忘ミスep.焚火の前でのひと時
まず初めにこのエピソードは幕間では御座いません。
本編に入れようかと考えていたのに、いつの間にか忘れていた哀れな小話です。
後になってから「あの話どうしたっけ?」と思い出しました。時期は鷹狩をやっていた辺りになります。
馬車を護衛しながらの道中、時間をみて野営の準備を始めた。
交代で見張りをしつつ食事や休息をとる。俺はニーアやトゥワと並んで、ぱちぱちと音を立てる焚火の前に座って話す。
「そういえば今朝、蓮之介から手紙が来たんだ」
「本当なのエミル君! 彼は元気そうでしたか」
嬉しそうに顔を綻ばせて聞いてくる彼女に俺は頷く。
鞄から手紙を取り出して見せた。別に読まれて困る内容じゃない。
遠慮がちにニーアは視線を落とし、トゥワは覆い被さって覗き込んできた。近くでスツールに腰かけ、読書していたアシュレイが目を向ける。
「トゥワ、お行儀が悪いですよ」
「俺は平気。見られて困るものじゃないですから」
「はい、一緒に読みましょう」
「やったにゃ」
明るい声がすぐ耳元で響く。吐息が肌や髪に触れてくすぐったい。
一方でアシュレイは、悩まし気にまた名を呼び軽く首を振った。その後は諦めた様子で肩を1回上下させて再び本を読み始める。
「向こうも頑張ってるんですね」
俺は視線を傍らの彼女達に戻した。
「ジルビリット王国ってことは、インクさんと会ってるかにゃ?」
「インクリッドさんのことかな。無理だと思う」
言った後、数秒遅れて驚きの声を上げてしまう。
でもおかしくはないのか。よくわからない。このくらいなら、と考え「知り合いなの」と関係を聞く。それに対して彼女は首肯した。楽しそうに話を続ける。
「インクさんとは文字の勉強してる時に始めて会ったにゃ」
「へぇ~じゃあ、結構長い付き合いなんだ」
「4、5年くらい前だからそうかにゃ。それでね~」
「う、うん。んん?」
何かが引っ掛かった気がするが、とりあえず頷いた。
トゥワは途切れることなく先を語りだす。
「初めましては叫び声だったにゃ」
「えっ」
「暗号を前に眠くて、足はうずうずしてたの。その時外から聞こえたのにゃ」
語られる出会いの秘話に耳を傾ける。
おそらく勉強中だったんだろう。相当な難題に直面していて、頭を悩ませていた時に外から只ならぬ声を聞いた。聞いた印象だとこんな感じか。
当然外が気になって窓を覗いたという。そのまま飛び越えて庭に出て……。
「大勢から愛を囁かれて飛び回ってたにゃ」
「めちゃくちゃモテるんだね」
「意外です。皆さん、とても落ち着いた雰囲気でしたのに」
「ミャーも惚れ惚れするくらい美しい毛だったからにゃ」
(やっぱりトゥワの着眼点はそこなんだ)
当時を思い出したのか、トゥワの口端が僅かに上がっている。
「しかも大事な物を落として、戻れなくなってたのにゃ」
「戻るってのがわかんないけど見つかったの?」
「当然! ミャーが協力してあげたんだからにゃあ」
自慢げに胸を張った彼女に、俺達は「凄い」と感想を伝えた。
きっとインクリッドに言い寄る女性陣を掻い潜って探したのだろう。当時はもっと背が低かった筈だし、大変だったことは想像に難くない。
「大変そうだなぁ」
つい思ったことが口から出てしまった。
するとトゥワが肩を落とす仕草つきで1つため息を零す。
「本当に大変だったの。最後は羽毛まみれになって鼻がムズムズしたにゃ~」
「羽毛? なに、鳥小屋にでも突っ込んだの」
「それは大変でしたね」
別の意味での大変さまで想像してしまった。
語った当人も最後は首を傾げていて、なんだか変な気分にさせられる。途中から話がすり替わっていたのだろうか。いや、そんな筈はない。
だけど、どこかしらでズレた心地のする話だった。
盛大な忘却ミスを大変失礼しました。
加筆しようかとも考えましたが、ちょっと入れ辛くて別で挿入します。




