第27話 夏休みと帰郷
注意:今回はかなり長いです。余裕をもってお読みください。
夏休みになり、俺はニーアと一緒に故郷に帰ってくる。
馬車を下りたら早速実家に向けて歩き出す。試験は上々だったとか、この後の予定や、楽しみだと話しながら途中まで行く。別れた後、家の扉を開けて母さんに挨拶した。
「ただいま」
「おかえり。学園はどう? 疲れてるなら先に休む?」
「ちょっと疲れたから休む」
父さんがまだ帰ってないのを聞き、後で話すと告げて部屋に向かう。
荷物を降ろしてクッションの上に腰を落ち着ける。十分に寛いでから、力を入れ直して自室を出た。そのまま行き先を告げ外へ飛び出す。
(あいつ元気にしてるかな)
軽快な足取りでパン屋を目指して早足。徐々に駆け足になった。
「おや、エミルちゃん。帰って来たんだねぇ」
「こんにちは、おばさん。今夏休みなんだ」
「そうかい。どっか行くの?」
「うん、友達のところ」
手短に挨拶して別れる。早く、早くと気持ちが急いて煩い。
太陽はもう天辺を通り過ぎていた。急がないと日が暮れちゃう。そう思いながら足を動かした。
やがて目的の建物が見えてくる。ちょうど出てくる姿を見つけ、俺は大きく手を振り声を張り上げて言う。
「タルホー!」
呼ばれた当人が振り向く。手を振り返し、向こうも近づいてきた。
「数か月ぶり。元気そうだね」
「もっちろん、俺が元気じゃない訳ないだろ」
「確かにエミルはそうだよねぇ」
慣れ親しんだやり取りが楽しい。ちょっと見ない間に背が伸びたかな?
タルホはこの後、夕刊配りがあるらしい。なので後日会う約束をして別れる。ついでに他を見て回りながら話をして家に帰った。
夜、父さんが帰ってきて久々の家族と食事だ。
いろいろな話をした。学園での講義や活動、そしてチームと蓮之介のこと。
「レンは凄いんだ! 桜嵐帝国の人で、服装も武器も変わってて……」
「桜嵐帝国、か」
父さんの顔が微かに曇る。なんだろう。
「父さん?」
「ああいや、何でもない。それで桜嵐の子とはどんな感じ」
問われて俺は全身が熱くなるのを感じながら話す。
迷惑をかけていないか、と聞かれて「何度も助けて貰った」と素直に言う。そうしたら「できることで恩返しするんだよ」と言われたので頷く。わかっているって意味で、だ。
「でも本当に頼りがいがあってさ。本当の兄さんみたいなんだ」
「そうか、羨ましいな。大事にするんだぞ」
「うん。そういえば父さんに兄弟っているの? 俺、会ったことないや」
これといった理由もなく単純に気になった。すると寂しげな顔で……。
「残念だが父さんは天涯孤独だったからなぁ」
「母さんは? 家族いないの」
「うーん、いるにはいるけど」
母さんのほうは淡泊だ。あまり気にしてないみたい。
ちょっと強く聞いてみたら、遠方に弟が1人いると教えてくれた。夫婦になるため町に移り住んだとか。元々たまに会えれば良いくらいの感覚という。
「まあ、冒険に出たら会ってみればいいんじゃない。引っ越してなければ西の小島にいる筈よ」
「ざっくりし過ぎっ」
「相変わらず軽いな~」
反論する俺と呆れ笑いする父さん。
島の名前や詳しい場所を、何度聞いても「西の小島」としか言わなかった。こうまではぐらかされると、試されている気分になってしまう。
最後は聞くのをやめ、ほぼノーヒントな言葉を心の片隅に留めておく。
⚔ ⚔ ⚔ ⚔ ⚔ ⚔ ⚔ ⚔ ⚔
翌日からは生まれ育った故郷での生活を満喫していた。
母さんの頼みでお使いに行ったり、ニーアやタルホと一緒に過ごしたり。そして今は父さんや町の大人達と周辺の魔物調査に来ている。
「近づきすぎないようにね。気づかれるから」
「はい」
青年の忠告に応えて茂みから覗く。山や森に生息する猫の魔物だ。
今更ながらに知ったが、名前は「ジャックパンサー」というらしい。前に遭遇した時は恐ろしい存在だったけど今は冷静に見れた。
「個体数はどうかな」
「うーんと、見えるのは5体。いや6体」
「了解。分布のも変わってないようだし問題ないか」
俺の報告を聞いて青年が調書を記していく。
「次の場所を調べに行くよ」
「わかりました」
彼の指示で次に向かう。担当の範囲を調べ終わると合流して情報共有。
続いて防衛設備の点検をして、破損や不足があれば対応する。工具を持って真剣に柵の修理を行う。
「そうしっかり固定して、修理が甘いと簡単に壊されちゃうからね」
「わかりました」
一緒に作業しながら、返しや高さなどの工夫が必要だと教わった。
これが終わると次は忌避剤の補充確認を手伝う。割り当てられた担当個所を青年と一緒に回る。カサリナの町では、マタタビ草などを匂い袋にして吊るしていた。
「この袋、全然匂いがしないです」
「本当? いやぁ、鼻がいい子がいると助かるな」
龍族の母さんから受け継いだ自慢の嗅覚が役立つ。ちょっと誇らしい。
古くなった匂い袋を交換し、確認を終えたら本日の作業は終了だ。後の時間は自由に過ごす。
夏休みも半ばを過ぎた頃、タルホと一緒に町中を歩いていた。
ふと町内掲示板の張り紙が気になり足を止める。隣の彼も怪訝そうだ。張り紙には「ふれあいコンクール」の案内が絵つきで載っていた。
「ああこれ。近々開催されるモノづくり企画だね」
タルホが教えてくれ、俺は俄然興味が湧いてきて振り向く。
「面白そう。参加したい!」
「でも参加するには仲間がいるよ。エミル誰と出るの」
「もちろんタルホとに決まってるじゃん。あとニーアも誘ってさ」
「私も? 何の話をしているんですか」
横から声がして見るとニーアがいた。いつの間に、どこから聞いていたんだ。
驚きはしたけど一瞬で、すぐに気持ちが急速に舞い上がる。張り紙を示すと彼女が内容を読む。そして「楽しそう」と控えめに呟く。ますます気分が明るくなった。
「じゃあ一緒に参加しようよ。3人で」
俺が意気込んで言うと、タルホは仕方ないなという顔で言う。
「いいけど何作るつもり?」
「私は何でもいいですけど……」
「俺が思うに絵がいいと思う。タルホ得意だろ」
「趣味程度だけどね。新作パンの考案練るときに便利だから」
「さすがパン屋の息子。やっぱ将来は実家の店を継ぐの?」
「そのつもり。旅の話を聞くのは楽しいけど、僕は家族を支えたいし」
タルホは「平穏が一番」と無難な発言をする。堅実だなと素直に感心した。
彼は絵を描く案には反対しなかったけど、画材はどうするのかと聞く。自分は木炭くらいしかもっていないからと……。
(確かに色あったほうが絶対楽しい。でも絵の具はちょっとな)
興味の薄い分野だから持ってない。仮にあってもタルホが遠慮しそう。
(よし決めたぞ)
「せっかくだし絵の具を自作しよう!」
やる気満々で言った言葉に2人の反応が返ってくる。
「本気なの!? 大丈夫かなぁ」
「難しそうですが、土などで作れると聞いたことがあります」
目を見開いて心配するタルホと、真剣に考えこむニーア。
調べてみて作れそうな挑戦しよう。そんな風に話し合いながら計画を練った。
都合を合わせて早速、素材収集のために動き出す。
まず町の中や近くを探した。安全な所から初めて手分けをする。俺は2人よりも外側の探索だ。ちょっとくらい危険でも平気だからな。
魔物に注意しつつ、山や森のほうを見ていく。
(あ、あの辺の土良さそう)
斜面になっている場所で赤土を発見して袋に入れていった。
他にも綺麗な色の石など、使えそうな物も採集して一度戻る。合流したらまず成果の報告だ。タルホは黄土、ニーアは普通の茶色。
「土だけだと青や緑は難しいよね」
俺が呟くと2人も同意を示す。けれど諦める気はない。
「こうなったら別の物で色つけちゃおう。花とかはダメかな」
ちらりとニーアを気にする。彼女の性格を考えたら傷つかないか?
植物と信憑性の高い種族っていうのも理由の1つだ。調べたらすり潰したり、煮たりするみたいだし嫌な思いしそう。
しかし彼女は胸に手を当て、深呼吸してからこう告げる。
「多少のことは覚悟してます。大丈夫、必要以上に傷つけなければ、それは自然の理ですから」
「煮るなら鍋がいるよね。僕、家に行って借りてくる」
「じゃあ俺は混ぜる花や樹液なんかを採りに行く」
「私も一緒に森へ行きます。植物のことなら任せて」
家に戻るというタルホに必要な物を伝えた。
収集品は俺の家に置いておき、再び森のほうへと歩き出す。
現地に着くとニーアが持つ植物の知識が大活躍。どんなに観察しても、正確な種類がわからない場合が多くて大助かりだ。
「この子が山桃です」
「うわ~花や実がないと全然わかんないや」
「ふふ、実りの時期は過ぎちゃってますからね」
指示に従って樹液を採る。その後、治癒魔法と植物用の薬で治療していた。
「いつも持ち歩いてるんだ」
「ええ。どこで必要になるか、わかりませんもの」
「おぉ、すっごい頼りになる」
率直な意見を言うと彼女は照れたように微笑む。
その笑顔を見ているとつい和んじゃう。でも今は素材の鮮度のために急がないといけない。治療が終わったら次の採取場所を探した。樹脂まで取れたら最高だ。
「ちょっと待って下しさい。これは……」
周囲を見回しながら歩いていた時、ふと声が掛かり足を止める。
声の主は茂みの傍らにしゃがんでいた。何か見覚えのある光景だ。
「どうしたの?」
「この草、カルネルかもしれないです」
確認するためにニーアが茎の袋部分を切る。すると粘性の液体が溢れ出てきた。
他にもハート形の葉や、裏の薄い斑点などを念入りに調べてから言う。
「間違いなさそう。カルネル草は加工すればのりとして使えます」
「めっちゃいいね。これも持ってくか」
「はい」
彼女は前と同じように祈りを捧げてから刈り取った。
道すがら羽や枝を拾ったりして合流地点に向かう。準備を進めながら待っていると、タルホが荷物を抱えて姿を見せる。駆け寄って手伝いながら作業をしていく。
図書館で借りてきた本を片手に、頁を捲って文字を目で追う。
「まず道具を洗って、素材を均等に細かく粉砕。不純物を取り除く」
「材料を見る限り固まりそうだよね」
タルホが樹液に注目して呟いた。俺は頷き「必要な分を作って塗る」と教える。
「初めてですし、失敗した時を考えてら量の多い物で試しません?」
「そうだね。青系は花で色づけする予定だから後に回して……」
「ねえ、エミル。肝心のキャンバスはどうするの」
「あっ忘れてた!」
「もーう、一番大事なものじゃないか」
大急ぎで調達に走った。向かう先は服屋だ。
服屋はいろいろな種族に応じた特注まで請け負っている。色彩豊かな衣服や布が店内を彩っていた。目移りする空間で悩む。そうしてたら店主が話し掛けてくる。
「お使いかい? 偉いねぇ」
「違うよ、ふれあいコンテストで絵を描くための布を探しに来たんだ」
顔なじみだったから、いつもの調子で話す。
店主は2人とも知り合いだ。特にタルホとは仲良しで世間話に発展していた。
「なるほどなぁ。じゃあ、いつも頑張ってる君達に免じて割引してあげるよ」
「いいんですか。ありがとうございます」
タルホを筆頭に口を揃えてお礼を言う。
大きな布を皆で買い、お得感に嬉しく感じて店を後にする。
家に帰ってくると、父さんが興味深そうに素材の山を見ていた。今日は早いんだなと思う。こっちに気づき「おかえり」と言ってくる。俺は「ただいま」と返す。
「自由研究でもしてるのか」
父さんが聞いてくるので「違う」と答えた。簡単に説明すると――。
「面白そうじゃないか。父さんもちょっと手伝っていい?」
「やった。ならコレ、この石を粉にして欲しいんだ」
「よし、任せろ」
拾い集めてきた緑色の石を示して頼む。
鬼族の剛腕でどんどん粉々になっていく様が驚嘆だ。やっぱり頼もしい。
あっという間に緑の粉になった頃、門前から声が掛かり助っ人時間は終了してしまう。予定外の助っ人に感謝しつつ続行。
「今こそ俺の魔法が火を噴くぜ」
本に書いてあることを実践しようと土を焼く。
「強火過ぎだって、焦げる焦げるっ」
「ありゃりゃ調整難しいな。でもほら、ここら辺は綺麗な赤になったし」
「まったくエミルは~。物覚えいいくせに大雑把なんだから」
調合とか、モノづくりに生かすのは苦手だ。ごまかし気味に笑う。
攻撃は少しくらい調整が雑でも問題ないし、焚火は慣れだが焦げても困らないから……。
仕方なく焚火にしてタルホが固まりだした樹液を溶かす。その後は水で薄め、乾燥させた土や石の粉末と混ぜ合わせる。乾く前にキャンバスへ塗っていく。
「絵の具が乾く~急げぇ」
「私もえいっ」
「2人とも豪快! しょうがない、僕が整えるか」
感性のままに塗りたくってみた。完成した順に色を足していく。
キャンバスの置かれている所は、ニーアの魔法で設けられた植物のテント内だ。
「やってるわね。これ使う?」
「えっ何、うおぉブドウだ」
「皆で食べなさい。ちゃんと手を洗うのよ」
『は~い』
返事を合唱して、手を洗い食べた後、皮を着色料にする。
量は少ないけど絵のアクセントにちょうどいい。なんか所々、青かったり紫だったりした。
(思った色じゃないけど、これはこれで楽しいな)
俺が拾ってきた羽や枝、タルホが集めてた犬猫の抜け毛を絵筆に使う。
布の切れ端を使って判子風にしたりと工夫。我ながら傑作になる予感がしていた。暗くなるまで奮闘して、あちこち駆け回りながら翌日の夜ついに――。
「完成!」
「できた~」
「できました」
また自然と声が重なる。達成感を感じながら作品を眺める。
「でもなんか、混沌としてるね」
「いつの間にこんな……」
「えぇ~面白いじゃん」
2人は困惑してたけど俺は満足だ。色の爆発感がなんか好き。
忘れない内にニーアが絵に魔法を付与。森の加護らしく、これで保存状態がマシになるとか。皆で管理しつつ本番の時を待つ。
ふれあいコンテストの開催日。俺達は布で包んだ絵を慎重に会場へ運ぶ。
声を掛け合い向かった先は華やかだった。皆が持ち寄った創作物が並んでいる。仮設テントの一角に絵を置き、係の人に伝えてから他の作品を観覧しに行く。
「お~いタルホ!」
会場にいた少年達に呼ばれてタルホが別行動になる。
「ふ、2人きりになっちゃったね」
「はい」
控えめな声で返された。密度が増して目を合わせ辛い。
どうにか目の前の作品群に集中する形で歩き出す。胸の奥が熱く高鳴って、引っ張られるように明るい調子の声が出た。
「見てみて龍の彫刻。めっちゃ細か~い」
「本当、鱗の1つ1つまで丁寧ですね」
「あっちは花の女神像、向こうは動物の形をした料理かぁ」
(どれも凄過ぎ)
「うふふ」
あちこちに目が滑りまくっていると、隣で笑い声が聞こえる。
怪訝に思いながら振り向く。ニーアは口元に手を当てて笑っていた。
(は、花の女神だ)
全身がカッと熱くなる。彼女が可愛すぎてとろけそう。
まさに花が咲き誇ったかの如き笑顔だった。煌めいていて眩しい。
気分の最高潮を維持しながら会場内をめぐる。楽しいや嬉しい以外の言葉が浮かばないくらいの時間が続く。やがてお飾り程度の審査が始まった。
「独創賞を獲得したのは~この作品達です!」
「わぁ、俺達の入ってるよ」
「信じられない。本当に……」
「頑張った甲斐がありました」
小さなトロフィと参加記念の品を貰って閉幕する。
こんな感じで夏休みが過ぎていく。そして出立の日、荷物を持ち玄関に立つ。
「気をつけていってらっしゃい」
「うん、行ってきます」
母さんに声を掛けて外に出る。ニーアと共に、再び学園へ向け馬車に乗り込んだ。
ふぅ、普段の目安を超過しちゃいましたねぇ~。
途中から勢いで書いてしまいましたが大丈夫かな。
タルホや両親など、登場が限られるキャラは出せる時に出さないとな~とか考えて。いろいろ悩んだ末、このような内容になりました。




