第22話 決勝戦、そして大会終幕
時はちょっぴり遡り試合前のこと。
決勝戦はそれまでと違い、事前情報ありの設定でヒントが出た。
舞台は平原+石造りの高い壁で「お宝は見えざる地に隠される」とのこと話だ。
「とりあえず、大まかな動きを決めましょう」
俺とトゥワは揃って同意した。限られた時間で手身近に整理したい。
「次の相手はニーアやハロルドの遠距離チーム。近づいたら勝ちじゃない?」
「うんうん、ああいう敵は打たれ弱いにゃ」
「確かに近づくのは有効ですが侮ってはなりません」
ローズマリーが言うには残る1人が曲者だという。
名はメシィフェカ、人魚族の少女だ。学園でチームを組んでいるらしく注意を促してくる。念を押されたら当然詳しく聞きたくなった。
「前の試合じゃあ、他の2人と同じに見えたけど違うの」
問いかけると力強く肯定される。
「彼女はわたくしと同じ中距離型で、近接戦を心得てます」
「殴り合いになってもミャーは負けないにゃ」
「まあまあ。そういえば変わった武器使ってたね」
「輪響器といいまして楽器の一種ですの。詳しくは知りませんが、魔法の媒体から鈍器にもなる優れものです」
世の中にはまだまだ知らない武器が多そうだ。話を聞くだけでも楽しくなる。
余談はさておき、治癒魔法も使えるらしいので油断は禁物。おまけに短期間なら結界まで張れるとか。なんか似てると思った。
盾にもなる翼は、鎧が生成しているもので遠隔操作ができるから……。
「なら弱点をつくのはどう?」
「いいですわね。炎が有効ですし、雷も効く筈です」
「今回水場はないし人魚は怖くない。むしろ素早そうなハロルドが注意にゃ」
「あー強いのは認める。けど今回はたぶん一番読みやすいよ」
怪訝そうな面持ちでトゥワは驚きの声を上げる。
「舞台が平原だからですわ。高所は石造りの防壁だけ」
「つまり十中八九、そこに陣取って動かないと思う」
「まさに固定砲台と化すでしょう。射程が気になりますが盾で防いで進めます」
そんなこんなで作戦会議をしていると時間切れを告げられた。
なので「ローズマリーを軸に移動しつつ戦闘と探索をする」と締めくくり俺達は舞台に上がったんだ。
いよいよ始まった決勝戦。
告知通りの舞台、と思いきや意外なものがあった。
「土の搭?」
「アリ塚ですかしら」
「でも偽物。アリがいないにゃ」
始まってすぐ目についたのは土塊の群れ。
トゥワは即座に掘り起こして中を確認している。手が早い。
「怪しい、怪し過ぎる。絶対この中にあるだろ」
「裏をかいて壁の中という可能性もありますわ」
「いっそ全部ぶっ壊すにゃ?」
「どうやって! とにかく進もう」
軽い口とは別に行動は慎重さを重視した。
急いで進み壁を占拠するのはありだけど、高確率で鉢合わせになると思う。風の魔法を扱うハロルドは素早い。力で押しきる手はあるが独断専行は危険だ。
身軽に動けそうでも万が一を考えないと。特にローズマリーと離される事態は避けたい。
疑わしい個所を虱潰しに探りながら進む。
唐突にトゥワが鼻をすんすんさせ身震いした。そして空を仰ぎ――。
「来るにゃ」
警告の声と同時に上空から風の矢が降り注ぐ。
ローズマリーが翼の盾で防いだ。盾を傘替わりにして進む。
「早速打ってきました。既に城壁を陣取ってしまったのでしょうか」
「たぶん。あいつ割と力押しだからなぁ。罠はあんま仕掛けて来ないし」
(不器用だから、単に扱いきれないだけかもだけど)
残念ながら本人の姿は確認できないが方角は間違いない。
さすが超射程の狙撃手というべきか。闘技場くらいの広さなら余裕で届くようだ。ましてや防壁の位置はちょうど真ん中、届かないほうがおかしいと考える。
幸いにも攻撃はまだ矢だけ。焦らず盾で防ぎながら探索を続け接近していく。
「また来るにゃ」
「♪~♪」
だいぶ近づいた頃、再び鋭い警告を告げられ空を仰ぐ。
しかし攻撃は上ではなく横から来た。耳を塞ぎ耐える。壁を越えてきたらしき地点に人影が1つ。
「さすがメシィフェカ。盾では音を完全防御できないのを狙って」
「音が止んだ。今のうちに」
「攻めるにゃ」
まっすぐ駆けて行きトゥワは蹴りを繰り出す。
それを武器で防ぎ弾く。仲間が後退するのを認め、俺は雷魔法を放った。ローズマリーも翼から幾つもの熱光線を発砲。
今度は輪を囲うように配置して結界を張り防御。すかさず魔法で反撃してくる。更に風の矢が援護してきた。攻守を分担して応じる。
「下、何か危険にゃ!」
「え、何。わわっ」
「エミルさん!?」
注意を受けるが既に手遅れ。抗う暇もなく宙に打ち上げられていた。
(今、何が起きて)
理解が追いつかない。混乱する頭で、視界に移る情報を認める。
離れた位置に隠れていたニーア。状況からこれは彼女の魔法か。とにかく風の魔法で体勢を整えなければと思った時だ。己のものではない風の拘束を受けた。
「ハロルドの仕業か」
眼下の壁に立つ彼が見上げている。笑われた気がした。
「あんにゃろ~」
拘束を振りほどけぬまま俺は、壁の反対側に飛ばされてしまう。
自由の身になったのは壁から遠く離れた地点だった。
ここは敵側の初期位置ではなかろうか。そんな気がして急ぎ走り出す。
分断したのには理由がある筈だ。単純な戦力の分散、弱点への対応、他には何があるだろう。
(難しく考えても仕方ない。急がなくちゃ)
考えてわからないなら諦める。時間が惜しい。
何もない草原は走りやすく合流は容易だ。そう思っていると足元が崩れる。
「落とし穴だとっ」
完全に油断していた。ハロルドの思考を読んだつもりだったのに……。
直後、脳裏に浮かんだのはニーアの顔だ。まさか、そういうことか。いや、もう1人のほうかもしれない。幸い穴はそれほど深くなかった。
抜け出して再び疾走。今度は足元にも注意を払って進む。
深くはないが、ボコボコと地雷原の如く穴が開いている。
転倒しても避けても失速は免れない。少しでも早くたどり着くため、慎重に足を進めていると「ペキッ」と奇妙な音が聞こえた。
「ん? 靴の下に何か」
確認する前に俺は再び悲鳴を上げる。
急速に生い茂ったものに足を掴まれ吊るされてしまう。
「穴の次は植物罠かよ」
剣で蔓を切って脱出。でもこれは厄介だ。
壁を越えたら罠地獄。まだ何か仕掛けられているんじゃないか、と疑う。
(足止めされてる場合じゃないのに……)
「空でも飛べたらなぁ」
自分で言ってみてはたと気づく。だからか、俺が飛べないからか!
前回の試合で見せた浮遊は「飛べる」と言い難いものだった。条件つきでも自在に空を行く2人と、落ちる可能性が高い俺では全然違う。
「躊躇ってても仕方ない。ごり押しで行く!」
もう当たって砕けろの精神だ。罠に嵌っても素早く対応して行く。
しかし、ある程度近づいた所で矢が降ってくる。頻度は少ないが鬱陶しい。避けた先に罠が――。
(ヴァルツの真似か)
「むかつく」
どうにか罠を回避して壁に接近した。
向こう側から音が響く。まだ戦闘は続いているようだ。
(時間もヤバいしハロルドから倒す)
俺を背後に回したことを後悔しろ、と意気込んで壁を登る。
入口から回り込むなんて手間だ。抜群の身体能力があれば石壁くらい問題なし。ちょっと滑りはしたけど、なんとか登り切った。
到着時に立てた物音にハロルドが反応を示す。仲間達を気にしつつ対峙。
「無事たどり着くとはね」
「よくも罠に嵌めてくれたな」
「彼女達の案さ。罠に嵌る様は滑稽な眺めだったよ」
「ぶっ潰す!」
俺は恥ずかしさのあまり拳を握り、そう叫んでいた。
「勝つのはこの僕さ」
ハロルドが矢を放つ。まずはそれを避け俺は踏み込んだ。
距離を取りつつ、魔法を絡めて戦う相手の懐に詰め寄っていく。
風を纏い羽のように身軽な動きで翻弄される。剣を振るほどに逃げられた。
壁・上部の細長く狭い場所でよく動く。危なげなく、舞うように……。
「すばしっこい奴め」
「ほらほら、いつもの力押しはどうした?」
この時、一瞬下を見た。俺も追うように視線を流す。
戦いが継続中の仲間達の動き。未だ離れた位置にいたニーアを見てハッとなる。平らで何もなかった壁向こうの平原。何も、なかったんじゃない。
(まさか狙いは始めから)
「と……」
「♪~♪♪」
声を発しようとして息を飲む。下は大音響く激戦地だ。
狙撃手の攻撃を躱しながら、数秒躊躇ってから迷いを振り払う。
『ニーアが宝を探してる。止めて!』
2人が反応する。同時に些細な身体の不調を覚えた。
酷くはないが微妙な気持ち悪さがある。それでも今は動くしかない。能力を使ってしまった故に、仲間の状態が気になるけど……。
「意識散漫とはいい度胸じゃないか」
「なんのっ」
(集中、集中しないと)
互角だと感じていた。でも今は上手くいかない。
「んにゃあ」
「今の悲鳴は――」
「隙あり」
意識が完全に反れた隙に体当たりで落とされる。
落下中にゴゴゴッと低い音が響いていた。風をクッションにして着地した時、声が上がる。
「見つけました」
振り向くとニーアがお宝を高く掲げていたんだ。
周囲にあったアリ塚の群れは見事に崩れ去っている。
号令が響き、戦いを止めて歩み寄ってきた仲間達に言う。
「ごめん。能力を使ったから反動で……」
「そんなことありませんわ」
「教えてくれなかったら気づかなかったにゃ」
「でも、ああっ悔しい!」
勝敗は決し、俺達の負けで大会は幕を閉じた。
閉会式を終え、闘技場の出入り口で陣取っている生徒達と出くわす。どうやら技工科と経営科の生徒っぽい。
「ほな、品を回収させて貰います。宜しければアンケートにご協力下さい」
「こちら回収して来ました。確認してくれませんか」
「はいな。えーっと、はい確かに」
「では消毒班に運びますね」
「よろしゅう頼みます」
箱の中身や紋章などを確認したり整理と彼らは大忙しだ。
俺は耳飾りを返却した後、アンケートを書いて近くの生徒に託し外へ出た。
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すっかり暗くなった空。余韻の残る空気に包まれて皆と歩く。
蓮之介とトーマス。それからローズマリーとメシィフェカが一緒だ。
これから一緒に打ち上げ会をするつもり。トゥワも誘いたかったんだけど先に帰ってしまった。
「ハロルド達は後から来るの?」
「うん」
「一緒に来ればいいのに~」
「照れて可愛いじゃありませんの」
トーマスの言葉に応えると、今度は蓮之介が口を開く。
「ニーアもか」
「そう、消毒班の手伝いに行ってる」
「参加者は除外だろ」
「手伝いたいんだって」
頑張り屋だけど無茶はしないと思う。約束してるしきっと大丈夫。
食堂の一角を借りて楽しく食事をする。賑やかな店内、暖かな灯りの中で語り合った。遅れてニーアやハロルド達もきて一層盛り上がる。
「2人は学園に入る前からの友達なんだ」
「親友ですわ。運命的な出会いでしたのよ」
「あの時はスリリングな波に攫われて、まさにどっきりな邂逅だった」
「ニュアンス的に溺れてない?」
メシィフェカがしっとりと微笑む。
「人魚が溺れるワケないでしょ」
「だよね、人魚族は泳ぎが得意な筈だよね」
「んん? 泳げないことはあると思うけど」
「えっ、今溺れないって……」
「溺れぬは水に愛され生きるとの意味。人魚なのに泳げないは1つの愛する運命の始まり」
「お主、できるな」
「レンはどこに反応してるのさ」
「…………」
ふと蓮之介を静かに見つめるギルバートが視界に入った。
視線に気づいた様子の当人が怪訝な面持ちで「なんだ」と問う。すると彼は視線を外して――。
「別に、何も」
気になる反応だったが、俺も蓮之介も特に何も言わなかった。
ほんわか明るく時間が過ぎていく。不慣れな様子のハロルドをからかったり、他校の話を聞いたり、トーマスの食べ比べを応援したりと楽しかった。
今晩、他校生は王都に泊まるだろう。お開きになり、元気に別れて大会2日目を終える。




