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第31話 新しい武器を使いこなすために

 復興が落ち着いてきた頃、技巧科の一室で俺は歓喜の声を上げた。


「カッコいい! イメージより全然凄いよ」

「褒めすぎや、照れてまうわ」


 興奮気味に装着して着け心地を確認する。

 グローブに特殊な装置がついていて、糸つきの針を飛ばす仕組み。針は用途に応じた形状の物をつけ変えられるみたい。片手だけでも複数の糸を出せる仕様だ。


「本当にありがとう」

「ええって。それより具合はどうです?」

「うーん、今のところ気になる感覚はないかな」

「よかったわ~。もし何かありましたらお声かけ下さい」


 その時はよろしくと伝え、代金を支払って退室した。


(早速練習しなくちゃ)


 嬉々として廊下を突き進む。高鳴るこの鼓動は止められない。

 うまく時間を見つけて練習する。実践訓練の講義なんかはまさに打ってつけだ。蓮之介も一緒なので、頼んで連携できないかを試す。

 まず備品を設置して、地形を想定した障害物を作る。


「こんなもんかな。じゃあお願いします」

「おう、いっちょやるか」

「面白そうなことやってるね。ボクも混ぜて」


 ニルスが声を掛けてきた。以前、依頼を一緒にやったエルフの人だ。


「もちろん、是非お願いしたいです」


 3人目の彼に魔法使い役を担当して貰い練習開始。

 適当に動き回る彼らに合わせて実践してみる。だけど……。


(そこだ)

「ちょちょっどわ!?」


 狙いを定めて放った筈だが、糸針はうまく刺さらない。

 そればかりか障害物の下方に引っ掛かる。無理に巻き取ろうとして蓮之介が足を取られた。躱せなくてすっ転んでしまう。


「ごめん。失敗しちゃった」

「まぁ最初だし仕方ねーよ」


 砂を払いながら彼は笑った。怒られなくてほっとする。


(よーし次こそ)


 今度はニルスを救援に行く想定で糸針を飛ばす。

 だけど途中で針が抜け落下したり、変な所に絡まって逆に動きを邪魔してしまう。全然狙った通りにいかない。


「なんで、狙いは合ってるのに」


 考えて、ふとヴァルツの動きを思い出す。


(ヴァルツはもっとこう……)

「大丈夫だって、武器ってのは手に馴染むまで時間がかかるもんだろ」

「うんうん。練習あるのみだよ」


 蓮之介に続いてニルスも励ましてくれた。2人とも優しいよ。


「そうだね。もう一回、いやできたら時間が許す限りお願いします!」

「当たり前だろ。僕達チームメイトなんだし」

「ボクは違うけどね。でも大歓迎さ」


 彼らの好意に感謝しつつ練習を続ける。

 しかし上達は厳しかった。何かが足りないのか。それとも別の、と考えて終了。

 昼休みになり、昼食に向かう道中、俺はまだ考えを引きづっていた。味方の足を引っ張るようじゃダメだ。絶対方法を考えないと。


(こういう時は達人に聞くのが早いよね)


 ちょっと怖いけど行かなきゃならない。

 大丈夫、先日の騒動で多少なりとも見てきた。話せない相手じゃない筈だ。


(食堂にいるかな。いてくれると助かるんだけど)


 目的の人物を探して食堂を覗く。

 残念ながら件の相手は見当たらない。よく一緒にいる相方もだ。

 結局その日は見つからず翌日、更に次の日になって――。


「もう、なんで探してる時に限っていないんだよぉ~」


 行動パターンがまったく想像できず大苦戦。

 学園の広さが災いして、あの2人を探すのに駆けまわる羽目になった。

 講義が終わった瞬間に教室を飛び出し、昼食時に食堂を覗き、休み時間も可能な限り使って探す。だが入れ違いになっているのか。全然接触できない。


(ちゃんと学園にいるよね?)


 もはや登校しているのかを疑いたいくらいだ。

 廊下をギリギリの速度で突き進んでいた時、ふと窓の外に目が留まる。


「いたー!」


 見間違いじゃない。木陰でコリーが寝そべっていた。

 見失う前にと大急ぎで外に向かう。ちょうどいい感じの茂みがある地点だ。こっちの苦労も知らずにのんびりと昼寝を楽しんでいる。


(気持ち良さそうに寝てるなぁ)


 今日は気候が穏やかで過ごしやすい。まさに昼寝日和だろう。


(ちょっと気が引けるけど……)

「ねえ、コリー。ちょっと起きてよ」

「ん~」


 歩み寄って揺さぶった。でも、なかなか起きてくれない。

 ちらっと視界に入った通行人がそそくさと逃げていく。俺は気にしてる場合じゃないと、更に声を張り揺さぶる。すると瞼が開き、次いで眼前を鋭い一閃が抜けて。


「危なっ、何するの」

「はあ? こっちの台詞なんだけど」


 トンファーを構えてコリーが睨む。めっちゃ機嫌が悪い。

 起こしたのは悪いと思うけど、いきなり攻撃してくるほど起こるとは――。


「起こしたのはごめん。でも話をっ」

「万死っすね」

「嘘、待って待って」


 嚙み殺すかの如き勢いで襲い掛かってきた。

 それを回避しながら必死に弁解を試みる。けれど相手の動きが少し妙だ。時々ふらつきながら踏み込んでくる感じで、次第に勢いが弱まり膝をつく。


「どうしたの! まさか具合が悪いんじゃ」

「うっせぇ。触んなボケ」


 若干力の抜けた声音で突っぱねた。姿勢を落として深呼吸している。


「コリーッ」


 遠くから叫ぶ声が聞こえ視線を向けた。

 ヴァルツが校舎の角から走ってくる。傍に寄り添い、状態を確かめて言う。


「また貧血か。しっかりしろ」


 医療学科に行くかと尋ね、首を振るのを見て落ち着くのを待つ。


「あの、俺」


 遠慮しつつ言うとヴァルツが視線をよこす。


「気にしなくていい。だが必要以上に騒ぐな」

「う、うん」


 事情を聞かれて正直に話した。

 そうしたら「バカなことを」と呆れられる。むっとして言い返す。


「バカッていうことないだろ」

「探し人の情報を収集しない奴をバカと言って何が悪い」

「なっ俺だって目撃情報くらい聞いたよ」

「そうか。へたくそ」

(くぅ~ああ言えば、こう言う)


 なぜかハロルドを思い出して腹が立つ。別に似てないのに。

 でも今はぐっと堪えて、背筋を正し真剣な気持ちで言う。


「ヴァルツ、実は君に頼みがあって来ました」


 名指しで告げると、呼ばれた当人が振り向く。

 彼は静かに耳を傾けているようだった。後だとも、黙れとも言わない。だから落ち着いて事情を話し、勢いよく頭を下げる。


「俺に糸を使った武器の戦い方を教えて下さい!」


 お願いしますと誠心誠意に頼んだ。そのつもりだったけど……。


「断る。なぜオレが教えてやらないとならない」


 あっさり即答で一蹴されてしまった。

 コリーの調子が回復したのを待ち、共に歩き去って行く。

 完全に取り残されて俺は、ひと筋縄で行かないのを実感する。最初は呆けて、でも!


「負けないからね」


 誰に言うでもなく、挑戦状を叩きつけて次の講義に向かう。



     ⚔ ⚔ ⚔ ⚔ ⚔ ⚔ ⚔ ⚔ ⚔



 その後、俺と不良コンビの戦いが始まる。

 練習はもちろんするけど、空き時間の一部を彼らの説得に充てた。


「うぅ~またいない」


 会わねば始まらないのに捜索が困難過ぎる。

 互いに講義があるので終わった瞬間を狙う。けれど魔物関連は別だし、選択科目はよく知らない。教室を虱潰しにしたくても時間が足りなかった。

 顔を合わせられる機会が最も高いのは実技訓練だ。注意深く見回す。


(えーっと、あっいたいた)


 片隅で周囲に怯えられながら訓練する2人。


「ヴァルツ、コリーッ」

「げっ」

「懲りないな」


 手を振りながら駆け寄ったら、嫌そうに顔を歪められた。

 だからといって歩みを止める選択肢はない。むしろ慣れてきたかも、と思う。


「ねえ、本当にお願いします。条件があるなら……」

「条件の有無は関係ない」

「そっそ、いい加減諦めなって。ヴァルツに教えを乞うとかさ」


 無謀だとコリーが言った。相変わらずの塩対応。

 一瞬だけ不安が心の奥に過ったけど振り払う。挫けるものか。


(どうしたら引き受けてくれるかな。何をすれば喜ぶ?)

「おい、今になって考えるな」

「えっ」


 考えを巡らせていた時、ヴァルツの呆れ声が返ってきた。

 腕を組み鋭おい視線を向けている。彼の片割れでコリーがくすくすと笑っていた。

 もしかして心境の変化があったとか。そう思い、再び頼んでみるが返事は変わらず。何が、どういうことなんだろう。


「時間の無駄だな。行くぞ」

「うん」


 俺は慌てて呼び止めるけど、相手は歩みを止めずに行ってしまった。



 しおしおと蓮之介の所まで歩いていく。

 様子を察して彼は「また失敗か。どんまい」と苦笑を返す。


「気を取り直して練習しようぜ」

「ありがとう」


 励ましと提案に礼を言って気を取り直した。

 とにかく形にするために試行錯誤だ。まず1人との連携を強化すべし!


(今度こそ、よく狙って)


 対象を見据えて糸針を放つ。それは見事に木組みの塔に刺さる。

 軽く引いて感触を確かめ、体重をかけて移動しようとした時だ。木組みの一部が崩れて塔が倒れ――。


「エミル!」

「うわああぁぁっ」


 視界の端で慌てる蓮之介が、次の瞬間に刀を構えるのを見た。

 彼が技を放つのとほぼ同時に別の影が割り込む。それは大きくごつくて、見覚えのある。


「なんとも、ない? えっこれってコリーの……」


 確かファンなんとかいう土人形だ。

 一部は剣戟で両断され、一部は頼もしい腕に支えられていた。

 周囲を見回すとやれやれ感満載な能力者の姿が見える。余計な手間かけさせやがって、とか思ってそう。もの凄く面倒臭そうな表情をしていた。


「あぁ、土台部分が腐ってたのか」


 騒ぎを聞いて集まってきた誰かが言う。


「怪我はないか」

「うん、レン助かったよ」


 礼を言って立ち上がり、服についた土を払う。

 もう一度視線を戻した時には人形遣いの姿はなかった。

 彼らのおかげで大事にならず講義を終える。気になる態度は多いけど、憎めないなと感じたんだ。

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