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Strange彼女  作者: るびん
Part1:彼等の序章
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メモリー1:Meet Again

「えーと・・・」


 物語の開始早々にとんでもない状況になっていて、思わず呆然とする。


「こういう時、どうするのがいいんだろな?」


 普通ではそうありえない、さすがの俺でも未経験のことだ。

 というか、あったらそれはそれで色々と問題だろう。

 しかし、このまま放っておくというわけにもいかない。


「仕方ないな」


 警察を呼ぶなり、救急車を呼ぶなりするのがベストなのかもしれないが、見たところ日本人ではない。

 ひょっとしたら何か訳ありなのかもしれないし、俺の一存で決定するのはアレだろう。


「しょっ、と・・・」


 そんな訳で、俺は『道に倒れていた女の子』を背負って我が家まで運んで行ったのだ。



 じゃっ、じゃっ


 ちょうど夕飯時であったため夕飯を作る、当然だが女の子の分も作ることにした。

 お腹が空いた行き倒れって事も考えられるからな。


「よし、こんなもんだろ」


 一応料理は得意なので、慣れた手つきで出来上げた。

 とはいえ、自分以外の人に食べさせた事はそれほど多く無いので、彼女の口に合うのかは分からないが。


 コト。


 皿に盛ってテーブルに置く。

 すると、その音に反応したかのように女の子がゆっくりと起き上がった。


「・・・?」

「お、気がついたか?」


 俺がそう声を掛けると、少しだけ驚いたように目を見開く女の子。

 しかし、その視線はすぐにテーブルに並べられている料理へと向けられる。


 きゅるる・・・。


「・・・っ!」


 その音が彼女のお腹の音なのは言うまでも無いだろう。

 さすがに恥ずかしそうな表情を浮かべた。

 だがお腹が空く事は男女問わず当然のことなので、俺はさして気にしはしない。


「やっぱり腹減ってるのか。いいよ、食べな」

「・・・毒とか、入ってない?」

「は?そんなもん入れるわけ無いだろ?」


 いきなり何て事を聞くんだ。

 余程俺を疑っているのか、それともちょっと普通じゃない環境で育ってきたのだろうか。

 俺が答えるも、未だ疑いの視線を送ってきていた。


「・・・ホント?」

「ああ。安心して食べな」


 そう出来る限り安心させるように笑って言うと、女の子はやっとホッとしたような表情を浮かべ食べ始めた。

 相当お腹が空いていたのだろう、ガツガツと女の子らしからぬ勢いで。


「・・・っ!お、美味しいっ!」


 男の俺が作ったとあって味に期待はしていなかったのだろう、驚嘆の声を上げてこちらを向く。

 まあ俺の容姿は、誰がどう見ても料理上手には見えないと言えよう。

 男にしては少々長めの髪、身長は高くも低くもなく、言ってしまえば平々凡々だと自分では思う。そして家庭事情からか、少々強面と言ってもいい顔つきをしているはずだ。

 だから、とても料理が出来るとは初対面の人はまず思わない、彼女もそうだったのだろう、まさに信じられないといった顔をしていた。

 しかしすぐに料理の方に向き直り、より一層激しい勢いで食べることを再開させる。

 俺はと言うと、どこか微笑ましいその様子を眺めていて、今更気がつくことがあった。

 彼女はよく見ると、日本人では無いばかりか見たことの無い人種ではなかろうか?

 自慢ではないが、数年前まではよく親父に連れられて(引きずられて)世界中を旅して(流浪ともいう)回っていた。

 だからほとんどの人種は見れば分かるのだが――けれど、そんなことは関係なしに彼女は相当可愛い。

 少し青味がかった腰まで届くかのような長い銀髪、透けそうで雪のような白い肌、純粋で汚れない青い瞳、ピンと立つとがった耳。


 ・・・・・・ん?


 今・・・俺、変なこと言わなかったか?

 えっとーーーーーーとがった耳?


 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。


「・・・何ぃっ!?」

「きゃっ!?」


 突然の俺の大声に、食べることに夢中だった女の子は跳ねるように驚いた。

 だがそんなこと、俺の驚きに比べれば大したことではない。


「と、ととととととと・・・とがった耳ぃっ!?」


 彼女の姿をまじまじと眺める。

 間違いなく、彼女の耳はとがっていた。

 あれだ、俗に言うエルフとやらのようにとがっているのだ。

 だけど、あれは空想上の生き物。

 現実には、とがった耳を持つ人間などいるはずが無い。

 そして俺はそこまで考えて一つの結論にたどり着く。


「そうか、あれだな?最近流行のコスプレとか言うやつだな?」

「?」


 そうだ、実際に目の当たりにしたことは無いけれど、テレビなどではそういった格好をしている人がよくクローズアップされている。

 前に、幼馴染がちょっとだけしてみたいとか危険なことを言っていた記憶さえもある。

 きっと、それだ。そうに違いない。


「てことは、これは作り物か・・・それにしてもよく出来てるな、本物かと思った」


 そう一人でうんうんと納得して彼女の耳をくいっと引っ張る。

 すると即座に女の子は悲鳴を上げた。


「痛い痛いっ!」

「へ?」


 そんな彼女の反応に驚いた俺は思わず手を離す。

 彼女はかなり痛かったのだろう、猛然と抗議した。


「い、いきなり何するのよぅっ!?」

「・・・取れない?」


 まさか本物?

 いや、そんなわけが無い。

 きっと余程強力な接着剤で固定しているのだろう。

 そう思い、確認するために俺は次の行動に移る。


「ていっ!」


 ピンッ!


 耳の先を指で弾いてみた。

 所詮作り物、反応は無いに決まって・・・・・・


「痛っ!」


 ・・・・・・痛い?

 痛覚がある?

 えっと、それはつまり―――――。


「何いいいいぃぃっっ!?」


 西崎にしざき 柊也しゅうや、18歳。

 かつて無い衝撃だった。




「ごちそうさまでした!」

「ああ、おそまつさん」


 とりあえず彼女が食べ終わるまで問答は控えた。

 お腹がいっぱいになって嬉しいのか、彼女のとがった耳はパタパタと動いていた。


「・・・・・・」


 ありえない。

 この世界に、こんな常軌を逸した人種はいないはずだ。

 もしいるとするならば、とうの昔に発見されて大騒ぎになっているだろう。

 現代を舐めてはいけない。

 どんな秘境にいようと、発見されないはずは無いのだ。


 しかし彼女は、間違いなくここにいるのだ。


「あ、あの・・・」

「ん?」


 そんな風に自分の常識の限界を越えた目の前の現実に考え込んでいた俺に、沈黙を破る女の子の言葉。


「あ、ありがとうございました」


 ペコリ、と礼儀正しく頭を下げた。

 それからも、ちゃんとした教育を受けていることは見てとれる・・・言語が何故通じるのか、というところにはツッコまないように。

 で、こういう場合はまず名前を名乗るのが基本だろう。


「俺は西崎柊也。君は?」


 そう、英国紳士ならば先に自分から名乗るのである(俺は日本人だけど)。


「えっと・・・・・・」


 答えようとして、何故か考え込むかのように首を傾げる女の子。

 時間が経つにつれて笑顔のまま、額にジワリと汗をかき始めた。


「・・・・・・・?」

「ど、どうした?」


 一向に答えずに眉間にしわを寄せる彼女に尋ねる。

 しかし彼女の返答は、これまた信じられないものだった。


「どうしよう・・・・・・私、誰なのかな?」

「・・・は?」


 再び、かつて無い衝撃に襲われる西崎柊也、18歳だった。




「どないせーっちゅうんじゃ・・・」


 思わず頭を抱えた。

 耳がとがっているなどという常識では考えられない姿をしているだけでは飽き足らず、なんとその記憶まで無いときたものだ。

 幸い、言葉などは覚えているようで会話等に支障が無いのは救いではあるが。


「ご、ごめんなさい・・・」


 申し訳なさそうにしゅんとして謝る女の子、なんと耳まで垂れ下がっている。


「そう謝るな、それはそれで仕方の無いことだ。それより、これからどうするか・・・警察に任せるか、それなりの施設に入れるか・・・」

「え・・・?」


 女の子は俺のその一言に不安そうな表情を浮かべた。


「仕方ないだろ?俺にどうにか出来ることじゃないし」

「で、でも・・・怖いよ・・・・・・」


 そう女の子は身を震わせる。

 そして今にも消え入りそうな声で。


「知らない人は、怖い・・・」

「あのな、そう言ったら俺だってそうだろ?」

「ううん、柊也は怖くない。どうしてかは分からないけど・・・怖くないよ」


 可愛い女の子に真っ直ぐな瞳でそう言われたら、思春期真っ盛りな男には到底耐えられないことは説明せずとも理解してもらえるだろう。

 ここで彼女を見捨てることが出来るほど俺は非情になりきれない。

 仕方なく、溜め息交じりではあるけれど。


「・・・はあ、分かったよ」

「え?」

「幸い、両親も仕事で海外に出張中だ。記憶が戻るまでここにいればいい」


 俺のその言葉に表情を明るくさせたものの、彼女は未だ不安げに問いかける。


「・・・いいの?」

「構わないさ、一人暮らしも退屈だし・・・あ、もちろんある程度の家事くらいはやってもらうけど」

「う、うん!それくらいなら喜んで!」


 そう嬉しそうに、とりあえず食べ終わった後の食器を流しへ運んでいく。

 そしてそれらを洗い終わった後、食後のお茶をすすりながら女の子の名前を決めた。


 水月(みなつき) 清華(さやか)、18歳。


 それを彼女の名前とした。名前が日本人名だが、ハーフということで押し通す。

 そして、俺と同じ高校に通うということまで決めてしまった・・・理由は簡単、近くにいたほうが何かと面倒を見やすいからだ。

 そして肝心の耳だが、どうやら彼女の意思次第で普通の耳に見た目は変えられるよう(それでも驚いたりすると元に戻ってしまうのだが)だから、普段は隠してもらうことに。


「んふふ・・・よろしくね、柊也」

「ああ。よろしく、清華」


 何はともあれ、彼女の出現により俺の生活は一変することになったのだ。

 可愛い女の子と同居生活。

 聞こえはいいが、不確定要素が多いだけに先行きは不安だらけ。

 けれども何かが起こる、そんな予感がしていた。


 そしてーーーどこか懐かしい、不思議な感覚があった。


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