表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
66/66

第49話 行く先での再会

 朝目覚めて、支度をする最中に窓を叩く音が聞こえた。

 カーテンを開けてみると鳥が止まっている。生物らしくない雰囲気に、もしやと合点がいき窓を開く。

 鳥は翼を広げて机まで飛ぶ。そして静かに解け紙片となった。予想通りの現象を見て、俺は飛びつくように近づき手に持つ。


(やっぱり蓮之介からだ)


 開いて文面を読んでいく。所々に筆圧が滲んだ文字がある。

 何度も考えて、筆を止めながら書いたのだろうか。そんな想像が頭に浮かんだ。


「頑張ってるなぁ」


 読み進めていく間に思わず呟いてしまった。

 手紙には依頼をこなしつつ修行に励んでいること。道中で出会った人々のことが記されている。隣国に足を運んだという彼を羨ましく思う。

 勇者の国へ行ったのなら勇者には会えたのだろうか。手紙からは読み取れない。最近噂を聞いたばかりだし気になってしまう。


(でも今は鷹狩。そろそろ行かなくちゃ)


 机に置いてあった鞄を持つ。一度開いて中を覗き込む。

 着替えや教本、日用品はよし、貴重品の財布と魔法印もちゃんと入っていた。忘れ物はないのを確かめ大きいのは背負い、小さいのは腰に着けて部屋を出る。

 途中で軽く朝食を済ませ、ニーアと落ち合い、一緒に町を歩いて行く。


「この辺はあまり来たことなかったかも」


 店が多く立ち並ぶ通りと違い、この辺りは落ち着いた雰囲気が漂う。


「私は前にも少しだけ。ほら、あの先に魔法具屋があるんですよ」


 彼女が角を示して言った。紹介されたけど店は見えない。

 静かに過ごせそうな喫茶店や、上品そうな店がちらほらと見えた。地図を手に道を進んで宝飾店の前までやってくる。扉には閉店を示す札が下がっていた。


「えーっと、裏って言ってたよね」

「はい。そう言ってました」


 許可が下りたと告げられた後日、またトゥワが訪ねて来たのだ。

 伝え忘れたと場所を告げられ、地図で確認して今ここにいる。言われた通りに店の裏手へと回り込む。そこには立派な庭つきの邸宅があった。

 外側から見ても店舗と繋がっていそうな造りだ。大きな門の奥は噴水と像が並び、美しい円を描いて道が玄関まで続く。路上には馬車が4つ止まっていた。


「おはよう。待ってたにゃ」


 軽快な足取りで駆け寄ってきたトゥワが言う。

 俺達が挨拶に応えると、彼女はひと言入れた後に顔を近づけ鼻を鳴らす。


「もしかして変な匂いしてる?」

「え、そんな私ちゃんと……」


 学園で会う時はこんな行動しないから戸惑った。

 どんな意味があるのか、不安に感じて聞く。すると相手は顔を遠ざけ、普段通りの調子で答える。


「仲間の心得だにゃ」

「わかるような、わからないような」

「すみません。もうちょっと詳しくお願いできますか」


 僅かな沈黙が流れ、何度か瞬いてからこう言う。何かに気づいた様子でだ。


「その日の調子は匂いに聞くにゃ。2人のいつもは覚えてるし」

「へ~最初の時のアレはそういうこと」

「あの時は驚きましたよね」


 零された感想に共感したし、行動の意味を今にして納得できた。

 行動の意味を知ったところで、紹介するからと俺達は導かれていく。暖かな色味と上質な調度品の置かれた邸宅内を進む。案内された扉の前で一度足を止め、声を掛けてから入室する。

 そこには家主と思しき青年と、執事服の男性が立っていた。主人に会釈をした執事と入れ違う。


(んん、この人どこかで……)


 見覚えがある気がするけど思い出せない。

 対面した金髪碧眼の青年は柔らかい微笑を浮かべている。


「アーシュ、ミャーの友達を紹介しますにゃ」


 まずは挨拶と自己紹介をした。それから次の言葉を紡ぐ。


「この度は同行の許可を頂きありがとうございます」

「失礼のないよう努めますので、よろしくお願いします」


 全身が固くなり、声が震える心地でなんとか言い切った。

 姿勢を崩さないまま内心ほっとする。青年は丁寧な所作で胸に右手を添えて言う。


「ボクはアシュレイ・フォルスチャップです。エミル君とは1年振りくらいですね」

(思い出した。前にインクリッドさんと一緒にいた人だ)

「はい、あの時はご一緒できて楽しかったです」

「こちらこそ楽しかったですよ。いつもトゥワがお世話になってます」


 いやいや、世話になっているのは俺だろう。

 無理を言っているのだし、素直にとんでもないことだと伝えた。優しげな相手の風格が場の空気を和らげ、適度に緊張感を宥めてくれる。

 初見の対応が終わった後は、鷹狩の大まかな流れを確認だ。


「少々の遠出になってしまうけど、よろしく頼みますね」


 はい、と3人で声を揃えて応じた。

 退室して外に出たら、執事が護衛の人らと話す姿を見かける。


「君、ちょっと宜しいかな」

「構いません。何でしょうか」


 早速誰かに呼び止められた。視線をやると使用人風の男性が立っている。

 自らを鷹匠と名乗った彼は、俺を上から下までじっくり見て口を開く。


「聞いてた通りの出で立ちだね。悪いんだけど、あの馬車には基本近づかないように頼む」


 鷹匠は格子つきの小窓がついた大きい馬車を指で示す。


「わかりました」


 申し訳なさそうに「中の子らが神経質になるから」と告げ立ち去る。

 ほどなくしてアシュレイが豪奢な装飾の馬車乗り込む。俺は借りた馬に、ニーアは馬車の1つに乗った。トゥワはわざわざ頼んで護衛側の馬車に行く。

 順に走り出す馬車と並走する騎馬。遠征地キャンパニアへ向け出発した。



     ⚔ ⚔ ⚔ ⚔ ⚔ ⚔ ⚔ ⚔ ⚔



 昨今の出来事から警戒していたが、野営込みの道中は何事もなく進んだ。

 忌避剤を備えつけた柵を越える。一歩踏み入れてまず目に入るのは、通りや広場で存在を主張する芸術品の数々だった。


(ここがキャンパニア。うぅ、目がチカチカする)


 光り輝くとはまた違った眩しさだ。つい目移りしてしまう。

 動物や女神の像、泡を吹く噴水が見える道を通っていく。風向きによっては潮の香りがするそうだが今はしない。


(予定じゃあ、宿に寄ってから会場に行くんだっけ)


 頭の中で時間割を思い起こしながら追従する。

 準備の際に届け出を出しておいて正解だった。周囲を眺めている間に宿に着く。指定の場所に馬車を停めて、護衛らしく依頼人について中に入る。

 客人を出迎える位置に、森の女神みたいな絵画が掛けられていた。


(わぁ、ニーアみたいだ。綺麗だな)


 額縁に納められた美女が、親しい人と重なり魅入られそう。


「エミル君、おいてかれちゃいますよ」

「ごめん。今行く」


 手放しかけた心を引き戻し慌てて追いかける。

 会談の場として設けられた一室で1人の男性と合流した。アシュレイが品性良く挨拶を交わし話す。失礼のないよう部屋の片隅で静聴する。

 どうやら水の都アクアリオから来た参加者の1人らしい。


「おや、今回は随分と可愛らしい護衛を連れて来たんだね」

「ええ。勉学の一環で同行して貰っています」

「ほう、となると学生さんか。実はね、私も同じ年頃の姪を連れて来ていてね」


 次第に話の方向性が、鷹狩と関係なくなっているような……。

 戸惑っている間に手招きされてしまう。俺達は大人しく従って歩み寄った。一定の距離を保ち、静かに会釈をして言葉を待つ。


(どうしよう。難しい話されたら答えられないぞ)


 まさか話を振られる展開になろうとは思わなかった。

 相手の男性はこっちを見つめ、やがて相好を崩す。


「勉強と護衛を両立するとは偉いね。是非、私の姪とも仲良くしてやってくれ」

「は、はいっ」


 傍らの2人も同様に返事を返した。交わす言葉はほんの僅かだ。

 退室を許され、他の護衛へと会釈をして先に出る。扉が閉まると同時に俺は胸を撫でおろした。肩の荷が下りた気分で通路を歩く。


「まさか話しかけられるなんて思わなかったよ」

「ええ、今も身体が強張ってます」

「2人ともお疲れにゃ」


 労いのひと言を告げ、トゥワが足取りも軽く先導する。


「姪御さんってどんな人だろう」

「気になりますよね。お部屋にいらっしゃるのでしょうか」

「ぬふふ~。きっと驚くにゃ」


 含みのある言動に絶対何かがあると感じた。

 教えられた部屋の前で、ちょうど扉が開き鎧姿の少女が出てくる。目が合った瞬間、互いに間の抜けた声を零す。なぜならローズマリーだったからだ。

 彼女は薄紅色のブラウスにリボンタイをつけ、チェック柄のジョガーパンツを履いていた。制服じゃないのが逆に新鮮かもしれない。


「なんですの。まじまじと見て」

「ごめん! いつもの印象が違うから、その、見惚れちゃった」

「今日は一層凛々しい装いですね」


 つい取り繕ってしまったけど、相手は僅かに頬を赤らめ表情を和らげた。

 活発そうな服装に反し、淑やかな所作で「ありがとう」と告げる。


「ミャーはふりふりの服よりこっちのほうが好きにゃ」

「ふふ、そうですわね。ドレスは素敵ですけれど、あちらは鎧が着れませんもの」

(鎧、確かにそうかも)


 ちらっと見たニーアは苦笑していた。ドレスと鎧、どっちに反応したのか。

 奇遇ですわね、と続ける彼女に俺は事情を伝える。すると次に出たのは「叔父様ったら心配性なんですから」だった。いったい何の話だろう。

 再会の嬉しさで世間話が弾む中、ふとローズマリーが視線を流す。


「ところで蓮之介さんの姿が見えないようですが?」

「レンは夏休み前に卒業したよ」


 相槌を打つ彼女に今度はメシィフェカのことを聞く。


「彼女でしたら親戚の結婚式へ行ってます。それとわたく達、最近晴れて卒業しましたのよ」

「本当!? おめでとう」


 良い報せに声が弾むのが抑えらえない。

 微笑んで応じる相手に、いつ頃の事かと気づいたら聞いていた。文化祭の直前に卒業したのだという。なるほど、ヴァルツ達と同じくらいの時期か。

 しかも驚くことに卒業後、ハロルド達と旅をする約束をしたらしい。


(いつの間に約束したんだ、あいつ)


 独自の繋がりを得ているのは素直に感心してしまう。


「さて、お話は尽きませんが、別で用がありますので失礼しますわ」

「こちらこそ長々と話しちゃってごめんね」

「私のほうこそ気づきませんでした」


 急にニーアがもじもじと縮こまる。どこか恥ずかしそうだ。

 それぞれに「またね」程度の感覚で声を掛けて別れた。窓の外を見れば、日暮れまでまだ時間がありそう。疲れは感じるけど、ちょっとだけなら練習できるかもしれない。


「まだ時間あるし、近場でちょっぴり練習しない?」


 対する2人は一度顔を見合わせてから頷く。

 もしもの時に備え、宿の人へ簡単に伝えてから出掛けた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ