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ラブコメ・恋愛

プレゼント、質素なもので喜ぶか


「女が本当に愛しているかは、安いプレゼントを渡した時の反応で分かる」


「そのために、今日、これを持ってきたんだろう。100円ショップのアクセサリーだ」


 俺は信用していなかった。唐突に、告白されて、嘘コクだと思っていた。

 しかし、俺も鬼ではない。

 泉に落とした斧ぐらいの感情はある。つまり、あなたが欲しいプレゼントは100均のアクセサリー(指輪)ですか、それとも、お高めの誕生石のアクセサリー(2500円)ですか。

 高校生、ガチのアクセサリーを買う資金力なし。バイトしてないし。一万円とか無理なわけです。彼女の誕生石の価格が、控えめで良かった。


 彼女に100均のプレゼントをあげて、やばい顔されたら、冗談だよ、と、もう少しマシなプレゼントをあげる。

 うん、嘘コクでも別れる気はない。

 だって、これを逃したら、釣った魚を甘やかして逃がさない俺の蜘蛛の巣がやぶけるじゃないか。釣った魚に餌をあげない男が多い中、なんか擬似餌にくっついていた釣れるはずのない魚。絶対にリリースしない。

 分かりやすく文学的な高尚な表現を抑えると、レンタル彼女だろうが偽カノジョだろうが、そんなことはどうでもいい。可愛い子と時間を過ごせるならば。贅沢は言わない。美少女だったら。


 傷つきやすい思春期男子はもうやめました。

 愛なんてなくても後で育めばいいのです。

 チャンスの女神には前髪しかないらしいし、機会を逃す者は生き残れないんだよ。

 そのとき、愛がなくても、いずれ芽生えるのさ。



「今日、た、たた、たん、誕生日っ、だよね」


 俺はできるだけ自然に誕プレを渡すきっかけの話題作りをした。


「そうだよ」


「こ、これ」


 なんて自然な会話なんだ。彼女と僕のコミュケーションが円滑すぎる。

 要点をおさえた完璧な答案。

 無駄のない簡潔なコミュ力。


「ありがとう。誕生日プレゼント?」


「う、ううん……うん、うんうん」


 あっ、そのまま誕生石の方の袋あげちゃった。


「ここで開けたほうがいい?」


「ちょちょ、ちょっと待って。えっと、その、えっーー」


 シミュレーションが完全に外れました。しかし、俺はいつでも、不確定事項に対して、冷静に対処できる妄想をしてきた。

 予想外を予想しろ、と批判することをやめないぐらい意識が高い。


「開けちゃダメ?」


「まま、待って」


 まだ間に合うのでは、つまり「間違った」と言って、100斤を、いや100均のプレゼントの方を交換すれば。

 いやでも、その場合、彼女が100均に嫌な顔をして、さらにONE回転をするわけじゃん。なんだ、全然スマートじゃない。

 ここまでのスマートな誕プレ祝いが失笑の思い出になってしまう。 

 ならば、ここはーー。


「ど、どどどっ、どうじょ」


 うん、落ち着いて答えられた。さすがにね、計画はあくまで計画。計画は従うだけが脳ではない。

 時に臨機応変に才気煥発しないと、才色兼備の名は、与えられない。


「じゃあ、開けるね。開けちゃうよ」


 やめろ。時間をかけるな。

 時間が重いんだ。相対性理論を理解してから。


「んー、やっぱり、あとの楽しみにしようかなー」


 こ、こいつ。俺の態度を楽しんでいるだとっ。

 まさか俺と心理戦を始めようというのか。

 ならばっ。


「じ、じつ、実は、誕生日プレゼントは2つある」


 修正してやる。100均ドッキリを仕掛けてやる。

 俺と心理戦をしようだなんて100年早い。知謀の王、いと高き糸杉の俺は、大人の恋愛テクニックの全てを知っている。


「じゃあ、こっち開けてもいいね。準備いいねー」


 袋を何も気にしないように、無造作に開ける。

 こ、こいつ、大きな箱、小さな箱、どっちを開ける的なきたきりすずめを知らないのか。ん、舌切り雀だったか。いや、こぶとりじいさんか。

 俺のアバウトな知識の循環を無視して、彼女は行動という恐れなき行為をしていた。袋が開けられた。


「ラピスラズリだ。12月の誕生石だね。ありがとう。大事にするね」


 よし、こっちの袋は捨てよう。

 彼女の笑顔を守りたい。

 二つ目のプレゼントはハードルが上がる。よって、資本主義のように恋愛の資本主義はかぐや姫を思わせるように無茶な願いになっていくのだ。


「それで、そっちの袋は、持って帰って開けるね」


「だ、ダメだっ」


 俺よ、考えろ。

 考えるんだ、この恋愛の試練に対して落とし穴に引っかからない方法を。


「う、浦島太郎を知ってるか」


「えっ、うん。まぁ、当たり前に」


「これは玉手箱だから。開けていいというまで開けたらダメだ」


「玉手箱って、いつ開けてもダメなんじゃ……」


 ご、ごめんなさい。話を変えよう。


「つ、鶴の恩返しを知ってるか」


「し、知ってるけど」


「見ちゃダメだ。見ちゃダメなんだ。これはプレゼントという名の、そのプレゼントという概念なんだ」


 愛というのは無形遺産なんだ。


「えっと、御守りみたいなもの」


「そう、それだ。それだよ。1年間大事にしまって、最後は燃えるゴミに出してくれ。一年後、また同じものを渡すから」


 ふいー、のりきった。昔話は偉大だな。なんていう説得力なんだ。


「何それ。いったい、何が入ってるの?」


「と、とにかく、これは開けてはいけない系のアイテムだから」


「そうだ。初詣、一緒に行こうね。おみくじ引いて、御守りももらおう」






「袋小さくなったね」


「それくらいで入るものだからね」


 なんやかんやで付き合い続けてる。うん、惰性というものかもしれないけど、慣性の法則には習慣という罠。やめられないとめられない中毒性。

 もう9年経った。


「今年も開けちゃダメなの」


「こ、今年は開けてもいいかなぁ」


 今回は誕生石よりも高い、ちゃんとしたリングが入っているから。燃えるゴミに出さないでね。


「えー、なんでー」


 くっ、俺の反応を見て楽しんでいるな。

 しかし、俺は負け、負け、負けなーー。

 なんて、純粋な目でこっちを見てくるんだ。なぜなぜ期の子供のような。

 

「……言わせないで」


「そういえば、今までの袋、実は捨てずに持ってるんだけど、順番に開けていこうかなー」


 やめろー、俺の黒歴史を開こうとするなー。

 彼女はクスクスと笑う。

 俺を舌戦で、ここまで追い詰めるのは、キミだけだぞ。


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― 新着の感想 ―
[良い点] どう考えても嘘告ではないですね! 幸せな気持ちになれました。さすがです。
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