表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
49/62

第34話 毛魂バクレツ&皆でお花見

 時が過ぎていき冬の試験期間がやって来た。

 準備と本番が進む中、突如技巧科から轟音と絶叫が響き渡る。

 ちょうど昼休みのことで耳にした人々がざわめく。野次馬に紛れて覗きに行くと、いっぱいに広がる異様な光景に目を見張った。


「また変なもの作ってる~」

「おい聞いたか。医療科も関わってるってよ」

「マジ!? それで、何しようとしたのこれ」


 皆は驚きつつも受け入れ始めている。

 この時期になると、思考のネジが飛んでやらかす人が出るからだ。

 目の前に見えるもの、それは謎の毛溜りだった。毛量と長さのどちらも凄い。そして近くには蠢く毛玉までいるという珍妙空間。誰が見ても、たぶん「何これ」という感想が浮かぶ。


「原因はいったいなんだ」


 生徒会が颯爽と駆けつけ、意味不明な状況に声を上げた。

 すると毛塊の中から生徒が顔を出す。彼女は目を回している様子。


「はへぇ、大失敗や」

「説明して貰おう。何がどうしてこうなった」

「耳元で叫ばんといて~」


 つい耳を塞いでしまう地匠民(ドワーフ)族の女子生徒。

 次に口を開いたのは、少し離れた所で地面に顔面衝突していた男子生徒だ。白衣が大惨事になっている彼は上体を起こして言う。


「育毛剤ですよ。ちょーっと効力が強過ぎちゃいまして」

「ちょっとか、これ?」

「絶対違うだろ。鬱蒼と生え散らかしてるぞ」


 当事者の言い訳に野次馬の中から囁く声が出る。


「んにゃあ! ふさふさが大爆走してるにゃ」

(あれ、この声って)


 おかしな文言を聞き、視線を向けると蠢く毛玉に呑まれたトゥワの姿が……。

 もはや何からつっこめばいいのかわからない。まずあの塊は普通の生物じゃなさそうだ。魔物でもないと思う。手足と呼べる部位はなく、毛先を動かして半ば転がるように疾走。


(魔法と何かいろいろ混ざってそう)


 調合でたまに奇妙なものが出来上がるのは知っていた。

 これも同じ類ではと考え、強引に納得してからトゥワを助けに行く。見た目の不気味さに怯みはしたけど負けない。辛うじて出ている腕を掴み引っ張り出す。


「ふさふさの中、ぽかぽかだったにゃ」

(ん? 助けないほうがよかったかな。いやいやっ)


 妙にうっとりがしている様子の彼女の反応に困惑した。

 顔というよりは声だけど、名残惜しそうだ。尻尾も耳もとろんと垂れている。


「えーっとトゥワ? 正気に戻って、ね」

「ふぁ! さ、寒いにゃー」

(うん、気持ちわかる。寒いのはちょっと)


 我に返ったように腕を摩りだす。丸まって暖を取っていた。


「とにかく片づけなさい」

「は、はい」


 向こうでは生徒会と騒動主の話が続いている。

 その時、別の所から声が上がった。同時に慌ただしい物音が――。


「脱走だ、毛玉が逃げ出したぞ」

「やばいんじゃないか。このまま外に出たりしたら」

「急いで門を封鎖するんだ」


 なんか大変なことになっている。

 皆が慌てて駆け回り、一気に騒々しさが増す。

 確かに外に出たら大混乱が起きるだろう。俺は収拾を手伝おうと走り出した。



 逃げ出した謎物体は想像以上に素早い。

 校舎や庭、グランドを駆け回って捜索と回収を行う。追いかけてきたトゥワと一緒に各地を巡っていく。全力で動いても十分についてくるので頼もしかった。


「どこまで行っちゃったんだろう」

「魅力的なふさふさ、どこにゃ~」

「トゥワ、その呼び方は……」

「全然おかしくないでしょ。ふさふさよ、憧れるにゃ」

(憧れの対象なんだ)


 まったく理解できない。いや、動物の毛並みに癒されることはあるけど……。

 グランドの片隅で大型のものが集合していた。それを協力してとっちめていると、校舎側から再び大きな音が響く。煙が立ち上っている。


「医療科のほうからだ!」

(ニーアが危ない)


 脳裏に浮かんだ顔に焦りが沸き起こった。急ぎ現場に向かう。


「ニーアッ、てあれ」

(いないな。よかったけど、それよりも)

「発情期みたいだにゃ」


 トゥワの直球な発言に、全身を電撃が走ったような感覚を覚える。

 蠢く毛玉の群衆はあれやこれやとお祭り状態。室内に薬品の入った容器が散らばり、他にも道具が荒れ放題になっていた。

 駆けつけた生徒会の1人が顔を引きつらせて言う。


「今度は何が起こったんですか」

「連中が突然押し寄せてきて開発中の惚れ薬を飲んだんですよ」


 動揺した様子で白衣の生徒が説明する。それを聞き、生徒会は更に顔を歪めた。


「まず、貴方は貴方で変な物を作らないで!」

「この惨状どうしましょう。薬の影響は大丈夫なのか」

「それは問題ないと思います。実験段階だと人にはまだ効果ありません」

「既に試したと? まさかっ」


 迫力のある形相で睨まられ、白衣の生徒は慌てて口を開く。


「やだなぁ。自分で実験したんです、本当ですよ」

「はぁ、とにかくひっ捕らえましょう。謎物体ともども」

「そんなぁ~」


 あまりのぶっとび会話劇に俺はついていけない。

 ふらりと立派な毛の塊にトゥワが誘われていく。彼女を止めながら作業を行う。

 数時間に渡る大騒動を経て、試験期間のひと時は無事終了する。もうすぐ学園に入学して1年が経とうとしていた。



     ⚔ ⚔ ⚔ ⚔ ⚔ ⚔ ⚔ ⚔ ⚔



 冬の終わりから春にかけての連休。

 穏やかな気候の中で俺は、ニーアと料理をもって裏庭へと歩く。

 花が咲き乱れるそこには他の参加者が集まっていた。発案者の蓮之介がこっちに気づいて手を振る。布を敷いて、その上に料理や飲み物を並べた。


「皆、揃ったか? 始めるぞ」


 全員がコップを手に持つ。そして発案者の号令で一斉に言う。


『かんぱーい』


 お花見、と呼ばれるこの集いは桜嵐帝国の文化らしい。

 周囲に咲き誇る色彩を愛でて楽しく過ごす。美的な催しがあるものだ。


「ミャーの肉を取ったら許さないにゃ」

「早い者勝ちだよ」

「我が女神に捧ごう。妖精が奏でし春の調べ、乙女は可憐に咲き乱れ、柔く舞い踊らん」


 トゥワとトーマスが料理にがっつく。競うように手を伸ばして。

 その傍らでハロルドが優雅に詩を披露していた。芸術科から借りてきた楽器で、ニルスと技巧科の生徒が音楽を演奏してトゥワが踊り出す。楽しそうだったので俺も便乗する。


「ニーアも踊ろ」

「はい、エミル君」


 民族風の踊りが繰り広げられる隣で、手に手を取ってゆらゆらステップを踏む。


「おお、3人ともやるな。僕も剣舞くらいなら菊兄から教わったぜ」

「ほほう、奇遇ですね。ダンスなら当然嗜んでます」


 蓮之介に続いてハロルドまで乗っかる。

 女性の取り合い、なんてことは無粋なので今回はやらない。楽しい気分が台無しになるのは嫌だからね。一区切りしたら身を引いた。

 ニーアは嫌がることなく応じている。観戦組の声援を聞きながら食事再開。


「ほな、ここで一発芸いくで」

「えぇ~本当にやるの?」

「当たり前やろ。今やらんでいつやるん」


 トーマスと技巧科の生徒が賑やかに問答を交わす。


「ギルバート、君も参加してみてはどうかな」

「結構です」


 ずっと静かに、枝の上で囀る小鳥を愛でていた彼にハロルドが言った。

 離れた木の根元では、フェロウが陽気にうつらうつらと舟を漕いでいる。気持ち良さそうに寝ているので起こさないでおこう。

 そんな彼女の奥、校舎から出てくる2人の姿に俺は声を上げる。


「ヴァルツ、コリーも一緒にどう」


 人数は多いほうがいい。でも残念ながら相手の返事は聞こえなかった。

 だけどヴァルツは仏頂面で顔を背け、コリーは困惑気味に顔を強張らせたのがばっちり見える。予想通りの反応だ。嫌そうな反応の後で去ってしまう。


(まあ、仕方ないか)


 悪い人達じゃないし、誘ってもいいかなと思ったんだけど……。


「ほらほらエミル、いつまでも休んでねぇで一緒に騒ごうぜ」

「うん!」


 温かい日光の下で、和やかでありながらも賑やかな時間が過ぎていく。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ