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第53話 かつての勇姿を知るかわり者

 秋の半ばを過ぎて終わりが近づく。もうじきに冬が来る。

 通学時に通りかかる掲示板に、また実践講義の報せが張り出されていた。入学2年目以降の生徒を対象としているみたい。討伐込みの食材採集と記載されている。


(チームごとに1人引率者がつくんだ。受講者は3日後の情報講座に必ず参加か)


 場合によっては人数調整があるとも記されていた。


(まあ、単独活動してる人もいるからね)


 一通り読み終えて教室に行く。案の定、教師からも説明があった。

 実地演習の時と違い、今度のは用紙が配布される。提出期限は今日いっぱいと急だ。休み時間にニーア達と相談しよう。


「未提出は不参加とするからな。必ずメンバー全員を記載して提出するように」


 それじゃあ講義を始めるぞ、と教師が続けいつも通りの日程が始まった。

 昼休みに集まった時、俺は今朝の用紙を見せて相談する。ほんの少し悩んでいたけど2人とも承諾してくれた。提出を終えて、あっという間に放課後になり――。


「すみません。少々お尋ねしたいのですが宜しいですか」

「はい」


 門を出たところで不意に若い男性から話しかけられた。


「人を探しておりまして、コリー・サンダリア・フォルツァネーラ様をご存じありませんか?」

(コリーってあのコリーだよね)

「先輩なら卒業されましたよ」

「そうなんですか。では、どちらに行くとかお聞きになったりは……」

「ごめんなさい。知らないです」


 男性は残念そうに声を落とし、礼を告げて去って行く。

 道の反対側に停まっている馬車のほうへ向かう。馬車には三日月と一角獣(ユニコーン)の紋章が入っていた。見たのはそこまでで、一度は止めた足を踏み出す。



 3日後の放課後、俺達は多目的ホールに集まっていた。

 現地でニーアやトゥワと合流し隣り合って座る。ホール内には椅子と、天井から釣られている巻物が紐を垂らしていた。これから情報講座が始まるのだ。

 待ち時間のざわつく空気の中を教師が歩いてくる。途端に場は静まり返った。


「では、これより魔物対策の講座を開始します」


 まっすぐ前を向き真剣に話を聞く。

 壇上に立つ教師は手元の資料を確かめつつ説明する。


「現在、コカプアルという魔物が大量出現しています」

「コカプアルって確かアレだよな」

「うん、しかもこの時期は……」


 名前を聞きどよめく生徒達の声が各所で上がった。

 強い口調で「静かに」と言われ、全員が再び口を閉ざす。


「これまで騎士団と冒険者らで対処してきました。しかし今回は例年より数が多く、特例として皆さんにも一部対応して頂きます」


 壇上の人が垂らされた紐を引くと巻物が下に伸びていく。

 広げられた布一面に文字や図が描かれている。鶏と豚を合わせたような魔物の絵が目に入った。あれがコカプアルだろう。


「さて、詳しい説明に入りましょう。この魔物は強靭な足から高い俊敏性と跳躍力を持ちます」


 説明は更に続き、現在は狂暴化する時期だと説く。

 活動範囲を広めて道中の商人や畑を襲うので討伐が必要だ。食欲旺盛で嗅覚が優れているという。でも毒などを持っていないのが救いか。


「皆さんの担当は小型個体です。大型と遭遇した場合は速やかに退避して下さい」

「あのぅ、討伐した魔物の後始末はどうしますか」

「そちらも手配済みで関係者を中心に振舞われる予定です」

「おっしゃぁー! 肉ぅ、俄然やる気出てきた」


 1人の歓喜の雄叫びが木霊し、歓声が一気に沸き起こる。


「お静かに! 今回は安全のため引率者が1名ずつつきます。皆、実力を認められた者達です」


 緊急時は彼らの指示に従うよう忠告を受けた。


「明日顔合わせを行いますので、必ずあちらで札を受け取って下さい」


 示された方向には机と椅子があり係の人が座っている。

 情報の提示が終わると何人か名前を呼ばれていた。その中にはフェロウの名があって驚く。だけど残って欲しいと告げらたのを聞き察する。

 自分が呼ばれなかったことに安堵しつつ席を立つ。足は係員の所へ。


「お名前と所属をお願いします」


 係の人に言われ、俺は学科と名前を伝えた。隣の2人も同様に答える。


「確認しました。こちらが案内札になります。大事に保管して下さい」

「ありがとうございます」


 返事をして渡された札を受け取ってしまう。

 混雑を避けるために用事が済んだら速やかに退場した。



     ⚔ ⚔ ⚔ ⚔ ⚔ ⚔ ⚔ ⚔ ⚔



 次の日、普段通りに日程を受けて放課後になる。

 今から仲間達と一緒に引率者との顔合わせをする予定だ。教室を出て待ち合わせの場所に向かう。廊下でニーア、昇降口付近でトゥワと落ち合った。


「どんな人か楽しみだにゃ」

「緊張しますね」

「大丈夫だよ。学園が選んだ人だもん」


 外部の人だと説明されたけど特に心配していない。

 何度か経験のあることだからだ。今日会う人だって、きっと大丈夫。

 札の裏面に記された地図をみて町を歩く。他にも数字と学園の印が押されている。通りを進み、角を曲がって、やや奥まった路地の店に入った。

 内装の雰囲気は落ち着いたバーっぽいけど、昼間は普通の飲食店みたい。店主に事情を話せば2回の個室へと案内される。


「既にお相手の方はご到着なさってますよ。どうぞ中へ」

「ど、どうも」


 店員に会釈してから扉を開く。直後、視界に光が入って白む。

 つい目を細めて、瞬きする内に視界が落ち着いてきた。室内に白髪の老人が1人座っている。機敏な動きで立ち上がり、胸に手を当て軽く礼をして出迎えられた。


「お待ちしておりました。この度、皆様の引率を請け負うバルフェロ・カルツォッソで御座います」

(なんだ、この違和感)


 妙に感覚を刺激してくる何か。原因はなんだろう。

 旅人らしい装いと所作の不釣り合いさ。いや、違う気がする。

 もっとこう五感に来るようなものだ。十数秒の放心を経て、俺の嗅覚が独特な匂いを嗅ぎ取った。親近感と畏れの両方を感じさせる匂い。


「初めまして、ニーア・クラリスです。よろしくお願いします」


 トゥワが同様に名乗り、俺も慌てて自己紹介と挨拶をした。

 バルフェロは赤黒い目を細め穏やかな笑みを零す。やっぱり間違いないと思う。


(確認したいけど、どうしよう。人と暮らすために正体を隠してる可能性も……)

「お爺さん、かなりの強者ね。何者だにゃ?」

(トゥワ!? その問いはありなのかっ)


 対する老爺はほっほと軽い声で応じる。わざとらしく悪戯っ子な調子で言う。


「バレては仕方ありませんな。ええ、(わたくし)めは大変物好きな龍族で御座います」

「あっさりバラしたぁ~」


 無意識に口から出た言葉に急いで口を塞ぐ。

 でも彼は「そちらのお坊ちゃんも気づいてましたか」と気にした風もない。余裕さえ感じさせる振舞いが逆に安心感を与えてくれた。


「お坊ちゃんは鬼族との混血ですな」

「わかりますか」

「ええ、神祖族を除けば他に考えられません」


 柔らかい雰囲気のまま着席を促され、座ってお茶を貰いながら話す。

 前後してしまったが、互いに案内札を見せて間違いがないか確認した。番号を見れば一目瞭然だ。


「まずは確認から致しましょう」

「よろしくお願いします」

「私が皆様とともに活動する期間は4日間。これは急増のピークを予測しての予定になります」


 これは聞いていたことだ。俺達は頷いて応じる。


「次に私の行動に関してですが、基本は支援に徹し見守ることとします」

「じゃあ俺達の判断で動いていいんですか」


 俺の問いかけにバルフェロは状況次第だと答えた。

 講座の教師が言っていた通り、余程の事態が起きない限りは自由みたい。


「ところで、皆さんの得意なことを教えて下さいませんか」

「はい、まず俺から……」


 武装や能力など最低限必要なことはきっちり伝える。

 彼は全員の話を静かに聞き、終わったら一度間をおいて口を開く。


「最後は私ですね。体術の心得はもちろんの事、大抵の武器なら使いこなせます」

「凄いんですね」

「大したことでは御座いませんよ。現在は、そうですねぇ」


 バルフェロが服の下から複数の暗器を出して見せた。

 どこにどう入っていたのか。まだ隠し持っていてもおかしくない。他にも幾つかの魔法を習得しているらしい。中でも炎と光の魔法が得意だという。


「実は工作も好きでしてね。罠を使いたい時はお手伝いしますよ」

「頼もしいです。是非、お願いします」

「お任せ下さい」


 順々に情報をやり取りしつつ、雑談も交えて時間が許す限り話した。



 顔合わせを済ませた晩、宿題の傍らで背後から声が掛かる。

 身体の向きを変えるように座り直す。背もたれを腕に抱えトーマスと対面した。対する相手はベッドの上に腰かけダンベルを手にしている。


「ねえねぇ、エミルのとこはどんな人だった?」

(たぶん引率者のことだよな)

「バルフェロさんっていう優しそうな人」


 簡単に外見的な特徴と話してみての感想を伝えた。


「経験豊富そう。オイラんとこはね、若い冒険者。名前はアルフさん」


 楽しそうに対面時の印象を語りだす。

 燃えるように鮮やかな赤髪で、お兄さんな雰囲気が漂う人だったみたい。


「オイラんとこは人数少なくてさ。今回はもう1チームと一緒なんだよねぇ」

「俺のチームは3人だけど特に何も言われなかったよ」

「そっか。うーん、バランスかなぁ」


 学園側の選抜基準はわからない。しかし考えなしなんてことはない筈だ。

 提出した編成からどう判断したのか。定かじゃないけど、信じて自分にできることをするしかないと考える。それはトーマスの同じ様子で、俺達は引率者と過ごす数日間に思いを馳せた。

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