第23話 まだ見ぬ種族と新しい試み
後半のほうの情報はさらっと流す程度でまだ大丈夫です。
本格的に登場するのはもう少し先なので気楽にどうぞ。今回はエピソードの細部に苦戦しました。ただ、ちょっと長いので注意!
競技大会が終わり本格的に暑くなってきた。
季節は夏休み前、もうすぐ学園生にとっての試練が襲来する。
冒険科は「活動レポート」という名の課題があるのだ。講義も一部の選択科目以外は午前で終了。
内容は夏休み前までに、各自で学外活動を行ってその報告書を作成・提出する。チームで取り組んでもいい。
「フォレスモンキーは悪戯好きで食い意地が張っています。けれど臆病で普段襲われることは少ない」
(学外活動、何をしようかな)
「器用に物を使ってくるので注意しましょう。ショウガやオジソの匂いを嫌い、狼の声やガラスの割れる音を怖がる姿が確認されています」
普段通りに講義を受けながら考えた。依頼でもいいらしいけど……。
そういえば最近ハロルドを見かけない。大会が終わったばかりなのにどこ行ったんだろう。余計な思考を交えつつ教師の話に耳を傾け、適度にメモを取っていく。
今日は通常通りに日程が進んで放課後。支度中にトーマスから声を掛けられる。
「最近、フェロウが休んでるよね」
「そういえばいないや。病気かな?」
「暑くなってきたからね」
水の民だし干からびてないか心配だ。
「でも会いに行くの怖いんだよ」
「わかる~」
「アイツと話す時身の危険感じるもんな」
近くにいた生徒が話に乗っかってきた。皆考えることは同じみたい。
一緒に教室を出て廊下を歩く。約束の日程を決める時に「手料理が食べたい」とお願いされた。なので好みの味を聞いておく。
途中でニーアと会い、トーマスらと別れて校舎を出る。驚いたことに、彼女の口から「ハロルドが他校に行っている」と聞いた。
(なんか抜け駆けされた気分)
ハロルドの話題から離れたくて、フェロウの話をしてしまう。
病気の心配をしたら「お見舞いに行きましょう」と強く提案された。言われはしたけど、2人だけでいくのは怖いと感じる。だから、まず向かった場所は――。
「僕のところか」
「ごめん」
「すみません」
蓮之介は呆れ混じりの息を吐く。
「言っとくが海龍族の生態なんて知らないぞ」
「だ、大丈夫です。メシィフェカさんからお話を聞いてますから」
人魚族の知識がどこまで役に立つか。わからないができることをするしかない。
自信半々なニーアとともに準備をして早速探す。気温を考えれば涼しい所や水場にいそう。心当たりを順に回って行く。
「見つからないね」
「目立つくせに探すといないんだな」
「諦めちゃダメです。倒れてるかもしれませんし!」
寮の部屋にはいなかった。現在地は大きな噴水池がある公園だ。
やる気に満ち溢れているニーアには悪いけど、これはかなり厳しい。すると蓮之介が不自然に視線を一点に向けている。
「どうしたの?」
「あれ」
示された先に目をやると、艶やかに煌めく謎の物体が茂みからはみ出ていた。
似てると言わんばかりに2人の視線が俺の尻尾に向く。
「違うから。龍族のとは全然違うからね」
「誰も言ってないだろう」
「言ってるようなものだよ」
大声に反応してか、鱗の生えた物体が茂みに引っ込む。
「無事見つかったし、動けるようで良かったじゃん」
「ちゃんと確認しないとダメです!」
俺は同意して茂みに向かい呼びかける。
内心はビクビクだ。声音で出てないといいけど……。
恐る恐る茂みに歩み寄り覗き込む。邪魔な枝葉を手で掻き分けてみると、奇形の人型が舌を出し入れし尾先を震わせて睨んでいた。
「海の姿って奴か。本当にナーガみたいな見た目してるんだ」
蓮之介が呟く。ナーガは知らないけど気持ちは察せられる。
今のフェロウは普段と違い上半身は人で下半身が蛇。顔もずっと蛇らしくなっていた。一部の種族に見られる特徴、女性でも胸の膨らみがない部分は本性でも変わらないようだ。
「2人とも止まって」
本能的にわかる。これ以上近づいちゃいけない。
嚙みつかれかねないが、相手は普通の蛇じゃなくヒトだ。なので距離を保ったまま膝をつく。
「フェロウだよね。学校休んでたけど大丈夫?」
「笑いにでも来たの」
低く消え入りそうな声音で言われた。
「笑うって誰を……」
「決まってる。負けて食われもせず生き恥を晒すアタイをさ」
(大会で負けたのが相当堪えてるんだな)
「全然、心配して来ただけ」
「心配って」
「暑くなって来たでしょ。辛くないかなって、ね」
俺が周囲に振ると2人も応じて頷く。
フェロウは数度瞬きし、舌を出し入れしてから「平気」と答える。相変わらず表情が読めない。
すると下半身がシューッと足に変わっていき俺は目を見開いた。身体の変化に合わせて腕輪の宝石と模様が輝き服が出現する。母さんの足輪と同じだ。
「魔法薬の効果、初めて見ました」
「知ってるんだ。そう、魔女の調合薬。切れてなければ乾くと変化するの」
意外と自然に会話する女性陣に対し、変な声を漏らす蓮之介が気になった。
「急に慌てて変だよ」
「だ、だってよ。今更だけどさ、こいつ、そのおん、いや人魚族じゃなくて……」
俺はちょっと考えて母さんの言葉を思い出す。
「人間族って繊細だよね。裸くらい気にしないのに~」
「バカ、女子の前で言うな!」
「何の話?」
「さあ、何の話でしょう」
「わあぁぁ」
顔を赤らめて、蓮之介は脱兎の如く走り去る。
落ち着くまでそっとしておくことにして、俺はフェロウの体調を気遣いつつ相談に乗った。
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今日はお休み。空は晴れて、日に日に暑くなっていく。
普段なら依頼したり、修行や趣味をして過ごす。でも約束があれば別だ。
献立は考えておいたけど食材はこれから調達する。買い物籠を持って、いざ市場へ出発。
「やっぱり賑やかだな」
昼前でも活気に溢れた市場を歩く。人が多い。
多くの露店が並び、暑さを和らげるため帯状の幕が幾重にも張られていた。噴水や街路樹などもそれらを助けている。
魚や野菜の店を中心に吟味していく。良いものを求めて魚屋の前に来た時だ。
「いらっしゃい。どんな魚をお求めですか」
「あれ、闘技場にいた人?」
思いがけず呟いてしまう。おそらく経営科の人。
「先日はアンケートにご協力頂きありがとうございます」
「こ、こちらこそ」
丁寧な対応に恐縮しながら応じた。柔らかな印象の青年だ。
挨拶は程々にして早速、値段や鮮度のいい白身魚を見繕ってもらう。ついでに良質な野菜を扱っている店まで教えてくれる。
「おもてなし上手くいくといいね」
「うん、ありがとう」
オススメの店に行きジャガイモや夏野菜を購入。
(そういえばバター切れてたかも)
必要なものを買い揃えて帰り、寮の台所を利用して調理開始!
献立は魚のソテーとハッシュドポテト。あとパンに溶かしたチーズを乗せるつもりだ。
まず魚や野菜の下準備から始め、刻んで成形し焼いていく。適切な火力で食材を焼いている時、トーマスが顔を覗かせてきた。
「いい匂い」
「ごめん。もうちょっと待ってて」
「気にしないで、オイラが早く来ただけだから」
待ちきれなかったらしい。尻尾が元気に揺れている。
(さて、よそ見してないで集中)
時間をみて買ってきたパンとチーズの用意をした。
出来上がった順に皿へ盛りつけて、暖かいうちに食堂のほうへ運ぶ。
「お待たせ」
「わーい。待ってたよ」
並べた料理に鼻息を荒くしつつ食材と料理人に感謝を示す。
敬意の仕草をした後に、匂いを嗅ぎ匙を持って食べ始める。わふわふと舌を躍らせ、ちょっと慌ただしく口を動かしていく。
「美味しい!」
「よかった」
「本当に料理上手だよね。手作りって沁みるなぁ」
「こんなのでいいならまた作るよ。俺もレパートリー増えるし」
「いいの? じゃあ次は、オイラがとっておきの食材を持ってくるね」
俺も一緒に食事をとりながら楽しく過ごした。
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大会が終わってから今日この頃。時々、思うことがあった。
日程が午前のみに変わって考える時間が増えたからか。今までの記憶を呼び起こしながら熟考する。
(新しい武器作ろうかな)
剣はもちろん今後も使っていく。
現在考えているのは補助的な装備だ。そこで思い浮かぶのは蓮之介の言葉。
――中距離で戦える奴が欲しいんだよな。攻守のフォローが欲しい。
次に思い浮かんだのはローズマリー。彼女の存在はとても助かった。
「でも盾はなぁ」
身体能力を生かして動き回りたい願望がある。
防御が大事なのは理解していた。けれど自分の強みというか、好みは残したい。
そもそもローズマリーが鎧をつけている事情と状況が違う。能力のことだけじゃなく、単純に身体能力の差を埋めているのかもしれない。あの機動力の高さとか。
(速度なら負ける気しないし。飛べないのを除けば)
「あっ」
俺は考えて閃く。もう1人いた、凄いって思える人物が……。
(ヴァルツのあの武器。アレも中距離だよね)
実際あれには苦しめられた。蓮之介との連携も実践を見ている。
(それに俺の雷魔法とも相性いい筈。組み合わせれば)
「ぐふふふ」
「なんつー声出してるんだよ、エミル」
予期せぬ声かけに驚いて声を上げてしまう。
声がした方向に視線を向けると、蓮之介が微妙に引いた顔で立っていた。
「いつからそこにっ」
「たった今、課題の相談しに来たら声が聞こえて」
「じゃあ独り言聞いてた訳じゃないんだ」
「恥ずかしい台詞でも呟いてたのか。気をつけないと人が逃げるぞ」
疑問と解釈を絡めた調子で言われる。俺は「違う」と全力で否定した。
最初こそふざけた雰囲気だったが、すっと真面目になって何を考えていたかを聞いてくる。一瞬息を飲んだけど素直に答えた。彼にも関わってくる内容だ。
「新しい武器ね。良いんじゃねぇの」
「だよね。そうなると技工科の人に頼まないと」
「制作期間もあるし、本気なら早めに相談したほうがいいぜ」
「うん、早速行くつもり」
善は急げと俺は早足で技工科まで向かう。なぜか蓮之介まで一緒に来た。
廊下を進み、技工科の生徒が活動する部屋を覗く。いざ踏み込むとなかなか緊張する空間だ。
黙々と作業する人、難し言葉を交えて話し合う人、依頼人と向き合っている人と様々。どうしても目移りしてしまう。
「誰に頼むんだ?」
「今決めてるとこ」
人見知りするほうじゃないけど困った。迷う。
体感では数分、入り口付近で悩んでいたら声がかかる。声はやや下からだ。
「先日はおおきに。本日はどのようなご用件ですか」
「こんにちは。ちょっと相談があって来ました」
「わかりました。こちらへどうぞ」
案内されて地匠民族の彼女が使っている一角に移動した。
新しい武器の考案というか、希望を伝える。その時、不意にローズマリーの鎧が脳裏にチラつく。更に連想で「魔装」という言葉が頭に浮かんだ。途端に興味が湧く。
「話題変わっちゃうんだけど魔装って作れるのかな」
突然の疑問だったが、彼女は気にした風もなく言う。
「難しいやろなぁ。魔導王国って知ってます?」
「詳しくは知らないんだ。レンはどう」
「あんまり。昔滅んで、今はそこにルーンって王都が建ってることくらい」
勇者召喚で知られるジルビリット王国の都だ。
故郷のカサリナから西の国境を越えれば行ける国。
「簡単に言うと魔装は魔導王国時代のものです。技術の継承が廃れはったと聞きますねぇ」
「じゃあ新しく作れないんだ」
(ローズマリーの鎧は発掘品ってことなのかな)
「どうですやろ。魔導王国を築いた神祖族なら知ってるやもしれまへん」
新たに登場した単語に俺は眉根を寄せた。
殆ど初めて聞いた種族名だ。あまり馴染みがない。無意識に聞き返す。蓮之介が要領を得ない声を出した。
「あぁ、伝承に出てくる。実在してるのか怪しいっつーか」
「見たことないよね。龍族より珍しい?」
「よく知らねえけど、滅んだ国の生き残りって希少な感じだろ」
「無理もないです。長命やから、学校や組織で殆ど見かけない種族やもん」
「そういう意味じゃ龍族や天狗族もだな。他だと人魚以外の水の民」
「水の民はお国柄でしょう。天狗は東方の鳥人族のことやっけ」
「おう。独自の文化があるって噂だ」
「母さんが言ってた。龍族は原種に近いほど長命で奥地暮らしだって」
実際、この学園で天狗や龍族は全然見かけない。
話を戻した女子生徒によると、神祖族はあらゆる生物のルーツを握り、複数のものに変身する力を持つという。
俺は深い意味もなく「会ってみたい」と思った。実在すればの話だけど……。
「すっかり脱線してしまいましたな。で、どうします?」
「難しいなら仕方ないね。最初に話した糸を使う武器をお願いします」
「ほな細かいところを詰めましょう。素材を提供して下されば、その分お安くできますえ」
「糸なら実地演習のアレ使えるんじゃね」
「オリハルコンの糸か。もちろん今も持ってるよ」
「ええね、他は……。魔法を絡めるなら魔石系が必要になります」
グローブ部分の加工に「マントローヴ」も有効だと聞く。
他にもいろいろと相談しながら内容を詰める。言葉を重ねるごとに想像が膨らんで仕方なかった。




