第24話 迷子探し
技巧科での相談を終える。素材の一部を自分で調達することにした。
退室後、俺はふと思い出す。蓮之介の用事を聞いていないことにだ。なんだかんだと同行してくれた彼に改めて聞く。
「レン、俺に用があって来たんだよね。後回しになってごめん」
軽く詫びたけど、彼はあまり気にした風もなく言う。
「別にちょうどよかったし」
「え、何が?」
「素材採りに行くんだろ。それと依頼をちょちょいっとやれば活動報告になる」
「手伝ってくれるんだ。ありがとう」
嬉しくなって礼を言うと蓮之介は顔を緩めた。照れてるみたい。
昼休みになり、食事をしながらニーアに事情を話す。その時に誘ってみたけど、医療科のほうもテストがあって都合が合わなかった。
「ごめんなさい。手伝えなくて……」
「ううん、気にしないでテスト頑張ってね」
「医療科のテストって難しそうだよなぁ」
「そんな、習った範囲の筈ですし私頑張ります」
ニーアは意気込んだ。拳を握っている姿を見たら応援したくなる。
食後、講義がある彼女と別れて蓮之介と校内を歩く。一緒に掲示板の前まで行き眺めた。
「どんな依頼を受けたいの?」
俺は依頼書の数々を凝視ていた蓮之介に尋ねる。
「討伐依頼はあるけど少ないんだよなぁ。人数制限もあるし」
「3人以上だったっけ」
「そう。あと遠方での活動は、事前に事務へ報せないといけないんだぜ」
「あぁ、教師が引率できないから現地の協力者に頼む関係だよね」
課題説明の時に注意事項として教えられたことだ。
実地演習とは違い、各自で活動する今回は学園の職員だけで対応しきれない。なので協力者に現場監督を依頼している。情報伝達の時間を考え、遠方活動は計画的に行わなければいけなかった。
(遠方といっても、国内に限定されてるんだけど)
武器の素材収集は遠方になるので事務に行く予定だ。
「お、これなんてどうだ。方向も一緒だし」
どれどれと俺は蓮之介が示した依頼書を読む。
てっきり討伐依頼を選んだのかと思いきや意外だった。内容は迷子の捜索。捜索範囲はちょうどルルキノ村方面で他よりも報酬がいい。探し人の特徴まで読み進めて困惑する。
「これって……」
「やっぱ難しいか」
心配そうな声音で言われる。いや、難しいと言うよりも……。
「協力を頼むしか、ないよね」
「気は進まねえけど人命がかかってるからな」
「きっと大丈夫だよ。たぶん」
まったく知らない仲ではないし可能性はある、と希望を持つ。
現地での捜索が難しいと他所へ協力を頼むのは珍しくない。父さん達から聞いた話だ。でも、まさか学園に依頼がくるとは予想外だった。
意見がまとまって俺達は再び学内を歩く。依頼書はキープしたいので持ってきている。目的の人物を探して回り、目撃情報を頼りに競技ホールまでやってきた。
「いたいた。おーい、フェロウ!」
フェロウが振り向く。槍を持ち鍛錬していたようだ。
「何か用?」
「うん、ちょっと頼みがあってさ」
駆け寄って話す。日頃の噂から緊張はしたが平常心を心がける。
本題に入る前に「アルビス‐ビノスの出身」かを聞く。彼女はあっさり肯定した。
安心して依頼書を見せ事情を話す。そのうえで改めて協力を頼む。フェロウは黙り込んでしまう。たぶん驚いている。何度も瞬きをして、依頼書と俺達を交互に見てから口を開く。
「おかしいなコレ」
「何がおかしいんだ。普通の捜索依頼じゃないか」
「んんぅ」
彼女は腑に落ちないといった声を出す。
「だって迷子だぞ。学園に来るのは珍しいかもだけどさ」
「学園は関係なくない?」
蓮之介の必死な言い分に、なおも彼女は怪訝な様子だ。
2人の様子を見て、なんとなく察した。絶妙に噛み合ってない。認識の違いが起きている。だから、ちゃんと聞いたほうがいいと思って口を開く。でも何て聞いたらいいんだろう。
「ねぇ待って。フェロウ、この依頼のどこが変だと思ってるの?」
改めて問われ彼女は数回瞬きをした。
「依頼を出すのが変。出しても無駄」
「いやいや無駄って、命の危機が迫ってんだぞ!」
「それが何。弱いやつは死ぬ、これ当たり前」
蓮之介の反論にフェロウは冷めた顔で言い放つ。
「そういうものなんだ?」
(自然の摂理だとは思うけど、なんというか)
「うん。それにアタイを誘うって何を考えてる」
「君が適任だと思ったんだけど変かな」
「碌にチーム組んだことないのに?」
その目は節穴だ、とでも言いたいのか。
しかし引き下がる訳にいかない。グランデール学園で他に適任がいないのだ。
「依頼書を見ただろ。必要なんだ、力を貸してくれ」
蓮之介は言い、更に「頼む」と頭を下げた。俺もそれに倣う。
「フェロウじゃないとダメなんだよ。お願い」
(断られたらどうしよう)
貴重な水の民で、これほど条件にピッタリな人が他に思いつかない。
気を揉みながら待つ。とても長く感じた。だから「別にいいけど」と答えが返ってきた時、ほっと安堵の息が零れたんだ。そこに声が降ってくる。
「条件出していい」
「もちろん」
俺の返答に合わせて蓮之介も頷く。
「まずレーノスケは……」
「言い辛いならあだ名でいいぜ」
「じゃあ、レノゥは活動報告書の書き方を教える」
「そんなんでいいのか。どーんと頼ってくれ」
「エミルはアタイの好物を貢ぐ」
(名前、呼んでくれるんだ)
前は「半端龍」なんて呼ばれたけど今は違う。
どこかで心境の変化でもあったのか。いったい、いつ。わからないけど嬉しい。
「いいよ。何が欲しいのか教えて」
「一番は卵。立派なヤツ。他だとタコとイカと貝!」
「おぅ、なんともらしいな」
蓮之介が率直な感想を零した。何にと言わない辺りは配慮か。
確かに美味しいよね、と共感する。好物になるのも納得だ。立派な卵とか、どんなものがいいだろうかと考えた。
(ちゃんと美味しいのを選ばないと)
心配ならトーマスに聞いてみよう。彼は美食冒険者を目指しているから。
(でもトーマスに聞くのは最終手段かな)
「臨時チーム結成だね。早速知らせに行こうよ」
「善は急げってな」
フェロウにもちゃんと聞いてから俺達は事務に行く。
窓口の人に声をかけて遠方へ任務と収集に行くことを伝えた。対応中、蛇の如き視線を感じて……。
「はい、承りました。こちらから連絡しておきますので、現地で協力者と合流して下さい」
「ありがとうございます」
依頼で必要な仮証と学園宛の魔法印を受け取る。
必ず返却するように念を押された。その後、各自で準備して学園を出立したんだ。
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念のために王都グランオールから川沿いを進む。
海に繋がっている川はまた別だけど、迷子はアコピエス族という水棲種族。しかもアルビス‐ビノス以外ではなかなかお目にかかれない。
「実際、どんな種族なの。アコピエス族って」
「当然見たことあるんだよな」
フェロウは水面を眺め、時々槍先で掬う。
相変わらず捜索に半信半疑というか。一応探してはいる様子だ。
「まあ、一口に言えば美味い」
俺と蓮之介は凍りつく。今なんと言ったんだ、こいつ。
まさかとは思うけど「うまい」って、あっちの意味じゃないよな?
(文脈的にそうとしか聞こえない)
「想像したかねぇが食べないでくれよ」
(蓮之介も同じこと考えてた)
「で、できれば見た目とか。行動パターンを聞きたいな」
戸惑いながら尋ねる。対する彼女は槍先で探りながら何かを掴む。
だが、すぐに顔をしかめて捨てた。更に目を岸辺へ滑らせてつつ興味の薄そうな声を出す。
「本当に探すの」
「当たり前じゃん」
「じゃあ幾つかある。もっかい依頼書見せて」
「はい、どうぞ」
言われた通りに依頼書を見せる。
睨むように注視した後で、顔を上向けて思案していた様子だ。
「あーそっか。コイツら渡りか。じゃあ……」
「整理ついたか?」
今度は蓮之介が聞いた。急かさずに考えがまとまるのを待った。
外部では希少な種族。今はフェロウの記憶と知識が頼りだ。落ち着いて動かないと危ない。
「珍しいけど幾らか絞れる。海流に乗るならクラゲ型か、ウミウシ型が多い」
「同じ種族なのに形違うのかよ!?」
「驚いたね。ついでに他にも形あるのかな」
「一番美味いのはタコイカ型と貝型! 甲殻型も食べやすくて好き」
「だから食べるから離れろ!」
蓮之介が全力で言い返していた。思考が一周回って戻ったみたい。
「でも残念。今回はとろい癖に毒があって面倒くさい」
「どうどう落ち着け。つかちょっと待て、今毒って言ったか」
「言った」
「がーマジかよ!」
2人の会話に相槌を打ちつつ考える。姿形の幅が広いなんて苦戦しそうだ。
その後、彼女は何度も拾い上げて捨てるを繰り返す。俺は先行きに多少の不安を感じながら、ルルキノ村方面へと歩みを進めて行った。
報告が遅くなりましたが、前の本編回23話を一部修正しました。
具体的にフェロウとのエピソード。蓮之介の反応に対しての会話を少しだけわかりやすくしました。だいたい掴んでいるかもしれませんが念のために……。




