表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
39/63

第26話 素材を求めて

 安全のため迷子を連れて協力者の家まで戻る。

 陸地にいたから魔法薬の心配はしてなかったけど、フェロウがいて助かった。顔を合わせると睨み合うが生態には詳しい。


「こらガキ、アタイの保湿用スプレー返せ!」

「ぶぅ」

「大人しくしろ。じゃねえと毒草と毒キノコを消し炭にすんぞ」

「やあ~」


 アトラティエス語で会話する2人。

 物騒な単語が飛び交っているけど、動きはじゃれ合いに見えた。

 帰ってきた俺達を出迎える女性。彼女は荷物の中にある毒性の食材を見つけ青ざめる。処分しようとして目敏く気づいた子供が大暴れだ。


「それこの子の食料なんです。毒が好物みたいで」

「へ、へえ、変わってるのね」

「クラゲがあれば大喜びするんだろうなぁ」


 蓮之介が隣でしみじみと呟いた。1人で勝手に納得している。

 俺は必要なことを説明して子供を預かってくれるよう頼む。女性は快く引き受けてくれた。連絡もしてくれるらしい。有難い対応だ。


「じゃあ、お父さん達が来るまで大人しくしてるんだよ」


 ちゃんと水の民の母国語で話す。あの旋律に似た発声はできないけど……。


「くあぁ」

「俺の言葉わからない?」


 子供が勢いよく首を振る。ほっと安堵から肩の力が抜けた。

 一言声をかけて協力者の男性と再び歩き出す。むろん猫も一緒だ。道中は何事もなく、またグミの林近辺までやってくる。


「ここで別行動だな。僕はマントローヴを取りに林へ」

「うん、手伝ってくれてありがとう」

「いいって。そっちも頑張れよ」


 蓮之介は男性とグミの林に入っていく。

 実は押し花にしちゃってないんだよね。しおりにして使ってるんだ。どのみち量が足りない。


「さーて、早速……」


 言い終わる前に盛大な水音が響く。思わず「はやっ」と呟いた。

 競うわけじゃないけど、俺も準備をして飛び込む。やや濁りのある水の世界。魚が泳いでいて、水草が揺れている。

 でも今回の目的は石だ。手足や尾を使って底を目指す。


(図鑑で見た感じじゃあ結構綺麗な石だったけど)


 適当なところに辺りをつけ、小型のつるはしで掘っていく。

 腕を振るたびに重く体勢を維持するのが難しい。想像以上に時間がかかりそう。


「こぽ、ごぼぼっ」


 まずいと感じて急ぎ水面に上がる。勢いよく顔を出し、大きく吸って吐く。

 呼吸が整ってきたらまた潜り作業を再開した。欲しいのは青と緑色の石で、何度も潜り直しながら採掘していく。いい感じに集まってきたら陸に上がる。


「それっぽいの採って来たけど自信ないなぁ。アクアクォーツは……」


 網に入れた石を地面に広げて吟味した。猫が歩み寄って鼻先を近づける。


「にゃぁ~ぅ」

「え?」

(初めて鳴き声聞いたかも)


 随分物静かな子だと思っていた。振り向くと石の1つを前足で転がして示す。

 手に取って確かめてみると目的の素材っぽい。まさか意図を察して教えてくれたのか。だとしたら凄く賢いと思う。

 関心している間にも、猫は幾つかの青い石を選び抜いていく。


「凄い、全部ぽいよ。もしかしてウィンドクォーツも見分けられたり?」


 猫は気持ち早く尾を振り、手足を舐めて毛づくろい。


(て、簡単にはいかないか)


 気持ちを切り替えて再び採掘と吟味を行う。

 その最中、少し離れた所でフェロウも石を集めて選んでいた。なんとなく目的が一緒な気がする。だって同じような青や緑の石を採っているからだ。

 俺の場合は、糸と魔法を併用するための加工が目的だけど……。


「戻ったぞ。収穫はどんな感じだ」


 林の方角から蓮之介と男性が戻ってきた。


「結構集まったよ。あとはウィンドクォーツが少し足りないかな」

「風の魔石だっけ」

「うん。ここじゃ少量しか取れないらしいよ」


 それでも国内で魔石が採れる場所はこの湖くらい。

 少しでも予算を安くして貰えるように頑張る。互いの成果を報告し合って、残りの作業を進めていく。結局今日は野営することになった。

 皆で焚火を囲みながら食事をしている時だ。俺は昼間の出来事を興奮気味に言う。


「本当に賢いんだ。次々と良さげな魔石を見つけてさ」

「気分が向いたんでしょう。いつもなら静観されてるのに」

「目利きね。本当にこいつ猫か?」

「猫でしょ、他の何にも見えないし」

「だよなぁ~」


 会話を聞いていたフェロウが素っ気なく呟く。


「ふん、呑気な奴ら」


 彼女の興味はもっぱら集めた魔石にあった。灯りで照らし眺めている。

 食事を終えて、片づけと明日の準備を整え就寝。翌日に足りない分の素材収集を行う。気まぐれ鑑定の手助けを受け、どうにか必要な物を集め終えた。

 でもすぐには帰らない。万全の状態を保つために休憩だ。ただ休むのではなく協力者の人と話す。なんとなく言った話題に思わぬ返答が返ってくる。


「大きくて立派な卵ならキグダムホークがおススメだよ」

「その鳥って近くにいるんですか?」

「もちろん、林近くの山沿いにいい感じの断崖があってね。そこに生息してる」

(これはいい情報を聞いたぞ)


 俺は勢いよく立ち上がった。


「俺、今から探しに行く」

「えっ、1人じゃ危ないよ」

「にゃ~ぅ」


 応えるかの如く鳴いた存在に視線を向ける。

 今までと変わらない様子で座り、まっすぐこちらを見据えていた。男性の顔が明らかに和らぐ。


「貴方が行って下さるなら安心ですね」

「連れてって大丈夫なの?」

「是非、何も心配いりません」


 もう一度猫を見ると、心配ご無用とばかりに歩き出してしまう。

 躊躇うことなく林へ踏み入っていく。その後ろ姿を慌てて追った。



 先導されながらグミの林を進む。魔物との遭遇は殆どない。

 順調すぎるくらいに山沿いの断崖までたどり着く。何も起きないのが怖いくらいだ。余計に警戒が高まって、慎重に卵を求めて巣を探す。


「見つけた。きっとあれだ」


 崖の真ん中辺りに枝や草の塊を見つけた。鳥の巣に間違いない。


「登れない高さじゃないな。よし」


 取っ掛かりを確認しつつ登っていく。

 尾で上手くバランスをとり、物音に気をつけて接近する。

 目と鼻の先になったらまず観察。親鳥は出払っているみたいだ。この機会を逃さず巣の中を探し、卵を1つ手にした時――。


「キィーキッキッ」

「うわっ、親鳥だ!」


 急速に飛んでくる大きな鳥。俺の反応より早く眼前に猫が跳び上がる。

 直後、その全身から閃光と共に風の鎖を放つ。あれは魔法だ。封じられている今の内に崖下へ飛び降りた。着地補助を魔法で行い、全力疾走で撤退する。

 すぐに追い越して前を行く小さな背中を追う。やはり道中、魔物と遭遇しなかった。


「はぁはぁ……ここまで来れば良いよね。助けてくれてありがとう」


 林を出たところで言う。相変わらず鳴き声1つ上げず平然としている。


「おかえり。無事でなにより」

「ただいま、見てちゃんと採れたよ」

「凄いなぁ。どうするんだい?」

「あげるの、フェロウに。約束だから」

「そうか」


 男性と話すうちに穏やかな気持ちになった。

 それぞれ準備を澄ませていた仲間達と村に向け歩き出す。

 急がぬ旅路の途中で卵を渡すと、フェロウは見るからに上機嫌になって受け取る。匂いを嗅ぎ、舌で念入りに確かめて大事にしまう。蓮之介がちょっと引いていた。



     ⚔ ⚔ ⚔ ⚔ ⚔ ⚔ ⚔ ⚔ ⚔



 ゆっくり安全に村まで戻り、まず例の子の様子を見に行く。

 親はまだ来ていない。長距離の移動を考えるとさすがに無理か。一泊してから、後のことを頼んで協力者の家を出る。猫が扉の隙間を抜け勢いよく走りだす。


「おや、もうお帰りですか。またいつでもいらして下さいね~」


 顔を覗かせていた男性がその背に大声で言う。返事はない。


「それじゃあ俺達も」

「気をつけて帰るんだよ」


 彼の言葉に元気よく返事をして歩き出した。

 村の中を進んでいる時、反対側に走っていく赤い点を見る。あのまま行けば外だ。


(あの猫かな。村の子じゃない?)

「まさかね」

「どうした。早く行こうぜ」

「うん」


 蓮之介に呼ばれて遅れていたのに気づく。

 駆け寄って、仲間と共にルルキノ村を後にする。その後の道中は平穏だった。



 報酬が得られるのは、親が子供と合流してからになる。

 だから事務で返却と報告してもその辺は保留。でも評価はきっちり入るので問題なし。図書室で1人、活動報告書を書く。ここには集中して勉学に励める区画があった。


(完成。さっさと提出しちゃおう)


 課題を提出した後、一度寮の部屋に戻ってから技巧科に足を向かう。

 部屋を覗いて件の人物を探す。近くの生徒に尋ねれば、あっさり会えた。


「よう来たなぁ。待っとったで」

「前に話した素材を持ってきました。確認して下さい」

「おおきに、早速見させて貰います」


 彼女は袋から素材を1つずつ手に取って確かめる。


「またえらい質のいい魔石ですね」

「本当ですか。やった」

「これならええもんが作れます。お代は完成後で宜しいですか?」

「はい、そうしてくれると助かります」

「了解や。ほな作業に取り掛かるけど、他に用事もあるさかい少し長めにお時間頂きますね」


 はっきりとした対応に、俺は「急いでない」と伝えた。

 細々とした確認の後で技巧科を出る。残りの時間は鍛錬や勉強に充てることにした。次の日からは依頼を積極的にやって資金稼ぎを行う。

 数日後、例の迷子依頼の報酬を受け取って仲間と山分けしたんだ。



 もうすぐ夏休みがやってくる。

 試験期間が終わったら、俺はニーアと故郷・カサリナへと帰る予定だ。

 遠方から来ている生徒はその限りじゃないらしい。だけど今から家族に会うのが楽しみだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ