第42話 助っ人は誰になる?
注意:区切りの良いところまで書いたら長くなってしまいました。
夏休みを終えて、再び始まった学園生活。
一見代り映えのしない風景に見える。だけど日を追うごとに変化が見えてきた。普段見かけていた顔が減っていく。それは時間差で人が消えていくようで……。
だけど今、俺達は1つの問題に直面していた。
そう抜けた仲間のことだ。特に人数の決まりはないんだけど心許ない。
「やっぱりレンの抜けた穴は大きいよね」
「そうですね。2人だけじゃ不安になります」
早く卒業して合流したい気持ちはある。
でも、そのためには安定性が必要だ。冒険科の生徒を誘おうかと考えたけど止めた。時期的に殆どがチームを組んでいて、単独行動をしているのは少数。
(できたら連携が取りやすい人が良いよなぁ)
「誰かいないかな。戦えて、一緒にいて楽しそうな人」
深い意味はなく呟いた言葉にニーアが言う。
「トゥワさんなら……」
「それだ! 名案だよ、ニーア」
(組んで戦った時の感触は良かったし、お花見の時は凄く楽しかった)
「はい、ありがとうございます。えっ?」
迷いのある声音で彼女は応えた。だけどすぐに頷く。
考えを整えたらしいニーアと共に普通科へと足を運ぶ。道中、頼み方に悩んだけど、まずはまっすぐお願いしてみようかな。回りくどいのは苦手だ。
(なんとなく、トゥワは単純に言ったほうがいい気がする)
普通科の区画まで来て教室を覗く。3つ目で目的の人物を見つけた。
日当たりのいい窓辺でトゥワが微睡んでいる。気持ちよさそうだったが、近くの生徒に呼んで貰う。
耳がぴくりと動き、大きく伸びをしてから彼女が歩み寄ってきた。邪魔にならないよう場所を移動してから話す。卒業まででいいから助っ人になって欲しいと。
「というわけでチームを組んで欲しいんだ。お願い」
力強く言い切って頭を下げる。隣で同じように動く気配を感じた。
「うーん、誘いは嬉しいけど断るにゃ」
「どうしても無理かな。条件とか、理由を聞いてもいい?」
「一番は勉強に集中したいから。身体を動かすのは好きだけど、別に1人でもできるしにゃ」
真っ当な理由を告げられて、取りつく島がないように思う。
諦めたくなくて必死に活路を考える。例えば勉強、依頼や課題で何か興味を引けないか。いろいろな人と交流できる、はどうだろう。
(いやダメだ。この学園じゃあ普通科でも機会がありそう)
しかも今年に入って、紫瑶というわかりやすい一例がいた。
「あの、冒険科の課題はいろいろな所に行きます。珍しいものと直に触れ合えますよ」
「確かに魅力的だけど、ふぬにゃぁ」
変わった唸り声を上げている。いいぞ、上手くいきそうな雰囲気か。
だがトゥワは僅かに首を傾げ、顎に手を添えて悩んでいる様子だ。沈黙を返した後に首を振った。一度は浮かんだ期待が打ち破られて俺は焦る。
「他にないならミャーは戻るにゃ」
「ま、待って! ええーっと」
呼び止めはしたがいい案が浮かばない。本当にどうしよう。
知恵熱が出そうなくらい頭を抱えた。すると静かな声音で言われる。
「よく知らないけど、本当にミャーだけしか思いつかないのにゃ?」
「えっ」
「意外と試してみるもんにゃ~」
そう言ってトゥワは明るい調子で歩き去って行く。
唐突な助言に呆然と立ち尽くす。ニーアのほうも眉間に皺を寄せ項垂れていた。
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後日、俺達は助言の通りに別の人へ頼み込んだ。
まずはお試しという感じで、期間を決めて一緒に活動する。何人かを試したけど上手くいかない。4週間目にして、ついにフェロウへと声を掛けた。
休日を利用して依頼を共にやっている。今回の内容は至って普通な採集なんだけど――。
「んふふ♥ 獲物はっけーん、おらぁ!」
「ちょっと待て、フェロウッ」
通りすがりの魔物へ嬉々として猪突猛進していく。
鮮やかな槍捌きで打ち倒す。至近距離で派手に立ち回られ、ニーアが肩を震わせ身を強張らせた。動揺は一瞬だったけど不味いかもしれない。
鼻歌交じりに仕留めた獲物を解体していくフェロウを注意する。
「1人で突出しないで。危ないから」
「ふん、ここらの雑魚にやられるほうが悪い」
「そういう問題じゃなくてさ」
どうにか説明を試みるけど、彼女の興味は完全に素材へ向いていた。
もどかしく感じながら俺はニーアのほうに向かう。
「ニーア、平気?」
「はい、ちょっと驚いてしまって」
「無理しないでね」
「ありがとう」
何かあったら言って、と伝えて再び歩き出す。
こんな時蓮之介だったらと考えてしまう。熱くなる時はあったけど、道中でよく声を掛けてくれた。彼の姿が視界にちらつくて見える。
首を軽く振って幻影を振り払い前を向く。平原を進み、山沿いの森を探索して採集を行う。最中は熱心なのと、退屈そうなので対照的な2人だった。
「木の実、土、えっとこのくらいでいいかな」
口に出して確認しているのか。小さな独り言が聞こえた。
「そっちはどう。ニーア」
「バッチリです。フェロウさんは……」
調査用に求められた物を抱えて周囲を見回す。
気がつけば、フェロウは少し離れた所で樹上を見上げている。声を掛ける前に彼女は登り始めた。物音を響かせて木の葉が落ちていく。やがてひと際大きな音と共に勢いよく着地する。
「何をして、いらっしゃるんで……。ひゃぇあっ」
目の前で長い舌を出し、手に持つ卵を丸のみする様を見た。
素っ頓狂な声を上げてニーアが震えあがる。持っていた容器入りの袋を落とす。俺はそれを拾って私ながら背後を振り向く。
当事者は意に介さず口元を下で舐めていた。
「もう、昼食にはまだ早いよ。あといきなりいなくなったら心配するから」
(本当は脅かさないでって言いたいけど、なんだかなぁ)
相手の性格を考えると、刺激を与え過ぎたら問題が起きそうだ。
でもこのままでいいのか。どっちを優先してもいけない気がして困る。その後も何度か似たようなことが起きてしまい悩む。
なんとか採集依頼は終えた。けれど何日かしてから――。
「水気が満ちてサイコウッ、お肌最高ゥ潮~!」
最悪なことに天候は雨。顔を合わせた瞬間に思い出す。
とある時期のアレ、最大の苦難が、今この時に起きてしまったんだ。
「血が、騒ぐゥ。無性に身体を動かしたくなるぜ」
「えっまさか」
物騒な発言が聞こえ肝が冷える。全身の血がさっと下がる感覚がした。
幾らなんでも脈絡がなさ過ぎないか。唐突が過ぎるぞ。脳裏に様々なツッコミが飛ぶ中、一段と素早い動きでフェロウが走り出す。
垣間見えた横顔は狂気じみていた。進路の先にニーアの姿がある。
(違う、奥に誰か)
如何にも強そうな男子生徒が2人歩いていた。
すり抜ける間際、慄いた顔で棒立ちし、過ぎた後は座り込んでしまう。
「なんだお前」
「は、こいつもしや例の奴じゃ」
遠くで聞こえる喧騒を耳にしつつ、俺はニーアの傍にそっと膝を折る。
彼女の顔は青ざめていて痛々しい。無理もないと胸が痛んだ。横顔で見ただけでも相当に怖かった。あれが間近に迫ってくるのはきつい。
今回ばかりは目の前の仲間を優先する。勝負を挑まれている人達には申し訳ないけど……。
「しっかり、立てる?」
「すみません。その、腰が抜けてしまって」
「いいんだよ、無理しなくて。じゃあ俺が支えるから」
「ありがとう。エミル君」
幸い怪我はない。抱える選択肢はあった。
でも、一目を気にして肩を貸すに留める。ひとまず場所を変えようと歩く。
医療科の一室にやって来た。
そっと椅子に座らせて、俺も中腰になって話す。まだ顔色が悪い。
「ごめん、なさい。私もう……」
「ううん。俺もちょっと、困惑してる」
一度言葉を区切って、深呼吸を入れてから再び口を開く。
「ねえ、別の人探そっか」
するとニーアは頷いた。消え入りそうな声で「無理」だと言う。
別に悪い奴だとは思っていない。だけど、合わないと感じた。自分自身はまだいいが、目の前にいる彼女の疲弊ぶりは看過できないと思う。
「フェロウには断ろう。今から話してくるよ」
「お願いします。気をつけて」
「大丈夫、行ってくるね」
努めて明るく言い、心配を胸の中に押し込んで部屋を出る。
校内を早足で進み先程の場所まで戻った。外に出ると雨脚は増し、更に上機嫌なフェロウが大暴れ。ちょっと目を離した間に相手が生徒会になっている。
(騒ぎが拡大してる。とにかく止めて話をしないと)
俺は生徒会の人達に協力して止めに入った。
柔軟な身のこなしで、フェロウは豪快に槍を振り回す。攻撃を躱しつつ身を滑り込ませる。羽交い絞めにしようと飛びつく。
しかし身をひねらせて払い飛ばされてしまう。受け身はとったけど手強い。
「止めて、周りに迷惑だよ」
「ん~足りない。もっと、もっと楽しませてぇ」
「話を聞いてってば」
必死に叫ぶが通じていないようだ。
大暴走する彼女は腰をくねらせ、奇妙なステップを踏む。長い手足を鞭の如くしねらせて縦横無尽に駆け回った。
「どうします。爆裂札を使用しますか?」
「いや、待て。アレは最後の手段だ」
「しかしこのままでは被害が拡大してしまうぞ」
(不味いな。生徒会のほうもピリピリしてきてる)
緊迫が高まる中で歌うような叫びが響き渡る。
気持ちの悪い温度差を肌で感じ、俺は戦慄を覚えた。自己嫌悪に陥りながら、もう一度息を吸い込む。
「もう止めよう。そうだ、町の外行こうよ」
「あぁん、お肌の滑りが良くなっていく~」
「ねえ、聞いてる? ねえってば」
「冴えてくこの快感。はぁ、たまらなーい」
こんなに会話が成立しないのは初めてだ。
(蓮之介もこんな気持ちだったのかな)
「さーて、次は」
「いい加減にして!!」
つい頭に血が上り、叫んで、激情のままに雷魔法を放っていた。
焼き魚の如く白目をむき、大口を上げて伸びている姿を前に我に返る。己がやらかした惨状に背筋が凍ってしまう。
「ごめん、フェロウ。お、お俺」
(どうしよう。返事がない)
「これは……。救護班を呼べ!」
搬送されていく様子を見守る中で、俺は更なる自己嫌悪に陥った。
カッとなって仲間に手を上げてしまうなんて最低だ。でも他に方法があっただろうか。わからないから余計に苦しくなる。
「ふぅ、行かなくちゃ」
自分へ言い聞かせるように声を出して歩き出す。
数時間後、治療のおかげでフェロウは意識を取り戻した。機嫌の悪い彼女と向かい合う。
「さっきはごめん。危うく君を、殺すとこだった」
「別に」
もう一度謝罪の言葉を告げて頭を下げる。
ふん、と鼻息が聞こえた。まだ終わっていないと頭を上げ口を開く。
「誘っておいて悪いんだけど、君とは一緒にやれない」
「わかった」
「じゃあ、そういうことだから。行くね」
身を翻して数歩進んだ時、頼りなさげな声が聞こえる。
「悪かった。テンション上がっちゃって」
とても小さなものだったけど嬉しく思う。
振り返らずに部屋を出て、閉ざされた扉の前で足を止めた。体感では数秒、顔を俯けた後、頬を両手で叩く。そして顔を上げて、また歩き出した。
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苦い体験の後、食堂の片隅で俺達は改めて頭を悩ませる。
強烈な1人は別としてもなかなか難しい。足並みが揃わなかったり、原因不明のやり辛さを感じたりと様々だった。
「いなくなってみて、初めて気づかされますね」
「うん。凄くやりやすかったんだなーって思うよ」
今にして、蓮之介との活動が楽し過ぎたんだと痛感する。
頼もしいあの背中に助けられていたんだ。自分達が思っているよりもずっと……。
「他の方々も合わせてくれてました。でも、なんというか」
「一言でいうと、楽しくないみたいな」
「身も蓋もないです」
「そ、そうだね。言い過ぎた」
しばし沈黙が流れ、ふとニーアが気づいた様子で言う。
「あの、エミル君は前に、トゥワさんと組んだことありましたよね」
「うん。それがどうしたの?」
「ちょっと気になっただけなんですが……」
言い辛そうに言葉を区切りつつ彼女は説明した。
どうやら以前、観戦した試合の動きがフェロウと似ていると感じたらしい。
正直にいうと意外だ。全然似ているなんて思ってなかったから。実際に組んだ時の感覚が知りたいと聞かれる。
「俺の感覚だと、いい感じに助けてくれる感じかな」
水中での不利を覆した記憶を思い出す。本当に危なくて助かった。
逆になぜ似ていると感じたのかを聞いてみる。
「はっきりとは言えないんですけど、獲物を狙うような鋭さというか」
「野生の獣ってこと?」
「そ、そこまででは……」
改めて考えてみると納得できる部分があった。
(確かにトゥワも、フェロウと似た感じはあるのかもしれない)
「でも2人は違うよ。たぶん」
「よくわからない。いいえ、わからなくなりました」
困惑の滲んだ返答を聞き、ふと気づく。
お互いにわからないんだ。なぜ今まで気づかなかったんだろう。
「ねえ、ニーア。こういうのはどう」
「んん?」
まるで秘密を共有するみたいな心境で話す。
全部を言い終えた後、彼女が頷くのを見て、一緒に普通科へと再び足を運んだ。
教室にいたトゥワを呼んで中庭へと移動した。
緊張で足を止めた後もなかなか声が出ない。面と向かって、もう一度話すのって大変だ。
「あ、あの実はっ」
隣から発せられた声を手で制した。
自分から言うんだ、と何度も言い聞かせて声を絞り出す。
眼前にいる少女は後ろ手を組んで、ゆらゆらと尾を揺らめかせている。
「実はね、あれからいろんな人と試したんだ」
トゥワは何度か瞬き、静かに頷く。
「だけどダメだった。気持ちが合わないんだ」
「それで?」
「君が勉強を優先したいって気持ちはわかる。でも、もう一度考えてみて欲しい」
ここで息を大きく吸って腹に力を込める。
「まずは試してくれ。試して、仲間になれるか考えて欲しい!」
「なるほど、逆の展開ときたかにゃ~」
『お願いします』
声を揃え、今一度、頭を下げて懇願した。
顔を上げた後も沈黙は続く。ぴくぴくと耳が動き、尾が右に左に彷徨う。時々顎に手を当てたり、腕を組んだりする。やがて大きく頷いてこっちを向く。
「条件が2つ。まず個人的な依頼には参加できないにゃ」
「もちろん構わないよ」
「はい、私も毎回参加してませんし」
もう1つはなんだろうか。息を呑んで次の言葉を待つ。
「もう1つは動かないで。何があっても、いいって言うまでにゃ」
「わかった」
「はい」
応じた途端、トゥワが一気に距離を詰めてきた。
ぐっと顔が近づく。瞼を閉じた顔ですんすんと鼻を鳴らしている。
肌を撫でる息と、かすめる毛がくすぐったい。なにより緊張で身体が強張ってしまう。これが金縛りってやつか。
(いったい、いつまで~)
「と、トゥワさん。そんな近くで、くしゅっ」
俺はそっと条件を出した当人を伺う。
くしゃみで顔が少し動いてしまったようだがセーフみたい。
「合格。もういいにゃ」
「ふぅ、えっと合格ってことはつまり?」
「お試し、とりあえず7日くらいでいいかにゃ」
「うん。それでいいよ」
「これからよろしくにゃあ」
距離をとって明るい調子でトゥワが告げた。
「やったぁー!」
「ほっとしました」
解放感の中で、嬉しさと安堵の両方から俺達は手を重ねていたんだ。
お試し期間だから油断はできない。けれど今は、ただ素直に喜びを分かち合った。
遅ればせながらトゥワのプロフィールを公開します。
ある理由からネタバレになるので後回しにしていたんですが、これ以上お待たせしてもアレなので……。
気になる人は是非見てみて下さい。ただし閲覧のタイミングはお任せします。




