初めてのお友達
あおいの目が覚めると、そこは鬱蒼と茂った森の中だった。優しい風に木々はざわめき、草花が揺れる。
あおいは辺りを見渡し、立ち上がる。
「ここは……どこ?」
あおいが暫く森の中を歩いていると、木陰に一匹の青い虎が眠っているのを見つけた。そしてその虎は大きな欠伸をし、目を覚ます。その青く輝く瞳があおいを見つめる。
「虎さん……」
あおいはその場にヘタリ込み、座り込んでしまった。それもそのはず、あおいの体の四倍はある体躯の虎が目の前にいるのだ。そして虎は立ち上がり、その牙を剥き出しにして唸り始める。どう見ても命の危機だった。
「お……」
しかし、あおいは震える声を振り絞った。
「お友達になって下さい!」
今にも襲い掛かりそうだった虎は首を傾げ、あおいを見つめた。
「……虎さん、私とお友達になってください!」
虎は暫しあおいを見つめた後、ゆっくりとその口を開いた。
「――人間、我と話せるのか? ――友達だと?」
「はい!私とお友達になってください!」
虎は尚も牙をむき出しにしながら唸り続けている。
「お前は我を狩りに来た人間じゃないのか?」
「違います! 気が付いたらこの森にいて、ずっと迷っていたんです。」
虎は暫しあおいの全身を見つめて何やら思案した後、そっとその牙をしまった。
「人間の小娘に我を狩る力はない。お前は武器も持っていない。分かった。お前を信じよう。」
虎はゆっくりと、あおいに近付いていった。
「虎さんは、人に襲われたことがあるの?」
「ああ、何度もあるし、何度も襲ったことがある。」
「そっか……私は虎さんを襲わないよ。」
「分かっているし、襲われたところで死ぬのはお前の方だ。」
「……殺さないでね。」
「お前次第だな。――お前はここで一体何をしている。」
あおいと虎は、二人並んで木陰で話をしている。虎はその体を横にしており、どうやら警戒を解いたようだった。
「私は異世界からこの森に転移して来て、森の中を迷っていたの。」
「異世界? ――迷っているなら、人間のいる場所まで案内してやろう。」
「いいの!?」
「別に構わない。」
「あの……」
あおいは、その大きな瞳で虎を見つめる。
「私とお友達になってくれませんか?」
「人間と友達か……お前とならなってもいい。」
「本当!?」
「お前が我の敵じゃないと分かった。人間と話すのは初めてで、これも面白いと思った。」
「ありがとう!――虎さんはお名前は何て言うの?」
「名などない。好きに呼ぶがいい。」
「じゃあ、私が付けてもいい?」
「それで構わない。」
「やったあ! じゃあね、じゃあね……」
あおいは思案し、虎の全身を見つめる。
「……ブルーはどうかな? 虎さん、青くて綺麗だから!」
「ブルー、それで構わない。」
「じゃあブルー、お友達になろう!」
あおいは何も無い空間に手を突っ込み、友達手記と一振の杖を取り出した。
あおいとブルーは、少し離れた位置で互いに正面を向いて立っている。その手には友達手記と杖。あおいは目を瞑り、口を開いた。
「――我が名はあおい。神の名のもとに力を行使する者。」
あおいから眩い光が溢れ、その足元には金色の魔法陣が浮かんだ。杖の宝具が光り、手記はあおいの正面に浮かび上がり、その一ページ目が開かれる。
「汝を我の眷属とし、ここに縁を結ぶ。」
ブルーの足元にも金色の魔法陣が現れ、その全身を眩い光が包む。
「如何なる制約もこの縁を断ち切れない。――イングレイヴ!」
ブルーから溢れ出した光は友達手記の一ページ目に吸い込まれ、そこに虎の絵を刻んだ。そして辺りを包んでいた光は発散され、魔法陣はゆっくりと消えてゆく。
「終わったのか?」
「うん!」
「何やら美しい光景だったが、何をしたのだ?」
「お友達になる儀式みたいなものだよ。」
「そうなのか。」
「これからは、いつでもブルーを呼び出したりできるんだよ!」
「そんなことができるのか。あおいは凄いな。」
「あ、あおいって呼んでくれた!」
「あおいという名なのだろう? あおいが我を名で呼ぶのだから、我もあおいを名で呼ぼう。」
「ありがとう。これからよろしくね、ブルー!」
「ああ。――では人間の町まで送ろう。」
「うん!」
あおいはブルーの背に乗り、森の中を駆けている。
「ねえ、この森にはブルーみたいな動物がたくさんいるの?」
「ああ、たくさんいる。だが我みたいな者は動物ではなく魔物と呼ばれている。」
「魔物――?」
「人間の驚異となる生物のことだ。」
「そうなんだ。魔物……」
「――我からすれば、人間が魔物なんだがな……着いたぞ。」
森を抜けた先に、大きな街が見える。
「まだ遠いみたいだけど……ここでお別れなの?」
「この先には行けない。我は人間とは敵対関係なんだ。」
「そっか……分かった。ブルー、ここまで送ってくれてありがとう!」
「また何かあれば、我を呼ぶといい。」
「うん、そうする! ブルーとお友達になれて良かった!」
「じゃあな。」
ブルーはあおいをその場に降ろし、深い森の中へと入って行った。




