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第35話 東の地からきた短期交流生

 2年目に突入した学園生活。休みが明け、新入生を交えての登校日。

 教室に入った時、早くも新しい話題で盛り上がる一角があった。中心にいるのはトーマスだ。明るい声音と揺れる尻尾で上機嫌なのが伺える。


「その子は翼があるのに全然鳥人族っぽくないんだ」

「本当? 他にはどんな特徴があるの」

「まだ詳しくは知らないんだけど、どうやら短期交流生みたい」

「短期交流生ってあれだろ。特別な事情があって一時的に在学するっていう」

「殆ど客員扱いのやつだよね」


 近くに歩み寄ると内容がよく聞き取れた。興味深い話をしている。

 鳥人族っぽくないだとか、短期交流生であるとか。誰かが「今その子どうしてるの」と問いかけたので耳を傾ける。


「さすがにそこまでは難しいかも」

「ああ、確かに。短期交流生っていろいろな学科に顔出すもんね」

(てことは、ここにもくる可能性があるってことか。楽しみ)


 席で聞き耳を立てながら考えた。


「じゃあ名前は?」

「それがさ、東の国っぽくて難しいんだよ」

(東、蓮之介みたいな感じかな)


 発音が難しそうだ、と思っていると予鈴が鳴る。

 教師の接近を察して一部の生徒が慌てて席に着く。挨拶の後、例の生徒の話が報されて平常通りに始まった。



 昼休み、いつもの場所でニーアや蓮之介と話す。

 早速というか朝の話題が上がる。2人とも気になる様子で期待を隠し切れていない。


「僕が思うに天狗族じゃねえかと。噂だけどさ、高位の者は天使っぽい見た目らしい」

「天使って? つまりどういうこと」

「翼以外が人間族と変わらねーって意味」


 あくまで見た目の話な、と彼は念押した。

 興味は尽きず実際に会えたらいいと思う。ただ探すのが大変そうだ。人探しで苦労した記憶を思い出して、脳裏に諦めに似た感情が過ってしまった。


(焦らなくても会えるよね)


 ほぼ自問自答な呟きを心の中に零す。


「高位の方がどのような用向きで来たのでしょう」

「交流生なんだし、言葉の通りなんじゃない?」

「やっぱ一番はそれだろ。交流生は受講の制限が緩いしな」


 いろいろ意見を交わして時間が来る。別れた後はまた講義だ。

 実技訓練の講義で、意外と早くその時はやってきた。手合いをしている一団の中から派手に声が上がる。つい注目してみると見慣れない生徒が立っていた。


 紫黒色の短髪に、灰色の瞳をした人物。背に烏の如き翼を持つ。

 薙刀を構えた姿は凛々しい。華奢な体躯を包む衣はいつぞやの冒険者を思い出させる。東の国の装束だと思うが、蓮之介が着ている和装ともどこか違う。


「今度はボクの勝ちダネ。次は誰?」


 聞こえてくる言葉は、聞き取れるが所々怪しい発音だ。


「オレオレ、次行きまーす! ねえ、勝ったら1回デートしてよ」

「軽薄、絶対勝つ!」


 鼻の下を伸ばすお調子者を容赦なく玉砕。勇ましい女の子だった。

 強い、かなりの手練れだ。体格差をものともしない。体術を絡めた異国情緒のある動き、その見事さに見惚れてしまう。

 隣に蓮之介が立つの感じ、直後に少女の視線がこちらを向く。


(ちょっと待って、こっち来る)


 適切な距離を保ち立ち止まった少女が言う。


「初めましテ、ボクは(リー) 紫瑶(ズーヤオ)。よろしくネ」


 こっちも自己紹介と挨拶で返す。明るく元気そうな印象を受けた。

 彼女は何かを言おうとしたけど、他の生徒に挑まれて会釈をし去って行く。講義が終わった瞬間を狙い、俺は紫瑶の姿を探して呼び止める。


「ねえ、さっき何か言おうとしてなかった」


 問いかけたら相手は振り返って笑顔を浮かべた。


「気にしないでいいヨ。大したことじゃないカラ」

「そう? じゃあ、今度話でもしない」


 いろいろ異国のことを聞きたいんだ、と素直に打ち明ける。

 紫瑶は目的と合致してたようで快く頷いてくれた。互いに次の予定があるため、これだけを約束して別れ歩き出す。



     ⚔ ⚔ ⚔ ⚔ ⚔ ⚔ ⚔ ⚔ ⚔



 選択科目の1つ、乗馬の訓練。去年は取らなかったこれに挑戦中だ。

 馬との交流を兼ねて世話を行う。動物の面倒をみるのはとても大変で、慣れないことに戸惑いが抑えきれない。でも思わぬ発見はどこでも転がっていた。


「ギルバート君、人気者だぁ」


 誰かが言った通りに手慣れた彼の姿に関心する。

 どの子にも懐かれていて、しっかりと乗りこなす様がいい手本になった。


「凄いな。どうしてあんなに上手いんだろ」

「そりゃ遊牧民の出身らしいからね、彼」


 唐突に間近で声が聞こえて驚く。トーマスが馬の手綱を引いて立っている。


「相変わらず謎の情報網。どこから仕入れてくるのさ」

「ふふん、秘密だよ~」


 鼻を鳴らすトーマスの頭の毛を馬が食む。

 悲鳴を上げた途端、馬は首を振って口についた毛を落とす。何がしたかったんだろう。遊ばれているようにしか見えない。

 実際、遊牧民だからとかはともかく、乗馬が上手いのは事実だ。存在が心強いのは間違いなかった。



 別の日、校舎の中を歩いていると中庭の人影が目に入る。

 あれはギルバートとコリーだ。意外と仲がいいのかな、となんとなく思う。するとコリーが何かを渡していた。よく見えないが気にすることじゃないか。


(呑気に見てる場合じゃないや)


 次の講義に向けて再び歩き出す。準備の手伝いがあるから急がないと。

 そして去年も経験した実地演習の日が近づく。事前に相談して、今回は地の迷宮へ行く予定だ。当日まで学業と依頼をこなしながら準備を進めた。


 当日、チームで地の迷宮を探索する。

 細長い通路と広い空洞で構成されたアリの巣構造。油断しなければ十分対応できる上層から順に下っていく。ちゃんと足元や周囲を照らして。


「魔物除けの設置は完了したよ」

「こっちも問題なしだ」

「では皆さん、少し休憩しましょう。お茶を入れました」


 礼を言ってコップを受け取り口に含む。

 ニーアが怪我や体調を尋ねてきて、それに答えながら戦利品の確認をした。


「ちゃんと討伐した数だけあるね」

「しっかり管理しとけよ。評価に関わるからな」

「わかってる」


 牙や爪など、俺には些細な違いはわからない。

 でも鑑定士が見ればどこの部位か一目瞭然だという。紛失しないよう大事にしまい、適度な休憩が済んだら探索を再開した。


「うーん」


 道中、蓮之介が唸りだす。周囲を警戒しつつ考えている様子だ。


「どうしたの?」

「何か気になることがありましたか」


 当然だけど俺もニーアも気になる訳で立て続けに聞く。


「いや、気の所為かもしれないけどさ。以前より静かな気がして……」

「魔物がってことかな」

「うん」


 単なる勘だ、と軽く言う割に煮え切らない感じだった。

 よくわからないけど注意するに越したことはない。どうか杞憂であって欲しいと願い、更なる深層に向け足を踏み出す。



 中層の手前くらいでふと異様な気配を感じる。

 もちろん位置は目安程度の感覚だ。それよりも背筋を走る悪寒のほうが気になった。直感で敵の存在を感じて仲間に合図を送りつつ身構える。

 仲間達の緊張が伝わってきて周囲を睨む。発生源は正面だけじゃない。


(数は、1、2……。4、5体ってところか)


 確信は持てないけど、落ち着いて状況を分析するよう努めた。

 焦ってはいけない。そっと息を吐いて気持ちを静め、薄闇に視線を注いだ。


(場合によっては逃げる選択もしないと。でも逃げられるかな)


 いろいろと思考を巡らす間に、闇に潜み蠢く影が歩み出る。

 去年の講義で教わった魔物・ガルムだ。犬に似た姿の奴らで好戦的なんだっけか。見れば他も同種で低く唸りこっちを睨んでいた。


(特に変わったところは見当たらないけど)

「群れでおいでなすった」


 思考に被さって蓮之介の呟きが空洞に響く。

 地面を踏みしめる音がいやに耳へ届き、空気が研ぎ澄まされいくのを感じる。


「バウッ」


 先に動いたのは魔物のほうだ。群れの1体が吠えるのと同時に飛び掛かる。

 迎撃せざる得ず、一気に血が上るのを感じつつ剣を振るう。連携の取れた狩りの動きを見せる敵。真っ先に狙われるのはニーアだ。


「させるか!」


 ある程度予測はしていた。だから彼女が対応できない敵を請け負う。


「エミル、繋げてくれ。突っ込む」

「了解」


 意識同調すると共に蓮之介が薄闇の中に消えていく。

 微かに閃く刃の輝きはあるが視界は悪い。俺は視覚に頼らず、他の五感と蓮之介から伝わってくる情報を頼りに援護する。糸で敵の動きを縛り魔法で追撃。


『こいつら前に戦った時より強え』


 体感からくる感想が聞こえ怪訝に思う。同時に足へ激痛が走る。


「くっ、これは……。レン下がって、ニーア行くよ」

「はい」


 能力と声の両方を使って告げ走り出す。

 無事に合流できた所で俺は風の壁を形成。魔物の進行を防ぐために渦を巻かせる。時間が稼げればいい、治癒が終わるまでの時間を――。


「終わりました」

「ありがと、動ける」

「よし解除するよ」


 壁の消失と同時に蓮之介が技を放つ。

 一撃必殺とまではいかず、魔法の追撃を叩き込んでどうにか倒す。

 3方向からの同時攻撃をニーアの植物が防ぐ。更に彼女は匂い玉を投げつけた。着弾した獣が首を振り、悶絶した瞬間を切り裂く。

 こうして1体ずつ確実に仕留めて戦う。決着後は周辺確認しながら状況整理だ。


「いったい何だったんだ、こいつら」

「前はもっと弱かったの?」

「ああ。まさか怪我させられるなんてな」


 蓮之介に油断はなかった筈。死骸を処理しながら考える。


「生態に変化があったとすれば、原因はなんでしょうか」

「たまたま育ちが良かったとか」


 俺の呟きに一応の同意が返ってきた。

 場所によって個体差が出るのは珍しいことじゃない。でも同じ場所でとなると、少し腑に落ちない部分がある。考えられるとすれば1つ。


「下で何か起きてるのかな」


 下に続く道のほうへ視線を向けて言うと、間を置いて声が上がる。


「いったん引き返そうぜ」

「うん。戻って引率の先生に相談してみよう」

「私も異論はありません」


 これ以上の探索は危険と判断して引き返す。

 多少足りなくても仕方ない。安全が第一だし、まったく収穫がない訳じゃなかった。帰り道を慎重に進んで教師に相談する。結果として実地演習は中断となった。

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