幕間08 コリーが見た背中&おまけ
注意:今回はかなり長いです。余裕をもってお読みください。
また一人称ですが、これは意図したものであり誤字ではありません。
メルクリナ国の都・ファルツァネーラ。南半球にある大陸の東側か。
海が近く、森と川に恵まれた、まあまあ平穏な故郷だ。代り映えしない。
レンガの壁を彩る花と港。中心にそびえる尖塔をもつ城はまさに都の象徴。観光客から見れば、それなりに楽しめる所なんじゃないか?
6月下旬、冬が近づく秋の終わり。
屋敷の一室で目覚め、毎朝恒例の礼拝を済ませて外に出向く。
「ふっふふん~♪」
今日は妙に気分が良くて足が弾んだ。
他国じゃ魔物がどうとか言ってるが、ここらじゃ大して気にならない。
理由は至極簡単な話なんだけどさ。それはともかく、調子に乗って都の外まで足を運ぶ。
「ブルルッ」
「ひやぁぁ」
だけど考えが甘かった。油断していたとも言えるか。
緑地帯を駆け回る猛牛を前にした時、そんなもんじゃないと感じた。魔物=使徒が人を襲うのは神の思し召しだなんて……。
(怖い怖い怖い。死にたくない)
小さな悲鳴を上げる以外、まったく機能しない喉。腰が抜けて動けない。
次の瞬間、眼前にぶわっと薄青の外套がはためく。直後に金属音を響かせ魔物が止まる。受け止めた、と感じた時唖然とした。
「カイル、そのまま抑えてろ。どるぁあぁっ」
舌を巻くような叫びと共に、鬼族の少女が金棒を振り下ろす。
どこからか男性の声で詠唱が聞こえる。攻撃を受けて、なお暴れ回る牛を鞭で締め上げた。持ち手には人魚族らしき女性の姿。
「ン、モゥ」
魔法と剣でとどめを刺されて魔物は倒れ伏す。
「君、大丈夫? 怪我はない」
「はい」
思ったより頼りない声が出た。差し伸べられた手に助けられて立つ。
相手の顔なんて見れなかった。なんとなく情けなくて唇を引き結ぶ。みっともなくてさ。
「もう怖くないよ。君はこの近くの子かな」
問われて無言のまま頷く。すぐに指で方向を示す。
送ろうという男に仲間達は言葉を濁していた。耳打ちしていて聞き取れなかったけど……。
「皆の話はわかったけど、子供を放置はできないよ」
「そう、ですわねぇ」
おっとりした雰囲気の女性が言う。
結局、道案内を頼まれて都に彼らを連れていく。
他所から来た人々に、興味を示す皆の視線が気恥ずかしいと感じた。
礼儀として、礼をしたいと彼らを屋敷まで連れてくる。玄関の前で老齢の執事と会う。
「おかえりなさいませ、坊ちゃま」
「ただいま。バルフェロ、客を連れてきた。僕の不注意で、魔物に襲われていたところを助けてくれたんだ」
言っとくが、バルフェロはシャキッとしていて自慢の執事だ。
白髪の映える歳だが背筋正しく、身体つきも非常に逞しい。実年齢より若く見えるだろう。彼が完璧な所作で対応する。
「畏まりました。すぐに旦那様にお伝え致しましょう」
「いえ、我々は……」
4人の中心にいる金髪の男性が遠慮した。
「遠慮しないで下さい。恩人に礼をしないと僕の恥になります」
「わかった。お邪魔させて貰うよ」
こちらに向けて言う彼を案内して、夜。
一泊の宿を提供したため晩餐をもてなす。緊張した様子の彼らを両親と一緒に応じた。やや無作法なのは目を瞑ろう。むしろ慣れない手で綺麗に食事している。
ただ1人、鬼族の少女以外はまったく気にならない程度だ。歳が一番近そうなのに豪快な食べっぷり。
「ヒスイ、不味いわよ~。お行儀よく」
人魚族の女性が小さく耳打ちしていた。でも大して改善されていない。
視線を少女の右隣に向けると、エルフ族の男性が静かに料理を啄んでいた。
(こちらは可愛いな。ギャップすげぇ)
更に視線を左へ流しいき、女性2人を通り過ぎた端。
金髪の男性が父と会話している。どちらかというと父の話に応じている感じか。
「なるほど、人探しとは。大変ですな」
「はい。なかなか見つからなくて」
「それで探しながら、各地で人助けや調査活動をしているのですね」
「ええ」
穏やかな雰囲気で話す2人。時々、母が口を挟んでいた。
一行を部屋に返した後、僕は父の呼び出されて書斎に行く。
状況なだけに恐縮して扉を叩き入室。晩餐の時とは打って変わり、奥に立つ姿は厳格さを帯び険しい表情をしている。視線が合うだけで背筋が冷えた。
「あの、父様……」
「なぜ11にもなって、使者様の怒りを買うような真似をしたのだ」
「申し訳ありません」
己の不注意を素直に詫びる。事実なだけに言い訳のしようがない。
頭を下げているとため息が降ってきた。恐る恐る頭を上げると、父が手に持っていた資料を机に置く。
「まあ良い。今はあの一行だな」
「父様、どういう意味でしょう?」
「憶測の段階だが、金髪碧眼の男と種族の異なる4人組。連中は勇者の一行かもしれん」
その言葉を聞き、言葉を引っ込め息を呑んだ。
「いいか。連中に決して気を許すなよ」
「は、はい」
応えながら複雑な心地を味わう。頭の中が混乱していた。
翌日から監視という名目で男を見つめる。
距離を保ち、影からそっとだ。表面上は至って普通、住民に声を掛けつつ散策。道中で果物を落とした老婆に歩み寄って一緒に拾う。
「どうも、ありがとさん」
「いいえ。このくらいお安い御用です」
(普通だ)
また別の所で、風に飛ばされ木に引っ掛かった帽子を取り……。
「はい、どうぞ」
「ありがと」
少女に手渡してお礼を言われていた。
(不審な点がない)
我が目を疑いたい心地だ。本当にあれが、伝承に語られる勇者なのか。
無論、伝説の人物と別なのは承知している。だけどいつの時代も、本質的には違わないとも思っていた。個人としての要素が違うのは些細なことだ。
(黒龍王ベルモンド様を討滅した、勇者エルエトスの意思を継いでるの?)
「本当に穢れを振りまく悪しき存在なのか」
誰の耳にも届かぬよう小声で呟く。正直な疑問だった。
尾行しながら海辺の一角まで足を運ぶ。港が見えはするが人気は殆どない。男はそこで懐から取り出した何かを見ている。
(何だろう。全然見えねぇ)
監視対象が動くたびに隠れ、身を乗り出すように覗き込む。
「君、こんな所に1人で何してるんだい」
不意に背後からぼそぼそした声が掛かった。
背筋を駆けあがる悪寒と、連動するように総毛立つ。
「いぎゃあぁぁぁっ」
悲鳴を上げ、転げるように振り向く。
そこには一行のエルフ男が立っている。杖を手に持ち影の深そうな顔で。
「ああ、ごめんごめん。驚かせてしまったね」
「えっおじさん。び、びびった~」
「おじさん……。そうか、うん、君くらいの子だと当然か」
未だぼそぼそと感情の読めない顔で話す。
すると今度は背後から「あれ君はお屋敷の……。バルクさんまで」と、状況を尋ねる声が聞こえた。エルフの男性は「やあ」と生気の薄そうな声で返す。
見つかったと再度振り向けば、男の顔と手元で光る銀色の物が見える。つい凝視してたら彼が気づいた様子で――。
「このロケットかい? 妻の肖像画が入ってるんだ」
無意識に近づいて覗き込む。蓋には鳥の掘り込みがあった。
見つめる男の表情が温かくて深い。そして、切なげだ。
(僕らと変わらない、人だ)
きっと故郷に残してきたんだろう。想像して胸が苦しくなる。
何も聞くことはできなかった。海を眺め、時々ロケットに目を落とす。その姿を見て、言葉もなく立ち尽くすしかなかったんだ。
数日後、この町に巡礼者の一団が立ち寄った。
フードつきの外套やローブを纏った人々。その中でひと際目立つ人物が1人。
紗幕のついた帽子を被り、周囲の者らが恭しい態度で従う。さぞ高位な役職だろうと想像する。綺麗に列を成して城へと歩んでいく。
「いけね。朝の礼拝に行かないと」
(面倒だけど、やらないと煩いんだよなぁ)
さぼった時の恐怖を思い出して急ぐ。
礼拝堂でいつも通りに祈りを捧げる。そろそろいいかと思い腰を上げた時だ。
「敬虔な信者よ。貴方の行為は称賛に値します」
「貴方様はっ」
「我らが主、我が父、始祖ネメルヴェヒュト様はきっと祝福を下さるでしょう」
視界に入ってきた人物が紗幕つきの帽子を外す。
その姿が露わになった時、僕は形容しがたい思いで絶句した。
神々しいまでの美貌、中性的で華奢な体格。上質な衣は踊り子の如き式服だ。さらさらと流れる髪は淡い虹色に輝き、褐色の肌、儚げな銀色の瞳をしている。
(歳同じくらい。下手したらちょい下か)
恐れ多くて、とても年齢なんて聞けなかった。
10歳前後の容姿は親しみやすい。でも服装から推察した正体を思えば無理だ。
「何か言ったらどうです?」
「いいんですか」
こくりと相手が頷く。喉が渇くのを感じつつ声を発する。
「どうしてこちらに、お城にいる筈では……」
「ああ、そのこと。んふふ、抜けてきちゃった」
「えっ」
急に調子が変わった相手に戸惑う。
魅了するまでの無邪気な微笑みを浮かべて少年は誘った。一緒に遊ばないか、と。そして思い出したように言う。
「クエスマグナ」
「はい?」
「私の名前。君はなんて言うの」
「コリー・サンダリア・フォルツァネーラです」
「じゃあコリー、行こう!」
「わわっ、ちょっと待って下さい」
強引に手を引かれ外へ飛び出す。
礼拝堂を出てすぐもう1つの旅の一行の姿を目撃した。
両者の視線が一瞬だけ合った気がして、僕は慌てて帽子を被せ手を引く。楽しそうな声を聞きながら駆け足になる。
緑豊かな公園まで息を切らして走ってきた。
ずっと手を握っている訳にもいかず離す。少年は周囲を見回し、楽しそうに笑っている。
「もう帽子はいらないね」
「ちょっ捨ててはいけません」
帽子を外して放るのを見て、慌ててそれを拾う。
その直後、逆に腕を引かれえれて帽子を取り落とした。強く抗うことができずに近くの石舞台まで歩く。舞台上に上がり踊る。
(こうなったら、つき合うしかないか)
教養の一環で学んでいるからダンスは苦手じゃない。
気が済むまで舞い踊った。意外と悪くない、と感じるひと時だったと思う。
「導師様! やっと見つけましたよ」
愉快な時間は呼び声に遮られ、瞬く間に静寂が場を満たす。
「はぁ~見つかっちゃった」
「勝手に姿を消されては困ります」
「ちえぇ」
悪戯が露見したような顔をして少年が舞台を下りる。
僕は軽く手を伸ばし引っ込めた。足を踏み出せない。そうしている間に、迎えから帽子を被せて貰いながら少年が振り返る。後ろ手を組んだような姿勢で……。
「楽しかった。じゃあね」
「ど、導師様」
「だーめ。コリーは私を名前で呼んで」
身を翻しながら少年が言い、こちらが戸惑うのを知った風に周囲に念おした。
供の者らは意向に従った様子で応じる。次いで僕のほうを向き、会釈して歩いていく。一団の中に紛れて去って行くのを黙して見送った。
ある夜、漠然とした予感を感じて飛び起きる。
無性に窓の外が気になりバルコニーに出た。夜闇に紛れ人影が蠢く。
(胸騒ぎがする)
居てもっ立ってもいられず部屋を抜け出した。
布を掛けた灯りを持ち、外に出て少し歩いた所で布を外す。そこからは小走りに行く。
チカッと町の外側が光る。急いでそちらに足を向け、激しくなる光を睨みながら野外に出た。そこで思わず目を見開く。
「ついに追いついたぞ。邪教団!」
鬼の少女が叫び、4人と対峙する導師クエスマグナが笑う。
「酷い言い草ですね。我々は崇高なる始祖ネメルヴェヒュト様のもとに集いし、フリウソール教団」
中心に立つ者の言に率いられた人々が声を上げる。
「そうだ。断じて邪教なぞではないっ」
「我々は魂の開放を望む神のご意思に従うまで」
「神の御子たる導師様の言葉に偽りはないのだ」
対する4人組のほうは黙っていない。今度は人魚の女性が口を開く。
「魂の開放? それと魔物をけしかけることに、何の関係があるというの」
「彼女の言う通りだ。大勢の人が死ぬんだぞ!」
「違うよ、勇者さん。死は解放の1つ、神が遣わした使徒故に意味ある行動なのです」
対話は堂々巡りして、魔物の群れを加え、力の鬩ぎ合いを始めた。
蚊帳の外に佇んだまま両者の争いを見る。群れの一部がこちらに迫ってきた。灯りを取り落とし、その音で我に返る。即座に生成慣れした燭台杖を出す。
夜戦には打ってつけだけど、動揺し過ぎて攻撃が当たらない。
(やべ、やられる)
「危ない!」
次の瞬間、男性の呻き声が耳に届く。庇って怪我したんだ。
「だ、大丈……」
「心配しないで。平気だから」
「けど、あっ」
目を落とした傷が瞬く間に塞がっていく。
(嘘だろ。これって)
人間族ならまずあり得ない。ただ1つの理由を除けば――。
すぐに立ち上がった男性と、教団の激戦は続く。決着はつかなかった。
「頃合いですね、皆さん引きましょう」
後のことを魔物の群れに任せて退散していく。
一瞬だけ目が合った導師は、とても柔らかい微笑みを浮かべていた。
視界の端で勇者と呼ばれた人達が各々に武器をしまう。一息つく間もなく、あらぬ方角から悲鳴じみた怒号が響く。
「導師様方を、使徒様を追い払った。勇者だ、紛れもない勇者がいたぞー!!」
そこからは怒涛の勢いで展開が進む。
取り囲まれ、抵抗を躊躇った彼らは拘束を余儀なくされる。
「なんてことをしてくれたんだ」
「恐ろしや~。きっと天罰が下る」
「汚らわしい。私、あの人に触られたのよ」
騒然となる民衆の視線は冷たい。
当然だ、それだけのことをしてしまった。だけど、でも……。
(助けてくれたんだよな。2度も)
追い詰められていく彼らを見て、僕は情緒が狂いそうだった。
やがて父達と城主が姿を現す。武装した兵を連れ、城主が「神の怒りを鎮めるため、背徳者どもを火刑に処す」と触れ回る。人々が駆けまわり準備が進む。
(いいのか。このままで)
狂いそうな心を抑えようと胸元を掴んだ。
「待ってください。僕達はっ」
「黙れ!]
視界中を横切っていく物があった。地を滑っていく銀色の輝き。
訳も分からず足が動く。己が何をしているかを理解するより前に、人込みを掻き分けそれを拾う。その直後、背後の人ごみからよく知る声が轟いた。
「ぬおぉぉぉっ、お逃げくださいカイル殿」
(今の声はバルフェロ!?)
別の意味でまた騒然となる人々。
父の怒号、人々の悲鳴、駆け巡る足音が錯綜する。
大混乱を極めた場で手元に目を落とす。僕はどうしたらいい。自問自答の末、駆け出した。
「はぁ、はぁ」
(勇者はどこだ)
視界が最悪で思うように進めない。音が多過ぎる。
(あれか)
一瞬だけ見えた薄青を追う。
しかし視界が開けた所で肩を掴まれた。振り向くと父の顔。
「何をしている。お前は戻っていなさい」
「しかしっ」
「非常事態なのだ。わかったな」
強い口調で言われ身がすくむ。とても抗える状況じゃなかった。
明るくなっていく空の下、ただただ途方に暮れる。勇者の落とし物を握って。
⚔ ⚔ ⚔ ⚔ ⚔ ⚔ ⚔ ⚔ ⚔
【おまけ:競技大会の後で……】
くそ暑い中、自分はマウンテン・フォスのカラド学園に来ていた。
文化の違いこそあれ、礼拝堂みたいな趣のある校舎。その瓦ぶきの屋根の上で工具を持つ。
「だっる、面倒くせ」
正直に言うと修理する気力なんて湧かない。
(さぼっちまおうかなぁ)
手を動かしつつ、よく回らない頭で考える。
弱くはないつもりだが思考力が落ちて仕方なかった。気を抜くと意識が……。
「あ、いけね。飛ぶとこだったわ」
「おーい、真面目にやっとるか!」
(げっ暑苦しいのが来た)
大会で即席チームを組んだスキンヘッド男・クラウドだ。
姿が見えるだけで気分が萎える。ちょくちょく見に来て鬱陶しい。高い屋根の上からだと見晴らしが良過ぎて、探す気がないのに見つけてしまう。
(視界の端でちょろちょろすんじゃねーよ)
「うぜぇ」
「んん、何か言ったか?」
「何も~」
地獄耳を疑ったがとりあえず問題なさそうだ。
「修理が終わったら学内配達、昼食の後は皆で掃除だからな」
「はいは~い」
「誠意が足らんぞ」
「わかりましたっ」
「宜しい。あ、そうだ。最近は暑いからな、本日のデザートはジェラートが出る」
「そすか」
では頑張るんだぞ、などと無駄に覇気のある声で去って行く。
本当に、なぜあんなに元気なんだよ。意味わかんねえ。思うところは多々あったが、騒がしいのもご免なので丁寧に作業する。別に慣れてるし……。
(ま、あの人達よりは全然マシか)
修理を終えて屋根を下りた後、言われた通りに各所を回った。
「じゃあ、これ被服科によろしく」
「はい」
女性から異様に重い箱を受け取る。
なんだこれ、中身なんだよ。更に意味わかんねえ。
文句を言いたい心地だが、そこは堪えて落とさないよう気をつけて運ぶ。
受け渡し後、こっそりと周囲を気にしつつ木を登る。ちょうどいい枝に足をかけ、幹に背を預けて瞼を閉じた。
「おいコリー、休憩か? まさかサボりじゃないだろうな」
「うおっと」
唐突に下から声が掛かり飛び起きる。そのまま滑り落ちてしまう。
受け身を取ったが痛い。打ちつけた箇所を抑えて呻く。すぐそこにヴァルツが立っていた。
「脅かさないでよ」
「悪い。……へばってるのか」
問いかけるような声音だ。なんとなく意味を察する。貧血だろ?
「こんくらい平気だし。そっちこそ暑くて辛いんじゃねーの?」
「別に」
「嘘つけ、雪国育ち」
ヴァルツは北のモルダナ共和国の出身だ。
自分が少しからかうように言うと、彼は水筒を差し出しながら――。
「関係ないだろ。ほら」
「どうも」
有難かったので素直に礼を言ってそれを受け取った。
「それ飲んだら、さっさと終わらせに行くぞ」
「うわ、スパルタ―」
「誰がだ」
睨んでくるが全然怖くない。互いに本気じゃないからな。
実際、こいつは「連帯責任だ」とか言ってつき合ってくれている。正直な気持ちをいうと、ヴァルツといるのは気が楽なんだ。時々怖いけどさ。
だから、こう言って立ち上がる。ありがとなって。




