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第25話 謎多き存在

 見つからないままルルキノ村までやって来た。以前と何ら変わらない風景。

 ほっとする気持ちはあるけど、今は迷子の捜索が最優先だ。到着した足で協力者と会うべく指定された家屋を目指す。草花が揺れ、畑が見える道を行く。


 途中で艶やかな苺色の体毛をもつ猫が道を横切っていた。

 妙に目が離せなくて、歩き去って行く姿を目で追ってしまう。その首で何かが光を反射している。いつの間にか足が止まていたらしい。蓮之介に呼ばれて俺は再び歩き出す。

 教えられた場所はごく普通の建物だった。特別な感じはしない。


「ごめんください。グランデール学園から来ました」


 扉の前で呼びかける。すぐ開いて、茶髪の若い男性が出迎えた。


「いらっしゃい。よく来たね」

「今回お世話になります。学園から連絡が来てる筈ですが……」


 声が強張るのを感じながら話す。男性は快く頷いて中に俺達を招き入れる。

 敷居をくぐって早々に「あ」と声を零してしまった。椅子の上であの赤毛の猫が伸びをしていたのだ。たぶん同じ子だと思う。

 猫はぶるっと身を震わせまた姿勢を寛げる。そして黄緑色の猫目がこっちを見て――。


(んん? この視線の先は)

「て、フェロウ。なんて顔で睨んでるのさ!」


 警戒の視線を向けられる訳だ。追った先のフェロウはまさに臨戦態勢。

 静かに獲物を見据えていた。いや、隙を見せぬようにしているのか。どっちにしろ他所の家でこれは不味い。俺は慌てて歩み寄る。


「…………」

「落ち着いて。いったいどうしたの」


 沈黙したまま彼女は睨み続けていた。吐く息に微かな熱を感じる。


(興奮してるのかも。とにかく止めないと)

「猫が苦手か? 大丈夫、手を出さなけりゃ何もしてこないぞ」

(蓮之介ナイスフォロー)

「そ、そうだよ。普通……かどうかはわからないけど、大人しそうだし」

「アンタら本気で言ってる?」


 ようやく口を開いたフェロウの声音は困惑混じりだ。

 何の話をしているのか。猫のことを言っているのわからない。

 数分の間、彼らの睨み合いは続いた。決着はあっけないもので、猫が何食わぬ顔で窓際の揺り椅子に移動して丸くなる。それでも追い続ける視線を俺は遮って言う。


「もうやめ! 機嫌を損ねて引っかかれたれたいの」

「ふん」

「すみません。こいつ、ちょっと気が立ってるみたいで……」


 蓮之介が代わりに男性へ謝った。でも相手は興味深そうな顔をしている。


「あぁ、いえ鋭いな。実はこの猫(かのじょ)、時々いらっしゃるんですが一番の古参でして」

「えっ」


 俺と蓮之介は揃って声を出す。視界の端で猫が動くの見る。

 すると男性は悪戯を仕掛けた後みたいな顔で言う。


「なーんて冗談信じる?」

「冗談だったの。うっかり信じちゃうところでした」

(でも、なんで敬語なんだろ)

「ごめんごめん」

「この人笑ってら」


 嵌められたか、と蓮之介は脱力気味な顔をした。

 軽い笑い声をあげていると奥から女性が姿を現す。奥さんかもしれない。

 その人の登場で男性が留守を任せ荷物を背負う。同時に猫が身震いして彼に歩み寄った。一緒に来るのか。そう考えてたら即座に答えが返ってくる。


「ありがとうございます」


 男性が足元に向けて言った。当の相手は尾を揺らすだけだ。

 苦笑いを浮かべる彼と共に俺達は外に出る。


「では、改めて言うけど我々は協力者。引率はするが基本は皆さんで対処してね」

「はい」

「よろしくお願いします」

「へーい」


 俺は元気よく、蓮之介は背筋を正して、フェロウは顔を背け気味に言う。

 蓮之介が軽くフェロウの頭を小突く。痛みはないようで彼女は更にそっぽを向いた。拗らせそうだからしつこくは言わない。

 様子を見守る視線を感じながら村の外へ。まず近くの湖を探す。


「どうだエミル~」

「いなーい!」

「こっちもだ。全然いねぇ」


 水に潜り、顔を出して、陸を捜索中の仲間と報告し合う。


(肝心のフェロウはっと)


 一緒に水中を探している筈だがどこだろうか。

 周囲を見回していたら、ちょうど陸に上がる瞬間を見つけた。網に何かを入れている。迷子を発見したのかと思い駆けつけた。でも網に入っていたのは大量の石だ。


「違う。これも違う」

「石なんて拾ってきて何してるの!」

「うーん」


 我関せずで石を吟味している。まさかとは思うが早合点は良くない。


「もしかしてアコピエス族と関係してるとか?」

「違うなコレも」

「ねえ、聞いてる?」

「んあぁ? いなかったけど」

「関係ないのかよ。お願いだからちゃんと探して」


 俺は必死に考えを整理した。ううん、怒らないようにしてたんだ。

 確かにやる気が弱かったけど、全然違うものを探してたなんて思いもしなくて。最初から石探しが目的だったのだろうか。そんなバカなと思う。

 続いて丘側の川を探しに行く。こっちは先が海と繋がっているんだ。


「海までは遠くても可能性はあるよね」

「まあ、現状見つかってないのが気になるけどな」


 蓮之介がいう言葉には一理ある。既に探し終えた場所でも万が一を考えた。


「フェロウ、迷子が行きそうな場所って想像つく?」

「えぇ今忙しい。うーん、違うな」

「だから石は後にして教えてよ」

「少しは協調性を持てよな~」


 異議申し立てと呆れを同時に受け、ついに彼女が振り向く。

 やっと気持ちが向いてきたか。期待を持ったけど、すぐに目を細めて反らしてしまう。その様子を見て、ついに煮え滾ったみたいな気配を横から感じる。


「お・ま・え・なぁ。いい加減にっ」

「レンたんま。君まで爆発したら俺、どうしたらいいのぉ」


 掴みかからんとする一方を制しつつ、情報を引き出そうと試みた。

 本当に行先の見当はつかないかと聞く。すると明らかに表情を歪めて言う。


「グミ。いたら厄介、絶対遭遇したくない」

「それってあの林? なんで……」


 フェロウは更なる渋面を作る。


「ウミウシ型なら確率超高い。クラゲ型はわかんねぇけど、ここらにいねぇなら向こうの湖だろ」

「ありがと。早速行ってみよう」


 ねっと蓮之介に意見を求めた。

 彼は力を抜いて気まずそうだ。けれど一度深呼吸をして表情から険しさを消す。


「ちゃんと考えてたんだな。悪い」

「ふん」

(あ、今度のは前より弱い。もしかして反省してるのかな)


 ちょっとは可愛げあるかもと思いながら移動する。

 もちろん1日ではたどり着けず、途中で野営をして現地まで行った。



 日中、グミの林まで足を運んで迷子を捜し歩く。

 相変わらずの色を継ぎ接いだ樹木と彩豊かな魔物の群れ。ふと協力者のほうを顧みる。男性はさすがに自衛程度は問題なし。だから猫の心配をしたんだけど……。


「嘘、あんなにいた魔物が一匹もいない」


 退屈そうにあくびまでしていた。周囲に敵の姿が一切ない。


 ——なぜか魔物が少ない道ばかりだった。


 不意に脳裏をある言葉が過る。いつ聞いた話だったか。

 しかし気になったのは一瞬、すぐに気持ちを切り替えて捜索を続けていく。魔物を刺激しないよう大声は控え、茂みを掻き分けて慎重に歩みを進める。

 時間が経つにつれて不安が募っていった。その時、茂みの向こうから蓮之介の悲鳴が響く。


「ぎゃあぁぁぁっ」

「何かあったみたい。フェロウは2人と一緒にいて」


 言いおいて俺は声のした茂みに突っ込む。


「レン、今助けに――ッ」


 突撃してすぐ俺は呆気にとられた。つい間抜けな声を零してしまう。

 悲鳴の主は無事だ。けれど彼の視線の先に世にも珍しい物体が転がっている。新種の魔物かもしれない。下部はグミっぽく、上部に角だか鰭だかが生えて変な形をしていた。


「ぐみももも~」

「鳴き声まで変だ!」

「バカッ、エミル大声を出すな。気づかれるだろ」

「君の声も十分大きいよ」


 むしろ既に気づかれているのではなかろうか。視線を反らさず観察する。

 後ろで茂みが揺れ、顔を覗かせたフェロウがまた表情を歪めた。


「騒ぐんじゃねーよ、ソイツだソイツ。しかし厄介なことになってんな」

「これ、じゃなくてこの子が例の迷子!?」

「厄介なことって何」


 蓮之介に続いて俺は疑問に思ったことを聞く。

 すぅーっと息を吐き、槍を構えた彼女が素早く魔物の中心を突いて払う。上部と下部が分離した。下部だったほうはドロドロと溶け、上部のほうはのっそりと起き上がる。


うぅぐ(♪~)わ~ご飯ジャマしたぁ(♪♬~♩~♪♪)

「突然泣き出したぞ。お前が乱暴にするから」

「どうしよう」


 俺は動揺した。蓮之介がフェロウに抗議している。

 改めてみる迷子は髪の一部が角っぽく、耳らしき部位も丸みのある鰭みたいだ。適度に丸みのある華奢な身体は花のようだった。全体的に青い。


ぐあ~(♪~)


 涙を溜めたまま迷子が飛び掛かってくる。

 フェロウが「どけ」と俺を突き飛ばす。おかげで突進は回避できた。迷子に向け、槍の切っ先を向けるのを見て叫ぶ。


「殺しちゃダメ!」

「ちっ」


 即座に柄の部分をぶつける。肝が冷える思いだ。

 でも、その子は全然平気そうだった。自分より大きな相手へ果敢に挑む。


「ガキのクセにやるじゃねーか」

(2人にとっては日常みたいな……)


 そう思うくらい自然な流れに感じる。とても殺伐とした光景なのに。

 なんとなく世界が違うと思った。ほんの数秒、思考を噛みしめ次の行動に移る。具体的に何をすればいいのかなんてわからない。


知らない人(♪~♪♪)敵ぃ(♪~)

「いいね、いいね。燃えてきたぜぇ」

(うぅ、発音が達者過ぎてわかり辛いよ)


 あの発声は彼らにしかできない特殊なものだ。真似程度の俺とは違う。


(辛うじて聞き取れるのは『ご飯』と『敵』くらいだ)

「レン、とにかく触らないように止めるよ」

「おう。毒は勘弁だもんな」


 毒持ちを前提に動く。触るのは怖いから何か方法を考える。

 真っ先に浮かんだのは糸と罠。自分が引っ掛かった手だ。少し怪我するかもしれないけど仕方ない。

 俺が網を取り出すと蓮之介が糸を察して駆けた。刀に手をかけ――。


「破斬」


 両者の間を狙って技を放つ。注意が外れる瞬間に視線でフェロウに合図。

 意図を察した彼女と迷子を追い込む。時間との勝負だ。必死に網を木々を利用して設置していく。その間、樹が崩れないよう祈った。


逃がさない(♩~♪♩)

(よし来た。今だ)


 網に突っ込む瞬間を狙って紐を引く。

 固定した箇所が外れ、吊り上がったそれに具合よく絡まってくれた。


「捕まえたよ。大人しくして」

やぁあ~(♪♪~)

「うまく動きを止めたね」


 離れていた男性が歩み寄ってくる。猫を見た瞬間、子供は大人しくなった。

 落ち着いたのを確認して下し網から出す。触らないよう注意してだ。緊張した面持ちでじっと足元の小動物を見つめている。


(揃いもそろってなんで)


 水の民特有の反応なのだろうか。考えても答えは出ない。

 何はともあれ捜索は成功だ。村まで連れ帰って親が来るまで預かって貰おう。


「ところでこの子はどのタイプなの?」


 フェロウに問いかけると、彼女は興味を失った様子で答える。


「純粋なウミウシ型だね」

「よく見たらアレだ、アレに似てる。えーっと確かアオミなんとかってヤツ」


 話を聞き、蓮之介は何かを思い出したみたいだ。

 再び視線を戻すと例の子はグミを見て涎を垂らしていた。物欲しそうに唾を飲む。何度確かめても、子供の視線は魔物=グミへ向いている。


(アコピエス族の食性っていったい……)


 見れば見るほど、生態の神秘を感じるのだった。



     ⚔ ⚔ ⚔ ⚔ ⚔ ⚔ ⚔ ⚔ ⚔

 不定期ながら読み返し、ふと気づいて表現が浅い部分を修正しました。

 脱字なので大した変化ではありません。ですが私の考えが浅く、今後混乱を招く可能性があるので直した次第です。


 箇所は蓮之介の兄関連です。一部を「兄上達」に直した感じ。

 作者だというのに彼への理解が足りなかったです。蓮之介ごめーん! 混乱させてすみません!!

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