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第40話 皆で補い合って

 隊列を離れた人々に魔物らは容赦なく襲い掛かる。

 俺はまず魔法で速やかに敵を離す。ニーアへ支援、蓮之介に追撃を頼んだ。

 応戦の最中、ふと死角を狙う動きを見た。標的になっている当人は気づかない。


「レン、後ろから2体」


 声を張って報せた。彼がすぐ転身して返り打つ。

 もう1人の仲間へも意識を配り、彼女が意外と幅広く防衛しているのに気づく。


(有難い。あっちは問題なさそう)


 これなら調子の出てない蓮之介の援護に回りやすい。

 土壁と植物がいい感じに敵を誘導してくれている。命中こそしてないが水弾で攻撃もしていた。でも接近を阻むのには十分だ。隙をついて撃破していく。


「今度は右から来てるよ!」

「うおっと」


 別の敵と対峙していて反応が遅い。ううん、集中が偏っている。

 俺は鞄から匂い玉を取り出して投擲した。足を止めない奴は糸で縛って対応。魔法を流し込んで、その間に蓮之介やニーアが追撃する。


 的確かはともかく、順調に撃退していき一時的な平穏を取り戻す。

 警戒をとかず商人達の状態を確認した。全員いるだろうか。点呼をとり、現状の把握を行う。その時に1人の女性が歩み寄ってくる。


「助かりましたわ。ありがとう」

「貴方は挨拶してくれた商人さん。どうして」


 今にして気づくが彼女は地匠民族だった。赤茶色の髪でショコラ色の瞳だ。


「そんなん逃げ去る車に飛び乗ったに決まってますやん」

「飛び乗った!? 凄い行動力ですね」

「誉め言葉として受け取っとくわ。それより、あちらさんは大丈夫やろか」


 そっと視線で示され、促されるままに顔を向ける。

 頭を抱えて小声で何かをぼやく蓮之介がいた。傍からみても挙動不審だ。


「荷崩れ、魔物がまたしても。世界よ、なぜ丁寧に伏線回収を……」

(わっ、ヤバそうなことになってる)

「なんか心配やわ。あんさん、声を掛けてやったらどうです?」

「うん、そうする。行ってくるよ」


 背中を押される心地で仲間のもとに駆け寄る。

 虚空に語り掛けている彼へ慎重に呼びかけた。少しずつ声を微調整していく。手負いの動物を宥める感じに近いか。

 とにかく刺激を最小限にしないと反動が怖い。戦闘後で気が荒れている筈だ。


(俺も落ち着いて。興奮を抑えて)


 深呼吸して気持ちを静めつつ続ける。

 やがて声に気づいた蓮之介が顔を上げ振り向いた。なぜか目が泳いでいる。

 まずはじっくり待つ。返答が来るか、聞いたほうがいいのか。彼はどっちだろう、と考えていたら先に口を開いてきたんだ。


「ごめん。その、足引っ張ってるよな」

「そんなことない。不調なのによく動けてるよ」


 蓮之介は唇を噛みしめ、拳を強く握りしめていた。


「でもさ、情けないだろ。何度も同じミスをっ」

(不意を突かれたのを言ってるのか。でもあれは)

「ミスじゃない。見えない所は任せていいんだ」


 俺なんて助けられてばかりだ。その筆頭に向け、全身全霊で言う。

 顔に力を込め胸を張って、いつかの受け売りをそのままに――。


「どーんと来い!」

「…………」

「あれ、ひょっとして滑っちゃったかな」


 慌てて次の一手を思案し始める。

 するとぷっと噴き出す声が零れ、堰を切ったように笑い声が響く。泣き笑いに等しい表情で彼は腹を抱えていた。


「はぁ、してやられたなぁ」

「笑うほどなの。まあ、元気出たならいいけど」

「あぁ出た出た。じゃあ、見えない所は頼むわ」

「うん、任せて」


 まだ油断はできないけど、一応の決着と判断して意識を切り替える。

 商人達は荷物の確認をしていた。彼らに混ざってニーアが怪我人の治療をしている。真剣な面持ちの彼女に、タイミングを計って状況を尋ねた。

 応急処置を済ませた後で、何人かは歩くのが厳しいことを教えてくれる。


「ウチからもええですか?」

「はい」


 さっきの女商人が間に入ってきた。


「実はな、荷と馬車の一部が破損してん。修理せなあかんのや」

「ごめんなさい。そっちまで気が回らなくて」

「ええって。ただ頭には入れといて下さい」


 慌てて謝った俺に女商人は優しく応じてくれる。

 決して手放しじゃなかったけど、励ましにも聞こえる言葉が嬉しい。


「とにかく連絡しないと」


 鞄から魔法印と紙を取り出して救援要請を書く。

 仲間達の現在地を確認し簡単な状況を記す。最後に印を押したら、紙は鳥の形となり空へ飛び立つ。その様子を見ていた商人の1人が言う。


「ここで待ってれば救援が来るのか」

「バカ言うんじゃない。また魔物が来るかもしれないのにっ」


 別の商人が反論し、女商人が彼らを落ち着かせる。

 彼らの会話を小耳に挟みつつ仲間達と今後のことを話し合う。


「困ったね。これからどうしよう」

「王都へ戻るにしろ、他の都市に行くしろ距離があるな」

「移動は賛成できません。骨折されている方もいますし安静第一です」

「けどよ、魔物はどうするんだ。また来るかもしれないぞ」


 早速意見が分かれる。どちらの意見も間違ってはいない。

 これは難題だ。一帯が平原の現在位置では隠れる場所が少ないし、別の群れとの遭遇が危惧される。一方で怪我人の状態は看過できないだろう。移動による負担は大きい筈だ。

 ただし双方それぞれに問題があるように感じた。思案を巡らせながら口を開く。


「他にも問題があるよ。移動しちゃったら魔法印の報せが無駄になるかも」

「そうですよね。逐一知らせるのは厳しいでしょう」

「でも町に行かないと万全な治療ができなそう」


 俺の指摘に2人は黙り込んでしまう。思い悩むのは仕方ない。


「馬車はどうだ。あれで怪我人を運べねぇのかよ」

「荷物を降ろさないと無理じゃない。頼んでみる?」

「怒られないでしょうか。それに……」


 言い淀むニーアは、少し間を置いて搬送時の注意点を告げる。

 話を聞く限り商人達の協力が必要不可欠だ。他に打開策がないかを相談してから、移動しようと決め、護衛対象達へと向き合う。冷静そうな女商人に事情を話した。


「話は聞かせてもろうたで。皆に掛け合ってみます」

「お願いします」

「構いまへん。こんな時こそ助け合わな」


 そう言って彼女は身を翻し他の商人らと言葉を交わす。

 しばしの時を経て、苦肉の決断を飲んだらしい彼らが商品の精査を始めた。残す物と置いていく物を検討している。

 同時にニーアの指示で怪我人の搬送準備を行う。別の所では壊れた馬車の前で点検をしている人々がいた。周辺警戒や運ぶのを手伝いながら時々様子を見守る。


「こりゃ金具がイカれてるわ」

「直せそう?」

「どれどれ~ほう。こんならウチの魔法で応急処置できます」


 なんと、あの商人は鋼魔法でちょちょいっと修理していた。


「問題は時間やな。持ってくれるのを祈ってや」


 そんなこんなで準備が進んでいく中、ふと女商人が地平に視線を向け――。


「んんぅ、はっ魔物や。こっち来るで」

「えっ俺には全然見えないけど」


 急いでそちらを確認するが見えない。視力はいい筈なのに。

 目をこらし、半信半疑に思っていると「ウチには見える」と念を押してきた。俺が虚空を睨む間に近くで皆を急かす商人の声が響く。

 時間が経過し、段々と不穏な影が見えるようになってくる。


「本当だ、見えた!」

「ほら、言うたやんか。急がなあかん」

「撤退するぞ。重い物は置いてけ」


 急ぐ人々の声に交じって蓮之介の声が飛ぶ。


「貴重な品がぁ」

「アホ、拾うとる場合か。早う乗りぃ」

「残念だが諦めるしかない」


 苦悩が滲んだ呻きが聞こえた。迫る魔物の群れに向け、蓮之介が弓矢を放つ。

 何かが括りつけられた矢が飛んでいく。数本を続けて射掛け、敵の目前に突き刺さる。直後に種が急成長して足元を絡らみついた。なるほど、種か。

 全員が馬車や馬に乗り走り出す。怪我人は魔法で保護しつつ移動する。



 どうにか逃げ切り、断崖の近くの木陰で足を止めた。空は日暮れ。

 馬から降りて蓮之介に向かう。彼もまた同じように馬を降り宥めている。


「いい援護だったよ。でも弓なんて持ってたっけ」

「買ったに決まってんだろ」

「ああ、そっか」


 考えが至らず、恥ずかしくなって誤魔化す。

 弓の存在は大きいが矢の残りは少ない。本人も腕前は平凡だと言った。たぶん、ハロルド辺りと比べてのことだろう。


(十分凄いと思うけどなぁ)


 なにはともあれ、周囲の人々を気にしつつ野営の支度をする。

 本当は早く町に行きたいけど無理は禁物。ふと車の傍で眠っている女商人の姿が視界に入った。疲れているのだ、と気にせず作業を続ける。

 商人の1人が作ってくれた料理を食べ、一息ついた時だ。


「ひゃあえぇぇ!!」


 素っ頓狂な悲鳴が上がり全員の注目を集めた。

 尻もちをついた男性の前に珍妙な獣がいる。犬っぽいが耳はウサギの如く、尾や首に骨の輪飾りをつけていた。新種の魔物かと思ったが何かおかしい。


「けったいな犬やなぁ」

「犬、なんですかね」

「魔物にしちゃあ人懐っこい? けどデザインは気に入ったぜ」


 悲鳴を上げた当人は、物陰に隠れ「早く倒してくれよぉ」と叫ぶ。

 獣は吠える仕草をしても声は聞こえず、尾を振って数回跳ねた後に駆け出す。


「待って!」


 直感が騒ぎ、つい飛び掛かって引き留めてしまう。


「なんで引き留めるんだよぅ」


 情けない声が上がる中で毛並みに顔が埋まる。

 鼻腔をくすぐるこの匂い。頭の奥に引っ掛かりを覚えた。


「ん~うんん、なんだろ」


 一度顔を離したが、わからないのでもう一回。


「おーいエミル。どうした」

「ちょっと待って、何か閃きそうなんだよ」

「エミル君、そんなに疲れてるなら休んで下さい」

「違うよ。えーっと」


 何度か嗅いで、記憶を手繰り寄せた末に1つの答えを導き出す。

 確信に至って勢いよく顔を上げる。そして獣を捕まえたまま仲間達に向く。


「この犬からコリーの匂いがする」


 俺は力強く言い、皆は唖然とした面持ちでこっちを見つめていた。

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