第26話 素材を求めて
安全のため迷子を連れて協力者の家まで戻る。
陸地にいたから魔法薬の心配はしてなかったけど、フェロウがいて助かった。顔を合わせると睨み合うが生態には詳しい。
「こらガキ、アタイの保湿用スプレー返せ!」
「ぶぅ」
「大人しくしろ。じゃねえと毒草と毒キノコを消し炭にすんぞ」
「やあ~」
アトラティエス語で会話する2人。
物騒な単語が飛び交っているけど、動きはじゃれ合いに見えた。
帰ってきた俺達を出迎える女性。彼女は荷物の中にある毒性の食材を見つけ青ざめる。処分しようとして目敏く気づいた子供が大暴れだ。
「それこの子の食料なんです。毒が好物みたいで」
「へ、へえ、変わってるのね」
「クラゲがあれば大喜びするんだろうなぁ」
蓮之介が隣でしみじみと呟いた。1人で勝手に納得している。
俺は必要なことを説明して子供を預かってくれるよう頼む。女性は快く引き受けてくれた。連絡もしてくれるらしい。有難い対応だ。
「じゃあ、お父さん達が来るまで大人しくしてるんだよ」
ちゃんと水の民の母国語で話す。あの旋律に似た発声はできないけど……。
「くあぁ」
「俺の言葉わからない?」
子供が勢いよく首を振る。ほっと安堵から肩の力が抜けた。
一言声をかけて協力者の男性と再び歩き出す。むろん猫も一緒だ。道中は何事もなく、またグミの林近辺までやってくる。
「ここで別行動だな。僕はマントローヴを取りに林へ」
「うん、手伝ってくれてありがとう」
「いいって。そっちも頑張れよ」
蓮之介は男性とグミの林に入っていく。
実は押し花にしちゃってないんだよね。しおりにして使ってるんだ。どのみち量が足りない。
「さーて、早速……」
言い終わる前に盛大な水音が響く。思わず「はやっ」と呟いた。
競うわけじゃないけど、俺も準備をして飛び込む。やや濁りのある水の世界。魚が泳いでいて、水草が揺れている。
でも今回の目的は石だ。手足や尾を使って底を目指す。
(図鑑で見た感じじゃあ結構綺麗な石だったけど)
適当なところに辺りをつけ、小型のつるはしで掘っていく。
腕を振るたびに重く体勢を維持するのが難しい。想像以上に時間がかかりそう。
「こぽ、ごぼぼっ」
まずいと感じて急ぎ水面に上がる。勢いよく顔を出し、大きく吸って吐く。
呼吸が整ってきたらまた潜り作業を再開した。欲しいのは青と緑色の石で、何度も潜り直しながら採掘していく。いい感じに集まってきたら陸に上がる。
「それっぽいの採って来たけど自信ないなぁ。アクアクォーツは……」
網に入れた石を地面に広げて吟味した。猫が歩み寄って鼻先を近づける。
「にゃぁ~ぅ」
「え?」
(初めて鳴き声聞いたかも)
随分物静かな子だと思っていた。振り向くと石の1つを前足で転がして示す。
手に取って確かめてみると目的の素材っぽい。まさか意図を察して教えてくれたのか。だとしたら凄く賢いと思う。
関心している間にも、猫は幾つかの青い石を選び抜いていく。
「凄い、全部ぽいよ。もしかしてウィンドクォーツも見分けられたり?」
猫は気持ち早く尾を振り、手足を舐めて毛づくろい。
(て、簡単にはいかないか)
気持ちを切り替えて再び採掘と吟味を行う。
その最中、少し離れた所でフェロウも石を集めて選んでいた。なんとなく目的が一緒な気がする。だって同じような青や緑の石を採っているからだ。
俺の場合は、糸と魔法を併用するための加工が目的だけど……。
「戻ったぞ。収穫はどんな感じだ」
林の方角から蓮之介と男性が戻ってきた。
「結構集まったよ。あとはウィンドクォーツが少し足りないかな」
「風の魔石だっけ」
「うん。ここじゃ少量しか取れないらしいよ」
それでも国内で魔石が採れる場所はこの湖くらい。
少しでも予算を安くして貰えるように頑張る。互いの成果を報告し合って、残りの作業を進めていく。結局今日は野営することになった。
皆で焚火を囲みながら食事をしている時だ。俺は昼間の出来事を興奮気味に言う。
「本当に賢いんだ。次々と良さげな魔石を見つけてさ」
「気分が向いたんでしょう。いつもなら静観されてるのに」
「目利きね。本当にこいつ猫か?」
「猫でしょ、他の何にも見えないし」
「だよなぁ~」
会話を聞いていたフェロウが素っ気なく呟く。
「ふん、呑気な奴ら」
彼女の興味はもっぱら集めた魔石にあった。灯りで照らし眺めている。
食事を終えて、片づけと明日の準備を整え就寝。翌日に足りない分の素材収集を行う。気まぐれ鑑定の手助けを受け、どうにか必要な物を集め終えた。
でもすぐには帰らない。万全の状態を保つために休憩だ。ただ休むのではなく協力者の人と話す。なんとなく言った話題に思わぬ返答が返ってくる。
「大きくて立派な卵ならキグダムホークがおススメだよ」
「その鳥って近くにいるんですか?」
「もちろん、林近くの山沿いにいい感じの断崖があってね。そこに生息してる」
(これはいい情報を聞いたぞ)
俺は勢いよく立ち上がった。
「俺、今から探しに行く」
「えっ、1人じゃ危ないよ」
「にゃ~ぅ」
応えるかの如く鳴いた存在に視線を向ける。
今までと変わらない様子で座り、まっすぐこちらを見据えていた。男性の顔が明らかに和らぐ。
「貴方が行って下さるなら安心ですね」
「連れてって大丈夫なの?」
「是非、何も心配いりません」
もう一度猫を見ると、心配ご無用とばかりに歩き出してしまう。
躊躇うことなく林へ踏み入っていく。その後ろ姿を慌てて追った。
先導されながらグミの林を進む。魔物との遭遇は殆どない。
順調すぎるくらいに山沿いの断崖までたどり着く。何も起きないのが怖いくらいだ。余計に警戒が高まって、慎重に卵を求めて巣を探す。
「見つけた。きっとあれだ」
崖の真ん中辺りに枝や草の塊を見つけた。鳥の巣に間違いない。
「登れない高さじゃないな。よし」
取っ掛かりを確認しつつ登っていく。
尾で上手くバランスをとり、物音に気をつけて接近する。
目と鼻の先になったらまず観察。親鳥は出払っているみたいだ。この機会を逃さず巣の中を探し、卵を1つ手にした時――。
「キィーキッキッ」
「うわっ、親鳥だ!」
急速に飛んでくる大きな鳥。俺の反応より早く眼前に猫が跳び上がる。
直後、その全身から閃光と共に風の鎖を放つ。あれは魔法だ。封じられている今の内に崖下へ飛び降りた。着地補助を魔法で行い、全力疾走で撤退する。
すぐに追い越して前を行く小さな背中を追う。やはり道中、魔物と遭遇しなかった。
「はぁはぁ……ここまで来れば良いよね。助けてくれてありがとう」
林を出たところで言う。相変わらず鳴き声1つ上げず平然としている。
「おかえり。無事でなにより」
「ただいま、見てちゃんと採れたよ」
「凄いなぁ。どうするんだい?」
「あげるの、フェロウに。約束だから」
「そうか」
男性と話すうちに穏やかな気持ちになった。
それぞれ準備を澄ませていた仲間達と村に向け歩き出す。
急がぬ旅路の途中で卵を渡すと、フェロウは見るからに上機嫌になって受け取る。匂いを嗅ぎ、舌で念入りに確かめて大事にしまう。蓮之介がちょっと引いていた。
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ゆっくり安全に村まで戻り、まず例の子の様子を見に行く。
親はまだ来ていない。長距離の移動を考えるとさすがに無理か。一泊してから、後のことを頼んで協力者の家を出る。猫が扉の隙間を抜け勢いよく走りだす。
「おや、もうお帰りですか。またいつでもいらして下さいね~」
顔を覗かせていた男性がその背に大声で言う。返事はない。
「それじゃあ俺達も」
「気をつけて帰るんだよ」
彼の言葉に元気よく返事をして歩き出した。
村の中を進んでいる時、反対側に走っていく赤い点を見る。あのまま行けば外だ。
(あの猫かな。村の子じゃない?)
「まさかね」
「どうした。早く行こうぜ」
「うん」
蓮之介に呼ばれて遅れていたのに気づく。
駆け寄って、仲間と共にルルキノ村を後にする。その後の道中は平穏だった。
報酬が得られるのは、親が子供と合流してからになる。
だから事務で返却と報告してもその辺は保留。でも評価はきっちり入るので問題なし。図書室で1人、活動報告書を書く。ここには集中して勉学に励める区画があった。
(完成。さっさと提出しちゃおう)
課題を提出した後、一度寮の部屋に戻ってから技巧科に足を向かう。
部屋を覗いて件の人物を探す。近くの生徒に尋ねれば、あっさり会えた。
「よう来たなぁ。待っとったで」
「前に話した素材を持ってきました。確認して下さい」
「おおきに、早速見させて貰います」
彼女は袋から素材を1つずつ手に取って確かめる。
「またえらい質のいい魔石ですね」
「本当ですか。やった」
「これならええもんが作れます。お代は完成後で宜しいですか?」
「はい、そうしてくれると助かります」
「了解や。ほな作業に取り掛かるけど、他に用事もあるさかい少し長めにお時間頂きますね」
はっきりとした対応に、俺は「急いでない」と伝えた。
細々とした確認の後で技巧科を出る。残りの時間は鍛錬や勉強に充てることにした。次の日からは依頼を積極的にやって資金稼ぎを行う。
数日後、例の迷子依頼の報酬を受け取って仲間と山分けしたんだ。
もうすぐ夏休みがやってくる。
試験期間が終わったら、俺はニーアと故郷・カサリナへと帰る予定だ。
遠方から来ている生徒はその限りじゃないらしい。だけど今から家族に会うのが楽しみだった。




