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第50話 部族育ち、群れ育ちの心得だにゃ~!

 町のすぐ近くには森がある。生い茂る木々と、差し込む光や影が視界を遮った。

 時々、鳥の鳴き声が聞こえてくる中を進む。遠くまで行く気はない。でも今やれることはある筈だ。


「せっかくだし周囲に魔物がいないか調べない?」


 俺がそう告げると2人は数秒遅れて頷く。


「明日、この森で鷹狩をする予定ですからね。安全は確認するべきでしょう」

「賛成! 危険は徹底的に排除するにゃ」

「相手は動き回るし、完璧とはいかないけど対策は打っておきたいよね」


 自分達ならば襲われてもある程度対処できる。


「あ、でも魔法は考えないと。鳥や獣まで逃げちゃう」

「そうですね」

「じゃあミャーが先行して索敵するにゃ」

「えっ」


 言うや否やトゥワは軽やかに木を登った。

 動き出す前に再びこっちを見て、首飾りを示し、見つけたら報せると言う。試しに一度鳴らしてみせる。吹き抜ける風っぽいが、微かにコロコロと独特な音が混じっていた。


「行ってくるにゃ!」


 伝え終わった途端にすっ飛んでいく。

 物音は小さく、僅かに枝葉を揺らし、あっという間に姿が見なくなる。


「もういない。とりあえず俺達は慎重に探りながら進もう」

「はい」


 警戒しながら足を踏み出していき、獣や鳥へは基本手を出さない。

 数分後が経ったくらいか。あの独特な音色が空を切って響き渡った。トゥワが何かを見つけたらしい。

 危険が迫っている予感を感じ、互いに頷き合って俺達は駆け出す。



 音が聞こえた辺りまで来て、茂みに身を隠して覗き込む。

 やや開けた草原にカエル型の魔物が2匹。俺は記憶を手繰り、去年の講義で習った情報を引き出す。確か水辺や海にいる種類だ。舌に毒を持つ奴と、墨を吐く奴がいるんだったか。


「エミル君、わかりますか?」

「うん。体色は黒、墨を吐く奴だ」

「トゥワさんはどこでしょう」

「そういえば……」


 一度外した視線を再び敵と、その周囲に戻す。

 探す間に後ろで囁くような息遣いを感じた。それからニーアが小声で告げた。


「魔物の右側、ウミヤナギの上だそうです」

「どの木?」

「あれです」


 示された方向を見ると、葉のカーテンに隠れ獲物を狙う目が――。

 ふとトゥワの視線がこっちへ向き、次いで指で頭を軽くつつく。瞬時に意味を察して俺は背後を振り返った。ニーアのほうも静かに頷く。俺は頷き返して能力を発動させる。


『注意することはなんにゃ』


 開口一番に聞かれたのはそれだった。互いに思念で話す。


『口から吐く墨。あと足の攻撃が痛いらしい』

『トゥワさん、身体の調子は大丈夫ですか』

『全然平気。ミャーが上から奇襲をかけるにゃ』

『どっちを狙うの』

『手前の奴、奥のは任せたにゃ』


 言われて敵の位置を確認する。彼女から見て手前は右。なら自分達は左の奴だ。


『では私が植物で縛ります』

『じゃあ俺は攻撃だ。急所を狙えば、暴れ回らず仕留められる筈』


 作戦を交わし合い、最後にタイミングを決めた。

 3つ数えて能力を切り飛び出す。そう伝え合意を得た後で、魔法の準備を認め、俺はカウントダウンを始める。


『1、2、3ッ』


 仲間を信じ茂みの奥へ踏み込んだ。

 枝葉が視界の端を掠めていき魔物を視認。標的が反応するより早く、突如として生えた蔓草が縛り上げる。俺は剣を抜き頭を狙った。


 突き刺すと同時に電流を流す。魔物の身体が小さく震え動かなくなる。それを確認して剣を引き抜き、もう1匹のほうを振り向く。

 あっちも無事仕留めたようだ。いつの間にか、手甲(ガントレット)から爪状の刃が出ている。


「周囲に他の敵はいる?」


 自分も周辺警戒をしつつ尋ねた。各々から「いない」と返答される。

 ほっと息を吐いて仲間達を振り返って言う。


「うまくいったね」

「息ぴったりだったにゃ」

「私はちょっとヒヤヒヤしましたよ」


 妙な達成感が胸を占め、連携の手ごたえを感じた。

 一方でニーアは、険しさと穏やかさの入り混じった顔と声音で告げる。


「でも、こちらが返答する前に飛び出して驚きましたよ」


 皆ほど速く走れないから困る、と彼女は素直に理由を伝えた。

 するとトゥワは申し訳なさそうに耳を伏せ、尾をだらりと垂らす。


「ご、ごめんなさいだにゃ」

「わかって下さればいいんです」


 意外と意思疎通ができている様子に安心する。

 偵察の意図は知っていたからと擁護しておく。簡単な反省会をしてから俺達は再び歩き出す。その後も見つけた魔物は掃討し、日が暮れる前に町の中へと戻った。



 宿に向かう道中、俺はふと気になってトゥワに聞く。


「ひょっとしてトゥワの武器も特注品(オーダーメイド)?」

「そうだけど、どうしてにゃ」


 あっけらかんと答えた彼女に意気込んで言う。


「だって大会の時は普通に殴ってたからさ。でも今日は刃が出てたし」

「なるほど~」


 何かを察して得意げに鼻を鳴らす。

 そして軽く手を上げ、親指が中に来るように拳を握る。直後、手甲から爪が飛び出した。握りを解くと戻り、今度は親指を外に出して握り直す。そうしたら爪は出てこない。

 おそらく魔法の仕掛けが使われている。だけど何よりもカッコいいと思った。


「エミル君、そんなに武器が好きなんですか」

「別に普通だよ。ただ変わった武器って憧れるじゃん!」


 困惑した様子のニーアの顔が見える。

 ほどなくして宿へたどり着き、報告後、各自に割り当てられた部屋に入った。



     ⚔ ⚔ ⚔ ⚔ ⚔ ⚔ ⚔ ⚔ ⚔



 窓から差し込む朝日の中で目覚めて伸びをする。

 いつもと違う内装を新鮮に感じつつ、ベッドから出て身支度をした。部屋を出て食事の後、合流してから会場まで追従して向かう。

 森の手前に設営された陣に着くと、既に何人か人の姿があった。それぞれに馬車や馬から降りて歩んでいく。アシュレイが柔和な笑みを浮かべ挨拶を交わす。


「コルネア卿、本日はよろしくお願い致します」

「は、はい。こちらこそ、とても楽しみにしておりました」

「サクルファから遠路はるばる大変だったでしょう」

「ええまあ、2度ほど酔いましたが間に合ってよかったですよ」


 並び立つ彼らの容貌からは歳の近さを感じた。

 けれど雰囲気が全然違っていて、コルネア卿のほうは若干おどおどしている。次にやって来た男性とローズマリーにも丁寧な挨拶を交わし合う。


(サクルファって南西のほうにある国だったよね)


 ランカディア王国とちょっとだけ陸で繋がっていた筈だ。

 脳内地図を広げている間に最後の一行が到着した。馬車から恰幅のいい男性が降りてくる。一同が優雅に会釈の姿勢をとった。


「クランベール卿、ご機嫌麗しゅう。この良き日にお会いできて、誠に嬉しく思います」

「いえいえ私こそ、遅れて申し訳ない」


 ローズマリーの叔父である男性が告げ、それに微笑んで応えている。

 話を聞く限り彼は、南の隣国ネメキアから来たっぽい。ゆるりと言葉を交わした後に催しが始まった。陣の中に設置された机と椅子。彼らが飲み物を手に談話する傍らで、従者達が粛々と準備に動く。


 順番を決めて、鷹匠が馬車から布を被せた籠を持ち出す。

 小さな円卓の上に籠を載せ匠が一礼。そっと刺激しないよう猛禽鳥を紹介した。途端に感嘆の声や賛美の言葉が4人の間で交わされる。


(肩が凝りそう)


 一連のやり取りを傍から見て、つい思ってしまった。

 紹介が終わり、鳥の状態を確認したらしい匠が合図を送る。すると犬引きが森へ犬を放つ。


「そういえば勇者様が旅立たれたと聞きましたぞ」


 辺りを見回している時、興味を引く話題が耳に届く。

 クランベール卿のひと言に誰かが応じた。俺は警戒を続けたまま耳を澄ます。


「え、ええ。なんでも東の地に向かわれたとか」

「東というと桜嵐帝国か、その先か」

「目的はやはり仲間探しでしょうかね」

「でしょうとも。お1人で立ち向かうのは大変ですから」

「彼の国には忍なる精鋭がいると聞きますし、いやぁ楽しみですな」

「しかし忍とやらは噂では? 実在するのでしょうか」


 穏やかな調子で繰り広げられる会話がとんでもない。

 この間に猛禽鳥がウサギを狩っていた。眺めていた人々から落ち着いた歓声が上がる。再び鳥と狩りの成果に話題が戻り、次の鷹匠が同様の準備を行う。


(退屈過ぎる。でも我慢しないと……)


 疼く身体の衝動を、腕を組みなおすなどしてごまかした。

 幸いだったのは、時々気になる話が聞こえてくることか。おかげで一定の集中力は維持できていた。匠が鳥の確認を終えた時、コルネア卿がふと席を立つ。

 彼は皆に会釈をしてから匠のもとへ歩み寄り、会話した後に鳥を腕に乗せた。匠が何やら森の方角を指し示している。


(えっ、あの人が飛ばすの?)

「ところでローデリム合衆国は近々動くと思いますか」

「どうであろうな。魔王の動向次第といったところでしょう」


 間を置いてから同じ声が次の言葉を発した。


「先の侵攻は奇妙なものであったと聞く。まさに人の所業を超えるような……」

「もしや神祖族の存在をお疑いで? それこそ忍以上の夢物語で御座いましょう」

「第一に神祖族もまた人ではないでしょうか」

「何はともあれ、このまま大人しくしていて欲しいものです」


 なんだか凄まじく温度差の違う。

 俺は複雑な心地になりながら、鷹を手に乗せ待ち構える貴族を見ていた。


「そうそうローデリムと言えば、世にも珍しい魔装技師がいると聞きますな」

「魔装とはローズマリー嬢が身に着けてらした物ですね」

(ちょっと待って。今、その話するの!?)


 思いもしなかった単語の登場に胸が騒ぐ。意識が乱れて引っ張られる。

 心なしかクランベール卿がよく喋っている印象だ。耳に届く話の大半を俺は左から右に流す。

 やがて鷹を飛ばし終え、匠の手から獲物を受け取り披露。やや小ぶりながらも見事な鳥だ。その後、コルネア卿は獲物を従者に渡して戻りつつ口を開く。


「な、何のお話をされていたんですか」


 言葉を濁す2人とは別にクランベール卿が軽く説明した。

 若干だが、聞く姿勢が伸びたように見える。対する相手は楽しそうな声音だ。話し終えるのを待ってからコルネア卿が話し出す。


「珍しい技術をお持ちの方がいらっしゃるのですね。どのような方なのです?」


 ちらりと視線を向けられた先にいるのはローズマリーの叔父だ。

 彼はまっすぐとそれを受け止め、柔く微笑んで告げる。


「見目麗しい方でしたよ。約束が御座いますので、これ以上は伝えかねます」

「それは残念ですね。では、こういうのは如何でしょう」


 あっさりと話題を諦めて次に行く。まだ傍らでは次の鳥が狩りを行っていた。

 給仕された物を飲み、呼吸を整えてから繰り出される話題。それは異国から来たという、幼いながらも腕の立つ技師の話だった。相当に不思議な容姿をしていたらしい。

 俺は途中、出かかったあくびを必死に飲み込んで護衛を続ける。


「コルネア卿、わたくしからも宜しいかしら」


 それまでずっと沈黙を貫いていたローズマリーが口を挟んだ。


「ええ、もちろん構いませんよ」

「ありがとうございます。先程のお話をお伺いして、さぞ優秀な方だと感服致しましたわ。どちらからいらした方なのでしょう?」

「僕も町の評判を聞いた限りですけどね。特徴からして水の民ではないかと思います」


 しかも背格好の似た少女と連れ立っていたという。


「まあ、今も町にいらっしゃるのですか」

「残念ながら既に旅立たれてしまいました」

「そうでしたの。是非、お会いしてみたかったですわ」


 ローズマリーの声音からは、少しばかりの落胆が感じられた。

 様々な情報を交わし合いながら鷹狩は順調に進んでいく。傍から見た光景は単調で、時々窮屈に感じてしまう。正直にいうと忍耐力を試されている気分だ。

 当然ながら何か事件が起こる筈もない。催しは静かに幕を閉じ、また列を成し宿へと引き返す。

 なんでこんなイベント入れちゃったんだろう、と苦悩しつつ執筆していました。

 おまけに予定よりも長くなってしまっています。タイトルも良いのが思い浮かびませんでした。なかなかどうして、サクサクと進まずにすみません。

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