世話することだけ。


 なんて、もどかしいことだろう。

 喧嘩に強かろうが、世界中を回った経験があろうが、出来ることはたったそれだけなんだ。


 ・・・ん?なんか一瞬だけ俺と同じようなしかめっ面をした同い年くらいの男が映ったような気がしたが。


「柊也ー!ちょっと来てー!」


 そんなことを考えていると、部屋の方(説明を忘れていたが、ちょうど二階に空き部屋があったのでそこを彼女の部屋にした)から俺を呼ぶ声が聞こえた。


「なんだなんだ?」


 清華の元気な声は、彼女の現状を忘れてしまうほど明るいものだ。

 普通なら、記憶が無かったら・・・しかも自分の姿が明らかに普通とは違ったなら不安で仕方ないことだろう。

 それだけで心が押しつぶされたとしても不思議ではない。

 なのに、彼女は平然としている。まるでそれが人ごとであるかのようにあっけらかんとしているのだ。

 彼女は大物なのか、それともーーー何か理由があるのか?


「どうかしたか?」


 開けっ放しにしてある(女の子がそんなのでいいのかは俺には分からない)部屋の中へ。


「じゃじゃーん!どう、これ?」


 そう自慢げに言うだけあって、部屋の中は見事だった。

 でも、じゃじゃーんはちょっと古臭いぞ。


「おお・・・」


 服はまるで有名ブランド店のように見事に飾られ、いつの間に買ったのか、可愛らしい小物が綺麗に陳列されている。

 全体的に華やかな・・・まるで御伽話のお姫様の部屋のようだった。

 これは生半可なセンスの良さではない。生まれもったものか、そういった世界で育ったか、だ。


「おまえ・・・やるなあ・・・」

「えへへ、大したものでしょ?」

「ああ、びっくりした」


 誉められて嬉しそうに、耳をパタパタさせながら自慢げに胸を張る。

 結構な大仕事だったのか、彼女は薄着になっているうえに、うっすらと汗を掻いていた。

 それが妙に色っぽくて、しかも少し下着が透けているものだから俺は目のやり場に困ってしまう。


「ん、どうしたの?」


 本人にそういった自覚は全くないのか、更に体を寄せてくる。

 いくら学校では色々な言われ方をしている俺でもやはり高校生の男子だ、それに耐え切れるはずも無く、無理やり話題を切り出すしかなかった。


「そ、そういえば、耳はもう元に戻したんだな?」


 その通り、家に帰ってきてすぐに耳は本来の姿である、とがったものに戻っていた。


「あ、これ?だって、擬態しているの疲れるんだもん。家でくらい、いいでしょ?」

「そうなのか?」


 一体どんな仕組みなのか擬態できるだけではなく、それは疲労までをも伴うもののようだ。

 だったら、家の中でくらいは好きにさせてやりたい。


「結構大変なんだよ・・・少し気を抜いたり、驚いたりすると元に戻っちゃうんだから。そうしたら大騒ぎになるんでしょ?」


 どうやら、自分の耳が異質なものであることは、この間の俺の反応から理解しているようだった。

 そして急に上目遣いをしてくる清華。その口調も先ほどまでのものとは明らかに違う・・・非常に真剣な、かつ、懇願するかのような。


「でもさ、柊也の前でだけならならいいんだよね?本当の私でもいいんだよね?」


 何かその言葉に引っかかるものを感じた。

 それでも、それを否定することなど俺には出来るはずもないわけで。


「ああ。家でなら構わないよ。俺しかいないところなら、何も隠さないでいい」


 ・・・どこか、口説き文句のようにも聞こえなくもないが。


「ふふ、良かった」


 そんな清華の安心しきったような嬉しそうな表情だけで、なんかほかのことはどうでもいい気になれてしまう自分がそこにいた。




「ふは~、美味しかった~♪ごちそうさま!」


 今日の夕飯のメインは肉じゃが。

 実は、俺の好物だったりする。

 それだけに味には自信満点、清華も満足したようだった。


「おそまつさま。風呂沸いてるぞ、入りたくなったら入りな」

「うん。でも、今はお腹が張ってるから時間が経ってから入るね」


 それもそうだろう、清華はすさまじい勢いでガツガツと食べていた・・・それはもう、俺が女の子に対して持っているイメージが粉微塵に打ち砕かれるほどに。

 お姫様みたいに上品なところがあるかと思えば、こういうところもある。

 本当に不思議な奴だ。


「あ、片付けと食器洗いは私がやるよ!」


 俺が食器を片付けようとすると、彼女は立ち上がってそれを奪い取らんとするばかりの勢いで。

 だがあっさりと任せるのには有り余るほどの不安がよぎる。


「・・・出来るのか?」

「ば、馬鹿にしないでよ・・・・・・・・・多分出来る」


 その声は非常に自信無さ気・・・って多分かよ、おい。

 でも、その意気込みを無下に断るわけにもいかない。


「そんじゃ任せた。でも、無理はするなよ?」

「うん、大丈夫。任せて!柊也はテレビでも見ててよ!」


 ものすっごく不安ではあるけれど。

 でも、いつまでもおんぶに抱っこじゃ、清華も成長しない。

 一抹の不安は拭えないけれども、俺は大人しく居間でテレビを見ていることにした。




 意外にも、予想していた『パリーン』『ガッシャーン』といった音が俺の耳に届くことは無かった。

 それどころか、気がつくと台所からは一切の音が無くなっていた。


「・・・清華?」


 返事は無い。

 また倒れてやしないだろうかと少し不安になって、俺は台所を覗き込む。


「おーい?」


 やはり返事は無い。

 それどころか、台所に彼女の姿は無かった。


「お、食器は全部綺麗に洗ってあるじゃないか・・・」


 意外にも問題なく食器洗いは終えていたようだ、しかも汚れの洗い残しも無い。やるじゃないか。

 けれど、彼女の姿はやはり見えない。


「なんだ、疲れて先に寝ちゃったのか?」


 その可能性は十分にありうる。

 今日はなんだかんだ言ってずいぶん歩いたし、何もかもが初体験といってもいい彼女にとっては緊張の連続であったはずだ。

 疲れていないということの方がありえないだろう、おやすみを言うことも無く眠りに落ちてしまっていても仕方が無い。


「しゃあないな・・・」


 それじゃあ、俺も寝ることにしよう・・・っと、その前に風呂に入らないと。

 俺もある程度疲れていたのだろう、少しボーっとしたまま脱衣所で服を脱ぎ、風呂場へと入っていく。


「・・・・・・・・・」

「・・・・・・ん?」


 そこにはなんと先客がいた。

 えっと、今現在この家にいるのは二人。

 俺と清華。

 で、目の前にいるのは俺以外の人物。


 ・・・するってぇと、消去法などといわずとも一人に限定されるわけで。


「・・・・・・・き・・・・・・・・・・・・」

「あ、はは・・・こ、これは事故だよ、事故・・・・・・駄目?」

「きゃあああああああああっっっ!!!」




「・・・で、なんでこんな事になってるんだ?」


 本当にそう思う。


「ん?なんか変かな?」


 変も変だ。

 今の状況を簡単に説明すると、清華が俺の背中を洗っている。

 ぶん殴られることを覚悟していたのだけど・・・いいのか、これ?


「変だろ・・・どう考えても。それに、さっきおまえ悲鳴あげただろうが」

「あれは、いきなりだから驚いただけ。御飯を二人で食べると美味しいように、お風呂だって一人で入るよりも二人で入ったほうが楽しいよ?」


 いや、それ以前に。

 年頃の男女が一緒に風呂に入ること自体に問題があると思うのだが。


「それにさ、裸見られたって減るもんじゃないし、別にいいでしょ?」

「あのな・・・おまえくらいの年頃だとそれが恥ずかしくて怒るはずなんだけどな?」


 誰がどう考えても俺の意見が正論だろう。

 ぶっ叩かれたって俺は文句を言えない、それがこの世界の常識のはずなのだ。

 けれど、清華は。


「そりゃ、恥ずかしいわよ。でも、柊也だからいいかなって」


 その言葉は色々な意味に取れるのだが。


「柊也のおっきい背中~、ゴッシご~し♪」


 なんかよく分からん鼻歌まで口ずさんでいるし・・・言っておくが俺はそれほど体が大きいほどではない、平均よりかはあるけれど・・・まあ彼女からしたら大きいことに違いは無いか。

 そして正直、俺にとっては棚から牡丹餅でラッキーなわけだが、こうまで堂々とされると意識しているのが逆に馬鹿馬鹿しくなってくるものだ。


「じゃあ今度は柊也の番だよ~♪」

「なんですと?」

「私は柊也と違ってデリケートなんだから、あんまり力入れないでね?」


 そう言って背中を向ける清華。

 どこでそんな言葉を覚えたのか、いやそれより洗いっこなんて事をいつ知ったのか、いやそれより・・・・・・・・。


「柊也~?どうしたのよ~?」


 そう俺を急かす。


「あ、ああ、悪い」


 落ち着け。

 相手は記憶が無い・・・言ってみれば親にその全てを依存する幼い子供と同じなのだ。

 この行為だって俺を親として甘える子供の行為に類するものに過ぎない。

 いくらスタイルが良かろうと、いくら肌が白かろうと、いくら汗ばんで色っぽかろうと・・・・・・。


「柊也ってば、それじゃさすがに弱すぎるよ。もうちょっと力入れてよ」

「わ、分かった」


 あああ・・・。

 もう俺の頭の中は真っ白だ。


「あん、そこ・・・気持ちいい・・・・・・」


 時折そんな妙に艶の入った声を出すものだから、たまったものではない。

 ほんの数分のことだったはずなのに、俺には恐ろしく長く感じた。

 それにしても女の子って、あんなにも柔らかいんだな・・・。

 で、さすがに湯船に同時に入るには狭かった(清華は構わないと言ったが、さすがにそれは俺が理性を保てるか怪しいので)から、順番に入ったのだが。




「ふや~・・・気持ちよかったねぇ・・・」


 誰かさんのおかげで俺は少々のぼせていたが。


「夜風が気持ちいい♪」


 買ってきたばかりの寝巻きに身を包み、縁側に腰を下ろして夜風に当たる清華。

 長い髪を乾かすためなのか(ドライヤーはなんとなく嫌らしい)、結ったりはしていない。


「ほれ、食べるか?」


 俺はほてった体のまま口にアイスをくわえていた。

 それと同じものを清華に差し出す。


「なにこれ?冷たそうだけど」


 そりゃ冷たいですよ。


「アイスキャンデーって正式には言うのかな?ま、ともかくこういう時に食うものだ」

「ふ~ん、じゃあもらうね」


 一番初めのときのような警戒心は本当にどこへ行ったのか、なんの疑いも無く受け取ったものを口へと運ぶ。


「ひゃっ、冷た~い・・・それに、甘~い❤」


 一瞬その冷たさに驚いたようだったが、どうやらお気に召したようだった。

 それを見てから俺も彼女の横に腰を下ろす。

 何故か、そうして眺めた夜空はいつもより少しだけ綺麗に見えた。


「・・・不思議だ」

「何が?」

「なんだろう?」


 そう口にしたものの、それの正体がなんなのかは全くもって分からない。

 こんな感覚、初めてだった。


「ふふ、変なの」


 そう言った清華は、陰りなど微かにも無い笑顔だった。

 何故かそれだけで他の事はどうでもいい気がして。


「ねえ、学校っていつから行けばいいのかな?」


 少し楽しみなのか、まるで遠足前の子供のような表情で尋ねてきた清華。


「・・・明日」

「早っ!?」


 彼女が驚くのも当然、まさかこんないきなりだとは記憶があろうが無かろうが思わないだろう。

 だけどそこはフィクション(おい)、どんな無茶苦茶だろうと全然問題なくオッケーだ。


「まあな。普通なら来週とかなんだろうけど、親父が理事長と竹馬の友らしくてな、俺に全幅の信頼を置いてくれているんだ」

「はあ・・・それで細かいことは関係なしに、私の転入を了解してくれたってこと?」

「そういうことだ。いくら明日が月曜だからって、連絡した次の日にいきなり転入を許すなんて無茶苦茶だよな。書類とかは後で適当にやればいいってさ」

「て、適当なんだ・・・」


 さすがの清華もこれには少し呆れたようだ。

 実は適当というのは正しく適正にという意味で、昨今使われているのとはまるで正反対なんだけどね。


「ま、そういうことだから、今日は夜更かしなんてしないで早く寝るんだぞ?」

「はぁーい」


 全く、分かっているんだかいないんだか。

 とにかく、明日からまた大変だ。

 俺は今晩中に清華のプロフィールを考えないといけない、ただでさえ転校生ってのは色々と質問される立場なんだ。

 なのに、清華は明らかに日本人じゃない上に記憶喪失ときたものだ。

 上手くごまかすために、しっかりと考えておかないと。

 それでそれを朝の内に覚えさせる。

 ボロが出ないといいんだけど・・・・・・。




 明日から、当たり前だった普通の高校生活が少しだけ姿を変える。

 それがどんな結末を迎えるのかは今の俺には分からないけれど――きっとそれは楽しいことだろう、何故かそう思えて。





 その時、どうしてか胸がドクン、と、ざわめいた

 なんだこれ?でも、この感覚は知っている気がする

 そうだ、あの子にもらった半身が――――


「柊也、おやすみー!」


 その声で我に返った。

 あれ、なんで清華の声はいつでも俺に届くんだろう?

 そして・・・俺は何を考えていたんだっけ?


「あ、ああ。おやすみ」



 ―――その後、俺はいつ眠りについたのかの覚えが無かった。


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