宿屋にて【3】
「――我が名はあおい、神の名のもとに力を行使する者。」
あおいの足元に金色の魔法陣が出現し、あおいを眩い光が包む。そして手に持った杖の宝具は輝きを放つ。
「サモン、ブルー!」
あおいの正面に浮かんだ友達手記の一ページ目が開かれ、部屋いっぱいに魔法陣が広がり、そこには光を纏いながらブルーの姿が現れた。だが、その体躯が巨大なため、部屋がいっぱいになってしまう。
「うぎゃ!」
壁に押しやられたリンが、何やら苦しそうな声を放った。
「ブルー、さっきぶりだね!」
「あおい……ここは一体どこだ? なんと窮屈な……」
「さ、サファイアタイガーだ……」
ブルーの姿を見たリンが、ガチガチと歯を鳴らしながら全身を震わせた。
「この人間は何だ? あおいは我に食料を取ってきてくれたのか? ありがとう。」
「違うの! 食べちゃ駄目!」
「食べちゃ駄目なのか……」
ブルーは少し項垂れた。
「食べ……」
リンはへたり込んだ。
「リンちゃん、ブルーの言葉が分かるの?」
「ううん、私はあおいちゃんが言ってることしか分からないよ。ブルーはさっきから唸ってばかりだよ。ブルーと話せるの?」
「今話してるよ!」
あおいはブルーの頭を撫でながら、先程の話をした。
「ふむ……確かにあの森にいると、人間が時々我らを襲いに来ることがある。そして狩られていった同胞達も少なくはない。」
「だからね、お友達手帳の中に入ってくれたら、安全だと思うの。」
「しかし、その中はどうなっているのだ?」
「最初は何もない空間で、中に入った人が望む世界になるんだって。食べ物も道具も、思うままに出すことができるって。それか、呼び出されるまで眠りにつくことができるって。」
「では飢えることはないということか。」
「うん、神様はそうおっしゃってた。」
「ならば中に入っても構わない。」
「本当? それなら私も安心できるよ!」
あおいは嬉しそうに、ブルーの頭を撫でる。
「先程から我の頭を撫でているが、心地よいものだな。」
「よかった。」
あおいは微笑み、ブルーを撫で続ける。
「あ、あおいちゃん……」
「リンちゃんどうしたの?」
「私もブルーをさ、触ってみたい。」
「ブルー、リンちゃんも触りたいって。いいかな? 彼女は私のお友達のリンちゃん。」
「人間の小娘か。あおいの友ならば構わない。」
「リンちゃん、いいって!」
「や、やったあ。じゃ、じゃあ失礼します……」
リンはおずおずと、ブルーの背に触れた。
「ふかふか……凄い……サファイアタイガーなんて初めて触った!」
リンは震えながらブルーの背を撫でる。
「綺麗……」
「ブルー、リンちゃんがブルーのこと綺麗だって!」
「ふむ……嬉しいものだな。それで、いつその本の中に入るのだ?」
「じゃあ――始めるね!」
あおいは目を瞑り、呟く。
「――我が名はあおい、神の名のもとに力を行使する者。」
魔法陣が浮かび、眩い光があおいを包む。
「――フィックス、ブルー!」
ブルーの体が光に包まれ、その光はブルーの体と共に、友達手記の一ページ目へと吸い込まれていく。
「凄い……」
ブルーが消え、少し荒れた小さな部屋の中でリンはそう呟いた。




