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第30話 戦場に響く鐘と落とし物

 日光が心もとなくなり、各所に灯りを配置して対応する。

 ヴァルツとコリーは反対方面に加勢。混乱してた町中も静けさを取り戻しつつあった。昼間の俊敏さを失ったウサギの魔物。初動の時に紛れ込んだのだろう。

 俺は門の外で迎撃している最中、遠くから無数の蹄と足音が轟く。


「あれが最後の群れか?」

「わからないけど迎撃するしかないよ」


 蓮之介の言葉に応えつつ仲間に合図を送る。

 ニーアが気づいて駆け寄って来た。この時、チームの2人にある試みを話す。

 櫓の生徒が後方へ伝え、トーマスら増援部隊が来て武器を構えた。冒険者の女闘士が拳を握って言う。


「腕が鳴るわね」


 櫓にいるもう1人の冒険者が、先手必勝とばかりに魔法を放つ。

 矢の雨と共に敵群の最前列を吹っ飛ばす。屍を踏み越え、後ろの群れが突っ込んでくる。

 まだ距離があると踏んで俺は雷を波の如く走らせた。薙ぎ払っていく。倒せずとも痺れさせて動きは鈍る筈だ。


「そこだ、破斬!」

「でりゃあっ」


 そこに蓮之介やトーマスらが駆け込んで行った。

 ひと足遅れて俺も剣を手に突っ込む。必ず複数人で連携して戦う。


「レン、トーマス援護を頼む」

「任せろ」

「了解」


 山羊に3剣士が地を踏み、風の弾丸を避けつつ切り裂く。


「グルルルッ」

『エミル君、危ない!』


 乱戦になり背後を取られる。

 脳裏の警告で振り向くと同時に、植物の壁が現れ敵を絡めとった。

 もがく敵に俺は魔法を放ち仲間がとどめを刺す。そこに牛が猛突進してくる。雷と炎魔法で対抗するが止まらず、咄嗟に跳んで衝突を回避。

 ダメ押しでもう一発雷を放つ。だが僅かに勢いを削いだだけ……。


(やっぱり1人じゃ倒せないか)


 着地の瞬間、櫓のほうが光るのに気づく。急ぎ距離を取った。

 直後に闇の球が牛を全方位から串刺す。再び背後から迫る風弾を避け、その先で飛び掛かってきた獣を降り注ぐ矢が仕留める。


(後方支援があると助かるな)


 その時、脳裏に声が届く。


『エミル、魔法で援護してくれ』

「わかった」


 蓮之介に応じて準備した。別の牛に向かっていく彼を援護。


「九頭龍閃」


 打刀で流れるような連続切りで撃破。

 確実に動きのキレが増している。1人で倒すのは厳しそうだが強い。

 頭上で大音量の鐘の音が響く。ちらっと上を見たら結界が展開されていった。


「結界が復活したぞ!」

「この場の敵を倒したら安心な筈よ」

「皆、もうひと踏ん張りだ」

『おおっ!!』


 誰かの叫びから次々と声が連鎖する。

 凄まじい熱気の中で俺は奮起した。胸の奥が熱くなり身体が軽やかに動く。疲れを忘れたみたいに……。

 残りの敵群を押し込む勢いで攻めていった。そして、ついに終着の時を迎える。


「ブルルッ」

「残りは牛1体と山羊2体か」

「一気に倒しちゃお」


 女闘士が果敢に先陣を切った。俺達も続く。

 風起こしと小規模な地揺れが襲う。風はニーア達の魔法が防ぐが、もう一方は難しい。


「これ使ってや」


 櫓の方向から大量の何かが放られる。


「今こそエルフの底力を見せよう」

『ウィンドカーペット』


 ハロルドの声と、それに次ぐ合唱が後方から聞こえた。

 風が巻き起こり絨毯の如く広がる。その上に放られた物が乗り、浮遊床と化す。


「あの子達やるじゃない。どりゃっ」


 足場を飛び移りながら、女闘士が華麗な蹴りを叩き込む。

 彼女を筆頭に皆も足場と壁を利用して戦う。まず左右を固める山羊を、次に牛をたたく。敵がふらつくところまで追い詰める。


「行け、エミルッ」

「うん」


 俺は足場を踏み抜き、高く跳躍して――。


「これでどうだぁ」


 炎を纏わせた剣を力の限り振り下ろす。

 魔物は微かな声を漏らし崩れ落ちる。数秒後、勝利を確認して勝鬨を上げた。



     ⚔ ⚔ ⚔ ⚔ ⚔ ⚔ ⚔ ⚔ ⚔



 戦いの後、夜の闇が色濃くなる中を歩き学園へ戻る。

 真っ先にニーアと蓮之介の所へ向かう。まず確認しなきゃいけないからだ。


「能力使ったけど身体は平気?」


 駆け寄ってきた俺に2人は、疲労を滲ませた顔で微笑む。


「平気へーき。敵に負わされた傷のほうが痛いくらいだ」

「レンさん、すぐに治療しますね。エミル君、私も大丈夫」

「よかった」


 安堵の息を吐く。同時に肩の力も抜けた。

 次に試みへの感想を聞いてみると、2人とも割と好感触だったみたい。

 夜間の作業は危険なのと、体力の限界なため避難民と共に学園で一夜を過ごす。部屋は必要な人に譲ったり、見張り、各所を助けたりと大忙しだ。

 休憩を挟みつつできることを行う。一区切りがついた頃、幾人かで集まり話す。


「このまま夜が明けてくれればいいけど」


 最初に発言したのは女闘士だ。彼女の言葉に皆が同意を示した。

 外部の人々を意識しつつ、ハロルドが丁寧な口調で言う。


「しかしその、歪みと謎の影が気になりますね」

「鳥と人のどちらにも見える感じって鳥人族ってこと?」


 トーマスが怪訝な面持ちで呟いた。次いで冒険者の1人が口を開く。


「歪みとやらが気になります。魔法なのか、それとも能力や才能の類か」

「具体的にどんな力だろ。コリーみたく生み出してるのかな」

「わかんねーぞ。空間を繋げる系かも」


 俺が直近の記憶と結びつけるのに対し、蓮之介は別の方向性を提示した。

 すると、あらぬ方向から声が飛んでくる。


「まるでうねるもの(アリアルゥア)みたいだにゃ」


 皆の顔が驚きを帯び、通りかかった少女に注目が集まった。

 配給の毛布を抱えたトゥワだ。薄暗い所だと彼女の猫目は輝いて見える。俺は頭に浮かんだ疑問をそのまま聞く。


「聞いたことない。何それ」

「光がうねって、突然現れ人を消すと言われる現象の支配者にゃ」

「信じがたい話だ。初耳だぞ」

「あり得ねぇ」


 冒険者の感想と、端で座っていたコリーの声が重なった。

 ヴァルツのほうは相棒の傍らで腕を組んでいる。話に耳を傾けている様子だ。

 意外なことに彼らの近くにフェロウまでいる。コリーと気が合う様子で時々話していた。けれど彼女は、こっちに一切絡まず武器の手入れをしている。


(あ、フェロウの槍に魔石が嵌まってる)


 色合いからしてウィンドクォーツだろう。やはり目的は加工だったか。

 結局「誰かの陰謀か?」や「歪みの正体はなに」と話が堂々巡り。明らかに情報が足りないのを痛感する。大して進展することなく終わった。



 数時間後、見張りの交代を引き受けて櫓に登る。

 もう1人の当番はトーマスだ。協力して暗い外を注意深く見回す。


「ねえねえ、エミルはどの辺まで見える」


 唐突に声を掛けてきた。眠気に抗えるしちょうどいい。


「ん~大通りの奥にある噴水がギリ見えるくらい」

「わぁ凄い。オイラはもっと近いよ」

「でも暗いからなぁ。かなり見辛いよ」


 ちらりと見た彼の尾が元気よく揺れている。


「じゃあさ、じゃあさ。ヴァルツ達と一緒の時はどうだった?」

「また唐突だなぁ」

「いいだろ~。教えてよぅ」

「うん、えっとね」


 外を眺めながら俺達の他愛もない会話は続く。

 ニーアの話にまで発展した時はとても困った。一度話し出すと止まらない彼の言葉に応える。もちろん黙秘した内容もあったけど、おかげで眠気は全然感じずにやりきれたんだ。



 空が明るくなってから人々は町の復興を始める。

 修繕や死骸の処理などを手伝いながら時間が過ぎていく。そんなある日、ニーアや蓮之介と一緒に町を歩いてたらコリーの姿を見かけた。もう1人のほうはいない。


「あそこにいるの、コリーだよね」

「本当だ。何か探してるみてーだな」


 彼はあちこちを見回し、姿勢を低くして茂みや物陰を漁っている。


「困ってるなら助けたほうがいいですよね」

「うーん。でも嫌がりそう」


 躊躇っていると視界の端に光を反射する物が入った。

 焦点をずらして見ると、街路樹の根元に銀色のロケットが落ちている。

 歩み寄って拾い上げ、観察したら鳥が彫り込まれた蓋が開く。裏側には知らない文字と肖像画が入っていた。金髪とコバルトブルーの瞳をもつ優しげな女性だ。

 傍らにいた2人も、手元を覗き込んで各々に反応を示す。


「それ! そのロケットはっ」


 慌てた調子の声を聞き、顔を上げるとコリーが血相を変えて走り寄ってきた。


「君の落とし物?」

「違う。いや、その、とにかく返せ」


 言い淀みながら彼がロケットを奪い取る。

 挙動不審な態度に疑問を覚え、素直に引き下がらず事情を聞く。同じ思いだったのか、ニーア達も加勢してくれた。コリーは少しの間まごついて……。


「知り合いの落とし物」


 引っ掛かりのある口調でそう言った。


「落とし主を知ってるなら、返したほうがいいんじゃない?」

「そりゃ返せるなら誰もっ、いや……」


 またしても言い淀むコリーに、蓮之介は気の毒そうな顔になる。

 不穏な想像をしてしまうのは仕方ない。でも俺はちょっと違うように感じた。一瞬思いはしたけど彼の言動は、自分の気持ちを否定している風にも見えたのだ。

 なので確信が持てない心に抗い、挑戦する思いで言う。


「お節介だけどさ。ちょっとでも希望があるなら試してみようよ。例えば換金所とか」

「預かり届をしろってか」


 一度、沈黙し考え込む。そして、たっぷり間を置いてから口を開く。


「望み薄だけど、このまま持ってるよりかは……」

「決めたんだね。じゃあ!」

「煩せぇ。ついてくんなよ」


 最後は噛みつくように吐き捨てて去って行った。

 あのロケットの落とし主は誰なんだろう。興味を惹かれたが、それよりも無事に返せたらいいな。心の中で願いながら、歩いていく背中を見送った。

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